Film stills from 'Mid90s'

『Mid90s』ジョナ・ヒル interview:脆い男性性とスケートカルチャー

90年代半ばのLAスケートシーンを舞台にした映画『Mid90s』で監督デビューを果たしたジョナ・ヒルが語る、役柄のイメージと本当の自分とのギャップ、そして青春時代のいびつな男性性について。

by Joseph Walsh; translated by Ai Nakayama
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24 May 2019, 8:45am

Film stills from 'Mid90s'

電話の向こうのジョナ・ヒルはLAにいる。取材当日は、彼が監督を務め、ジェリー・サインフェルドが出演したヴァンパイア・ウィークエンドの「Sunflower」のMVが公開されたばかりだった。「ジェリーにメッセージを送って、『ヴァンパイア・ウィークエンドの大ファンだったよね? 彼らの新作MVに出ない? それともディナーでもどう?』って訊いた。そしたら『出る。君とのディナーは絶対行かない。どこ行けばいいか教えて』って返事が届いた」

ジョナ・ヒルは有名人の友人に事欠かない。グレッグ・モットーラ監督の青春コメディ映画『スーパーバッド 童貞ウォーズ』でセックスのことばかり考えている童貞高校生セスを演じ、一躍人気俳優の仲間入りをして以来、彼は一流の映画人たちと仕事をしてきた。当初はジャド・アパトーのおバカコメディの常連だった彼だが、徐々にドラマ性のある役柄を演じるようになり、ベネット・ミラー監督の『マネーボール』、マーティン・スコセッシ監督の『ウルフ・オブ・ウォールストリート』の2作でアカデミー賞にもノミネートされた。今やスタイルヒーローとしてもカルト的な人気を誇り、Palaceの広告にも出演。賛否が大きく分かれる彼のスタイルを批評する数々の記事や、ジョナのスタイルだけを集めた不思議なInstagramのアカウントも存在している。また彼は、第二の故郷と呼ぶニューヨークで、〈ジョナ・ヒルの日〉と銘打った記念日も定めた。

mid90s film still jonah hill interview

しかし、世間では演じる役柄とリアルな自分のイメージが混同されがちで、苦労もしてきた。2018年、『Mid90s』のプロモーションのために『Jimmy Kimmel Live!』に出演したさいには、MCのジミー・キンメルが「驚いた、あなたはいい匂いがするんですね」と切り出した。色付きサングラスの奥にあるジョナの目は、明らかに気分を害していた様子だった。このように、ハリウッドにおいて、イメージを限定されることに嫌気は差さないのだろうか?「もし誰かがダンクシュートを美しく決めていたら、僕だってそのひとはダンクが得意なんだろうと思うし、そのひとのダンクシュートをもっとみたいと思う」とジョナ。「もしそのひとが、実はゴルフがやりたいと打ち明けても、『え、バスケやりなよ! ダンクシュートめちゃくちゃ上手いじゃん!』っていうはず。その心理は僕にも理解できる」。このように、彼は礼儀正しく対応しているが、だからといって簡単に役のイメージが払拭できるわけではない。長年の友人であるスパイク・ジョーンズには「めちゃくちゃ良い映画をつくってようやく君はスタート地点に立てる」といわれた。俳優としての15年のキャリアが、逆に障害になっていることに彼は自覚的だった。「努力して認めてもらわないと」

だから彼は、監督デビューのタイミングを慎重にうかがっていた。コーエン兄弟、クエンティン・タランティーノ、ガス・ヴァン・サント、キャリー・フクナガ、そして前述のマーティン・スコセッシなど、申し分ないメンターたちから得た知識を、10年以上にわたり積み重ねてきた彼は、LAのスケートカルチャーで育った自らの経験をベースにして『Mid90s』を制作。サニー・ソリヤック演じる13歳の少年スティーヴィーは、キャサリン・ウォーターストン演じる、生活に苦しむシングルマザーの母親と、ルーカス・ヘッジズ演じるろくでなしの兄のあいだで板ばさみとなっているが、あるとき年上のスケーターたちに仲間に入れてもらい、家庭からの逃避の場を見つける。本作は、目を見張るほどに生々しい。ハーモニー・コリン監督の『KIDS/キッズ』と比較されたり、ビン・リュー監督の『Minding the Gap』、クリスタル・モーゼル監督の『スケート・キッチン』など近年はスケート映画も豊富だが、それでもなお本作には新鮮さがある。

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しかし本作は、ただ当時のスケートシーンを完璧に再現しただけではない。「僕が育った時代の歪んだ男性性を見つめ直したかった」とジョナは語る。「僕らの世代とそれ以前の世代においては、表現できない自らの痛みや感情が、男性的な悪いふるまいとして発露した」。たとえば、スティーヴィーがある少女と性的関係をもつシーン。ここでは、90年代のいびつな〈男らしさ〉が、初体験という私的な出来事をいかに台無しにするかが語られている。「彼の初体験において大事だったのは、相手の女の子じゃない。ヤったあと、友人たちにいいふらすことだった」とジョナは説明する。「主人公は初体験にビビっていた。でも、これで年上の仲間たちから称賛が得られるんだ、と気づくんだ」

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ジョナが描きたかったのは、自分の感情を健全なかたちで表現することができず、攻撃に転化してしまった若者たちの姿だ。『Mid90s』には、このように心をかき乱すようなシーン、青春時代の最悪な想い出をよみがえらせるようなシーンが満載だ。幼い頃の想い出を踏み荒らしながらの脚本執筆は、楽しいものではなかった、とジョナはいう。「幼い頃の自分、常に誰かに値踏みされていたあの頃を思い出そうとする作業はつらかった」確かに容易なことではなかっただろうが、その痛みがあったからこそ『Mid90s』が生まれたのだ。

本作は、否応なしに思春期の自分を突きつけ、ジョナ自身も、観客にそれを突きつけることを恐れていない。次作は『Mid90s』の成功と比較されるだろうが、それについても不安はない、と彼はいう。〈童貞のセス〉のイメージは急速に薄れていっている。

This article originally appeared on i-D UK.