TV史上初の黒人レズビアンヒーロー『ブラックライトニング』

ヘテロセクシュアルの白人男性に支配されてきたスーパーヒーローの世界。『ブラックライトニング』は、クィアの黒人女性でもヒーローになれるのだと私たちに教えてくれる。

by Hattie Collins; translated by Aya Takatsu
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apr 17 2018, 3:09am

バットマンやスーパーマンをはじめとするスーパーヒーローの世界は、これまでヘテロセクシュアルの白人男性に支配されてきた。1966年に発表された『ファンタスティック・フォー』の52話で、ブラック・パンサーが登場したという事実を除き、ウェズリー・スナイプスがブレイドを演じてから実に20年、サミュエル・L・ジャクソンが『アベンジャーズ』にフューリーとして登場してから18年が経っている。その後、『ルーク・ケイジ』のようなフードを被った有色の十字軍がNetflixに登場し、『ブラック・パンサー』でヴィブラニウムを手にしたティ・チャラ役のチャドウィック・ボーズマンが登場するのは、2017年になってからだ。そして多様性に関するこの遅々とした変化は、いまだ安定性を欠いている。DCやMarvelがクィアの登場人物を描いてもーー例えば『ワンダーウーマン』の主人公や『マイティ・ソー』のバイセクシャル、ヴァルキリー(映画では謎めいたヘテロセクシュアルになってしまっている)。大手のスタジオがクィアや有色の者たちはヒーローになれないと考えているのは、がっかりな上に退屈で古臭く、つまりとても有害だ。

そこに現れたのが、『ブラックライトニング』だった。電気を帯びた主人公ジェフは、中年の黒人シングルファーザー。そして、ナフェッサ・ウィリアムズが演じる娘アニッサは、彼と同じ力を得た、クィアの権利運動家だ。ストーリーが進むに連れて登場するアニッサのガールフレンド、グレース・チョイは、カナダ人俳優シャンタル・トゥイが演じている。シリーズ中の主要登場人物のうち、白人男性はひとりしかいない。

内面と外見、その両方から差別に立ち向かうこの番組は、アメリカに住む有色人種の多くが日常的に経験する出来事も取り上げている。例えば警察による暴力、教育や福祉体制の不備、そしてアルコールやファストフードにあふれた社会の亀裂など。

『ブラックライトニング』で、アニッサ(サンダー)の役をもらったとき、28歳の俳優ナフェッサは、すぐさま魅力を感じたという。「ネットTV初の黒人スーパーヒーローになれるなんて。即決でした。」

ウェスト・フィラデルフィアで生まれ育ったナフェッサは、同郷のウィル・スミスが出演する『ザ・フレッシュ・プリンス』を観て俳優を志すようになった。「彼のおかげで、私は私らしくいられるの。故郷をあんな素晴らしい方法で表現するという、偉業を成し遂げたから。フィラデルフィア出身の女性版ウィル・スミスになって、自分で道を切り拓くんだって言ったの。それまでウェスト・フィラデルフィア出身の黒人女優はいなかったから。開拓してくれたのは彼だった」。彼女はまた、『コスビー・ショー』に登場するクレアとルーディ・ハクスタブルにも大きな影響を受けた。大学卒業後、クレアと同じように弁護士になったほどだ。「でも、私が真似したいのは弁護士としてではなく、俳優としての彼女だって気づいた」

LAに移り、ウィル・スミスに演技指導を受けたナフェッサは、すぐにミーク・ミルの『Streets』やクィーン・ラティファの『Brotherly Love』に出演。2016年には『ツイン・ピークス』で役を得た(「すごく緊張したけど、リンチはいままで仕事をしたなかでも最高にやさしい監督のひとりだった」)。だが、ゲイの黒人スーパーヒーローを演じることによって現実世界に影響を与えうるということは、ナフェッサにとって特別な意味を持っていた。「とても意義があって、かつタイムリーな話だった」と彼女は言う。「これまで黒人の子どもたちは、ハロウィンの衣装を買いに行っても、自分とは姿の違うヒーローにならなければいけなかった。今度のハロウィンに子どもたちがどんな衣装を着ているか見るのが、とっても楽しみ」

『ブラック・パンサー』の登場人物や、2017年の『ワンダーウーマン』の衣装を着たたくさんの子どもたちが、胸を高鳴らせるだろう。だが、若いレズビアンの黒人女性たちは、どうか? スクリーン上で自分(もしくはそうなるであろう自分の姿)を観るのは、重要なことだ。人はTVを観るとき自らと関連づけようとしたり、そこから何かを得ようとする。もしくは、世界における自分自身やその立ち位置を、ちょっとだけ深く理解しようとするのだ。自分と似ていない登場人物や、自分とは異なる性的アイデンティティを持った登場人物に自己投影するのは難しい。スクリーンに登場した黒人のレズビアン女性の数は、黒人男性のスーパーヒーローと似たり寄ったり。『ザ・ワイヤー』のキーマ・グレッグスがいるが、これは20年近く昔の話だ。『SET IT OFF』(1996)でクィーン・ラティファが演じたクレオや、『Lの世界』の陰気な兵士ターシャも忘れてはならない。もっと最近では、『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』が、有色人種の女性の性の多様性を包括的に描き出した。しかし、それでもまだ、数えるには両手で事足りる程度だ。「強くて勇敢な黒人のレズビアンが自分の道を歩む姿を、他の番組でも観られたらと思う。アニッサは自分自身に正直で、悪びれず自分を出すキャラクター。彼女は本当にあけすけで、自分というものを持っている。あなたたちがTVで自分たちの姿を観られるようになったことを誇りに思う。そのためのものだから」

ナフェッサ自身はクィアではないが、ほかの役をするときと同じような役作りをしたと話す。つまり、クィアの考え方をリサーチし、アニッサのセクシュアリティの根底には、ほかのセクシュアリティと同じく愛があるということを理解するのだ。「映画では、相手役はいつも男性だったから、今回は役者として異なるものに対応した。自分自身を広げ、挑戦するんです」と彼女は言う。「アニッサのセクシュアリティはこの役の大きな部分を占めるけど、すべてを定義づけるわけじゃない。彼女が悩んでいるのは、セクシュアリティに対してというより、自分の超能力についてなのだから。彼女は自分が何者かわかっているし、10代の女性として登場する。そして両親が支えになってくれるの。多くのLGBT+の10代がいまだ両親へのカミングアウトできずに悩んでいるなかで、とても心強い役として映ると思う。若い黒人レズビアンの親が、その支えになろうと思うきっかけになればと願ってる」

物語は、アニッサがビリー・ホリデイの「奇妙な果実」を聴きながら、刑務所を出てくる場面から始まる。アニッサは自らのコミュニティにおける社会の不正と対峙している。彼女は、文字通りアクティビストなのだ。「もっと私たちが目にしなければいけないもの、つまり立ち上がることや自らの役目を果たすことを躊躇しない人なの。みんなが待っている変化の一端を担う、それがアネッサ。自分が信じているもののために積極的に戦い、社会の不正に挑み、自らのコミュニティに望んだ平和をもたらすために戦う。そのためなら、刑務所に入ることも、自分の命を危険にさらすこともいとわない。私が学び、その過去を振り返り、影響を受けたのは、ハリエット・ダブマンとローザ・パークス。自分がサンドラ・ブランドやトレイボン・マーティン(ともに警察の不当な暴力で命を落としたとされる黒人)の声となれるのだと知ったとき、この番組が私の中の活動家精神を解放したの」と彼女は話した。

「スクリーンで黒人を観るのは黒人だけ」とか「黒人についての黒人映画は売れない」という、長年信じられてきた、都市伝説をくつがえし、『ブラックライトニング』は過去2年でもっとも人気のあるCWネットワークの番組となった。ライアン・クーグラー監督の『ブラック・パンサー』も全米史上もっとも収益を上げたスーパーヒーロー映画になっている。『ブラック・パンサー』と『ブラックライトニング』が普遍的なテーマを扱っているのを考えると、これは驚くにはあたらない。「これはヒーローの物語だけど、自分たちのコミュニティを守ろうとする家族の話でもある。だから人種にかかわらず、誰でも自分を投影することができる」とナフェッサは指摘する。「この番組は、家族と、強くて愛情あふれる父親――さらに黒人でシングルファーザーでもあるーーの話。黒人コミュニティに見せるには素晴らしい題材なの。黒人にはシングルファーザーや、存在感のある父親、教養ある父親がいないという嘘を打ち消すものだから」。画面の中だけでなく、外でも多様性のあるベニー・ボーンやタニヤ・ハミルトン、ビル・ウッドラフやローズ・トローチといった監督たちはみな、こうした出来事やその成り立ちについて理解を示している。「彼らはこういう出来事をどのように語り、どうやって信ぴょう性のあるものにすればいいかわかってる。『ブラック・パンサー』についてもそう。あの作品をとても、とても誇らしく思ってる」とナフェッサも同意を示した。

『ブラックライトニング』とナフェッサ演じるアニッサは、この変化の流れの中で重要な役割を担っている。そしてさらに多くの女性や有色人種のライター、そして監督たちがこの潮流に加わり、人種や政治、愛と人生についての微妙な物語をカメラの前で紡いでいる。エイヴァ・デュヴァーネイやディー・リース、イッサ・レイといったカラード(有色)の女性たちは、いまだ受賞式で正当な評価を受けていない。「私たちは問題を自分のこととしてとらえ、変化を起こさなければならないと思う」とナフェッサは言う。「賞をもらうのはいいことね。仲間たちに知ってもらうのはクールだから。でも私は現場に行って、仕事をするだけ。それが私にとってのご褒美なの」
『ブラックライトニング』のシリーズ1はNetflixで公開中。

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This article originally appeared on i-D UK.