「目抜き通り」はいまどこへ?:ギンザシックスと銀座のこれから

戦前からアジア屈指の繁華街として栄え、人々を魅了してきた銀座。しかし2017年のいま、果たして銀座はその魅力を保ち続けていられているだろうか? 街の盛り上がり、目抜き通りはどこにいったのか? 『東京β:更新され続ける都市の物語』の著者でライターの速水健朗が、今年オープンした商業施設<ギンザシックス>とそのテーマ曲『目抜き通り』から、銀座の街の移りかわりを紐解く。

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jun 21 2017, 10:35am

2017年4月にオープンしたギンザシックスは「NEW LUXURYを世界に向けて発信する」をコンセプトに掲げた銀座の都心型商業施設だ。銀座のど真ん中。松坂屋の跡地だが、そのブランドを表に出さず、むしろ「脱百貨店」路線が強く打ち出されている。

開業にあわせて作られた楽曲『目抜き通り』を担当したのは椎名林檎。トータス松本と一緒に出演し、歌うスペシャルムービー「メインストリート」篇は、まさに銀座の街そのもののプロモーションビデオだ。テーマは「進化する銀座」。シャンパン色の風船を夜の銀座に飛んでいる。音楽は、キラキラとしたビッグバンドジャズのメロディー。銀座の路上で群衆が歌い踊る圧巻のミュージカル風ムービーだ。「♪もっと色めきたい 広い往来で」(作詞・作曲:椎名林檎)という『目抜き通り』のフレーズは、的確にこの動画の世界観を現している。歌舞伎町の女王の看板を掲げて登場した椎名林檎が「銀座」を歌うという感慨もあるが、彼女のクリエイターとしての評価はそんなレベルよりもはるかに上にいってしまっているのだろう。

マノロ・ブラニク(Manolo Blahnik)、ジミー・チュー(Jimmy Choo)が並ぶような高級モールが銀座にできなかったのは、世界のショッピングモールが、都心型化、高級化してきた流れでは遅すぎたくらい。さほど話題にはならなかったような気もするが、ルルレモン(lululemon)の日本一号店が、銀座を見据えての長期戦略とのこと。新路線はたくさん用意されている。

しかしながら、ギンザシックスが「脱百貨店」といいながらも実際には「銀座」のアピールに終始しているように見えるのが気になるところでもある。この銀座推しは、かつてソニーが「ソニーらしさ」を連呼しだしたときと似ている気がする。かつてのソニーらしさが失われたから「ソニーらしさ」を自ら求めてしまう。銀座もその価値がすでに失われている場所であるかのようにも見えてくる。

もちろん、銀座のステイタスは健在だ。地価はいまだ上昇を続け、すでにバブル時の地価を超えている。だが、出店する側のブランドにしてみれば、「銀座」を選ぶよりも丸の内「仲通り」を選んだほうが正解なのではないか。街並みにしても、軒を並べている店舗の格にしてもそちらの方がすでに質で上回っている。とはいえ、腐っても銀座というのもある。なぜなら東アジア、東南アジアに向けてブランドを展開する上で、店舗が「銀座」にあるだけで意味を持つのだ。ファストファッションが採算を度外視してまで銀座に店舗を構える理由は、銀座に店舗を持つことで得られるブランドイメージがあるからである。ブランドにとってイメージはもっともコストをかけるべき分野。もっとも一方で、それとトレードオフで銀座の街はマジックポイントを失っていく。

上流があって下流に流れていく。ファッション業界そのものが持っている性質でもある。ハイブランドのコレクションでデザインや色の流行が決められ、一部のファッションピープルが、他人に先駆けてそれを身につける。一般の人々の元に、その流行が行きわたるまでには、1年ほどのギャップがある。例えるなら、砂が上から下に落ちていき、その時間差でもって時間経過を測る砂時計のようなものだ。時間差が価値を生むとしたら、砂が上にあるのは、人々がそこに憧れを感じとるから。つまりは、ステイタスである。ただし、こうした服の売り方は、そう長くはもたないだろうというのが業界の目測である。下流の消費者が上流ブランドへの憧れに直接接続されるという市場の在り方が、もはや危うくなっているのだ。

同じようにステイタスでもって輝き続けてきた百貨店のビジネスも、すでに時代遅れになっている(だからこそ松坂屋は、その看板を掲げずに「脱百貨店」という形でギンザシックスを打ち出した)。ステイタスとタイムラグで保たれていたビジネスは、もうほとんど機能しないくらいに賞味期限が切れている。銀座の街がステイタスとなって、砂時計の一番上に置かれている状態も、これらと同じように長くは続かないだろう。その時代に、キラキラとしたまっすぐな高級志向の都心型商業施設が銀座を強く打ち出してくるというのがうまいやり方かどうかは微妙かもしれない。

とはいえ足を運んでみたギンザシックスは魅力的な場所である。個人的には、ここのフードコート「銀座大食堂」が一押し。なんといっても深夜23:00まで営業している。フードコートの入り口に広がる巨大なバーカウンターでは、ビール、ワイン、カクテル、シャンパンを飲むことができる。東京随一の大規模バーカウンターだ。「脱百貨店」を打ち出す以上、夜遅くまで遊べるという部分は重要。そこを強く打ち出す努力は見えてくる。また同フロアにある蔦谷書店、スターバックスには夜でも少なからず客がいる。飲んでもいいし、コーヒーを飲んでもいい。遅くまでやっている本屋もある。都心のフードコートの理想型とも言える。

金曜日の夜の銀座。一方、ギンザシックスから200メートルほど離れた鉄道高架に沿った辺りに銀座コリドー通りがある。3年前までのコリドーは、単ににぎやかな飲食店の集積地だったが、いまは東京きっての賑わいを見せる場所になっている。悪くいえば、ナンパストリートだ。金曜の夜のコリドーには一度足を運んでみた方がいい。誰であれおどろくだろう。店からはみ出した人々が通りにせり出してあふれている。その多くは、20代、30代の3人連れだ。この街でのナンパの基本単位である。3人連れは3人連れ同士、2人連れは2人連れ同士がどんどんグループとなって店の中に消えていく。男の子たちはビジネススタイルで女の子たちはコンサバスタイル。消費に消極的ないまどきの若者のイメージとは正反対。まるでここにだけバブルが訪れたようだ。

街の喧騒と男女の交雑。正直、コリドー通りの方が、椎名林檎&トータス松本の『目抜き通り』「メインストリート」篇の銀座の世界に近い。ただしキラキラというよりも生々しさの方が前面に出てきているが、人が集まっていることで浮き出てくる猥雑さは、椎名林檎の書いた歌詞「♪もっと色めきたい 広い往来で」にふさわしいものだ。金曜の夜の人出で、ギンザシックスのフードコートとコリドー通りでは、にぎやかさにおいて軍配は明らかに後者にあがる。

コリドー街とギンザシックスのギャップ。それがいまの銀座を象徴している。距離にしてたったの200メートル。それは、近いけどとても遠い。ギンザシックスの最大の魅力は「銀座」の最後の虚勢という部分かもしれない。椎名林檎だけが、それを理解しているのかもしれない。

Credits


Text Kenro Hayamizu
Photography Shouji Ko-ta