Photography Mitchell Sams

サイクルパンツはいかにして2018年最大の流行になったか?

2019年春夏のランウェイを席巻したのは、スパンデックス素材に包まれた太ももだ。

by Felix Petty; translated by Ai Nakayama
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22 October 2018, 3:17am

Photography Mitchell Sams

故ダイアナ妃は、サイクルパンツをこの上なく愛用していた。彼女はよく、ノームコアなセーター、厚底のダッドスニーカーにシックなスポーツソックス、そしてサイクルパンツを身につけて、スローン・スクエアを自転車でとばしていた。現在のトレンドを鑑みれば、彼女のルックはだいぶ時代を先取していたといえよう。Off-Whiteのヴァージル・アブローは、2018年春夏コレクションで、彼女のファッションにオマージュを捧げたほどだ。

「ダイアナ妃は強い個性を持ち、英国皇太子妃という地位にもかかわらず、自分自身の好みがしっかりしていて、それをファッションで表現していた。スタイリストがついていたわけではありません」とヴァージルは当時、『Vogue』のインタビューでこう評している。「彼女の趣味は、皇太子妃として求められる服装とは一線を画していました。それがひとつのインスピレーションとなりました」

彼のコレクション自体はそこまでダイアナ色が強かったわけではなく、スタイルよりも妃としての精神のほうがクローズアップされた。おそらく、コレクションを決定づけたのはナオミ・キャンベルがまとったクロージング・ルックだろう。肩幅が広く、ウエストが絞られた白のテーラードジャケットと、それと同じ白のサイクルパンツだ。

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Fendi spring/summer 19

ヴァージルの背中をカーダシアンが追い、その背中を世界が追う。そうして、2019年春夏コレクションでは、Fendi、Prada、Roberto Cavalli、MSCM、Marine Serrre、Mugler、GCDS、AREAがサイクルパンツを発表した。サイクルパンツは、老舗ブランドから今もっとも影響力の強い新鋭ブランドまでを席巻したのだ。

サイクルパンツは、ダッドスニーカー、ツーリスト・キッチュ、ゴープコア(機能性抜群のアウトドアスタイル)、ウエストバッグと同じ傘下にあるトレンドだ。つまり、その皮肉なアグリーネス(ダサさ)が、皮肉だが実用的なラグジュアリーへと変身する。ラグジュアリーファッションは今、機能性を率直、誠実に表現できない。冷笑的で訳知りな表情のなかにしか、着心地は見出せないのだ。ありふれた、定番のファッションアイテム、つまり、実生活に根付いているはずのアイテムが、今や最高級のなめらかなレザー製だったりする。しかし、このつつましやかなサイクルパンツに関しては、かなり様子が違う。

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Prada spring/summer 19

サイクルパンツにまつわる知的で意義深い議論の発端は、Pradaだった(〈知的で意義深い議論〉といえばPradaだろう)。ミウッチャのサイクルパンツは、流線形の、空気力学を応用したようなシルエットでありながらも、ラインを身体に密着させすぎず、さらにサテン生地で少々重さを出した。「一方では自由、解放、ファンタジーを求めながらも、もう一方ではこんなふうにすごく保守的」とミウッチャは自身のショーについて説明した。まさにサイクルパンツの本質を言い得ている。見せたいけど隠したい、そんな相反する感情がそこにはある。Pradaは他のブランドとは違い、ひとかけらの皮肉も含まずにサイクルパンツを提示した。Pradaのサイクルパンツには、ただただ誠実さと、感情の機微だけがあった。

もっと遊び心があったのが、Fendiのアプローチだ。カール・ラガーフェルドとシルヴィア・フェンディが提示したルックが表現していたのは、スポーティーな気負わなさ。ファーにサイクルパンツを合わせたルックからも明らかだろう。Fendiのサイクルパンツは、実用性とラグジュアリーをテーマにしたコレクションの一部として、共依存的なそのふたつのテーマが醸す〈おかしみ〉を際立たせた。ポケットは身体の正面中央に置かれ、サブバッグのような役割を果たしている。カラーパレットは実にブルジョワ的なベージュの色調で、ダイアナ妃へのオマージュではないにしても、ありふれたアイテムに上品さが加えられている。

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GCDS (left) and MSGM (right) spring/summer 19

それ以外にも、AREAのサイクルパンツはグラマーだったし、MSGMはドリーミーなグランジ風。Roberto Cavalliはセクシーで、GCDSは乳房が3つある宇宙人にサイクルパンツを着せていた。Marine Serreはひたすら機能的なスポーティーさを追求。キム・カーダシアンのサイクルパンツは暗めのYeezyグレー。ヘイリー・ボールドウィンはスポーティーなLAカジュアル。基本的にサイクルパンツは、フォーマルなルックやいわゆるセクシーなアイテムと合わせられることが多い。

結局、サイクルパンツは前述の通り、ダッドスニーカー、ツーリスト・キッチュ、コープコア、ウエストバッグと同じ思想を担って生まれたトレンドだが、アヴァンギャルド的な皮肉が生み出すおかしみよりも、退屈ながらつつましやかで着心地が良いアスレジャーのほうにより近い。サイクルパンツは白いキャンバスだ。着る人の解釈で、何でも好きなように表現できる。

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Marine Serre spring/summer 19
This article originally appeared on i-D UK.