「神童」にまつわる神話と現実

人は彼女らを「神童」と呼ぶ。華やかな扱いをされる一方で、本人たちが払わねばならない代償は、あまりに大きい——まして、このSNS全盛の現代においては。そうした時代のなかで、神童と呼ばれた時期を生き抜き、健全な大人の女性に成長した、ロードとタヴィ・ゲヴィンソンから、「神童」問題を考える。

by Erica Euse
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15 May 2017, 11:16am

still from lorde's "green light"

ユニバーサル・レコードとの契約を果たしたとき、ロード(Lorde)はまだ12歳だった。彼女が通う学校がタレント・ショーを開催した際、それに参加した彼女は、ダフィー(Duffy)の「Warwick Avenue」を歌った。このパフォーマンスを収めた映像を、ほかのカバー曲パフォーマンス映像とともにYouTubeにアップすると、このニュージーランド出身、カーリーヘアの少女は、「ポップス界の次なる神童」と、一躍世界中で期待を集める存在となった。

「神童(Prodigy)」とは、「兆し」「お告げ」を意味するラテン語の「prodigium」に由来する単語だ。英語圏では、幼少期に天才的能力を発揮する子どもたちを形容する言葉として15世紀から使われている。音楽界では特に頻繁に使われており、モーツァルトからマイケル・ジャクソンまで、思春期を前にすでに音楽の天才的才能を発揮する音楽家を「prodigy」と呼んできた。他にも、数学や科学、小説やジャーナリズムの世界で広く用いられ、たとえば1970年代、ジャーナリストのジョイス・メイナードは、若干15歳にして雑誌『Seventeen』に記事を書いていた。最近ではタヴィ・ゲヴィンソンが、2008年に若干12歳にして自身のブログThe Style Rookieで突飛なファッション感覚を打ち出してインターネットを席巻し、神童の名をほしいままにしてきた。

大衆文化が若き才能をもてはやすのは、いまに始まったことではない。しかし、現代はソーシャル・メディアがそれをさらに大きく後押ししている。Facebookを開けば、小さな子どもが超人的なピアノ演奏をしながら、ホイットニー・ヒューストンのバラードを歌う"話題のビデオ"に必ず出くわす。ロードがキングス・オブ・レオンの「Use Somebody」をカバーした映像は、現在までに100万回以上再生されている。しかし「天才少女・少年」として世界に認知されれば、そこにはそれなりの代償がつきまとう。インターネット全盛の現代では特に、神童たちは世界の隅々にまで瞬時にその存在が知れわたるのだ。

「わたしが親だったら、なにがあっても自分の子どもが神童などとメディアで取り上げられるようなことは回避してあげたい。神童という言葉を使うのも良くないと思います」とボストン大学心理学科の教授であり、『Gifted Children: Myths and Realities(才能のある子ども:神話と現実)』の著者でもあるエレン・ウィナー(Ellen Winner)氏は、メールで回答してくれた。「神童と呼ばれた子どもは、神童でありつづけなくてはならないと苦悩することになります。彼らは、自らの意思を二の次にして、神童であり続けなくてはならないという重責を感じるようになるのです」

スティーヴ・ハーヴェイのテレビ番組『Little Big Shots』は、2016年から放送を開始し、これまでに6歳の指揮者や12歳のハープ奏者など、"世界でもっとも才能のある子どもたち"を発掘してきた。この番組を観ると、神童をもてはやす社会的傾向がさらに高まっているのがわかる。

ロードがレコード会社との契約を果たしたのと同じ年、『Teen Vogue』誌がタヴィ・ゲヴィンソンを、「地球上もっともラッキーな13歳」と書いている。当時、ゲヴィンソンはすでに『Harper's Bazaar』をはじめとするファッション誌で主要デザイナーの最新コレクションのレビュー記事を寄稿したり、『Pop』や『Love』で表紙を飾るようになっていた。それから間もなくして、ゲヴィンソンは『New York Times』紙に取り上げられ、著書のプロモーションで全米をまわっている。ゲヴィンソンは、中学を卒業する前、すでに現代メディアから「ファッション界の神童」と呼ばれるまでになっていた。

2012年にシングル「Royals」をリリースしたロードは、すぐに国際的名声を得ることとなった。16歳になるまでに、ロードはアルバム『Pure Heroine』がグラミー賞で4部門にノミネートされ、授賞式ではパフォーマンスも行なっている。2014年には、友人のゲヴィンソンとともに『Time』誌の「もっとも影響力のあるティーン25人」に選ばれ、『Billboard』誌では「ロード:神童の進化形」という企画でメイン記事となり、また同誌の表紙も飾った。

メディアは、この若き才能に魅了されていた。しかし、彼女を「神童」と扱うことで、そこにはいくつかの問題が浮かび上がった。なかには若い女性を、ただ若いということだけで特別なものとして扱う者もいる--そして、ロードは、"成長すること"に対する不安に圧倒され、大人になったときに彼女のアートが正当に評価されるのかを不安に感じはじめた。

「音楽をはじめた頃から、年齢ばかり注目されてきた。それでこんなことを考えるようになった。25歳になったらどうなるの?そのときも、わたしがやっていることを好きでいてくれる?わたしの音楽は、若くなくなっても価値あるものとして受け止められるの?」と、彼女は2014年に行なわれた『Elle』誌のインタビューで語っている。「馬鹿げた考えなのはわかっている。だけど、どうしても考えてしまうの。しょうがないのよ。それでも、いつか克服できるはず」

エンターテインメントやファッションの業界は、女性をその若さでもって価値付けしがちだ。そのなかで成長するのは、ときに困難を伴う。ウィナー教授は、「男性主導の世界で女性が神童として扱われることによって、彼女たちは媚びることを覚え、一方で社会から厳しい目で見られるようになるのです」

高校を卒業する前から、ゲヴィンソンやロードは、華々しく降り注がれるスポットライトの下から身を引き、私生活を優先する方向に舵を切った。ロードは大人になることを受け入れるための時間が必要だと判断し、ゲヴィンソンは10代を謳歌する決断をした。

実際のところ、神童と呼ばれる子どもたちの多くは、その道で成就することなく消えていく。ロードやゲヴィンソンは例外だ。また、彼らの多くは自らの才能を発揮した領域に魅力を感じなくなる。ほんのひと握りの"神童"たちが、その後、大人となり、"天才"と呼ばれるようになるのだ--ウィナーは、そう『The New York Times』紙に語っている。

神童の多くが成功を収めずに消えていく理由のひとつは、彼らが、"既存の作品を焼き直しているだけ"だからであると考えられる。ホイットニー・ヒューストンの歌を完璧に歌い上げるなどは、まさにその例だ。真にその世界で革新的な存在となるには、反発の精神と、新たなものを見分けることができるセンスを持ち合わせていなければならない--平均的な10代が持っていない何かを。

ゲヴィンソンは、彼女らしさを再発見できた稀な例だ。過去数年、彼女は映画やブロードウェイに出演するなど新たな活躍の場を開拓している一方で、自身が編集長を務めるオンライン雑誌『Rookie』の運営も続けている。ロードは、2作目となるスタジオ・アルバム『Melodrama』を2017年6月にリリース予定。大人になる準備ができたのだと公言している。

「『Pure Heroine』を書いたのは、わたしの栄光の青春時代を讃え、光のうちに永遠に閉じ込めて、自分の一部がこれからもずっと死んでしまわないようにするためだった。そして今回のアルバム--これは、そうね、わたしの人生におけるその次の段階を反映した作品」と、ロードは20歳の誕生日の前日に翌日に、自身のFacebookページに長文の投稿をアップした。

現在も、才能ある新たな子どもたちは続々と誕生している。『America's Got Talent』で優勝した13歳の歌手グレース・ヴァンダーウォールや、若干9歳の画家アエリタ・アンドレなどが、次なる神童として脚光を浴びている。しかし、そんな扱いは、往々にして喜びよりも苦難を本人たちにもたらす。たとえ、その先に成功が待っていたとしても。

ここにきてようやく人生の次なる段階に進もうと思えたロードだが、最新シングル「Green Light」では、神童として生きてきた彼女の半生を歌っているようだ。神童としてのプレッシャーから完全に逃れることはできない、と--「The truth is I am a toy that people enjoy until all of the tricks don't work anymore and then they're bored with me.(わたしはおもちゃのようなもの/いまはわたしにかまってくれるけど、そのうちきっと飽きてしまう)」と、ピアノが美しいこのバラード曲で、ロードは歌っている。

Credits


Text Erica Euse
Still from "Green Light" by Lorde via YouTube
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.