青の時代:ケルシー・ルー interview

LAを拠点に活動するチェリスト&シンガーのケルシー・ルーが、Jil Sander 表参道店のオープニングイベントのスペシャルゲストとして初来日。ファッションアイコンとしても注目を浴びる、ヴェールに包まれた彼女の素顔に迫る。

by Kaeko Shabana; photos by Yuto Kudo
|
25 October 2018, 1:00am

チェロを奏で、歌うアーティスト、ケルシー・ルー(Kelsey Lu)をご存知だろうか。2016年にアルバム『Church』でデビューして以来、Solange、Florence Welch、Kelela、OPNなど、数多くのアーティストとコラボレーションを実現してきた。10月29日(月)からBlood Orangeのヨーロッパツアーに参加する彼女は、チェリスト&シンガーとしてだけではなく、独自のファッションスタイルで、ファッション界からも注目を集めているスタイルアイコンでもある。そんなアップカミングな歌姫ケルシー・ルーが、Jil Sander 表参道のフラッグシップストアオープンパーティのスペシャルゲストとして、初来日を果たした。

1540377340122-l002
LU WEARS TOP JIL SANDER. JEWELRY MODEL'S OWN.

彼女は“ケルシー”ではなく、“ルー”と呼ばれるのを好む。日本に着いて、まず京都と高野山を訪れたルー。初来日の感想を聞いてみると、「京都、高野山、東京とそれぞれのよさがある。なかでもいちばん印象的だったのは、高野山の精進料理。テーブルに用意されていたプレゼンテーションが素晴らしかった。今まで見たなかで最も美しい食事のひとつ」と高野山での体験を、ひとことひとこと、ていねいに語る。「でも、ひと皿が小さいから、最初に見たとき、“こんな量じゃお腹いっぱいにならない”と思ったの。だけど、最終的に全部食べられなかった! きっと美しい食事と神秘的な空間に心が満たされていたからね」

ルー曰く、1200年にわたり高野山の僧侶たちが受け継いできた“精神”が料理に込められており、それは食物が体に与える“栄養”をはるかに超える力があったという。「お皿の配置とか、細部にわたりすべて何かの意図があって。高野山の料理だけではなく、いたるところに何か‘意図’が隠されているというのは、日本で感じたことなの。人のしぐさ、礼儀正しいふるまいには、他人を慮る気持ちが背景にあるんだと。私自身とても詳細にこだわるタイプだから、その日本の精神にコネクトしたんだと思う」

1540377385278-l003
TOP, SKIRT, LEGGINGS AND SHOES JIL SANDER. JEWELRIES MODEL'S OWN.
1540377429592-l004
TOP JIL SANDER. JEWELRIES MODEL'S OWN.

10月11日(木)のJil Sander 表参道でのパフォーマンスでは、Jil Sanderの2019 Resort Collectionのモノトーンのチェッカー柄のセットアップを着て演奏に挑んだ。インタビューは同じく2019 Resort Collectionから、赤と青のチェッカー柄のセットアップで登場。何よりも、彼女に対面するとブルーにカラーリングされた美しい眉がまっ先に視界に入る。「ブルーの眉はあなたしか似合わない」と伝えると、前日に彼女の友人、Moses Sumneyのパフォーマンスを観にいったときにルーのファンに声をかけられ、その彼女はピンクに眉をカラーリングしていたそう。「東京で自分のファンに声をかけられるなんて思ってもいなかった。しかも眉は色違いだったのよ!」と嬉しそうに前夜のエピソードを話す。

ルーはノースカロライナ州シャーロット出身で、ピアニストの母と、パーカッショニストでポートレイトアーティストの父をもつ。幼いころから、チェロを習いクラシック音楽やアートに囲まれて育った。「私のスタイルに関しては、とくに父親の影響が大きい。彼が描くポートレイトの色使いとか、彼のカラフルなメガネフレームとか。それに、NIKEのテニスシューズのコレクターで、いつも彼のコレクションがうらやましかった」と、幼少期を振り返る。「裕福な家庭ではなかったから、よくスリフトショップ(リサイクルショップ)やヤードセールに出かけて掘り出し物を探したわ。それが楽しくて」。こうやってクリエイティブな環境のなか、彼女のファッションセンスは自然に身についていった。

「世界中どこに行っても必ずすることがあって。それは、現地のおじいさんやおばあさんのファッションをチェックすること。年配の人って自分のスタイルがあっておしゃれでしょ? いつも、“その服、私も着たい!”って思うの」と笑いながら話すルー。彼女のファッションはエクレクティックで幻想的。今回、東京で行われたJil Sanderでのパフォーマンスのほか、過去にTelferやno sessoのプレゼンテーションやショーでもゲストとして演奏に招かれている。今年の4月にリリースしたシングル『Shades of Blue』のミュージックビデオでは、Thom Browne、 Molly Goddard、 Chen Pengなど、見事なスタイリングでデザイナーズを身に纏っているのだ。

1540377498165-l005
TOP AND SKIRT JIL SANDER. JEWELRIES MODEL'S OWN.

ミュージックビデオの衣装のことだけを語ると、華やかなイメージだが、『Shades of Blue』のメロディーは儚く憂いを帯び、チェロの音色や彼女の歌声は、魂の叫びのように悲しく響く。歌詞もハートブレイキング。この曲のストーリーについて話しを聞いてみると、『Shades of Blue』は2014年の冬に作成された。当時NYを拠点にしていたルーは、音楽の仕事も、恋愛も、すべてがうまくいっていなかった。「あのとき、住むところもなくて友人の家に泊まらせてもらっていたの。ひどく落ち込んでいたけど、音楽がやりたいという気持ちは明確だった。ある日その友人がニュージャージーにいる彼の友達に会いにいくので、車で送って行ってあげることになって。着いた先はホーボーケンにある19世紀に建てられた古い皮工場。工場自体はもう機能していなくて、オフィスになっているフロアもあれば、廃墟になっているフロアもあった。そこに彼の友達が住んでいたの」と語る。本当は住居用ではなかったが、ビルの管理人は理解のある人で、月300ドルで住まわせてくれているということを聞き、ルーもここで生活をすることにした。

「結局4ヶ月そこで暮らした。冬だったから凍えるほど寒くて。コートを何枚も重ね着して、ヒーターを3つベッドに向けて寒さをしのいだわ。廊下に共同のトイレはあったけどシャワーはなかったから、沸かしたお湯を洗面器に入れて体を洗った。その行為が次第に‘儀式’になったの」。ルーはこの生活を経て、水を大切にすることを学んだと話す。そして、この心細く悲しい時間を過ごせてラッキーだったとも。「当時、音楽も私生活もすべてうまくいくと思っていたけど、違った。幸運なことに、私は自分の感情と向き合う時間をもてて、それを受け入れ、手放すことができた。古い皮工場で実際に感じた寒さや、寂しさも一緒に包み込んで」と続ける。「工場内は暗くて不気味なところがあった。椅子がいたるところに投げ捨てられていたり、古いシンガーのミシンがあったりと。昔そこにいた人たちの息遣いに囲まれて、不気味だけど美しい、心に残る景色が『Shades of Blue』に反映されたんだと思う」

そして10月29日(月)のロンドン公演を皮切りに、ルーはBlood Orangeのツアーに参加する。今回のツアーで期待していることは何かと尋ねると「期待を裏切ること」と返ってきた。なんと、このヨーロッパツアーではチェロを演奏しないことにしたのだという。そして、新曲を披露する予定だそうだ。まだリリース日は未定だが、新しいアルバムがまもなく発表になる。チェリストなのにチェロを弾かないのは衝撃だと伝えると、「みんなが聴いたことのない新曲を歌い、チェロを弾かないで、期待を裏切りたかったの。期待しすぎることや、予測することに慣れすぎてはいけないと思う。それよりもっと変化を求めるべき。期待を裏切るのは人生において自然なこと。人生は予測できないことの連続だから」

BLOOD ORANGE WITH KELSEY LU EUROPE TOUR
10/29 (mon) 02 Empire Shepherds Bush London, United Kingdom
10/30(tue) Melkweg Amsterdam, Netherlands
10/31(wed) Pitchfork Avant-Garde Paris, France
11/2 (fri) Uberjazz 2018 Hamburg, Germany
11/5 (mon) St Pancras Old Church London, United Kingdom
11/6 (tue) Columbia Theater Berlin, Germany
11/7 (wed) Lido Kirsons Berlin, Germany
11/8 (thu) Den Gra Hal Copenhagen, Denmark

Kelsey Lu Offcial Site
www.kelsey.lu
IG: @iamkelseylu

Credits


Photographs Yuto Kudo
Hair Atsushi Takita at AVGVST
Make-up Natsuka at AVGVST