世界を変えた少女:グレタ・トゥーンベリinterview

人類史上最大の危機に果敢に挑むひとりの少女の決意が、世界中の若者を学校ストライキへと向かわせた。The 1975の最新アルバムでフィーチャーされ、NYで開催される国連サミットに出席するためにスウェーデンからヨットで大西洋横断を達成したのも記憶に新しい16歳のアクティビスト。グレタ・トゥーンベリは、まさに世代を代表する声だ。

by Clementine de Pressigny; translated by Nozomi Otaki
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02 September 2019, 9:09am

哲学者のティモシー・モートンは、人間の営みや、身の回りにありながら私たちの理解が及ばないものを〈ハイパーオブジェクト〉と呼んだ。地球温暖化もそのひとつだ。

2月のロンドンを襲う季節外れの暑さ、モザンビークのサイクロン、ルイジアナの洪水、そして大気中上の二酸化炭素の半分が過去25年間に排出されたものであるという事実。このようなハイパーオブジェクトは、この世界における物事の定義に反し、地球における人間の立ち位置にまつわる解釈を、根底から覆す可能性もある。しかし、それらは決して概念上のものでも、遠くにあるおぼろげなものでもなく、今まさに私たちが生きているこの時代、この場所に存在している。

2019年3月22日の早朝。この1週間前、世界各地で学生ストライキが実施され、全世界1400万人の学生が授業を休んで、自分たちの、そして地球の未来を守るよう要求した。気候変動を訴える活動において、まさに記念すべき日だ。すべてはひとりの少女から始まった。

雲ひとつない青空の下、ストックホルムにある国会議事堂の前で、15人ほどの大人と子どもが小さなグループに分かれ、流れの速いリラ海峡の水路沿いを行き来している。先週金曜には、この狭いエリアに1万5000人もの子どもたちがすし詰め状態になっていた。

このグループよりも先に目に飛び込んでくるのが、木に立て掛けられたグレタ・トゥーンベリのプラカードだ。16歳の彼女がたったひとりで始めたストライキの動向を追ってきたひとなら、すぐに気づくだろう。白く塗られたベニヤ板に、黒い文字で「Skolstrejk För Klimatet(気候のための学校ストライキ)」と書かれている。

グレタは、少し前に最初のプラカードを使うのをやめた。冬のあいだに酷使したせいで、ボロボロになってしまったのだ。

greta thunberg harley weir

グレタ自身はというと、水路沿いのコンクリートの壁にもたれかかっている。彼女のトレードマークであるパープルのダウンコート、濃いピンクのスノーパンツに長靴という出で立ちだ。彼女のワードローブはわずかで、新しいものは欲しくないという。クリスマスや誕生日プレゼントも買わないでほしいと両親に伝えたそうだ。

グレタは年の割に小柄で、顔つきは天使のようだが表情は厳しい。彼女の隣には、グレタに殺到するメディア取材の窓口となっているボランティアのヘレナ、金曜日の活動をサポートしている同じくボランティアの背の高い男性(名前は明かさなかった)が立っている。

彼は、この小さな気候変動アクティビストがみんなに押しつぶされないよう、すぐ近くでせわしなく動き回っていた。誰もが彼女と話したり、いっしょに写真を撮ろうと必死だ。

この背の高い後援者は2018年8月、グレタがストライキを始めて間もない頃に彼女と知り合ったという。気候変動の現状と、対策に乗り出そうとしない権力者たちに失望したグレタは、スウェーデンの選挙前に3週間学校を休み、たったひとりで地球のためのストライキを始めた。

彼女が行動を起こすきっかけとなったのは、米マージョリー・ストーンマン・ダグラス高校で17人が犠牲になった銃乱射事件のあと、授業を抜け出して銃関連法に抗議した同校の生徒たちだったという。

当初は、誰も彼女に近寄ろうとしなかった。「みんな私を無視していました。誰にも見向きもされなかったんです」と彼女はストライキを始めた最初の数週間を振り返る。

グレタの父親、スバンテ(Svante)が議事堂前を通りかかると、グレタはにこりともせずに何してるの、と尋ねた。親が自分のことに口を出すのを嫌がる、いかにも十代らしい反応だ。

しかし、この反応は彼女の警戒心によるものかもしれない。彼女の両親や自らの主張を押し出したい悪質な団体がグレタを操っているのだ、と彼女の活動を貶めようとするひともいるのだ。

「誰がグレタのマネジメントをしているのか、とよく訊かれます」とヘレナ。「でも、誰もマネジメントなんてしていません。グレタをマネジメントしているのはグレタ自身です」

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「私たちが切実に必要としているのは、環境保護にまつわるトラウマ、すなわち人新世(アントロポセン)を定義づける、今この時代における環境破壊への、適度なショックと不安である」。前述のティモシー・モートンは、自身の著書『Hyperobjects: Philosophy and Ecology After the End of the World』でこのように述べた。

モートンが求めたこの〈ショック〉こそ、幼いグレタが学校で気候変動について学んだときに感じたものだ。「8歳か9歳のとき、温室効果ガスの影響や、氷河が解け続けていることを先生たちから教わりました」とグレタは説明する。

「海洋プラスチック、飢えているホッキョクグマ、森林破壊の写真を見て、この問題について考えずにはいられませんでした。頭から離れなくなって。誰も今起こっていることを心配していないような気がして、とても悲しかった。口では気候変動が心配だ、とても重要なことだ、なんて言いながら、どうして何の行動も起こさないのか理解できなかったんです」

幼少期にアスペルガー症候群と診断されたグレタは、自分がその他大勢のように気持ちの切り替えができないのはアスペルガーのためだ、と考えている。2018年のTEDで、グレタは自分が物事を〈白か黒か〉で捉えることが多いと説明した。

気候変動というハイパーオブジェクトについても、彼女の考えは実にシンプルだ。気候変動は人類史上最大の危機であり、私たちみんなが行動を起こさなくてはいけない。

「自分の家が燃えているときに、食卓を囲んでこれからどうやって家をきれいに建て直していくか話し合ったりしないでしょう」とグレタはいう。「家が火事になったら急いで避難して、みんなの無事を確かめ、消防署に電話するはず。今の私たちには、こういう発想が必要なんです」

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地球温暖化が未来に及ぼす影響に気づいたことで、グレタの生活は一変した。「うつ状態になりました。原因はいろいろありますが、主な理由は気候変動による危機と環境問題です。11歳のときでした。私は話さなくなり、食べなくなりました。学校にも行かず、楽しんだり笑うこともなくなりました」

不登校になったグレタだが、その期間に得られたものもある。彼女は家のなかで変化を起こすことに成功した。当時、彼女の両親は、気候変動の危機についてほとんど知らなかったという。

「私がずっと家にいたので、両親も家で私の面倒をみなければいけなくて。両親と話をして、私が気候と環境についての不安や心配事を打ち明けたとき、ふたりはみんなと同じように私の頭を撫でて、心配しなくて大丈夫だよ、と言いました。それでも私が記事やレポート、グラフを見せると、両親はようやく事態が一刻を争うことを理解してくれました。ふたりとも問題の深刻さにショックを受けていました。私が話したことで、両親は今の生活に罪悪感を抱くようになったんです」

グレタの母親は著名なオペラ歌手として世界中を飛び回っていたが、グレタにならって飛行機に乗るのをやめた。両親は今、外出するさいは電車を利用している。ふたりともグレタと同じヴィーガンで、新しいものを買うことは極力控えている。

個人が抑制できる二酸化炭素の排出量は微々たるもので、私たちが悲劇的な結末を回避できるかは、政府や企業がIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の基準に従うか否かにかかっていることは、グレタも承知している。それでも彼女は、地球に及ぼす影響を最小限に留める生活を心掛けている。

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学生ストライキを率いて、世界にその名を知らしめたグレタ。彼女の活動は今も広がり続けており、グレタのもとには、政治家の前でスピーチしてほしいという依頼が世界中から寄せられている。

昨年だけでも、彼女は国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP24)でスピーチを行ない、ノーベル平和賞にノミネートされ、世界経済フォーラムでは、世界屈指の資産家たちを前に臆することなく彼らの責任を追及した。

「現在実施されている対策をみてみましたが、私が気づいたのは、私たちがまったく事態を収拾できていないということです。今のままで充分だ、努力している政治家もいる、と考えているかたも多いでしょう。ですが、私が話をした政治家は、今どんな対策を実施しているのか、そもそも今何が起こっているのかすら理解していないひとがほとんどで、みんな途方に暮れているように見えました」

正午に近づくにつれ、議事堂前でグレタを取り巻くひとびとは増えていった。「以前は年配のひとばかりでした」とヘレナは回想するが、最近では多くの若者がこの場所に立ち寄ったり、丸1日活動に参加するようになったという。

今日は〈Örjanskolan〉という学校から約2時間かけてストックホルムに来た11歳の男子生徒のグループが、コンクリートの橋にもたれかかって互いに積み重なるように座っている。彼らの担任のアニャによると、生徒たちは気候変動にまつわるプロジェクトの一環としてグレタの活動に参加したそうだ。

彼女は生徒たちがつくったプラカードを誇らしげに見せてくれた。アニャはグレタの活動を知るまで、気候変動の深刻さに気づかなかったという。水路の反対側を歩く子どもたちが、「こんにちは、グレタ!」と叫んだ。

その隣の60代の男性グループは、「年寄りも気候変動について考える」と書かれたプラカードを首から下げて立っている。彼らは環境破壊を進めてしまった世代の一員として、グレタに謝りたいのだという。

グレタと写真を撮るチャンスを辛抱強く待っている、背の高い十代の青年3人組もいた。グレタは彼らに応じ、3人が彼女を囲むと、カメラに笑顔を向けた。ある女性はグレタに近寄るとバラを手渡し、彼女を抱き締めた。巨大な望遠レンズ付きのカメラをもったグループが押し合いへし合い、グレタのベストショットをおさめようと、ひっきりなしにシャッターを切っている。

ボランティアの青年がみんなに少し下がってください、と呼びかけるが、誰もが少しでもグレタに近づこうと必死だった。眺めているだけでも圧倒されたので、かつては目立たない少女だった、おしゃべりが苦手なグレタにとってはなおさらだろう。

いっぽうグレタの仲間たちは、彼女に干渉しようとはしない。グレタの手伝いに来たという十代の若者たちは、近くで輪になって座り、弁当を食べていた。今日初めて知り合ったそうだが、互いに打ち解け、おしゃべりを楽しんでいる。

そのうちのひとり、16歳のエステルは、今日ひとりで初めてストライキに参加したという。彼女の友人たちは地球温暖化の深刻さを認めず、参加しようとはしなかったそうだ。しかしエステルは、この活動に情熱を傾けている。

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学校ストライキを始めて3週間目に入ったとき、グレタは活動の勢いを保つことの大切さに気づいた。「みんなが私の声を聞いてくれたあとも活動をやめてはいけない、と思ったんです。もし今やめたら、この活動はこれで終わり、1回限りのものだと思われるでしょう。だから私は毎週金曜にストライキを続けることにしたんです」

「ここまで大きくなるとは予想していませんでした。それほど興味を持ってもらえるとは思ってなかったので。でも、思った以上に多くのひとが関心を持ってくれて。起こるべくして起こったムーブメントのように感じました」

学生たちは学校をサボる言い訳がほしいだけだ、と中傷する声もあるが、ストライキに参加している子どもたちの声を聞けば、彼らが未来を心から案じ、自分たちの無力さ、投票権がないことに苛立ちを覚えているのは明らかだ。環境保護にまつわるトラウマに苦しみ、それを抱えながら生きていかなければならないのは、彼らの世代なのだ。

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彼らは環境への明らかな不安が渦巻く時代に生まれた。これまでの世代がそうしてきたように、この問題を頭の片隅に追いやることはできない。彼らは環境破壊を〈どこか遠く〉の現象ではなく、今、この場所で目の当たりにし、それを彼ら自身のいち部、彼らの生活のいち部として捉えているのだ。

グレタは今も、自分ひとりで始めたストライキがここまで広がった理由がわからないという。「まったく理解できないんです。ストライキのあとは、とても疲れてしまってまともに頭が働かなくて。しばらくしてから、ストライキが行われる場所の地図や、世界中の写真を見たんですが、なかなか実感が湧かなくて……ひとつの街だけで数十万人の子どもたちがストライキに参加しているなんて」

グレタは、ストライキを実行する仲間たちにこんなメッセージを贈った。

「これからも権力のあるひとたちにプレッシャーをかけ続け、彼らが実際に行動を起こすまで活動をやめない、と宣言しましょう。なぜなら、そうやって私たちは多くのことを成し遂げてきたから。今までに多くのひとが集まってくれましたが、二酸化炭素の排出量が増え続けるかぎり、成功とはいえません。まだまだ活動を続けなければ」

「ムーブメントがこれほど大きくなったことを誇りに思うか、とよく訊かれますが、この活動はまだまだこれからです。気候変動は悪化するばかりで、その影響は日増しに大きく、差し迫ったものになっています。この活動は決して一時的なものではなく、私たち全体の未来に関わるものです」

次に何が起きるのか。答えは白か黒か、そのどちらかだ。

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Photography Harley Weir

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