Photography Paul Mpagi Sepuya

グレース・ウェールズ・ボナーとエリック・マックとの対話:遠くから眺める島

グレース・ウェールズ・ボナーにとって、重要なのはコラボレーションだ。いちばん最近の相手はアーティストのエリック・マック。この独占インタビューでは、2018年秋冬コレクションを共に作り上げたエリックとグレースがその独特のプロセスについて話してくれた。また、ふたりの友人でアーティストのポール・ムパギ・セプヤが、このコラボレーションのイメージを使い、彼の作る鏡を使ったセルフポートレイトのコラージュ・シリーズの一部として再構築した。

by Steve Salter; translated by Atsuko Nishiyama
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24 April 2018, 3:07am

Photography Paul Mpagi Sepuya

This article originally appeared in The Radical Issue, no. 351, Spring 2018.

2014年にセントラル・セント・マーチンズを卒業した瞬間から、ファッション界はウェールズ・ボナーが作り出す世界の柔らかさと繊細さにますます深くひきつけられている。時代を超え、大陸と文化を股にかけて旅する彼女。物語が縫い込まれたような彼女のデザインは、まばたきすれば見逃してしまいそうなパッとしない男性たちに、相変わらず余裕たっぷりに待ったをかける。そして私たちは、丁寧に作り上げられた彼女のコレクションに我を忘れてしまう。2018年秋冬のショーでは、観客は冬のカリビア海へと戻る船上に誘われた。この夜に発表されたラインナップからは、1940年代フランスのクチュリエの影響がさりげなく感じられる。ハイウエスト、象牙色のボロボロの絹を使い、大きくカーブしたポケットを施した官能的な仕立て。機能的だが華やかなウォータープルーフの生地。

「長い間海に出ていた船乗りの、島への帰還をイメージしました」ショーの後、ウェールズ・ボナーはそう説明した。「ずっと考えていたのはエメ・セゼールの『帰郷ノート』(1939)のこと、そしてそこに書かれた変化していく視点のことでした。彼はフランス領のカリブ海の島に生まれ、パリで勉強して、また島に帰ってきます。遠くから島を眺め、なじみ深い世界を、距離を置いて観察するのです」。長年インスピレーションを受け続けている詩人や哲学者の言葉と共鳴しながら、グレースはセゼールやミラー、シャープやウォルコットの散文や宣言を引用する代わりに、彼らの言葉を洋服に織り込んでいく。彼らの力を、何か動きのあるものへと変化させるのだ。

ショーは、グロスナー・プレイスにあるタウンホールの、18世紀ヨーロッパ的インテリアの中で発表された。ウェールズ・ボナーはアーティストのエリック・N・マックを招き、彼はコレクションのテーマである「進化するアイデンティティ」と響き合うような、場に合わせたインスタレーション作品を制作した。エリックは自身を画家としているが、彼のトレードマークである大型のアッサンブラージュ作品は、キャンバスと木枠からなる伝統的な絵画のフォーマットを逃れて、彫刻や既製品、パフォーマンスまでも取り込んでいく。コラージュされるのは、使用済みのテキスタイル、着古された服、引っ越し用のあて布団、ビリビリの布。そこに写真、本や雑誌から抜き出したページが加わる。彼の作品は、異なる素材がいかにアイデンティティを映し出すかを追求する。表現手段や好んで使うテキスタイルは違えど、このふたりの創作活動のコラボレーションは、あらゆるタイプのファブリックに対するお互いの審美眼に突き動かされて始まった。「最初にグレースの作品を見たのはInstagram。彼女の卒業コレクションの写真でした」とエリックは語る。

「彼女がデザインするものの形に惹きつけられたし、彼女の作る服の持つセンシュアリティはとても特別に思えたんです。素材の使い方は特に強烈でした。贅沢なピンクのモヘアのスーツがまず印象的で。ヴェルヴェットとコヤスガイの貝殻のジャケットもね」。ネット上での“いいね!”から現実へ、ふたりを結びつけたのはカムデン・アートセンターで開催されたデュロ・オロウの「Making and Unmaking」展だった。その後も連絡を取り合い、それぞれのいるアート界とファッション界について頻繁に情報を交換した。「出会ってからすぐに、いつか一緒に何かしたいという話をしました。僕の作品の性質のひとつは、ペイントされた面を動かせることです。彼女のショーのキャットウォークのスペースでは、既製品(レディメイド)の連続的なパフォーマンスができるかもしれなかった」

ロンドンでは2018年の4月に予定されているサイモン・リー・ギャラリーでの個展に先駆けて、エリックはNYでテキスタイルを集めた。選んだのは、ボナーがコレクションで使用しているテキスタイルへの賞賛と対抗を表すようなもの。そして彼はその後4日間ウェールズ・ボナーのスタジオにこもり、ふたりはチームとしてコレクションに最後のタッチを加えていった。「僕とグレースは部屋の両端にいた。それぞれのルックが仕上げられ、どのモデルが着るのか決まる。僕はその空間に、テキスタイルとドレープを足していったんだ。どこかの時点で、僕らはみんなでひとつになって、編集したり批評したりしていた。あれは本当にパワフルな瞬間で、ゴールデンイエローのテキスタイルも調和していた」。ふたりは肩を並べて作業し、共にショーに取り組んだ。荘厳なインテリアの中で、キャットウォークを横ぎるようにドレープを寄せた布地に囲まれて彼が作業していると、ふたりのそれぞれの際立った声がひとつになって聴こえてくるようだった。完成したドレープは船の帆のようで、ウェールズ・ボナーの魅力的なナラティブに命を吹き込んだのと同じ力によって突き動かされているように感じられた。

「グレースとの作業でエネルギーをもらった」とエリックは語る。「彼女のアプローチには力がみなぎっていて、おかげでそこにいるみんなが、それまでと違う物の考え方ができるようになるんです。黒人男性の古典的な美しさを、凛とした柔らかさと合わせてみる、とか」。私たちの多くがそうであるように、エリックもまたウェールズ・ボナーの丹念に作り上げられた世界に魅了されている。ふたりのコラボレーションは他のどんなコラボレ−ションよりも深いものになりそうだ。「グレースと一緒に世界を広げていくのが楽しみだし、挑戦はこれまでよりますます詩的で、もろく危ういものになると思います。スタジオを共同にして、一緒に服を作るかもしれない」

エリックのアート作品に縁取られたこのコレクションで、ウェールズ・ボナーは感情的な、そして物質的な意味でのつながりと分離というテーマを追求した。「私はクレオールのアイデンティティについて考えていたんです。私にとってそれは、宙吊りの状態でいるという感覚です」グレースはそう言った。「私はそこに自分を重ねます。ものごとを観察したり、個人的なつながりを持つときに、私もそういうやり方をするから。離れた場所から見ることで、ロマンチックに美化して。私が伝えたいと思っているのは、魂がこもった気持ち(ソウルフルネス)、それから集団的なアイデンティティを祝福するということ」。彼女のこの思いは、ジェイコブ・ローレンスの絵画「Migration」シリーズを手描きしたり、複製したプリントにもっとも顕著に表れていた。ローレンスは著名なアフリカ系アメリカ人の画家で、1940年代には合衆国港湾警備隊に勤めていた。「たくさんの人の群れ、そしてその人たちの集団としての喜びが見えます。私たちはこれを自分たちなりに再構築したい、と強く思いました」と彼女は説明した。

グレースが実践しているのは、常に進化していくコラボレーションだ。i-Dのために、グレースとエリックはコレクションの写真やその他のインスピレーションを友人でアーティストのポール・ムパギ・セプヤと共有。ポールの技法について、グレースは「まるで、ライブ・コラージュみたい」と言う。彼のスタジオでプリントアウトしたイメージを再撮影、ポール自身もフレームの中に入る。「私たちはみんな同時代人」エリックとポールを指してグレースが言う。「こうやって人と人をつなげるのは、本当にうれしいことです」

Credits


Photography Paul Mpagi Sepuya

This article originally appeared on i-D UK.