KING GNU:怒れるヌーたちの狂騒曲
東京というサバンナに繁茂する種々の文化を食みながら大移動を始めたヌーの群れ。野心、狂気、知性、多幸……特色ある四頭を中心に膨らんでいくバンドKing Gnuは、何を穿ち、どこへ向かうのだろう?
King Gnu(キング・ヌー)は、退屈でストレスフルな世の中に対するヒリヒリとした批判精神と、そのむき出しの表出を紙一重で抑え洗練された楽曲へと昇華する繊細な手つき、どちらをも有している稀有なバンドである。
2017年にSXSW出演、さらにUSツアーを敢行した後、前身バンドSrv.Vinci(サーバ・ヴィンチ)から改名し、新たなスタートを切った4人組のファースト・アルバムは、表題曲「Tokyo Rendez-Vous」で幕を開けた。歌詞は“ぐるぐる回る”山手線の描写に始まり、倦怠と混沌が交わったように映し出される“トーキョー”を舞台にして、ある1組の男女を浮かび上がらせる。
「東京の街並みがミクスチャー・スタイルだから自然と音もそうなった」と、リーダーでギター・ボーカルの常田大希はぶっきらぼうに語った。「東京は雑多な街。初めは好きじゃなかったけど、段々好きになってきたかな」。彼らの捉える東京の多面性は、まさにロック、ヒップホップ、ジャズといったブラック・ミュージックの下地を色濃く残しつつ、昭和歌謡やJ-POPの要素も貪欲に取り入れたKing Gnuの音楽に結実している。同曲のMVで「自分の声が好きじゃないから、声にノイズを乗せるための音楽的な理由」で握った拡声器をがなりたてながら、満員電車に押し込められた無個性なサラリーマンたちを掻き分ける常田は、「満員電車はキツさの象徴。実際、閉所恐怖症で乗れない」と笑う。

常田と幼馴染で、長野から上京して共に東京芸術大学に進学したボーカル・キーボードの井口理は、「僕は田舎者なので、東京はみんな背伸びしてる感じがして苦手です」と謙遜する。声楽科出身らしい甘く伸びやかな声に端正な顔立ちの井口は、一見すると大人しそうなのに、そのすぐ裏には狂気を秘めていた。「チヤホヤされるとブチ壊したくなるんです。カッコいいモノよりも突き抜けたモノ、過剰でやり過ぎてるモノが好きですね」。楽曲「Vinyl」では、表面的でドライな都市の恋愛から、“喧騒”に満ちた“時代の坩堝”へと、今にも爆発しそうな激情を迸らせながら誘う井口のボーカルが響き渡る。
「僕はもともと音楽至上主義で職人気質の“ミュージシャンズ・ミュージシャン”。中指を立てたいのは巷のポップスに対してですね」と語るベースの新井和輝は、「でも、だからこのバンドで売れたい」と力強く続けた。東京の福生市、横田基地の近辺で育った新井は、高校時代から毎週バーでセッションをするほどブラック・ミュージックが身近だったという。「僕はベーシストだからベースを通して言いたいこと、表現したいことがある。バックグラウンドが見えるかどうかということは、僕の中では一つの基準です」。その隣で人懐っこい笑顔を見せるのは、ドラム・サンプラーの勢喜遊だ。徳島から19歳の元日に単身上京、ストリートダンサーからドラマーへというユニークな経歴を持つ勢喜は、常田曰く「一人だけ南国の、トロピカルでハッピーなバイブス」をまとっており、ワイルドなビートでバンドを盛り上げる。この各々の音楽的なルーツを持った4人の配合で生み出されるサウンドこそが、King Gnuそのものだ。常田が「独自のバランスを取ってるよな」と呟くと、「このバランスという点で、僕らみたいなバンドは少なくとも日本にいないんじゃないかな」と新井が応える。ライブでもアコースティックやウッドの演奏が入るなど、表現の幅は広い。尖っているのに誰もがグルーヴできる音と言葉、アナーキーな匂いとアカデミックな知性を湛えたそのバランス感覚が彼らの魅力なのは、間違いないだろう。さらに、彼らのクルーとも言えるクリエイティブ集団PERIMETRON(ペリメトロン)の存在がある。常田がクラブや映像の現場で出会っていく中で共鳴したクリエイターたちと結成されたチームであるPERIMETRON(ペリメトロン)は、King GnuのアートワークからMVまで手がけている。「みんな野良犬みたいに野心的で、センスのある奴ら」だと言う常田に、彼らに共通する“センス”って?と聞くと、「カウンター的な精神で作品を創る人であること」という答えが返ってきた。その“反骨精神”を糧に、アーティスト・コレクティブ=ヌーの群れとして、彼らはカルチャーシーンの地平を切り開いてゆく。

むろんその矛先は、現今のバンドシーンに対しても向けられる。「イケてるバンドは日本でも出てきてるけど、どこか閉鎖的で身内ノリ。だからシーンがデカくならない。そこをブチ抜きたい」と常田は熱っぽく語る。「俗物でありたいっていうか。音楽だけで考えず、別業種の奴らも巻き込んで、カルチャーと結びついて発展していきたい。その姿勢はミュージシャンサイドからしてもメジャーシーンからしてもカウンターなんじゃないかな」。その確固たる戦略の有効性は、2017年フジロックやライジングサンに出演した実績が早くも証明している。会場も大きく、リスナーも老若男女問わず獲得していく彼らの目論見は、着実に実現へと向かっているのだ。とはいえ、井口は「環境は変わっても、僕らは変わらずにやっていきたい」と断りを入れた。「どんなにステージが上がっても、僕らのスタンスやアプローチは変わらないと思います」と新井が頷く。平和主義のメンバーたちによって支えられている気分屋だという常田は、「ひとりでできることって限られてるからさ、みんなそれぞれのストロングポイントを生かし合っていきたいね。このバンドが成り立ってるのは、人間的なつながりがデカいよ」と照れ笑いを噛みながらも真っ直ぐに言った。多様な才能の結節点に立ち昇るムーブメント—— それがKing Gnuのオリジナリティとして世間に知れ渡る日は、そう遠くないだろう。

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Credit
Text Haruya Nakajima.
Photography Ryo Onodera.
Styling Ryohei Matsuda.
Styling assistance Yuri Takano.