Fotografie Daniel Obasi

ナイジェリアのジェンダー観に揺さぶりをかける写真家 ダニエル・オバシ

美術家のダニエル・オバシがアフロフューチャリストの視点を通してとらえる、故郷ラゴスの反体制キッズたちの姿。

by Antwaun Sargent
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31 May 2018, 8:36am

Fotografie Daniel Obasi

1960年代。植民地支配から自由になったアフリカを目覚めさせたのは、若者たちだった。マリ人の写真家マリック・シディベ(Malick Sidibe)は、バマコで活動しながら、ファッションを通してアイデンティティを再構築しつつあるアフリカの若者の姿を切り撮っている。それから60年近い年月が流れ、フォトグラファーをはじめとしたアーティストたちが、地元のコミュニティや儀式にフォーカスしながら、この大陸に満ちるエネルギーを記録し始めた。22歳のナイジェリア人アーティスト、ダニエル・オバシ(Daniel Obasi)もそのひとり。ラゴスで急発展するファッションシーンと、そこで暮らす若者を写真に収めているのだ。

Evenings VI by Daniel Obasi

『illegal』と題された映像作品の中で、オバシはナイジェリアの伝統とオープンな未来への約束を、ジェンダーの流動性と不適合を探ることで表現している。現代のナイジェリアにおいてもまだタブーとされる領域だ。「正直、難しいプロジェクトだった」とオバシは話す。「どうなるか予想もつかなくて。ナイジェリアのような国で活動する新人アーティストにとっては特に、このテーマに取り組むのはリスキーなことだから。これが僕自身を破滅させなかったら、何かを変え、誰かをインスパイアできるかもしれないと感じたんだ」。そしてこう付け加えた。「ニーナ・シモンはこんなことを言ってる。『時代を反映しないアーティストなんてありえない』。そういうものを僕はつくりたかったし、社会の一部を反映させたかった。ジェンダーレスでも自分自身であればいいと思える、アフロフューチャリスティックな時代を想像できるようなものをね」

この映像はラゴスに隣接するエビュート・メッタで撮影され、これから映し出されるものに関する短いナレーションから始まる。「夢のような午後の日差しのもと、その美しさを賛美する音楽に合わせて黒い体がくるりと回る。生き生きとした若さに身を包み、私たちは世界を見る。深い夜闇のなか、サファイアのごとく赤々と燃える私たちの目。私たちは罪、悲しみ、美、そして怒り。私たちは天から、雲から、美しく舞い落ちてきた、素晴らしいゴミなのだ」

5分間にわたるこの映像は、そののち、伝統とアフロ・シュルレアルを暗示するかのように、築90年の崩れ落ちそうな家を縫って、ふたりの人物を追うのだった。

ナイジェリアのファッションやジェンダー問題、そして写真や映像を通して彼が何を表現したいのかを聞くため、i-Dはオバシとコンタクトを取った。

——『illegal』を撮りたいと思ったのはきっかけは?

今年、ニューヨークでファッション通販と雑誌をつくっている〈OXOSI〉と話をしたんだ。国内で成長しつつあるアートやファッションを軸に、ラゴスからオリジナルのコンテンツをつくるということについてね。僕が制作を依頼されたプロジェクトのひとつが「the illegal project」というものだった。セクシュアリティやジェンダー、そしてこの国で特定の制約を受けているものに光を当てるというのがテーマなんだ。ラゴスのクィアは、伝統や宗教、政治、同調圧力、家族、結婚が壁となって、そのセクシュアリティを隠さなければならくなっている。のけ者にされたり、差別されたり、いじめられたり、牢屋に入れられたり、もっと悪くしたら殺されるのを恐れているんだ。

Still from "Illegal" by Daniel Obasi

——この映像のテーマは「不適合」です。登場人物はこの主題をどのように表現していますか?

登場人物たちはジェンダーをぼかしつつも、同時に引き立たせるという共通点を持っているんだ。ナイジェリアの文化においては、男性が化粧をしたり、女性的な服を着たりすることは許されない。それぞれのジェンダーには生まれたときから決められた役割や行動規範があると思われているからね。これは今日の社会における大きなテーマなんだ。映像に登場する人物像を考えるにあたって、僕たちは慣れ親しんだ社会に反旗を翻すものをつくりたかった。

——ナイジェリアのファッション、カルチャーをこの映像はどのように表現しているのでしょうか。

ナイジェリアならではのファッションをきっちりと定義するのは、いつも難しいんだ。長く西洋の影響を受けてきたし、伝統的な美の介入が避けられないから。僕自身が服を作ったときは、Orange CultureやI . A M . I S I G Oのデザイナーが前のコレクションで発表したものを参考にしてたよ。どちらも2014年、2015年にコレクションを発表しているけど、カルチャーと共鳴しながら、モダンな奇抜さを持っていた。あの服をよく見ると、プリントの柄に、ナイジェリアの部族のスタイルの象徴が落とし込まれているのんだ。スタイリングに関しては、赤いビーズやヘアスタイルなど、ナイジェリアのアイデンティティを盛り込みたかった。一般的なアフリカ感ではなくね。

Still from "Illegal" by Daniel Obasi

——『illegal』には、ナイジェリアを象徴するどんなものが見られますか?

あのヘアスタイルはヨルバ語で「キコ」と呼ばれるもの。細い黒のゴムを使って女の子が編むんだよ。ナイジェリアの女の子、特に子どもなら全員がわかるものだと思う。姉や従姉にくっついて市場に行き、彼女たちが学校に行くためにこの髪型にしてもらうのを見たのを覚えているよ。その横に座って、美容師が髪をキコ風にきつくねじり続けるのを見たものさ。何日かは頭皮が痛むんだ。僕にとって、それは家を思い出させるもの。そしてこの髪型は、これが女の子しかできないという伝統を象徴するものなんだ。男の子が髪を結い、カツラをつけ、バントゥーノットにするのを見たことはあるけど、キコにしたのは見たことがない。男性と女性登場人物の動きは、暗く、静かなムードを表現している。これが知らず知らずのうちに、幻想的で不完全な場所に観るものを引き込むんだ。

——写真家としてのあなたの作品をもとにしたものもありますね。セクシュアリティやジェンダー、そしてラゴスをファッション写真で表現しようと考えたのは何がきっかけだったのですか?

僕は突然ファッションに自分の居場所を見つけたんだけど、僕がこれまで送ってきた人生には表現する必要があるものがあった。ラゴスのストリートで見たものや、それがどうやって人々を変えてきたかなど、僕自身が経験して伝えたいことがたくさんそあったんだ。まずは自分自身を視覚的に表現することから始めて、最終的にはより大きなテーマや、人々に影響を与えることに取り組むことになった。アフロ・フューチャリズムを研究し、そうしたテーマ(カルチャーと民族性にあふれながら常に感情的なもの)を普通とは違う手法で伝えるために、幻想的で現実離れしたアイデアに取り組むようになったんだ。ファッションはすごくパワフルな手段であり、写真は数多くの真実を内包できると、僕は信じている。

Evenings V by Daniel Obasi

——「Evenings IV」や「Niru」のような写真は伝統とラゴスのユース文化をどのように表現しているのでしょうか。

『Evenings』は、僕が最近取り組んでいる連作なんだ。男性らしさを穏やかに想起させる。男らしさと抽象の関係性を観察し相互に作用させることで、とても自然でソフトなかたちで若さを探る作品にしているつもり。メディアが喧伝する暴力的でハードコアなラゴスのユースカルチャーの印象とは真逆でね。Niruは女の子らしさを表現したもので、アフリカという環境下での女性のエンパワメントについて疑問を投げかけている。“niru”という言葉には、前に進むという意味があるんだ。

——あなたの作品は、これまで注目されてこなかった外縁から、今までとまったく違うナイジェリア、そしてアフリカの姿をとらえています。

2000年ごろにアフリカやナイジェリアのイメージ検索をしたら、貧困や諍い、問題に焦点を当てたもの、あるいは、白人の真似をしようと努力し、自らの文化を恥じるアフリカ人の姿がほとんどだったはず。それが、ナイジェリアは危険で、悪政によって多くの点で未発達だという印象を与えてしまった。それはだんだん変わりつつあって、そうしたステレオタイプはすぐに過去のものになるだろうと僕は思っている。世界を変えること、そして今まさに踏み出したばかりの第一歩に若者が情熱を注いでいるのを見るのは、とても素晴らしいことだね。

——どのような目標を持って作品をつくっているのですか?

それはよくわからない。自分の作品が世界の何を変えるのか、はっきりとしたことはわからない。でも問題提起になればいい。人が自らを信じることを促し、特にアフリカにおいて、ジェンダーとセクシュアリティの周縁にある問題に目を向けるきっかけとなればと思っている。

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