「あなたを死に追いやる可能性があります」——タバコのパッケージにトランプの似顔絵を描いたアーティスト、アントニー・ミカレフ

衝撃的な作品で物議を醸しているアーティスト、アントニー・ミカレフに、モチーフとなったドナルド・トランプとアメリカのこれからについて聞いた。

by Felicity Carter
|
24 October 2016, 10:07am

ニューヨークのギャラリーJoshua Liner Gallery所属のアーティスト、アルフレッド・スタイナー(Alfred Steiner)によってキュレーションされた展覧会『Why I Want To Fuck Donald Trump』は、1967年にSF作家のJ・G・バラードが書いたエッセイ「Why I Want To Fuck Ronald Reagan」に着想を得て作られたもので、政治がセックスまみれのセレブ界のカルトにかき回されるまでに腐敗してしまった現在の政治情勢を痛烈に批判する内容となっている。世界的な評価を得ている「現代アートの旗手」たちが多く参加しているが、そこにはやはりというべきか、アントニー・ミカレフの名があった。

9月21日の国際平和デーに向けてイベントを企画していたNPO団体Peace One Dayから依頼を受けたミカレフは、マルボロのパッケージにドナルド・トランプのポートレイトを描いた。『Trump Fags(fagは同性愛男性を指す侮蔑的表現であると同時に、イギリス英語では「タバコ」の意もある)』と題したこの作品で、ミカレフは「あなたのみならず周囲のひとの健康も害する可能性があります」「あなたを死に追いやる可能性があります」といった注意書きの主語(Smoking:「喫煙」)にトランプの似顔絵を上描きしている。作品のひとつが5,500ポンドで売却される(この売上金は寄付された)など、この作品群は大きな注目を集めた。そしてその作風に共鳴したスタイナーが、ミカレフにアプローチ。今回の展覧会参加に至った。

風刺アートの現代表現主義アーティスト、ミカレフ。彼は現代の社会・政治情勢の暗部をあぶり出し、他の参加アーティストたち同様、有名人であるという立場だけで取りざたされる世界と完全な癒着状態にある政治に私たちが脆さと夢を投影してしまっている現状を暴き出す。

この米大統領選で、ドナルド・トランプはなぜここまで勝ち抜いてこれたのでしょうか?
政府・政治に対し「Fuck you」という主張を見せつけたいアメリカ国民の多くにとって、手段として与えられた唯一の選択肢がトランプなのです。アメリカ国民の多くは、自分たちが無視されていると憤っている。「自分たちの怒りの声を聴いてほしい」という思いから沸き起こった憎悪の念を表現するのに、トランプという存在は最適だった。トランプが何を主張していようが、彼らには関係ない——だから多くのアメリカ人がトランプに投票すると明言しているのです。トランプ支持者たちがそろって馬鹿だと言い切ってしまうのはフェアじゃない、と思います。彼らはただ仕事が欲しくて、家族を養おうと必死で、ローンをきちんと払いたいと願っている、ごく"普通"の市民なわけですから。彼らが働いていた工場は世界がグローバル化していくなかでより安価な外国の工場に仕事を奪われてしまった——グローバル化に取り残された人々なのです。人類の歴史において、少しでも文明を見てきた人間は、教育やチャンスに恵まれてこなかった人々や地域に対して「正しい道」という論調でさまざまなことを説いてきた。トランプがとっている手法はそれとなんら変わらないのです。ISISが、敵国とする国のなかで「阻害されている」「正当な機会が与えられていない」と感じているひとびとに憎悪と不信の感情を煽って仲間を増やしているのと同じなのです。

それが意味する現代のアメリカ国民と政治情勢とは?
社会の貧困層をこれまで無視しつづけてきた結果でしょうね。教育をないがしろにして、その代わりに安いエンターテインメントばかりを見せつけていると、子供というものはそれなりにしか育たない。今やアメリカは、著名人やセレブリティと政治家の境界線すらなくなってしまっています。過去数十年にわたり、私たちはこの現状に向かって無責任に突き進んできたのです。アメリカはセレブ文化に弱い。80年代には俳優のロナルド・レーガンが大統領になり、その後はアーノルド・シュワルツェネッガーがカリフォルニア州知事に当選している。2008年にジョン・マケインが大統領選に出馬した際、副大統領候補としてサラ・ペイリンが選出されるなど、お笑い種としか言いようがない様相がずっと続いているわけです。
サラ・ペイリンは第一作の『ターミネーター』のようなものです。世界情勢などまったく知らない、ただの有名人——サラ・ペイリンというキャラクターとして有名になり、人気を獲得したわけです。サラ・ペイリンがこれまでに授かった最大の幸福は「副大統領にならなかった」ということでしょうね。マケインが大統領になり、彼女が副大統領に就任していたら、彼女の能力や知性、なにより資質が激しく問われることになったでしょうから。彼女は政治家というよりもセレブとしての力を与えられていた。トランプもまた新時代のターミネーターとして一部の国民のヒーローになっています。ペイリンよりも洗練されたターミネーターとして描かれているように思えます。

キャンバスとしてタバコのパッケージを用いたのはなぜでしょう?そのアイデアはどこから?
タバコのパッケージに描くという手法はもう何年も続けているんです。当初は自分のポートレイトや可愛いキャラクターを、なぜだかそれが「面白い」と思って描いていたんです。トランプは新しいアニメキャラのようなものです。

トランプが大統領になる可能性というのは実際にあるのでしょうか?
今の世の中に「ローマ帝国の崩壊」のようなことが起こっているのであれば、可能性はあるのではないでしょうか。

Trump Fag』は大変な注目を浴びましたね。もっと制作する予定は?
もういやですね……トランプ酔いで吐きそうです。あのシリーズはもう過去に押し流します。

『Why I Want To Fuck Donald Trump』はニューヨークのJoshua Liner Galleryにて2016年11月12日まで公開。

antonymicallef.com

Credits


Text Felicity Carter
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.

Tagged:
Culture
joshua liner gallery
antony micallef
new york exhibitions
why i want to fuck donald trump