James Blakeが自己治療的なアルバム制作を通じて取り戻したもの

昨年5月に待望のフルアルバム『The Colour In Anything』をリリースしたJames Blake。冒頭の“Radio Silence”では失意のなかを彷徨う彼が“Meet You In The Maze”で自らの答え(らしきもの)を見出す歌詞で終わる。まるでセラピーのようだったと語るこのアルバムの制作を経て、今彼は何を思うのか。

by Hiroyoshi Tomite
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21 February 2017, 2:05am

『The Colour In Anything』はこれまでのアルバムに比べて、収録曲数が多く、ソウルフルなボーカリストとしての一面、優秀なトラックメイカーとしての一面などさまざまな側面がちりばめられているように思いました。意図的にバリエーションを出そうと考えた結果でしょうか?
James Blake(以下、JB):自然とこのような形になったと思う。作曲に没頭している時は、完成した曲がアルバムのピースとしてどのようにはまるのかを俯瞰して考えるのは困難だ。とりわけ僕の場合、全体像を気にするのは窮屈に思えて、音楽に魅力を感じなくなってしまう。だから先のことは計画しない。例えば、友達とポーカーをしているとき自分が最終的に勝つためには、瞬間瞬間に集中しないといけない。逆にこの夜の終わりにいくら手元に残るかを想像してしまうと、最終的に勝利に導くために必要な些細な決断ができなくなってしまう。それに近いことだよ。

ストレートな失意の言葉が並ぶ楽曲群ですが、発売から1年弱が経って、自らこのアルバムをどう評しますか?
JB:実を言うと、あまりこの作品を聴いていないんだ。内容があまりにパーソナルなものなので、一時はリリースをやめようかとも考えたくらいだから。一方で、この作品はこれまでの作品群のなかで最も自己分析されたものだと思う。自分の置かれている環境の変化を受け止めて、当時抱えていた漠然とした感情や思考をこの作品に封じ込める治療的な試みだった。個人的には遡りたくない思い出の記録ではあるけれども、同時に音楽的に生み出せたことを誇れるものも多くある。曲を書いて車を運転しながら聴くことが、当時セラピーになっていたように思えるからね。でも一度それが世の中に出てしまうと、セラピーの効果がなくなる。今自分の関心はこの作品のコンセプトや主題から次へと移っているよ。

Frank Oceanとの共作"My Willing Heart"、"Always"や古くから親交のあるBon IverのJustin Vernonを迎えた"I Need A Forest Fire"、"Meet You In The Maze"など現在の音楽シーンで重要人物と呼ぶべき存在とのコラボレーションを果たしています。彼らとの共作や、新しいメンバーを迎え入れることはどんな発見がありましたか?
JB:コラボレーションに際して学んだのは、まず相手の心を開いてあげるのが大事だということ。前者がなければ、後者がないようにね。恐らくそれが自分にとって一番の発見だったかな。コラボレーションは、自分がともに時間を過ごしたい相手を見極めて、さらにその相手と何かを作りたいと思っていることが肝心だ。だから自分でその相手を選ぶことができる職業に就けてとてもラッキーだと思う。

Beyoncéのアルバム『Lemonade』の1曲、"Forward"でのコラボレートも話題になりました。その経験は自身にもフィードバックがありましたか?
JB:明らかな変化があったよ。このコラボレーションに対してみんな寛容だったし、ボーカリストとして彼女に招待されたことは名誉に思える。僕自身昔から彼女のファンだったからなおさらね。あと、ビヨンセのファンが僕のライブに足を運ぶようになったのが、素直に嬉しいよ! 自分とは異なるアーティストの作品に参加できると、僕に対する人々の偏見や見解を変えることができる。『一体何なんだこれは?』と一部のダンスミュージック系のレコードコレクター達に思われているかもしれないけども、それはそれで構わないんだ。

ロンドンのダブステップシーンから登場しましたが、現在はアメリカ在住のアーティストとのコラボレーションを多くなされています。それはなぜですか? そして今の楽曲制作の状況はどうですか?
JB:多くの人が僕のルーツがダンスミュージックだと思い込んでいるようだけど、実際はそんなことはない。本当はスティービー・ワンダーの全楽曲を隅々まで聴き続けた10年間がルーツにあたるんだ。たしかに、ダンスミュージックは僕の音楽人生の一部ではあるけれどもね。
僕が15歳の時、自分でピアノを弾きながら歌っていて、その後コンピューターを手にした。幼少の頃僕が熱心なゲーマーだったことが、ビートを毎日作ることに上手く転換されていったように思う。そのうち多くの人が聴くようになったタイミングで、たまたまロンドンではダブステップシーンが大きくなりはじめていた。そのときすでに存在し、盛り上がりはじめていたジャンルを僕が押し上げた形だった。だから正確にはダンスミュージックは僕のルーツと言うより、僕が自分の音楽を売るようになったきっかけだと言えるかな。
今現在僕はLAに住んでいて、スタジオで多くの時間を過ごしているよ。ヒップホップのラッパーとコラボレーションをしながら作業することもあれば、当然個人でも作業している。精神的な余裕ができたから、以前より多くの楽曲を作曲できるようになってきている。今言えることはそれくらいかな。

2010年に彗星のごとくあなたが音楽シーンに登場してから早7年。現在の音楽シーンを語る上であなたの音楽が引き合いに出されるような状況が作られました。世界の様相も一変したと思います。今のメインストリームの音楽シーンをどう捉えていますか?
JB:変化したことといえばThe Chainsmokers とドナルド・トランプの登場ぐらいじゃないかな。彼の集会で演奏してみたいよ(笑)。 彼の就任式に参加できなくて残念だ(笑)。まあでも、招待されてないから当たり前か。えーっとごめん。正直特に何も思い浮かばないな。
ただ、メインストリームの音楽が以前よりも鈍感なものになっているように感じているよ。そして僕が作る"時に暴力的なまでに繊細な音楽"は、みんなに『パーティーしようぜ!』と感じさせられるようにはデザインされていない。そういうこともあって、世界の音楽シーンの文脈の中で、自分がどのような位置に当てはまるのかよく分からなくなるんだ。

今回のアルバムリリース後、そこまで数多くのライブをしていないですね。何か理由がありますか?
JB:自分に与えられた自由な時間をできるだけ楽しむことに決めたということだね。キャリアを重ねたことによって、仕事に集中することもできるけど、家に帰らず世界を巡るツアーをこなすのは大変なことだよ。特に交際相手がいるとね。
ツアーに出ることを好むアーティストは多くいるけど、世界ツアーは自分と向き合う時間を持つのが難しくて、精神的に敏感な人や不安を感じやすい人には苦痛だ。そして僕は次から次へと移動することをあまり楽しめない。消耗されるエネルギーを充電するのには、時間がかかるからね。

こんな風に生きていると、時々一般的な20代が羨ましくなるよ! 友達とポーカーをしたり、ドキュメンタリー映画を観たりするようなごく普通の時間が恋しい。そんな生活が奪われると頭なんかすぐにおかしくなって、そのうち自分の面白くもないジョークを『みんな最高だと思ってるに違いない』なんて思い込むようになってしまう。地元で友達とふざけ合うことが今一番恋しいな。

21歳で有名になってから既に7年が経ちました。それはバンドメンバーも同じ感覚なのでしょうか?
JB:バンドメンバーも同じく、とてもクレイジーな経験をしていると思うよ。まるで瞬きしている間に7年が経ったような感覚だ。今年ツアーを多く入れていないことは、僕と彼らの成長にもいいと思うんだ。彼らが普段の生活にちゃんと戻れることも気遣わなければならないと思う。お互いのためにね。

今回は4年ぶりの単独来日公演になります。
JB:ライブで演奏することは今でもずっと好きだし、日本をはじめ、好きな場所はいくつもある。今回は2週間日本に滞在するのだけど、とても穏やかな気分だよ。地元に帰ってきた感じにも似ている気がする。
日本をはじめて訪れてから、本当に長い道のりを歩んできたように感じるな。日本では沢山のいい思い出があって、悪いものはほとんどない。他の多くの国では、ライブである方向に進み始めると、オーディエンスがついてこれないことがあるんだ。日本では僕がどの方向に踏み出してもオーディエンスがついてきてくれるので、自然と自尊心も高まっていく。そういう意味でも日本で演奏することに安心感を覚えているし、いつもありがたく感じているよ。

大阪公演
公演日 : 2017/2/24 (金)
会場 : Namba HATCH
開場 : 18:00 開演 : 19:00
座席 : 1F スタンディング 2F 指定席 前売り:¥7800
一般チケット販売 : 2016/09/24 (土) 10:00〜
お問い合わせ : SMASH WEST 06-6535-5569

東京公演
公演日 : 2017/2/25 (土)
会場 : 東京国際フォーラム ホールA
開場 17:00 開演 18:00
座席 : 全席指定 前売り:¥7800
一般チケット販売 : 2016/09/24 (土) 10:00〜
お問い合わせ : SMASH 03-3444-6751 / HOT STUFF 03-5720-9999

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Credits


Photography Yoshiharu Ota
Interview James Smith
Text Hiroyoshi Tomite
Special Thanks to waltz, POST

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