Advertisement

過去を、空間を、次元を突き破り、繋ぐ刺繍作家risa ogawa

ライブ会場を覆い尽くして空間を変え、写真には新たな構図と視点を加える、赤い糸。刺繍作家リサ・オガワが糸を通して突き破り、つなぐものは何か? その先に何があるのか? 赤い糸の行方を辿り、追った。

by Kanayo Mano
|
30 January 2017, 3:05am

2017年1月、ラッパーCampanellaのセカンドアルバム『PEASTA』のリリースパーティが行われた東京・渋谷のWWW Xは、熱気、ビールの匂い、そして巨大な"赤"に覆われていた。会場の空間を裂くようにも、繋ぐようにも見える赤い糸で作られたインスタレーションは、刺繍作家リサ・オガワが手がけたもの。『PEASTA』のアルバムジャケットも、彼女が制作している。ラッパーと刺繍作家。異色の2人だ。

「(Campanellaとは)18歳くらいの時に会ったので、私が刺繍をする前からの知り合いです。もともとヒップホップはあまり聴いてなかったんですけど、自分の内側を出すような、ドロドロしたラップもあるのかと共感して、それからもう10年くらい。だから今回も、私が刺繍をやっているから依頼されたわけじゃなくて、ずっと一緒にいる中で生まれたもの」

ステージに立つCampanellaが会場に張り巡らされた糸を引っ張ると、全体がゆさゆさと動く。まるで生き物の体内にいるかのような不思議な感覚と安心感に包まれるこの作品を、彼女はわずか2時間足らずでつくり上げた。

「作品をつくる時はいつも、"その場にどう対応するか"っていうことだけですね。反射神経というか。時間をかけて悩むよりも、何かものを見た時にどう反応するか。来たものを拒絶せず、その場で感じた空気で手を動かしてみる。この感覚は、2015年、インド・ネパールに1ヶ月くらい滞在した時に鍛えられたと思います。"こうしよう、こうじゃなきゃいけない"っていうのが通じない世界だから」

自分の中に存在する感覚を信じ、形に捉われず、いわば即興で作品を生み出す彼女独自の方法論は、すでに名古屋芸術大学の在学時に、その片鱗を見せていた。

「もともとはテキスタイルを専攻していたので、染め、織り、プリントも経験したんです。でも、合わなくて。分野としては工芸に近いので、技術の細やかさや正確さが重視されるのは、私にとってはカチッとしすぎていて、違うなと感じました。物の出来よりも、手を動かした跡が残る物がいい。そんな時に出会ったのがアウトサイダーアート。刺繍、なかでも、白い布に白い糸で玉結びをするアーティストを知って、自分でもやってみたら『あ、楽しい』ってしっくりきたんですよね。最初は布に玉結びを縫いつけて作品を作っていたのが、写真に縫いつけたり、空間を糸で埋めたりと、だんだん広がりました」

『PEASTA』のアルバムジャケット同様、写真に糸を通す作品にはモノクロ写真が多い。そして糸の色は決まって赤だ。

「他の色だと、なぜかあまり続かないんですよ(笑)。赤で縫いはじめたら、飽きずに続けられたので、それ以来ずっと赤で縫っています。写真作品だと、たとえば戦争写真に写っている遺体の上に、赤い玉結びを縫いつけていったり……。色だけじゃなくて、糸という素材も、刺繍という行為にも、どこか内臓っぽさ、内側っぽさを感じるし、そういう生っぽい雰囲気が作品にも出るような気がしています。初めて赤い糸で空間を埋めた『内面動向外的表現』という公開制作でも、"内側のものが外側に出る"ことを実践したもの。内と外の境界線はどこなのか、どこで引くのか、を考えてもらえたら面白いかなって。自分が思っている境界線は、みんなが思っている境界線じゃないかもしれない」

境界線を表現する媒介としての糸。その糸を使って、彼女が突き破り、繋ぐものは"空間と空間"、"次元と次元"だという。

「作品をつくる時に頭にあるのは、3つの座標軸。写真のように平面で完結する真横に伸びる軸に、糸のように立体的な存在のある縦軸が加わり、そこに空間的な斜め上の軸が広がる。そこを糸で突き破り、繋ぐことで、それぞれの境界線が曖昧になる感じがするんですよね。次は、そのさらに上の次元に、三次元の上に、座標軸をおいて繋いでみたいんですけど……まだちょっと方法が思いつかない。三次元の上を、もう1つ上の次元から見ることができたとしたら、それはもう時間が流れていない状態のはずで、過去と現在と未来が同時に存在する世界。答えはないかもしれないけど、それを考え続けて、表現してみたいです」

今年の秋には、大阪の山本製菓というスペースで大型展示の開催も予定されている。場所は20年前に閉鎖された元おかき工場兼住居で、まさに時間と空間を逸脱する装置となりそうだ。

「全体で3フロアあるので、インスタレーションを上の2フロア、1階を平面の作品にするのもいいなと、まだ企画段階です。映像など他のアーティストの方たちとのコラボレーションも調整をしています。写真作品だと、好きなロバート・キャパの写真を使ったものが多いので、今のリアルタイムで写真を撮っている写真家の方たちとも作品を生み出してみたいですね。この展示は3週間くらい制作期間をとって、大阪に泊まり込んで行う予定なので……今後はちょっと体を鍛えようかなって思ってます(笑)。フィジカルな強さって作品にでますし、やっぱり体力を使ってしまう。しっかりと強い体から生み出せるものをやりたいです」

risa ogawa
今と昔、生と死、隠陽をつなぐ刺繍作家。2009年から刺繍作品を制作。2010年名古屋芸術大学卒業。アウトサイダーアートに出会い、「無意識」に関心を寄せる。2016年4月spazio ritaにて3日間のインスタレーション公開制作「内面動向外的表現」を行う。

Credits


Photography Kisshomaru Shimamura
Text Kanayo Mano

Tagged:
Culture
embroidery
Robert Capa
Pesta
kisshomaru shimamura
campanella
kanayo mano
risa ogawa