生涯ベストのミュージックビデオ byジョー・ケイスリー・ヘイフォード

ファッション業界の音楽好きたちに、お気に入りのミュージックビデオについて語ってもらうシリーズ。今回はジョー・ケイスリー・ヘイフォードに聞いた。

by James Anderson
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17 October 2016, 5:53am

1980年代からたびたびi-Dのページを華やかに彩ってくれているファッションデザイナー、ジョー・ケイスリー・ヘイフォード(Joe Casely-Hayford)。本紙との関係は長く、そして深い。

現在、ジョーはCasely-Hayfordの名のもと、息子のチャーリーと活動をともにしている。Casely-Hayfordはロンドンをベースに、ダイナミックなアイデアと多様なモチーフを盛り込んだ現代的服作りへの献身を通し、現在もメンズウェアのあり方に新しい風を吹き込み続けている。近日中には、Casely-HayfordとBarney's New York Japanの共同コレクションをローンチする予定で、過去のウィメンズ作品の公開とカスタムオーダーのコレクション展開も予定している。そしてこの12月には、ニューヨークで開かれる黒人デザイナーに焦点を当てた展覧会にも参加するそう。また、ナショナル・ポートレイト・ギャラリーでの展覧会と、それに連動するBBC2のテレビ番組『Black is the New Black』が11月3日公開となる予定と、ふたりの勢いは止まらない様子。

ジョーは生涯を通して大の音楽ファン。これまで、ザ・クラッシュやU2の衣装を担当したことがあり、現在ではモス・デフやドレイクといったスーパースターたちがCasely-Hayfordのファンだと公言している。ここでは、ジョーが考える「揺るぎないナンバーワン」ビデオ、エレクトロニック音楽の限界を押し広げ続けるエイフェックス・ツインの音をクリス・カニンガムが映像で表現した1997年の名作「Come to Daddy」について語ってくれた。

「物心ついたころからずっと音楽ファンでね。インターネットが普及する以前から、特定の音楽に特化したインディペンデント系レコード店や雑誌、僕同様音楽好きの友達といった広いネットワークから、常に最新音楽の情報が入ってきていたんだ。

リチャード・D.ジェイムス(エイフェックス・ツインの本名)のことは、90年代初頭に彼が最初の作品をリリースしたときから知っていた。新しい音楽が次々に現れて、僕にとってはとても良い時期だった。WarpやMo Waxといったレーベルが打ち出していた音楽性は、ヒップホップやダンスミュージックを少し変わったコンセプトで解釈していて、深く訴えかけるものがあったね。よく、i-Dのコントリビューターのジェイソン・エヴァンス(Jason Evans)とカセットテープの交換をしたりしていて、そのなかにエイフェックス・ツインの『Selected Ambient Works』があった。それを聴いてハマったんだ。当時、エイフェックス・ツインのサウンドは「インテリジェント・ダンス・ミュージック」なんて呼ばれてた。そんな薄っぺらな表現をされるのがイヤだったよ。でも、聴くたびに新しい要素を発見できる、あの層の厚いサウンドは、たしかにインテリジェントだった。

初めて「Come to Daddy」のビデオを見たのは、ある土曜の朝、まだ小さかった娘と家でMTVを観ていたときだった。それまでに見たミュージックビデオとはすべてが違っていた。あの痩せた男が老婆に向かって叫ぶシーンで、うちの娘が走って部屋から出て行ってしまったのを覚えてるよ。

ビデオを見る前、そしてリリースの前、すでにレコードは入手していたんだ。パリのファッションウィークでショーをする準備をしていて、テーマを「隠しカメラ」と決めていた。監視社会の脅威に焦点を当てたんだ。1994年に刑事司法方が成立したことで、サッカーファンたちが育んできたカルチャーやレイヴ、動物愛護団体の活動やフリーパーティが規制され始めた頃だよ。

この曲を聴いて夢中になったよ。そして、僕のショーにぴったりだとも思った。「デジタル・デスメタルっていうジャンルがあったら、ショーに使いたい」と思っていたところだったんだ。ショーは地下駐車場で開催したんだけど、モデルたちはビデオのキャラクターたちが着ているようなアノラックを着て、それに当時としては新しかったスキニージーンズに、モンキーブーツみたいな白いスニーカーを合わせた。このトラックは、エイフェックス・ツインの才能を完璧に表現しきった作品だと思う。畳み掛けるようなサウンドの向こうに、なぜか親しみやすさとセンチメンタリティがあってね。

このビデオは、クリス・カニンガムが初めて手掛けたメジャー作品だったはず。クリスは、このビデオ制作の少し前にスタンリー・キューブリックにヘッドハンティングされて映画『A.I.』の制作に関わっていたんだよ。クリスは、キューブリックが『時計じかけのオレンジ』を撮影したテームズミード地区で『Come to Daddy』を撮影した。キューブリックが打ち出したディストピア的イメージの影響が見られるよね。ビデオと音楽は完全にシンクロしていて、僕はこれを90年代最高のコラボレーション作品だと思ってる。

ジェームスは、無垢でセンチメンタルなモチーフを暴力的な音に織り込むことに長けていて、僕は彼の作品に聞くダークなユーモアが好きだ。クリスは、師と仰ぐキューブリックのスタイルやヴィジョン、細かさを受け継いだ、フレッシュでアナーキーな作品を作り上げた。クリスの解釈、フィルターや特殊効果の使い方は、真にオリジナルだった。ただの陳腐な夢世界を描かなかったクリスを素晴らしいと思うんだ。このビデオで描かれているロンドンはディストピア的だけど、そこには当時の、分裂して壊れたロンドン社会が反映されてる。この作品は、通常ポップスのビデオに期待される世界観とは対照的の、心に訴えかけてくるような何かがある。ロンドンの景観が、ダークな予言的メッセージをうまく演出しているだろう?

このビデオは、僕が思うクリス・カニンガム作品の金字塔。そこに描かれている文化的メタファーは天才的だし、音楽と完全にシンクロする映像演出は誰もが手本にすべき傑作だと思う。ふたりのアーティストが、それぞれのキャリアにおいてあのタイミングで組んだことで、この偉大なポップビデオが生まれたんだ。

このビデオには、視覚的にパワフルな瞬間がたくさん詰め込まれてる。そういった瞬間は、スチールとして抜き取っても十分に通用するだけの素晴らしさなんだ。老女が犬を散歩している冒頭のシーンから、色の解像度が低いモニターを通したような画質になって……どんなに短いシーンでも、完璧に仕上げられている。

このビデオは、それぞれにクリエイティビティの最高潮にあったふたりのアーティストが共に作り出した傑作。古く感じるひともいるかもしれないけど、これはビデオアートの歴史を変えた作品なんだ。あのテームズミードの景観はもうないけど、ふたりがこのビデオに捉えたエネルギーは今後生まれてくる新しい世代にもずっと響いていくと思う。それが偉大なアート作品の力だと僕は信じてるんだ。いま見てみると、ノスタルジアを感じる一方で、いつもは気づかないうちに指のあいだをすり抜けて見逃してしまっている純粋なエネルギーや興奮も感じるんだ。

Credits


Text James Anderson
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.

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