女性たちへの信頼と連帯 漫画家・鳥飼茜 interview

i-D Japan no.6 フィメール・ゲイズ号に掲載された漫画家・鳥飼茜のインタビューを全文公開。「女の人たちが性的な目線から自由で、のびのびしていてお互いに助け合える余裕っていうか寛容さがある姿を描きたい」

by Momo Nonaka
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01 April 2020, 6:38am

この記事は『i-D Japan No.6』フィメール・ゲイズ号から転載しました。

作品ごとに新たな領域に足を踏み入れ、読者に新鮮な驚きを与え続けている漫画家・鳥飼茜。昨年は痛ましい性暴力を果敢に描いた『先生の白い嘘』、ライトで楽しいガールズトーク漫画『地獄のガールフレンド』を完結させた。そしてこの秋には新たに3作品の単行本が刊行される予定だ。

SFに初挑戦した『マンダリン・ジプシーキャットの籠城』、平凡な男性美術教師が風俗嬢に恋する『ロマンス暴風域』、全編鉛筆描きの『前略、前進の君』。加えて、現在進行中の恋愛についても含めて私生活を赤裸々に綴った日記のウェブ連載『漫画みたいな恋ください』も書籍化される。

鳥飼はひとつの場所に留まることをよしとしない自分について、「ものすごく飽き性だから」と語る。

「ひとつの物語にずっとしがみつくのが苦手っていうのがまずあるんです。一本の漫画のなかでも舞台を突然変えてみたり、ひとりの主人公のお話がしばらく続いたら次は別の登場人物の視点から描いてみたり。今までと違うことを自分のためにしてるというか、そうじゃないと仕事自体を飽きて、やめてしまいそうなんですよね。だから自分が面白くなるように、新鮮な環境を自分から作っていく。引っ越しがとにかく好きっていうのもたぶんそれで。私、今までずっと1年に1回ぐらい引っ越ししていて、昨日も引っ越したばっかりなんですけど(笑)。自分がこのテンション飽きてきたなって感じがちょっとでもにおってきたらすぐに変える。それは絶対読者にバレるから」

『マンダリン・ジプシーキャットの籠城』は、生殖が人工的に管理されている、日常に男が存在しない女ばかりの架空の社会が舞台だ。

「それまで描いてきたのは全部リアルの等身大の物語でした。現実の生きづらさを描く人、みたいに割と言ってもらえてたんだけど、そのまま続けていたらまたすぐ飽きちゃうかもしれないと思って、いちばん自分にできそうにないことをやってみようと思ってやったら......むっちゃ大変でした。二度とやらない(笑)。でも、すっごく頑張りました! ほんとに毎回苦しかったけど、最終的にはすごく良くなりました、というか好きな作品になりました」

男と女のあいだの溝、そして女と女の絆をあざやかに描き出す作品で大きな支持を得ている彼女だが、そこにマーケティング的な狙いは一切ない。「私、仕込んでいくとすべるタイプなんですよ。だから自分が今いちばん言いたいこととか、気持ちがひっかかっててそこから動けないようなことを描くことですっきりして、次、次、次、ってやってるので」

「女の人だけの世界を描くのも、そういう時流とか世相だからというのはまったくないです。なぜあれを描いたのかっていうと、私は“萌える”っていう感覚が全然わかんなくて。アニメもアイドルも、小学生のときにかーくん(諸星和己)が好きだったけど、それ以来夢中になったことがないし、たまに俳優さんで好きな人ができるけど、旬な感じにやられてるだけで強力に執着するみたいなのがないんですよね」

「でも漫画家の人たちって、話を聞いているとみんな“萌え“というものをすごく大事にしていて、創作の原動力みたいになっている。だから自分にそれがないのはすごいコンプレックスだったんです。で、一回すごく突き詰めて考えたときに、これは話に聞く萌えって感じに近いかも!?って思ったのが、女子サッカーの澤穂希さん。テレビで「苦しいときは私の背中を見て」みたいなことを言ってて、めちゃめちゃかっこいいな!と」

「なんか、そういう運命を背負ってなおかつ気丈でいる女傑みたいな人がとにかく好きなんですよね。そういうことに気づいて、自分がかっこいい!って思える世界を描こうって考えたら、男の人いなくなっちゃって(笑)。『地獄のガールフレンド』もそうだったんですけど、女の人たちが性的な目線から自由で、のびのびしていて、お互いに助け合える余裕っていうか、寛容さがある姿を描きたい。そういうのが本来の女の人のいいところだと思うんですよね。「女同士でマウンティングしてる」とかなんとか言われちゃうのは、社会的に変なフィルターがかかってるだけで」

女性が持つ強さや優しさについて「無条件に信頼してるとこがありますね」と鳥飼は語る。その揺るぎない信頼は、どのような経験によって培われてきたのだろうか。

「ひとつには、私には妹がいて。やっぱり姉妹って、ずっと比べられてきたりするじゃないですか。それでお互い比べられて嫌な思いをしていても、何か困ってることがあれば助けるし、軽口を言えば乗っかるし、根底のところでこの人は同志だって感じられる仲間だから」

「そういう関係は肉親だけに限った話じゃなくて。以前、フラれて弱り切って死にたいみたいなときに女友達に助けを求めたら、「そんなことで死にたいって言われたら、今まで私があなたを信頼してきた世界が崩れてしまうからやめて」って言われたんですね。で、私がここにいることをこんなにも受け入れ続けてくれてたのに無視してしまった、ごめん、って気づかされたり。私、すぐ男の人のことの優先順位が高くなっちゃうんですけど(笑)、そういうの度外視で横にいていっしょに歩いてくれてたんだな、って思えて」

「女の人は弱ってる人がいたら何をおいても助けにいくんですよ。前に土俵で倒れた人を助けた女性がいたじゃないですか。ああいうふうに、“ここは上がっちゃいけない”ってことになっていても上がるんですよ。生命の危機とか困ってる人に対する“助けなきゃいけない”っていう使命感みたいな、そういう連帯とか責任感みたいなものが強い生きものだと思ってます」

女たちの連帯に希望を見出せることが鳥飼の作家としての強みであるのは間違いない。だが彼女は同時に、女と男が共に信頼しあえる良い関係を築くことも、決して諦めてはいない。その切実な想いは、『漫画みたいな恋ください』に綴られた、彼氏との恋愛にもがく姿にもあらわれている。

「それは男の人に対して信頼感がないから、でも信頼したいがために努力してるって感じ。なんとかできないものか頑張ってます」

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Credit


Photography Fumi Nagasaka
Styling Masako Ogura
Hair and Make-up Itsuki
Styling assistance Chisaki Goya, Kana Hashimoto

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