ロンドン・ファッションウィークに見た未来

see-now-buy-now形式を取り入れて初となるBurberryのショーを皮切りに、ロンドン・ファッションウィークは、過去を振り返ることで未来へと足を踏み出すデザイナーたちの作品が続いた。

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sep 30 2016, 6:30am

6ヶ月ごとに新しいクリエーションに出会うことができるファッションこそ、時空を超えた旅を最も強く実感できる場所だろう。新しいものを受け入れ、古いものを過去に押し流す——ロンドン・ファッションウィークでは、Burberry Prorsumがショーで見た商品がすぐ購入できる、see-now-buy-now形式のショーを同ブランドとしては初めて行ない、またウィメンズとメンズをまとめてひとつのショーとして披露した。ファッション業界全体が取り入れ始めたこのふたつの要素を、Burberryが他ブランドに先駆けて、未来への大きな一歩を踏み出した形となった。しかし、Burberryの現CEOでありクリエイティブ・ディレクターでもあるクリストファー・ベイリーは、この形式を取り入れたからといって、冷たく魂のない消費主義には屈しない姿勢を貫いている。ロンドンのコヴェント・ガーデンにBurberryが設けたポップアップ、メイカーズハウスにて行なわれた今シーズンのショーは、未来へと突き進むBurberryの最新コレクションとして、前を見るために過去を振り返るという深みある内容となった。女性となって数世紀というときを生きることになった男を作家ヴァージニア・ウルフが描いた『オーランドー』の世界観をベースに、ベイリーはフリルの襟やフローラルのタペストリー、騎兵のユニフォームなどの要素をふんだんに盛り込んで、イギリスの歴史をたどった。会場には、21人からなるオーケストラにピアニストをひとり、そして数人の歌手を加えた音楽団が配され、作曲家アイラン・エシュケリがこのショーのために書き下ろしたという曲「Reliquary」を彼らが奏でて、感動的な空間を作り出していた。その感動は、初めてスタンリー・キューブリックの『バリー・リンドン』を観たとき、もしくは初めてピーター・デュフェルの『キング・オブ・ザ・ウィンド/疾風の覇者』を観たときのそれと似ていた。そこに見る歴史、そこに広がる雄大な世界、そしてそこに沸き起こる感情に、屈しないわけにはいかない——そんな感動だった。このコレクションは間違いなくここ数年でベイリーが作り出したなかでも最高のコレクションだった。これまでの最高傑作だったと言っても過言ではないかもしれない。これが"いまショーで見ている商品はすべていま購入可能"というファッション業界の未来であるならば、ファッションの未来は明るいだろう。

Burberry spring/summer 17

アーデム・モラリオグル(Erdem Moralioglu)は、ファッション界のオーランドーだ。彼のコレクションもまた歴史を旅する内容で、ひとびとに忘れ去られた物語を現在進行形のストーリーとしてファッションに蘇らせた。このストーリー、完結するときにはきっと人類最高の物語として永遠に語り継がれることになるだろう。これこそ、「未来志向というものだ」と認識させられたショーだったが、ベイリー同様、アーデムもまた過去を通して自身を表現するのを得意とするデザイナーのようだ。1642年、オランダのオレンジ公ウィリアム王子2世に嫁いだチャールズ1世の娘に同行していた船旅の途中、船が座礁して亡くなったロックスバラ伯爵夫人ジーン・カー。昨年、彼女のガウンが発見されたが、今シーズンのコレクション制作の過程でアーデムは、この歴史に強く惹かれたそうだ。しかし、それをそのままコレクションに反映することはなかった。アーデムはこの歴史的事件を、1930年代のフランスはドーヴィルの戦いに結びつけ、「ドーヴィルの浜辺で、闘いへの士気を上げる女性たち」というアイデアを思いついた。「『船の沈没で海へと投げ出された女性が生き残り、ドーヴィルの浜辺にたどり着いた』というアイデアはとてもいいと思ったんです。そこから、300年という歳月を生き残り、現代にたどり着いた女性たちというアイデアが生まれました」と、アーデムは、"ジーン・カーとお付きの女たち"というアイデアについて説明した。「1650年代と1930年代は似ている。その後に暗黒の時代を控えているという意味でね」。奇想天外といえば奇想天外かもしれないが『オーランドー』も奇想天外ながら、世界文学史に名を残す傑作として語り継がれているではないか。アーデムがウルフと比較されるのは、これが初めてではないだろう。今コレクションのショーは、打ち寄せる荒波の音をバックに、浜辺のボードウォークを模したセットで行なわれた。浜辺に打ち寄せられた服は、どれもマジカルとしか言いようのない美しいものだった。「裾をフリル状にしたタイトなシルエットのジャケットに、ドーヴィルらしいクロップドパンツ、そして不思議なハット」とアーデムは今コレクションの象徴的アイテムについて説明している。

Erdem spring/summer 17

しかし、アーデムのコレクションには、17世紀の輝きと1930年代のつつましさが融合された、世にも美しいドレスの数々も入っていた——数百年のときを超えて浜辺に流れ着いたジーン・カーの衣装のように美しいドレスが。今シーズンのロンドン・ファッションウィークでキーとなった要素には、まず「マジック」があった。アーデムにとってそれは「公園を散歩する」、いや、「浜辺を散歩する」というものだったようだ。ファッション業界でのキャリアをスタートさせて10年を迎えたクリストファー・ケインは、第二次世界大戦後の「すでに持っているものに改良を加えて使う」というメンタリティと自らのキャリアのスタートを重ね合わせ、手の届くところにあるものを使ってファッションを作り出して新しいロンドンファッションの旗手となった。「僕はこれまで常に、"なんとか機能させよう"というメンタリティでやってきた。"高価な生地なんて必要ない。絶対に必要なものなんかない。手の届くところにあるものだけでファッションは作り出せる"ってね。それが受け入れられたのは嬉しかった」とケインはショーの後に語ってくれた。「戦況下にある女性たちを想像してみたんだ。厳しくも、グラマーを忘れない女性たちをね」。コレクションは、グレイテストヒッツさながらのスタイルに溢れていた。ケインがこれまでパーティに迎え、楽しい時間を共にしてきたゲストたち。しかしそこには、彼が言っていた「戦況下」特有の張り詰めた雰囲気が漂っていた。「不況は僕たちにとって良い効果をもたらしたと思う。不景気ななかで僕たちはブランドを立ち上げたわけで、"戦況下の張り詰めた雰囲気"というのは、ちょっと外に出ればリアルに感じられるものだったんだ」と、ケインはショー終了後に彼を取り囲んだジャーナリストたちに説明した。そこにいたジャーナリストの多くは、10年前のセントラル・セント・マーチンズ卒業コレクションから、ケインと旧知の仲だという。

Christopher Kane spring/summer 17

Pringle of Scotlandのショーでは、フラン・ストリンガー(Fran Stringer)が同ブランドのデザイナーとしては2作目となるコレクションを発表した。そして、それは見事な出来栄えだった。200年の歴史を持つこのブランドで、新たな世界観を打ち出すのは生やさしいものではない。なんといっても、Pringles of Scotlandのシグネチャーアイテム、アンサンブルを脱構築して再解釈しなくてはならないからだ。フランのムードボードには、スコットランドの高地に暮らす羊飼いの写真が貼ってあった。必要に迫られ羊を持ち運ばなくてはならないときのためにタータンの大きなスカーフを体に巻きつけた羊飼いが、その写真には捉えられていた。フランはこのアイデアをもとに彫刻的なラップドレスを作り上げた。そこには、フランの計算通り、スポーティな世界観が生まれていた。Pringles of Scotlandのコアにあるものはなんといってもニットウェアであり、フランはこれをストライプやリブなどPringlesがその長い歴史を通してブランドのトレードマークにまで高めてきた要素と共にサマーワードローブという形に落とし込んだのだ。フランはPringles of Scotlandの歴史について、こう語っている。「私はまだまだこのブランドに参加して日が浅い。未来に目を向けるのにはまだ早すぎます。ブランドとして未来へと歩をすすめる前に、私はまずこのブランドの美意識と、このブランドが描く女性像、このブランドが作り出そうとしてきた雰囲気や精神といったものを深く理解しなければならない。それに、この世にもう新しいものなんてないの。だから、過去に起こったことをもう一度見つめ直してみて、それを再解釈するというのも素敵なことだと思う」。 Burberryが"即購入可能"のショー形式でファッション界の新たな時代到来を強く打ち出したその日に、フランが発したこの言葉——歴史から何かを得て、未来に何かを生み出すことこそが、ファッションの未来なのかもしれないと考えさせられた。

Pringle spring/summer 17

Credits


Texts Anders Christian Madsen
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.