解像度の高い未来で:FUMITO GANRYUデザイナー丸龍文人 interview 2/2

独自の21世紀像を抱きながら、着用者のマインドを動かす服を作り続けていくと語るデザイナー丸龍文人に敢行したインタビュー後編。「未来を考えたデザインをしたい。しかも事実に基づいたリアルなものでありたいのです」

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aug 21 2018, 9:06am

21世紀に向けた服——それは、自身の生活の延長線上にある未来を考えさせるものであり、ソリューションとイノベーションが加わっているコンセプチュアルなものであるという。後編はより具体的なデザインのアプローチから、“グレー”になっていく世界に対峙する個人のマインドのあり方について。

前編はこちら

——ちなみに、科学への興味は子どもの頃からあったのですか?
物心がついた時から科学、化学の番組ばかり見ていたし、化学クラブに入るくらいものすごく好きでした。子どもの頃は画家か科学者、化学者になりたいと思っていましたし、アインシュタインとピカソが私にとってのヒーローだったんですよ(笑)。いわゆるテックにも興味はありますが、先ほどのラッシュガードのような学術的なアプローチで今後もやれたらいいなとは思っています。つまり、何かしらマイナスに考えられているものの問題解決に結びつく、そういった実験的な服。そのような現代社会や実生活で体感できる“ソリューション”をファッションにしていきたいと考えています。

Photography Eeva Suutari
Photography Eeva Suutari

——メンズモデルによるメンズウェアの発表でしたが、なかにはいわゆる性別から解放された洋服もあったように感じました。21世紀という時代にあって、そうした性差についてはどのようにお考えですか?
ジェンダレスみたいなものってひと昔まえに流行りましたし、それが今ではベーシックになりつつあると感じています。特にこれからの時代、いろいろなことが同時多発的に起こり“一体化”してくことを、私は“グレーになる”と表現しているのですが、それは健全なことで、そうあるべきだと思うし、そういった時代の動きに逆らうのは馬鹿げているとさえ思います。あらゆる意味で地球はトータル的に見ればマイルドで個々の差が少なくなっていくと考えています。すべての色を混ぜるとグレーになるため、そういった流れをグレーになると表現しているのです。黒よりのグレーと白よりのグレー、中間のグレーもありますが、主に二層構造のグレーになって行くのではないかと考えています。

そして、これは性別にも言えると思っています。10代の頃、メンズの服ばかりを着ていて退屈する事があったので、母の洋服を着ることがあったり。かと思えば、ワイルドな服を着ることもあったり。それはコミュニティに合わせて変えていたのですが、次第にその作業が面倒になり、どの場所にも着ていける服を、リメイクしてコーディネートし始めたり……。要は、デザイナーとしてメンズの大事な部分は無くしたくないし、退屈な部分は壊したい。それを繰り返していくと、自ずと性差の概念が少しずつ薄まったり、変化していくのではないかと思っています。今回は最初から性別を意識していないデザインというアプローチをしたアイテムもあるので、それらが混じり合うことで、よりそういう印象を与えているのかもしれません。

Photography Eeva Suutari
Photography Eeva Suutari

——ご自身が着たいと思えるかという点はデザインするうえで欠かせない要素ですか? コレクションノートには、FUMITO GANRYUの“ファーストクライアント”は丸龍さんご本人であるとも記されていました。
そうですね。ただし、自分がただ着たいだけの服を作ってしまっては、プロとしていかがなものかと思っています。私自身がまず着たいという思いがあったうえで、それが自分だけに収まらないデザインとしてどのように取り組むかが重要だと。私の口癖でもありますが、あらゆる点を“俯瞰で考える”ということは常に大切にしています。デザインのアプローチは千差万別なので、シーズンごとに違うこともありますが、「自分は着ないけど、誰かが着るだろう」といった無責任なデザインは絶対にしたくない。

——ご自身の生活のなかから着想することはありますか?
実は、非常にリアルなところで必要性を感じることは多いです。例えば、海や川に行くときにはいつもラッシュガードを着ているのですが、よりファッション性のあるラッシュガードを着たいと思ったり、いちいち着替えるのは煩わしい、このまま街中に出て行きたいなと思うことがある。ここはこうなっていたほうが良いなとか、実用的だろうなといったことは、自分が体感したことに対して何かしらの不満や不備を感じることにより生まれるもの。だからこそ適正なアプローチができるという側面がありますし、それらはまさにソリューションデザインの一環だといえます。

——そうしたアプローチにおいて縫製やカッティングなどテクニカルな部分で留意していることはありますか?
いかに“ギア(装備)”にならないかっていうことは強く意識しています。多様なテック的要素を取り入れると、どうしてもギアに近づいてしまう。決して否定しているわけではなく、それはそれで良いものだと思っていますが、私はそこから一線を引きたい。ファッションの要素をいかにさりげなく、しかし大胆に取り入れるかというところはカッティングやシルエットに現れると考えていますし、私のなかではその2つは必ず一致しているので、実際に服をご覧になって着用した時に感じていただける物になっていると思います。同時に、そうしたものを駆使していないと私は着たいと思いませんから。

Photography Eeva Suutari
Photography Eeva Suutari

——ソリューションデザインは、より良い未来を志向することが基本にあると思います。
IT産業はますます進化、加熱していくでしょうし、より流動的になっていくかもしれない。AIの研究も活性化していくでしょうし、さらなる実用化が進んでいくと思っています。国によってはゲノムに関しても。よくAIによって仕事が奪われるという話がありますが、私はシンプルな考えで捉えていて、奪いようのない働きや、思考を持っていれば良いと考えています。今のままで良いと思っている方をもちろん、否定しませんし、ある種の憧れすら抱きますが、私は常に“良いものに”変えていきたいと思っている。そういうマインドになれる未来を考えたデザインをしたい。しかもそれは事実に基づいたリアルなものでありたいのです。

——そうした考えはデザインにも反映されていくのですか?
強調しておきたいのは、私自身SF映画も宇宙も科学も好きですが、つくり出すプロダクト関しては、一般論でいうSF的にならないように気をつけています。例えば、スターウォーズが幼い頃から好きで、ニュアンスやエッセンスとして出てしまう事もありますが、同時に服装史的見地から見た際のクラシックな佇まいを感じさせるバランスや、様々なパターンのテクニックで調和を測ったデザインになるよう心掛けています。つまり、コスプレはつくりたくないのです。これはプレタポルテのデザイナーとして強く意識している点ですし、きちんと俯瞰で捉えてリアルに着られる、着たいと思う落としどころを見出せるか、その事が大切なのだと思っています。

Photography Eeva Suutari

——これまでのお話をうかがっていると、丸龍さんのなかで非常に“解像度の高い”未来予想図が描かれているように感じます。
未来の姿については、5年後、1年後ですらはっきりとは分かりません。ですが、今はひとたびインターネットを開けばそこには様々な情報やコンテンツがアップロードされていて、SNS上には最新の美しいものが飛び込んできたりと、知ることに関する垣根が限りなく低くなっている。そうした情報にすぐにアクセスできるがゆえに、知ろうと努力すれば誰でも情報強者になれる時代です。ただ、そこで“選定する能力”がないと、自身が単体で、完全なる無彩色のグレーになってしまうのではないかと思っています。膨大な情報をただ蓄積するだけでは意味がない。そこから何かを得て、咀嚼し、活かすことができること。未来をより良いものとするためにも、感じ、考え、行動に移すことができるる人。言い換えるなら、今を生きている人。そういう人には、私のつくる服がきっと似合うと思います。

Photography Eeva Suutari