「平成最後の東京コレクション」ベストモーメント:後編

まだ形のない想像を絶する存在を探るPERMINUTEから、ルーツを足がかりに個性を見つめ直すKEISUKEYOSHIDA、無類の美学を貫くHYKEの端整なクリエイティブマインドまで。

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31 March 2019, 1:00am

ディストピア——誰かにとってはユートピア——を夢想することは、「そうなるかもしれない未来」を考えることと似ているのかもしれない。例えば、「そうなった」世界で自分はどんな生き方をしているかと思索すること。身近なところでいえば、「AI(人工知能)に取って代わる仕事リスト」が流行るのも、とても人間らしい心の動きのあらわれだ。じゃあ、どんな世界になっても、普遍的な人間っぽさってあるのだろうか?

上海の新鋭、SHUSHU/TONGがもっとも顕著だったが、(エイリアンみたいな緑色ではなく!)血の赤や、幼い頃の記憶をやさしく刺激するレトロな花柄を、時に象徴的に、時にささやかに打ち出すデザイナーが何組もいた。そのどれもが、“人間らしさ”に触れるメタファーに思えた。

PERMINUTEのショー空間の中央に、アメリカ先住民が広大なナイヤガラの滝に対峙して、言葉を失っている姿を描いた台座があった。プリミティブな空気感が漂う油彩画だ。大自然——人間が制御することが到底できない想像を絶する存在——と、原始的な生活をする部族の間にある妙な距離感が、共生とは何かとひしひしと訴えかけてくる。私たちにはいつも、“想定外”で“初めての体験”と向き合う機会がある。解明されていない未知なるもの、奇形なものに刺激を受ける、デザイナーの半澤慶樹らしいミニマルな空間だ。

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PERMINUTE. Photography Houmi Sakata.

奔放で有機的なカッティングや、ドローコードを使ったイレギュラーなフォルムのなかで際立って見えるのは、葉っぱを手で擦りつけて染めたようなプリント、足先まで覆うハンドメイド・ニット、そして薬液によって服地の一部を血脈のように縮絨させたジャケットの、袖口を縁取る赤色だった。彼はそれを「血のイメージ」だと、ショーを終えた数日後に話してくれた。

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PERMINUTE. Photography Houmi Sakata.

着想源は、デザイナーが幼い頃に読んだという科学の叡智を結集し2億年後の地球を描いた『The Future of Wild』や、人類最大の発明——言語だ。「Smile is the best fashion」と記された招待状に同封されていた、少々読みにくいオリジナルで制作した〈A to Z〉のフォントはデザインの発起点で、ことばの訛りがもつ土着的なオリジナリティにも思いを馳せたという。東日本大震災の年に上京した彼は、「震災後の福島はどういう状況なのかと今でも聞かれるんです。そういう自分の出自にはコレクションを通じて触れていきたいと思っています」と言う。今季のテーマは「YESES」。それは、見たことのないもへのいくつもの“肯定”と捉えるとしっくりくる。ふと頭をよぎる。プログラミング“言語”が、大衆の共用語になる日もやってくるのだろうか。

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PERMINUTE. Photography Houmi Sakata.

パーソナリティの吐露がクリエーションに結びつくことは、多くの東京のデザイナーたちが共感を示すことだ。自身の生い立ちや忘れかけていた記憶との再会が、コレクションのテーマに直結することも少なくない。多幸感、失望感、葛藤を抱えたエモーショナルな精神性。服のイメージから湧き上がってくるのは何か?

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KEISUKEYOSHIDA. Photography Yoko Kusano.

「他人から見られる自分の姿や、自分が人からどう思われたいのかを考えることから始まりました」と、KEISUKEYOSHIDAの吉田圭佑は話す。「映画『キャリー』で自作のドレスを着た主人公がイジメにあって頭から豚の血をかけられた時、怒りと哀しみが極限を超えて超能力が発現する」シーンをイメージしたという、服の色を判別できないほど強烈なレッドライトに包まれたショー空間にあったのは内向的な「祈り」だった。同時に現れたファーストルックは、2体。ひとつは、彼が通った小学校の制服をかたどったジャケットスタイル(母校・立教大学の百合モチーフも)。もう一方の、頭を手足も包み込む白いドレスは、包帯の留め具で捲し上げてギャザーが全方位に広がるイレギュラーなかたち。後で聞けば、素材はファーストシーズンで使用したものだという。外からの期待に応えんとすればするほど空虚感を感じる感覚を「自分を失って、まるで透明人間になってしまうような……」と言い表すのも、実に彼らしい言葉選びだ。

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KEISUKEYOSHIDA. Photography Yoko Kusano.
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KEISUKEYOSHIDA. Photography Yoko Kusano.

数段のステップと長方形のゲートが一体化した2つの台座の上で、通過儀礼のようにモデルは立ち止まる。薔薇のグラフィックはいばらの道を歩む自分自身の暗示だろうか? 初めて過去シーズンからリピートしたトレンチコートや肩下で膨らむフーディからは「もがいた先で」ブランドのアイディンティティを発見した痕跡がある。

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KEISUKEYOSHIDA. Photography Yoko Kusano.

彼がファッションデザインで追い求め、いつもコレクションとショー演出の根幹に添える“フレッシュさ”は「純粋にかっこいいと思えるもの」に徹底して落とし込んだという。が、個人史や自分の嗜好に素直に向き合おうとする明らかな意思に、胸に針を刺される思いになった。とりあえずは、十数年会っていない旧友にラインを送ってみようか。

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SHINYAKOZUKA. Photography Koichiro Iwamoto.
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SHINYAKOZUKA. Photography Koichiro Iwamoto.

あらゆる色を混ぜて生まれるのは、黒ではなくグレーだ。「equality(等価値・平等)」をテーマに、他ブランドの既製服に自身のブランドを象徴するグレーのペイントを施すインスタレーションを発表したSHINYAKOZUKA。“曖昧さ”に美学を持つデザイナーが「Instagramにある分かりやすい情報をそのまま受け取る若い子たちの姿に違和感と危機感を感じる」という問題提起は示唆的だった。個人レベルでのSNSとの付き合い方、または人間本来の五感の倒錯も、今季の東コレを紐解く手がかりのひとつだ。画面上の情報を自分に向けてスワイプするように受け取るのでなく、一度立ち止まり、反芻してみることでようやく輪郭がはっきりしてくることもきっとたくさんある。

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ANREALAGE. Photography Koichiro Iwamoto.

Instagramが発表されるずっと前である2003年に、「神は細部に宿る」を信条にスタートしたANREALAGEは「DETAIL」がテーマ。ベーシックな服は巨大化し、分解され、アイテムの“呼称”が変わっていく。ジャケットはオーバーサイズ・コートに、コートは部分化されてワンピースにといった具合だ。パリで発表されたウィメンズに加え、同じコンセプトを持つメンズもランウェイを歩く。

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ANREALAGE. Photography Koichiro Iwamoto.
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ANREALAGE. Photography Koichiro Iwamoto.

私たちが街中を歩きながら世界を認識する“遠近法的”な視覚で、Instagram上で起こっていることのパースは取れない。ディテール(部分)だけ切り取られた画像では、本来の物理的なボリュームは測れないからだ。例えば、ショー会場に林立していたオブジェのように想像を絶するほど大きいものだとしても、1:1の写真ポストに収められたスクリーンでは、先入観が先立って自分がよく知るスケールだと勘違いしても無理はない。実物に触れて、はじめて確認できることがある。現在形の問題意識のもと、寸法の反乱から衣服のコードを根本的にひっくり返す試みだ。祝!LVMH Prize 2019のファイナリストにノミネート!

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ANREALAGE. Photography Koichiro Iwamoto.

色、柄、ディテール。歴史があり、長く愛されてきた衣服には特定のコード(記号)のようなものがある。単色のベージュの服地で膝下までおおう丈感に、ガンフラップやウエストベルトがあれば、クラシカルなトレンチコート像が浮き立ってくるはずだ。こうしたコードを抜き出して、引用したり、ミックスする軽やかさは、多くのブランドのデザインプロセスに散見できる。そこで浮き立つ“違和感”とは、私たちのなかに蓄積されている経験や常識、思想、固定観念への直接的なリアクションのひとつだったりする。

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MISTERGENTLEMAN. Photography Hiroyuki Takenouchi.
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MISTERGENTLEMAN. Photography Hiroyuki Takenouchi.
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MISTERGENTLEMAN. Photography Hiroyuki Takenouchi.

もっともハイセンスに、明快な少年像を志向する美学をもつ、スタンダードなメンズウェアの更新者は、MISTERGENTLEMANをおいて他にいない。フロア前面に芝生が敷き詰められ、ミラーの巨大な柱(空間の奥行きが無限に続くように錯覚できて、轟音と呼応して振動している)がある広々とした空間に、首元にさらりとスカーフを結びつけたピュアなモデルが足早に進んでいく。ダブルブレストジャケットのような身頃のシャツ、ところどころに添えられたシャープな色、スタンダードな服を大胆かつ直線的にカットアウトして、貼り付けるようなミックス、ドッキング、レイヤードしたスタイルが、ひとつまみの違和感を放って躍動している。藤原ヒロシのfragment designとコラボレーションしたブルゾンは、完全にハイプリスト入りだ。

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MISTERGENTLEMAN. Photography Hiroyuki Takenouchi.

違和感を調和に導く、東京が誇るオーソリティーはHYKEの吉原秀明と大出由紀子だ。ミリタリーウェアやヘリテージアイテムをデザインソースに再構築する確立したデザインアプローチによる、アースカラーのコレクションには惚れ惚れした。どうしても男性的なイメージが帯びる軍モノのエレメントに対して、部分的なシルエットの抽出、パーツの差し替え、素材の変換を繰り広げて柔らかなフェミニニティを描いていく。この軽やかなチューニングは、オーセンティックな服を志向し、それを身にまとうことで自分の個性を拡張したいと願う人々に愛され続けている。The North Faceとのコラボは、次のシーズンがラストコレクション。

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HYKE. Photography Houmi Sakata.
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HYKE. Photography Houmi Sakata.
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HYKE. Photography Houmi Sakata.
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HYKE. Photography Houmi Sakata.

簡単には解きほぐせない複雑な内面を持ち、物事に違和感を感じ、そこにフレッシュな発見を求めたり、終わりのない妄想を繰り広げたり。現在のポストヒューマニズムがもたらしてくれる大切な視点のひとつは、サイボーグだとか人類に代わるものを引き合いに出すだけでなく、「だとすれば、人間とはどんな思考をする存在(生き物)であるか」と内省することではないかと、道端にゴミが散乱した渋谷のど真ん中で思わされた。それはきっと人間が廃棄物を出し続けることや、自然環境を破壊し続けている問題への意識にもつながっていく。“新元号最初の東コレ”が、今季以上にスペイキュレイティブで刺激的なシーズンでありますように。

「平成最後の東京コレクション」ベストモーメント:前編はこちらから

Credit


Text and Edit Tatsuya Yamaguchi