川久保玲が振り返る、歴史上もっとも奇妙な1年

「ファッションとアートを創造するには、斬新なことに挑み、他人とは違う個性を持ち、自分自身を解放する精神が必要なのです」

by Osman Ahmed; translated by Nozomi Otaki
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09 December 2020, 3:19am

ファッションの世界において、過去はもっとも強力な〈通貨〉になりうる。興隆するリバイバルに、あちこちで祝われる周年(もちろんi-Dも!)。現代のデザイナーは低迷するブランドに新たな命を吹き込むことを求められ、アーカイブはまるで新進気鋭のギャラリーのように扱われる。

つまり、歴史は顧客に信頼、すなわち100年前からあるブランドなら長年使える(価値のある)プロダクトを提供してくれるはずだ、という安心感を与えるのだ。

2020年、マーケティングチームや小売業者にとってのキーワードは〈心地良さ〉であり、誰もが家に引きこもっているおかげでトラックスーツの売り上げは急増したが、この言葉は比喩的な意味でも的を射ていた。

人は慣れ親しんだもの、既存のものに心地よさを見出す。不確実性の時代において、歴史は確実な対処メカニズムとなる。常に未来を見据えているはずのファッション業界においても、過去は、激動の今や不透明な未来を生き抜くための手がかりなのだ。

しかし、いつになれば未来は明確になるのだろう。不確実性は、決して川久保玲が今という時代を表現するのを止めることはできなかった。現代の真の〈ネオマニア(最新性愛症)〉である彼女は、過去の人でもなければ、後の世代を信じているわけでもない。

彼女の作品は、断固として〈今ここ〉に根ざしている。だからこそ大混乱のパリ・ファッションウィークを目の当たりにした私たちにとって、Comme des Garçonsのショーは神聖で稀有なものだった。それはまさに、革新にこだわるデザイナーの目を通して時代を映し出す鏡だった。

77歳にして、川久保玲は自らの3分の1の年齢のデザイナーよりもずっと独創性にあふれ、大胆だ。しかも彼ら以上に勤勉でもある。そんな彼女がロックダウン中ですら一瞬も立ち止まらないのは、何ら驚くことではない。

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川久保玲は歴史上もっとも奇妙な1年を、どのように捉えているのだろう。「こんな大変な体験をするなかで、人びとは自分の境界内で生活するようになるはず。それはある意味、私たちが前に進むのを妨げることになるでしょう」と彼女は9月に語った。

「それこそが私が懸念していることです。ファッションとアートを創造するには、斬新なことに挑み、他人とは違う個性を持ち、自分自身を解放する精神が必要なのですから」

もし彼女の最新メンズコレクションが遠くで上がった狼煙だとしたら(今回のショーは数十年ぶりにパリではなく東京で開催)、そのシャープなテーラリングの縫い目には、密かなメッセージが込められていたのかもしれない。

ゆったりと歩みを進めるモデルたちの背景には、ブラジルのフォトジャーナリスト、アルベルト・ビタールが撮影した風景が映し出され、遠く離れた場所の解像度の低い映像が、洞窟のようなショースペースで、このコロナ禍に不足しがちな現実逃避を演出していた。

モデルたちはテーパードパンツにタックインしたウェストを絞ったデザインや、ワイドなショーツやスカートと組み合わされた角ばったデザインなど、さまざまなレーザーカットのスーツを着用。すべてのルックに輝くシルバーかメタリックな素材が使用されていた。

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ランウェイに登場するシルバーのきらめきは、使い古された宇宙時代のレトロフューチャリズムのイメージを内包していることが常だ(川久保玲以外のデザイナーはどちらかといえば想像力に欠け、怠惰だから)。しかし、このコレクションは違う。

「メタルの強さ、どんな圧力にも負けない強さに、今直面する、難題を乗り越え、希望を生む強さを重ねたコレクションになれば良いと思います」と彼女は述べ、普段は内装デザインに使用する素材を使用したことを明かした(Dover Street Marketのメタリックな建物や現場打ちコンクリートが真っ先に思い浮かぶ)。

今回のインスピレーション源は、金属製の衣服のなかでもっともアイコニックなアイテム、鎧なのかもしれない。川久保玲は、私たちに守られているという安心感を与えようとしているのだろうか。それとも、金属は鏡のように現実を映し出すからだろうか。その解釈は私たちに委ねられている。

さらに興味深いのは、多くのメンズウェアデザイナーがツーピースのスーツの制約に抗ってきたいっぽうで(彼らはこの40年以上にわたり、衣服のルールを覆す川久保玲に大きな影響を受けてきた)、川久保玲は決して飽きさせることのないデザインを無限に探り続けていることだ。

「服の基本はメンズファッションにある」とは川久保自身の言葉だ。彼女の衣服に緊張感が宿る所以はそこにある。抑えられた色づかい、きちんとボタンを閉めた格式ばったメンズウェア、ビジネススーツ、パリッとしたシャツ、ネクタイ必須のフォーマルさこそが、革新を可能にしているのだ。

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確かに男性は画一性、もしくは服装に感じられる同族意識を好む傾向にあるが、川久保玲はその暗号を解き明かし、〈ジェンダーフルイディティ(ジェンダーの流動性)〉という言葉が浸透するずっと前にメンズのスカートをつくりだし、ウィメンズウェアの素材や特徴を取り入れ、メンズウェアの典型を巧みに再構築し、定番アイテムをひと味違うアイテムへと変身させた。

彼女が生み出す服は、一見すると伝統に則っているようだが、実際はそれを窓から投げ捨てている。男性が社会人として働くことを認めながらも、慣習やドレスコードを拒むメンズウェア。決してノスタルジックではなく、常に遊び心を忘れない進歩的な服だ。だからこそ、川久保玲のメンズウェアコレクションは、ウィメンズウェアの身体のラインを歪ませるような彫刻的なアイテムと比べて、一般的な衣服に近い形をとっているのだろう。

「現代の若い男性はエネルギーに満ちています」と彼女は今年はじめに語った。「彼らは着るものを通して自分を表現しようとしている。好きな服を買うお金を稼ぐためなら、残業もいとわない」

「そのいっぽうで、女性はどうでしょうね。自分が欲しいものがわからないのか、強く見られたくないのか。彼女たちにはもどかしさを感じます。静かに闘えるとでも思っているんでしょうか? もっと着るもので自分を表現し、この世界と闘ってほしいですね」

この言葉は、フェミニストと呼ばれるのを嫌がり、それ以上に声明を出すことを嫌う人物のフェミニスト宣言ととることもできるかもしれない。もちろん、メンズウェアのスタイルのなかにも、彼女が決して近寄らないものもある。例えば、彼女が2020年のトレンドとされるアスレジャーを嫌っているのは周知の事実だ。

「何か面白いものはあるか探してみましたが、結局見つかっていません」と彼女は語る。「みんな夢中になっているみたいですが、反骨精神はまったくないですよね。なんの主義主張もない」

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Credits


Photography Keizo Motoda
Styling Shohei Kashima

Hair and make-up Ryoko Takai using YANAGIYA
Styling assistance Sumire Uekane, Ayami Masuda, Taku Kato and Haruyo Koeda.
Production Kazumi Asamura Hayashi.
Production assistance Chihiro Yomono.
Models Ichi at Pump Management. Kyohei Mitsune at Friday.
Kohei at Be Natural. Viral boy and Keiya Shimoda at Stanford. Vulgar. Jess the Boss, Joe Tatu, Toya, Miki, Yosuke and Kazuyo from Harajuku Strangers.

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