Dior 2018クルーズ・コレクション:キャス・バードが語る、女性のまなざしとHERstory

サンタモニカ山地カラバサスを舞台に描いたクルーズ・コレクションの映像をi-Dが独占先行公開。監督を務めた写真家のキャス・バードが、女性のまなざし(フィメイル・ゲイズ)と歴史(History)が取りこぼしてきた「彼女たちの物語(HERstory)」の重要性を語る。

by Steve Salter; photos by Cass Bird; translated by Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.
|
20 November 2017, 11:43am

This article was originally published by i-D UK.

マリア・グラツィア・キウリはDiorのアーティスティック ディレクターに就任して初となるクルーズ・コレクションで、ロサンゼルス郊外アッパー・ラスヴァージネス・キャニオン自然保護区域を舞台に、西部開拓時代とそこに生きるワイルドな女性たちを描いた。来場者の多くはこのショーで初めて、手付かずの自然が残るサンタモニカ山地を訪れた。しかし、ロサンゼルスで生まれ育った写真家キャス・バード(Cass Bird)は、この土地を熟知していた。「子ども時代をあの土地で過ごしました。だから、Diorチームが望んでいたものは手に取るようにわかりました」と、キャスはメールで答えてくれた。「自分が育った場所を撮れる——故郷と写真が結びつくなんて、わたしにとって最高の取り合わせでした」。そして完成したのが、今回のDiorクルーズ・コレクション特別映像だ。i-Dのお気に入りで、Diorでも多く起用されているルース・ベルとグレイス・ハーツェルのふたりが出演している。音楽はフランスのバンドLa Femmeの「Always in the Sun」。ハーツェルがゲストボーカルとして参加している。キウリがサンタモニカ山地カラバサスを舞台に描いた西部クルーズ・コレクションをあらためて堪能してほしい。

リアリティ番組『カーダシアン家のお騒がせセレブライフ』が10年間にわたり舞台としてきたエリアから程近いカラバサス——しかしキウリが舞台として選んだカラバサスには、お騒がせセレブ生活とは対極の世界が広がっている。「ハリウッドやレッドカーペットというようなイメージとは異なるロサンゼルスの側面、“サンタモニカの開けた大自然”を探求したかったのです」と、2017年5月、ショー会場の向こうに沈む夕陽を背に、キウリはi-Dに語ってくれた。彼女は、ラスコー洞窟に残る先史時代の壁画やジョージア・オキーフの油絵、おまじないでひとを癒す女性などを服に落とし込んだ。「彼女たちには目的意識と強さがある」とキャスは話す。「このコレクションには神秘的な雰囲気が漂っていました。それは、女性が迫害されてきた長い歴史を想起させるものでした。キウリは英断をしたと思います」

2017年5月にキウリは、「これまで女性は他人に定義づけされてきました」と語っていた。「しかしいま、女性たちはわたしたちが何者で、何を欲しているかを自分たちで決めるべきです」と。Dior初の女性アーティスティック ディレクターとなったキウリは、この1年にわたり、この老舗メゾンが誇る歴史を独自に解釈しながら、現代女性を念頭に置いた創作を行なってきた。1951年にChristian Diorが発表したコレクションのアイコニックなグラフィックを再解釈し、カリフォルニアの大自然を舞台に表現した2018年クルーズ・コレクションは、購買者がそれぞれ好きなように組み合わせられるよう考えられ、デザインされていた。
「過去を振り返えれば、女性のファッションが押し付けられたもの——大抵は男性たちによって——だったとわかります」と、キャスは話す。「ですが、現代の女性は自分たちの好きなように自己表現をしたいのです」。キウリは彼女独自の視点を世の女性たちに示しながら、「心を決めるときがきた」と訴えかけてもいる。「Diorにおいて、マリア・グラツィア・キウリは一貫してフェミニズムを表現しています」と、キャスは説明する。「彼女は複雑で矛盾に満ちた女性を肯定し、探っているのです」

キウリと同じようにキャスもまた作品を通して、女性のあり方を再定義している。キャスにとって、2017年に女性でいることはどのような意味を持っているのだろうか? 「女性はこれまで、男性の延長線上、もしくは対極にある存在として定義づけされてきました。どちらも同じ位置に立たないかぎり、私たちが男女の違いを真に認識できるようにはなりません。もし違いがあれば、ですが」。キャス・バードだけでなく、コリエ・ショアやアニー・リーボウィッツから新世代のハーレー・ウィアーやペトラ・コリンズまで、女性の写真家たちはファッション写真や映像に革命をもたらし、洋服やモデルたちへの新たなまなざしを与えた。近年は女性が手がける写真や映像に注目が集まっている。しかし、キャスはそれだけでは不十分だと考えている。「女性の写真家はこれまでもずっといたし、成果もあげてきました。けれど、歴史(History)はそれを正当に評価できていなかったのです。そこには“彼女たちの歴史(HERstory)”がありました。真っ当な歴史に近づきたいのであれば、私たちの物語(ストーリー)を拡大していかなければならないのです」

「このビデオを見たら、私がいわゆる“ユース・カルチャー”に魅了されたことがないのがわかると思います」とキャスは話す。「若いと失敗も大言壮語も許される。だけども、それも21歳まで。そうした考えが私たちを抑圧している。誰もが若い頃に抱いていた理想を諦めさせられているのです」

Credit


Photography Cass Bird
Stylist Alex white
Set Designer Piers Hamner
Hair Esther Langham
Make-up Peter Philips