『エンドレス・ポエトリー』映画評

チリの巨星アレハンドロ・ホドロフスキーによる最新作『エンドレス・ポエトリー』。監督自身の体験をマジック・リアリズム的手法で描いた本作を翻訳家・三辺律子がレビュー。

by Ritsuko Sambe
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15 November 2017, 7:28am

70年代に『エル・トポ』、『ホーリ・マウンテン』を発表し、カルト的人気を誇ったアレハンドロ・ホドロフスキー。けれど、わたしがホドロフスキーを知り、彼の監督作品に夢中になったのは、2014年のドキュメンタリー映画『ホドロフスキーのDUNE』がきっかけだった。これは、ホドロフスキーが、フランク・ハーバートの『砂の惑星』から始まるSF小説シリーズの映画化を試みながら頓挫するまでを描いたもので、監督はフランク・ヴィッチ。つまり、ホドロフスキーの監督映画を一本も観ていないうちから、彼の大ファンになってしまったわけだ。もちろんそんなことは、あとにも最初にも初めてだった。

キャラクターデザインにメビウス、美術にH・R・ギーガー、キャストにはオーソン・ウェルズやサルバドール・ダリ、ミック・ジャガー、音楽はピンク・フロイドといった超・超・超豪華メンバーを集めたホドロフスキーのパワーと先見の明にはもちろん、本人のキャラクターにすっかり魅せられてしまったのだ。強烈、驚愕、爆笑。愛すべき天才。全編に映画愛の溢れるドキュメンタリーを観て彼に惹きつけられたのはもちろんわたしだけでなく、直後に公開された『リアリティのダンス』と共に、約40年を経てふたたび日本でホドロフスキー人気に火をつけた。

そんななか、満を持して公開される『エンドレス・ポエトリー』は、ホドロフスキーの幼少時代を描いた『リアリティのダンス』の続編にあたる。といっても、映画はホドロフスキー一家がチリの首都サンティアゴに移住したところから始まり、アレハンドロ(・ホドロフスキー)は青年になっている。なので、前作を観ていなくても、一人の監督の青春時代を描く独立した映画として観ることができる。

©️ 2016 SATORI FILMS, LE SOLEIL FILMS Y LE PACTE

思春期になったアレハンドロはスペインの詩人ガルシア・ロルカの詩集に夢中になるが、そんな息子に父親は、男らしくなれ、医者になれと命じる。父親との確執に悩むアレハンドロを見かねた従兄のリカルドは、アレハンドロを芸術家の姉妹に紹介する。姉妹の家は、ダンサーや画家など若いアーティストたちのたまり場だった。
彼らとの暮らしの中で、アレハンドロは自分が解放されていくのを感じる。激情の女詩人との恋、従兄の自殺、青年詩人との友情を経て、アレハンドロは芸術と共に生きる決意を固めていく……。

あらすじをまとめると、よくある芸術家の青春時代の一幕のように思えるかもしれない。ところが、そんなふうに思って映画を観れば、度肝を抜かれることになる。個性的な映像、奇異なエピソード、一見唐突に思える展開。しかし、ホドロフスキーはインタビューでこう言いきっている。「すべてがわたしの体験と言っていい。それをただ映像的に語っただけだ」

©️ 2016 SATORI FILMS, LE SOLEIL FILMS Y LE PACTE

それを、象徴するシーンがある。アレハンドロと親友の詩人エンリケは、散歩しながら詩について語り合う。そしてこう宣言するのだ。「詩人は何者にも左右されない。まっすぐ進もう!」そして、停まっているトラックを避けずに乗りこえ、人家に入ってベッドの上を歩き、歩行者侵入禁止の駐車場をまっすぐ突き抜け、文字通り「まっすぐ進む」のだ。

こうしてホドロフスキーはホドロフスキーにしかできない方法で、彼が実際に経験したことを「映像的に語っ」ていく。最初、(もしかしたら)仰天した観客も次第に、それが決して奇をてらったものではなく、すべてホドロフスキーの目を通して見た「本当のこと」だと心から納得する。ホドロフスキー本人が言っているように、「(映画の中の場所は)、私が若いころに重要な経験をした場所です。同じ場所、同じ家、まったく同じです。起こった出来事もすべて(同じ)」なのだ。これほど独創的な手段で、これほどの納得感を観客にもたらすことのできる監督を、わたしはほかに知らない。

インタビューによれば、ホドロフスキーが自らの軌跡をたどる自伝的作品は、ぜんぶで5部作になるとのこと。つまり、あと少なくとも3作は、ホドロフスキー映画を観られるわけだ。88歳にして衰えるどころかますますパワーを炸裂させる天才の今後が楽しみでしょうがない。

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エンドレス・ポエトリー
2017年11月18日(土)新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ有楽町、渋谷アップリンクほか全国順次公開

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