アイルランド映画が描く「真摯な痛み」

ベルファスト・パンクのゴッドファーザーことテリー・フーリーの半生を描いた伝記映画『グッド・ヴァイブレーションズ』が日本初上映。アイルランドの青春グラフィティ『マッド・メアリー』と併せて、2月25日(日)渋谷ユーロライブで一日限りの上映会が開催される。

|
feb 21 2018, 7:26am

昨年より開催してきた「アメリカ映画が描く『真摯な痛み』」「アメリカ映画が描く『真摯な痛み』 Vol. 2」に続く、第3弾「アイルランド映画が描く『真摯な痛み』」が、2月25日(日)渋谷ユーロライブで開催される。

一本目は、第26回レインボー・リール東京でも好評を博した『マッド・メアリー』待望の再上映である。暴行で半年間の服役を終えダブリンの小さな町に戻ってきた23歳のメアリー(サーナ・カーズレイク)が、結婚式を控えた唯一無二の親友のブライズメイドを務めることになり、式の同伴者として急遽、偽装の彼氏探しに奔走する姿を描く。特筆すべきは、酒飲みのケンカ好きで、常に不機嫌で太々しく悪態をついてはブチ切れるヒロインの人物造形。「アイルランドのスカーレット・ヨハンソン」とも評される主演女優カーズレイクは、本作にあたり、監督ダレン・ソーントンと共同脚本の弟コリンから『フィッシュ・タンク』や『SWEET SIXTEEN』を参照するように指示された(ほか、『ショート・ターム』『ヤング・アダルト』なども参考リストに入っていたそうだ)というように、ガラの悪いワーキング・クラスの彼女の造形は確かにアンドレア・アーノルドの影響下にあり、そしてケン・ローチの流儀に連なるものでもある。ここには鬱屈したリアリズムが内包されているのだ。

劇中、メアリーは幼い頃からの親友への想いをスピーチの手紙にしたためては幾度となく読み上げる。時を経ても変わることのないメアリーと変わってゆく親友との摩擦は残酷で痛切だが、彼女は初恋にも似た一途な感情がそれで救われると願っているのかもしれない。メアリーにとって友情はどこか愛情を基調として築かれているようだ。『ショー・ミー・ラヴ』や『ミュリエルの結婚』も彷彿とさせる女性同士の愛を謳ったこの映画は、大胆不敵でありながら独特で複雑なこの感情を正確に捉えているからこそ、強く心を揺さぶるだろう。

そして二本目は、ベルファスト・パンクのゴッドファーザーことテリー・フーリーの半生を描いた伝記映画『グッド・ヴァイブレーションズ』。ジャパン・プレミアとなるこの映画を彼本人は次のように説明している──「この小さな国で血まみれの争いが始まってから10年ほど経った頃、ぼくはレコード店を開き、パンクを知り、レコード会社を設立した。この映画はその頃の話が元になっている。老いぼれヒッピーだったぼくがパンクに改宗するなんて、思いもよらない成り行きだった。けれどぼくはパンクの興奮にすっかり飲み込まれていた。パンクはぼくの人生を永遠に変えてしまった」(本作サウンドトラックより)。そう、北アイルランド紛争で揺れる1970年代のベルファストでパンクの洗礼を受けた男が、自らレコード店を開き、アウトキャスツやルーディ、アンダートーンズなど惚れ込んだバンドのためレーベルを設立し支援する姿を、彼らの楽曲とともに非常にエモーショナルに描いているのだ。

Good Vibrations

上映イベント「真摯な痛み」シリーズの締めくくりとして、『グッド・ヴァイブレーションズ』ほどふさわしいものはないだろう。それは、埋もれた名作や知られるべき日本未公開作品を全く慈善的な料金で上映する本イベントの試みと、拝金主義を忌み嫌い利益や損得を気にも留めないテリーの生き様には重なるものがあるからだ。彼らは、ただただ愛情のみが動機となって突き動かされているのであり、チンケでセコいやり方とは反対の意志を見せることこそが、世界を変えることにつながると本気で信じているのである。

メアリーもテリーも無責任に周囲の期待を裏切る行動ばかり取っては小さな町でどこにも居場所を見つけられないでいる。みんなと同じ風にはなれず、のけ者扱いされて、笑われているかもしれない。しかし彼らは、信じていることを信じ切って自分の人生を進んでいく。笑いたきゃ笑えばいい。嫌いたきゃ嫌えばいい。どんな権威やしきたりも認めずなびかない反骨のソウルとタフネスに貫かれたパンク・ロックの国のこの2本の傑作を、見逃す手はないだろう。

“十代の夢は誰にも壊せない あの娘を見るたびにいつも思う/どこにでもいるような女かもしれないが 俺は彼女の恋人になりたいんだ/俺は彼女を強く強く抱きしめたい そんな想いを今夜もずっと抱いてる”(アンダートーンズ「Teenage Kicks」)

アイルランド映画が描く「真摯な痛み」
日時:2018年2月25日(日) 会場:ユーロライブ(渋谷) 料金:2本立て1000円(入れ替えなし・整理番号制)
12:50~ 当日券販売開始
13:15~ 開場
13:30~『マッド・メアリー』上映
15:05~『グッド・ヴァイブレーションズ』上映