Cornelius 小山田圭吾

東京という街で音を出す、自分のことが見えてきた。

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sep 14 2018, 10:38am

遠目に眺めれば穏やかなようでいて、顔を近づければ無限の表情や情報、光の乱反射が確認できる水面(みなも)のようなサウンドと、インティメイトな詞世界の芸術『Mellow Waves』。この傑作をベースに、東京やニューヨーク、メルボルンやロンドンの才能を迎え入れたニュー・アルバム『Ripple Waves』を発表するCornelius。世界約10都市を巡るワールド・ツアーを成功させ「AUDIO ARCHITECTURE:音のアーキテクチャ展」などの刺激的なプロジェクトでも徹底したクオリティ・コントロールを聴かせる小山田圭吾に話を聞いた。

ちなみにインタヴュー当日は10月に控えた『Mellow Waves Tour 2018』で販売されるマーチャンダイジングのミーティング。デザイナー北山雅和のレイアウトに細かな指示を入れながら、Cornelius初のライヴ・アルバムや瀧見憲司(Crue-L Records)との対談などを収録したカセットブックの仕様を詰めながら、「なかなかサクサクとはいかないけどね(笑)」と笑う小山田圭吾。改めてCorneliusは聴覚の充足にはとどまらないトータル・アートの創造主なのだと確認させられつつの取材スタートとなった。

(カセットのサンプルを手にとって)やっぱりツアーをやるならこういうグッズもつくりたいし、アルバムをつくるならサウンドにしっくりとくるパッケージが欲しい。そういうことがやりたいがためにCorneliusを続けている部分もあるからね。ここ数年は自分もSpotifyをよく使っていて、ランダムに再生されるおすすめ曲の精度であったり、いきなり「1年前の夏のあなたがよく聴いていた曲」みたいなプレイリストが届くことに喜んでいたりもするんだけど、それでも本当に聴きたいものっていうのは自分から探しにいかないと見つけられないと思うし、やっぱりフィジカルなものが欲しい。……よく「Not Bad, This Feeling(悪くない。この感じ)」をなんでアルバムに入れなかったのかって訊かれるんだけど、それは自分が音楽を聴き始めた頃から「実はB面に隠れた名曲が入ってて」みたいなシングルをたくさん買っていたから。そういう発見の愉しみというのを作品に盛り込みたかったっていうのもあるんだよ。

Not Bad ~」は、シングル「いつか / どこか」のB面曲。これまでのライヴでも披露されず、7インチ・シングルをターンテーブルに乗せることでしか聴くことのできなかった楽曲だが、今回発表されるアルバム『Ripple Waves』にて初 CD 化。『Ripple Waves』はそのタイトルが語るよう、『 Mellow Waves』を起点に広がっていった"波紋の軌跡"であり、ほかにもCorneliusのスタジオ、ライヴ音源、国内外のアーティストによる"Rework"、そして新曲と、硬軟織り交ぜた意欲的試みが多数収録されている。

そもそも今回はリミックス・アルバムみたいなものを出す気はなかったんだよ。でも今年の5月ぐらいかな、僕のUS盤を出してくれているRostrum Recordsがサブスク用にエクスクルーシヴな音源をつくりたいと言ってきて、それが溜まってきたので、じゃあ出そうかなっていう。90年代はオリジナル・アルバムとリミックス・アルバムをセットで考えていたようなところがあったけど、最近はリミックスというスタイル自体がダンス・ミュージックのフィールドに戻っていった感じもあるでしょ?だから、今回の発注も"リワーク"というかたちになってる。これだと解釈の自由度がすごく高くなる。「The Spell of a Vanishing Loveliness」をやってくれたBeach Fossilsはバンドでのカバーに近い感触になってるし、Reginald Omas Mamode IVとかHiatus Kaiyoteなんかは完全に彼らの"新曲"になってる(笑)。

そこに続く「 Surfing on Mind Wave Pt 2 」は 80 年代のイギリスにて FELT というレジェンダリーなグループを牽引していた鬼才であり奇人、Lawrence によるリワーク。ムスクを煮出し精製したかのようなヴェルヴェット・ヴォイスが「コォオネェ~リアァァ~ス」と耳元に呼びかける『Ripple Waves』最大の問題作だ。小山田圭吾のカリスマでありアイドルに名前を連呼されるその心境はいかに。

ちょっと気持ち悪いよね(笑)。FELTは大ファンだし、Lawrenceがどれだけ変人かっていうのも知ってて頼んだわけだけど、それでもまったく予想しなかったものが送られてきて、初めて聴いたときは「暴力温泉芸者みたいだなぁ」って(笑)(編注:暴力温泉芸者は中原昌也によるオウン・ユニット。1992~2002年にCorneliusが主催していたレーベル「TRATTORIA」からの作品もあり)。でも、Lawrenceが人の曲をリミックスするっていうのは間違いなく世界初なはずだから、初めてになれてよかった(笑)。あと、このへんになると、もうなんのCDを聴いているのかわからなくなるよね。最後の坂本龍一さんと細野晴臣さんのリワークは『サウンド&レコーディング・マガジン』の企画でやってもらったものだけど、もしこの2曲がなかったら本当に謎な作品になっていたと思う(笑)。

無論『 Ripple Waves 』には Cornelius 自身によるレア・トラックスも収録。「Audio Check Music」はテクニクス社の新製品のために製作された非売品 12 インチからの音源であり、「Audio Architecture」は東京ミッドタウン 21_21 DESIGN SIGHT にて開催中の同名展覧会のために制作された新曲。そしてニューヨークの Spotify Studio でレコーディングされた DRAKE 「 Passionfruit 」のカバー は、世界中の Cornelius ファンにとっての大きなサプライズとして迎えられた話題曲だ。

このときのレコーディングは1日しかなかったというのもあって、いつもの作業よりはだいぶ肩の力が抜けた感じだね。Corneliusの音楽っていうのは無音や残響も実音として捉えているようなところがあるけど、そこまで厳密にコントロールしていないからこそのラフなテイストが出てると思う。むしろ大変だったのは選曲かな。最初は全然違う曲を選んでたんだよ。大野(由美子)さんのムーグがあればできると思って、SILVER APPLESの「Oscillations」(60年代後半に活動した米サイケデリック・エレクトリック・グループの代表曲)を提案してみたんだけど、Spotifyサイドの反応は「そういうんじゃないんだよなぁ」みたいな感じだったから(笑)「なら、DRAKEぐらいメジャーなら文句ないだろう。再生回数もすごいじゃん」って。そしたら「そうそう、そういうの!」って(笑)。でも、結果的にはCorneliusにとって意外性のある選曲になったし、ふだん僕の音楽を聴かない人にも届く可能性のあるものになったから、よかったんだけどね。ちなみにこの曲の(英語の)発音はかなり頑張った。世界中の人が聴く音源なわけだから、事務所のネイティヴのスタッフに細かくレクチャーしてもらって。でも、彼は優しいからすぐに「いいじゃん」ってなるんだけど「もっと厳しくお願いします!」ってね(笑)。

そして完全未発表の新曲が「Sonorama 1」。わずか2分18秒の間に繰り広げられられる、散弾もしくはドリップ・ペインティング的な音遊びは、着地点すら予想させないまま、めまぐるしくそのシルエットを変え続ける。

これは10月のツアーでなにか新曲をやりたいと思ってつくった曲。自分にしては珍しく、最初にライヴ・パフォーマンスの絵が頭にあった曲だね。これまでのCorneliusの曲は、天候とか、温度とか、言葉にならない皮膚感覚なんかがモチーフになることが多かったんだけど、これはステージに立っている僕らだけが暗闇に浮かんでいるイメージというのがハッキリとあった。だから実際のアレンジも4人だけで演奏できるようにつくってる。そういう意味では ”実際にライヴで観てもらうことで完成する曲” とも言えるかな。だからぜひ観にきてくださいってことで(笑)。10月のツアーは会場がホールなんで、ライティングとかヴィジュアルもつくり込めていて、去年のツアーでは演奏できなかった曲とか、当時はベータ版だった映像も完全版になるし、フェスや海外ツアーとはまた違って、『Mellow Waves』の全体像とか輪郭がくっきりと見えるかたちで演奏できるはず。……やっぱり海外のライヴは毎回勝手が違うから、目指すものはホール的なクオリティとはまた違ったものになるんだよね。それはそれで楽しいんだけど……。

Corneliusの海外進出史は古く、初のステージは ’98 年の サウス・バイ・サウスウエスト(SXSW) まで遡る。インドアの極致ともいえるCorneliusの音楽に、アウトドア=海外での活動や体験が及ぼした影響というのはあるのだろうか。

どこまでが海外からの影響で、どこまでが自分の趣味趣向なのかっていうのはちょっと線引きが難しい。でもまあ、絶対にゼロではないよね。たとえば海外ツアーの際は当然向こうのメディアからの取材を受けることになるんだけど、『FANTASMA』の頃は「すごく日本っぽい」と言われ続けてきた。それは90年代の東京の雑多でミクスチャーな感じとか、サンプリング・コラージュのガジェット感みたいなことを指してのことだと思うんだけど、そもそも自分は海外の音楽に憧れて始めているわけだし、日本に帰れば「すごく洋楽っぽい」と言われていたわけだから、その言葉にはちょっと複雑な想いがあった。で、その後の『POINT』ではサンプリングはほとんど使わずに、自分の出した音を編集していくことでつくっていったから、そのガジェット感というのは大幅に減退したはずなんだけど、また海外に出てみると、今度は俳句とか石庭なんかを例に出されて「すごく昔の日本っぽい」と言われ(笑)。……まぁ、そういうのはいかにも向こうのライターが書きそうなステレオタイプな表現ではあるんだけど、当たっていなくもなくて。……だから、そういう反応の中で、改めて日本人の自分の資質というのを確認してきた感じはあるのかな。もちろん自分の音楽は世の中の雰囲気とかテクノロジーの進歩にも密接だから、それだけが変化の原因ではないんだけど、海外に出たことが自分自身を捉え直すきっかけになったことは確かだと思う。もっと自分の"個"を突き詰めた音楽をつくろうと思った、ひとつのきっかけにはなってるね。

"個"の追求は 2009年の『Sensuous』にて、孤高のピーク・ポイントとして結晶化。さらにそこから 10 年。現在の Cornelius はまた新たなフェーズに突入している。世界最高峰のサウンド・デザインを提示しながら、そのレシピやコンセプトが必要以上に耳に迫ることなく、どこまでも優しく開かれたサウンドを鳴らしている。

うん、やっぱり『Sensuous』の頃よりはナチュラルに音を出せるようになった感じはあるかな。"個"を意識しながら音を出すということ自体が身体に馴染んできて、今は何をやっても自分っぽくなるなって。(窓の向こうの神宮球場に大きな花火があがって)でも、それもたぶん、海外に出たり、いろんな都市のいろんな才能とコラボレートするうちに、東京という街の位置であったり、そこで音を出す自分の立ち位置を確認できたからっていうのがあるんじゃないかな。東京って、ここにしかないものもあるにはあるけど、ヨーロッパみたいに成熟しているわけじゃないし、欠けているものっていうのもすごいあるよね。それは"感覚"であったり、"余裕"であったり、物理的な快適さじゃない部分というのはすごく遅れてると思う。でも、自分に限っていえば、ここがいちばんフラットでいられる場所なんだよね。なんだかんだ便利だし、友だちもみんなここにいるし、いろんな意味でこの街が基準値になってる。(世界には)素敵なところがたくさんあるけど、そういうところへいくと(気持ちが)アガりすぎちゃったり、トラブルが続くとサガりすぎちゃったり。そういう意味でも東京は、本来の自分のままでいられるいい街なんだなって思える。もちろん東京でサガることもあるんだけどね(笑)。

Cornelius「Ripple Waves」
https://wmg.jp/cornelius/

Cornelius <Mellow Waves Tour 2018>
10/3 福岡・国際会議場 メインホール
10/5 大阪・オリックス劇場
10/8 東京・東京国際フォーラム ホールA
10/19 岡山・岡山市立市民文化ホール
10/21 愛知・日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール
10/24 北海道・札幌市教育文化会館 大ホール
10/27 宮城・電力ホール
<ヘリオス・グルーヴィーナイト vol.28>
10/13 富山・南砺市福野文化創造センター 円形劇場ヘリオス
<Mellow Waves Tour 2018 – Taipei>
11/9 Legacy 台北 Clockenflap 2018
<Clockenflap 2018>
11/9〜11/11 Central Harbourfront Hong Kong (*Corneliusは11日に出演予定)
https://Cornelius.lnk.to/