Chim↑Pomエリイのデカメロン【来るべきDに向けて】
ペストの大流行から逃れるためにフィレンツェ郊外に引きこもった男女10人による退屈しのぎの話を集めた『デカメロン』。そして2020年、歌舞伎町では別の物語が記されていた。
坂本龍一とGotchが中心となり発足したオルタナティブ・プロジェクト「D2021」。震災(Disaster)から10年(Decade)の節目を目前に控えた今、私たちはどのような日々を歩んできたのか、そして次の10年をどのように生きるべきなのか。この連載「来たるべきDに向けて」では、執筆者それぞれが「D」をきっかけとして自身の記憶や所感を紐解き、その可能性を掘り下げていきます。
今回はアーティストコレクティヴChim↑Pomのエリイが登場、1348年に大流行したペストから逃れるため、フィレンツェ郊外に引きこもった男女10人が退屈しのぎの話をするという物語集『デカメロン』に着想を得た新宿歌舞伎町のBOOK CAFE & BAR「デカメロン」を紹介する。店内では人々が持ち寄ったコロナ下の物語を交換されていた──。
「デカメロン──Decameron」エリイChim↑Pom
感染したネズミから吸血したノミに刺された場合、まず刺された付近のリンパ節が腫れ、次いで腋下や鼠頸部のリンパ節が腫れて痛む。
リンパ節はこぶし大にまで腫れ上がる。

2020年コロナ。

1348年、大流行したペストから逃れるためフィレンツェ郊外に引きこもった男3人、女7人の10人が退屈しのぎの話をする。
10人が10話ずつ語り、全100話からなる。
日によって話のテーマが決められている。話者はそれに沿った話を披露していく。
ノミに刺された皮膚や眼にペスト菌が感染し、膿疱や潰瘍をつくる。
適切な抗菌薬による治療が行われなかった場合、現在でも30%以上の患者が死亡し、腺ペストでの死亡率は30~60%、肺ペストの場合はさらに死亡率は高まる。ただしペストは早期に適切な抗菌薬を投与すれば20%以下に抑えることが可能。感染症指定医療機関に隔離され、株ごとに異なる感受性のある抗生物質による治療が行われる。

『デカメロン』(Decameron)は、ジョヴァンニ・ボッカッチョによる物語集。ダンテの『神曲』に対して、『人曲』とも呼ばれる。また、デカメロンはギリシャ語の「10日」(deka hemerai)に由来し、『十日物語』とも和訳される。1348年から1353年にかけて製作された。
2020年7月22日、新宿区歌舞伎町にBOOK CAFE & BAR「デカメロン」がオープン。店内に設置したノートには、訪れた客がコロナ禍における自らの物語を書き記し、閲覧できる。
筆談でのコミュニケーションが推奨。

生き残っている人達の間にさまざまな恐怖と妄想を惹き起こしまして、殆どすべての人たちは、ひどく過酷な同一の決心に向かって懸命となりました。そうやって、みんなが自分だけは健康を保ちたいと思いました。

2020年の現代、店舗デカメロンを訪れた客がコロナ禍の物語を記す試み。

第二のパンデミックは、1331年に中國大陸で発生し、中國の人口を半分に減少させる猛威を振るったのち貿易ルートに沿ってヨーロッパ、中東、北アフリカに拡散し、およそ8000萬人から1億人ほどが死亡したと推計。ヨーロッパでは、1348年から1420年にかけて斷続的に流行。この猛威をふるったペストは、放置すると肺炎などの合併症によりほぼ全員が死亡し、たとえ治療を試みたとしても、當時の未熟な醫療技術では十分な効果は得られず、致命率は30%から60%に及んだ。イングランドやイタリアでは人口の8割が死亡し、全滅した街や村もあった。
「前」/「後」、そしてその間。
歌舞伎町で前後酒を飲みながら「間」について、書き記し、記録することで現代の「人曲」を奏でる場。

「Umana cosa è avere compassione degli afflitti」
”不要不急”な夜の街への外出自粛要請。

わが願ぎごとは風のまま
聞く人もなく消去りて
なおも募るは悩みなり

『僕らで、今夜あの豚を盗もうじゃないか。』
ブッファルマッコがいいました。
『ああ、どうしたら、盗めるかなあ。』
ブルーノがいいました。『もしも、あいつが今の場所から、豚をうごかさなければ、どうしたらよいかは、僕がちゃんと考えて おいたよ。』

- 自由テーマ
- 多くの苦難をへたのち成功や幸福を得た人の話
- 長い間熱望したもの、あるいは失ったものを手に入れた話
- 不幸な恋人たちの話
- 不幸のあとに幸福に巡り合う恋人たちの話
- とっさのうまい返答で危機を回避した人の話
- 夫を騙した妻の話
- 男が女を、女が男を騙す話
- 自由テーマ
- 気高く寛大な行為についての話
此の疫病で死んだ或る貧乏人の襤褸が街路に棄ててありました所へ、二匹の豚がやって来まして、彼等の習性として幾度も鼻の先でいじくりまわしたあとで、歯で銜えてあちこちと振り廻していましたが、間もなく毒を盛られたように、痙攣を起し、さんざんに引き裂いたその襤褸の上に倒れて死んでしまったのです。
前後酒を愉しむ 季節のネグローニ 国産ハーブのモヒートなど
物語を蒐集する店内には訪れる人々の物語をしたためるノートを設置。歌舞伎町に足を運び、自分の経験や思いを文字にしたためると同時に、感染症と共に生きる市井の人々の物語を閲覧できる。

それが倦怠に変わるような事態が起こらないように、また、私のやや長すぎるおもいのある滞在について、空想を逞しうして、悪意でものを考える人がでないようとも考えられ、且つ、私たちのめいめいが各自の一日を、そしてまだ私のところに残っている、この、名誉職の各自のわけまえをもお持ちになりましたのですから、もしみなさんがよいとお思いになるのでしたら、私たちはそろそろ出発点に戻る方がよいのではないかと考えるのです。

われは日ごろ君を慕い、この胸は
君思うとき和むと語りてよ
また身をつつむ焔のため
死ぬるは真実恐ろしけれど
望み、怖れ、恥じらいつつも
かの君故に耐えしのぶ
かくも劇しきなやみより
解るる日をばわれ待つと
