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ashish spring/summer 17 at london fashion week

無数の星がまたたく夜空のもと、Ashishが息をのむ美しさのインド刺繍とスポーツウェア、ディスコスタイルをマッシュアップして、多文化性を表現した。

by Charlotte Gush
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03 October 2016, 2:20am

アシシュ・グプタ(Ashish Gupta)がロンドン・ファッションウィークで披露するショーは、鮮やかなカラーと笑顔に溢れた、底抜けに明るいパーティの様相を呈するのが常だ。しかし今シーズン、Ashishのコレクションは、トレードマークのスパンコール使いこそ健全だったものの、これまで見せたことのないひそやかな雰囲気に終始した。モデルの顔には涙が描かれるなど、そこには悲しみが表現されていた。EU離脱を決め、国内にヘイトクライムが急増するイギリスの現状を憂いたアシシュの悲しみが、そこには現れていた。「イギリスに暮らして20年——投票結果が『離脱』と判ったとき、"そうか、僕はこの国に受け入れてもらえていないのか"と思った。ただただ悲しかった」とアシシュはi-Dに語ってくれた。彼は、ショーの最後に挨拶に出たときと同じシャツを着ていた。胸部分に、堂々と「IMMIGRANT(移民)」と書かれたプレーンな白シャツだ。

悲しみが漂うショーではあったものの、同時に多様性の美しさと文化の豊富さを通して希望の光も見せていた。2015年春夏コレクションのショーでは、「起用しようにも黒人モデル自体が不足しているのだ」というショー関係者たちの訴えに反論するかのごとく黒人モデルのみを起用したアシシュ。今回のショーは「多文化性は機能しない」「西洋の白人のみが美しい」という考えに同調する者たちへの返答だった。「黒か白かという問題ではない。世の中は虹色なんです」と、アシシュは今回のショーのキャスティングについて語った。今回起用されたモデルには、インド系イギリス人モデルのニーラム・ジル、スリランカ生まれロンドン育ちで、My Panda Shall Flyの名で活動するミュージシャン、スレン・セネヴィラトニ(Suren Seneviratne)、コロンビア人モデルのリカルド・ドミンゲス、そして西インド系の血を引きニューヨークで活動をするクィアアーティスト、リチー・シャザム(Richie Shazam)などがいた。

「たかだかファッションとも思うけれど、この偏狭な美の基準を横行させないということは大切」とアシシュはいう。「これは戦うべき戦いだと思うんです。世界がどんどん右翼化しているように感じますからね。怖いことです。僕はアーティストとして、そしてジャーナリストとして、僕たちクリエイティブ業界で働く人間が皆で力を合わせてそんな世界と戦わなきゃいけないのだと思っています」

愛と美をもって戦うアシシュのコレクションは、インドのエレガントなフォーマルスタイルと装飾を、コンテンポラリーなスポーツウェアと70年代ディスコ調シルエットにミックスしている。裾を床に引きずるほど長い、キラキラと輝くローブや、スパンコールでかたどったバラのアップリケ輝くオーガンザのシャツ、ゴールドやシルバーの刺繍が施されたチュニックドレス、デニムシャツやジーンズが見られた今回のコレクション。アシシュはこのコレクションについて「神秘的でロマンチックでありながら、かなり奇抜!」と説明した。ヘナで染色した足や手、足首を飾り揺れるアンクレット、ゴールドのアームバンド、宝石を嵌め込んだ王冠、眉間につけるビンディー、ノーズリングなどとともに、花冠を巻きつけた太編みの髪などのスタイリングも印象的だった。モデルの顔には、カタカリ舞踏の踊り子のようなメイクが施されたり、なかには生きたヘビを首に巻きつけて登場したモデルもいた(モデルは、このヘビがショーという特異な状況にも動じず、極めてリラックスしていたと明かした)。

ショーノートとして、アシシュは観客に、13世紀に書かれたある詩を引用して贈った。ペルシャ出身の詩人でありイスラム教の学者でもあったルーミーによる『Like This』から、性的欲求と官能に関する部分を引用した。「ある日、スタジオで退屈していたとき、愛の詩をネット検索してみたんです」と、アシシュはこの詩との出会いについて説明する。「すごく愛らしい詩だなと思ったんです。ローブの糸を紐解いていくような感じでね。13世紀に生きていたひとがこんなに美しく繊細な詩を書いていたなんて、驚きでしたね。プレスリリースを書いていたとき"あの詩をそのまま使おう。このコレクションを如実に言い表しているような気がするから"ということになったんです」

ショーの音楽は、インド系イギリス人のミュージシャンで、どんな楽器も演奏しこなすバルージ・シュリヴァスタヴ(Balugi Shrivastav)が生で演奏した。「彼は盲目なんですが、12種もの楽器を演奏するんですよ」とアシシュは説明する。「彼の家に行ったら、1曲演奏してくれたんです。あまりの美しさに、鳥肌が立って、ついには涙を流してしまいました」。ショーの最後にランウェイへ顔を出したアシシュに、観客はスタンディングオベーションを贈った。シュリヴァスタヴの演奏を聴いたときにアシシュがおぼえたのと同じ感動を、ショーの観覧者も感じたはずだ。

Credits


Text Charlotte Gush
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.