あなたにとっての「悪」とは何か?:AVALONE 2018SS

「THE ANTAGONISTS(敵対者たち)」をシーズンテーマに掲げたAVALONE。善と悪、そしてメインストリームとカウンターカルチャー。二項対立の構図を通して、デザイナーの三浦進と、新たに展開するウィメンズ・ラインのデザインを担う歌代ニーナは、何を語りかけたのだろうか。

by Tatsuya Yamaguchi; photos by Jus Vun
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15 October 2017, 5:29am

小雨が降る夜、言わずと知れた東京の象徴である東京タワーは、ぼんやりと、しかし凛としてオレンジ色の光を放っていた。今季ウィメンズ・ラインをスタートさせたAVALONEのショー会場は、東京タワーを間近に背にしながら長いスロープを降り歩いた先にある、ホテルメルパルク東京の地下2階駐車場が選ばれた。i-D Japanはショー開催前デザイナーの三浦進ウィメンズ・ラインのスタートについて話を聞いていた。

ウィメンズのデザインを手がけるのは、三浦進と「服創りの感性だけでなく多くの点で共鳴する」というエディターでライター、スタイリストの顔を持つ歌代ニーナだ。ブランドの根底となるトーンはメンズと共有しながら、シルエットや素材使いで「女性特有の身体を引き立たせ、エロティックで、グロテスクで孤高な女性」を表現していくという。三浦によれば、歌代ニーナ本人こそがこの女性像の体現者なのだそうだ。「ニーナに僕の人生はジョン・ミルトンの叙事詩『失楽園』だと言われた」ことが、2018年春夏のテーマ「THE ANTAGONISTS」につながったという。

コレクション・ノートに沿って、少し説明を加えよう。とくに旧約聖書の「創世記」によって世界の認識として定着した、人間を象徴するアダムとイブが「プロタゴ二スト(物語の主人公、思想の主唱者)」であり「善」、サタンは「アンタゴニスト(敵対者)」であり「悪」だという構図が、かの『失楽園』では反転して描かれている。つまり、一般的に「悪」とされるサタンがプロタゴニスト=語り手になることで、「善と悪が逆転する」というのだ。三浦は、「今のファッション業界の王道を"アダムとイブ"や"キリスト"だとすると、僕たちの服に向き合う姿勢は"サタン"になるんです。僕たちのコレクションは、『悪』とされている思想に焦点をあてながらも、コレクションという舞台で発表することで、それらを『善』に変換させるもの」と語る。

「AVALONEの定義には宇宙の影響が大きいです。宇宙主義である僕たちの哲学には、男性を含めたすべての人間が『女性化』していくのではないかという未来予想がある」、そして今回は「女性がプロダゴニストとして物語るコレクション」と語る彼に習うと、ショーのファーストルック、チェリーレッド色の、どこか不気味な光沢があるラバーコートを羽織ったウィメンズ・モデルは、"レディー・サタン"といったところだろうか。シェイプが効いたパンタロンパンツや無骨なオルタナティブブーツ、そしてスキンカラーのターバン風のヘアアレンジはどこか異星人の風貌だが、男勝りな強さをまとってみえる。続くメンズは、スウェットパーカやナイロンジャージをベースに、袖に向かって広がるマンダリン・スリーブ、スペーススーツのような鈍い光沢感がアクセントに。ウェストや、パンツの膝上部分を"拘束するように"ゴム紐をあしらいボリュームに変化をつけながら、フィナーレに向かうにつれて明らかなスタイルの線引きがあった男女にクロスオーバーが見られはじめる——三浦が語った「女性化していくことで絶滅していく男性らしさ」という言葉が頭をよぎる。

東京タワーという「東京の主人公」を片目に、アンダーグラウンドな会場に足を踏み入れることを、アンタゴニストたる彼らによるシニカルな演出だと無意識に感じていたゲストは私だけでなかったはずだ。「皆が、個々に敵対者をもち、それと同時に誰かの敵対者である」と、三浦進は語った。一方で、初めてのコレクションを終え、沢山のゲストに祝福された歌代ニーナは、うっすらと涙を浮かべていた。『失楽園』の続編である『復楽園』は、アダムとイブによって失われた楽園の蘇りを予感させる物語だ。

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