Baby Keem wears jacket and trousers Dickies. T-shirt Margaret Howell. Kendrick wears jacket Y/PROJECT x Canada Goose. Trousers Wrangler. Hoodie and hat Carhartt WIP. T-shirt Ben Davis.

「何かをゼロから築き上げてこそ、自分の本領を発揮できる」ケンドリック・ラマー × ベイビー・キーム スペシャル対談 

i-D40周年記念号の刊行によせて、ケンドリック・ラマーが20歳の愛弟子であり従兄弟でもある、ベイビー・キームにインタビュー。多分野で活躍するラップ界のレジェンドが、世界が注目する新進気鋭のアーティストに、ビジネス、家族を養うこと、新会社〈pgLang〉について話を聞いた。

by i-D Staff; translated by Nozomi Otaki
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09 November 2020, 9:02am

Baby Keem wears jacket and trousers Dickies. T-shirt Margaret Howell. Kendrick wears jacket Y/PROJECT x Canada Goose. Trousers Wrangler. Hoodie and hat Carhartt WIP. T-shirt Ben Davis.

本対談はi-D's 40th Anniversary Issue, no. 361に掲載されたものです。注文はこちらから。

ジョージ・フロイド殺害に対するデモが始まって9日が経過した今年6月6日、ワシントンDCの〈ブラック・ライブズ・マター・プラザ〉へと改名された交差点に数百人が集まり、ホワイトハウスまで届けるかのように、大声でチャントを繰り返していた。

しかしその30分後には、群衆のチャントは歌声へと変わり、ケンドリック・ラマーの「Alright」の大合唱が始まった。

人種差別に抗議する人びとが「We gon’ be alright(俺たちは大丈夫)」という歌詞に勇気づけられたのは、今回が初めてではない。批評家から絶賛された3rdアルバム『To Pimp a Butterfly』のリード曲でもあるこのトラックは、2015年、リリースからわずか数ヶ月後に、クリーブランド州立大学で行なわれた警察のハラスメントに対するデモで合唱された。

アメリカの命運を定めた重要な選挙を迎え、ケンドリックの音楽はこれまでになく緊迫感を増して感じられる。ここ数年のトランプ政権下の米国を振り返る彼のニューアルバムを、全世界が心待ちにしているのだ。

しかし自らの音楽活動にとどまらず、ケンドリックはつい最近、20歳の弟子ベイビー・キームを発掘した。音楽業界の舞台裏で数年間活躍した後、2本のミックステープで好評を博したキームは、今最注目の新人アーティストのひとりとして、ひそかに頭角を現わしつつある。

リリースから半年後にチャート入りを果たした『Orange Soda』は、すでにプラチナ・ディスクを獲得している。

この惑星のうえで同世代から最も尊敬されるアーティストが、期待の新星ラッパーとじっくり語り合った。

ケンドリック:音楽への愛を自覚したのはいつ?

キーム:小さい頃からずっと好きだったけど、自分で曲を探すようになったのは9歳か10歳頃。パソコンをもらって、インターネットが簡単に使えるようになってからかな。2009年か2010年の話だよ。カニエとか、ウェインとか、エミネムとか。リアーナが好きだったのはよく覚えてる。

ケンドリック:おい、俺も人気あっただろ?(笑)

キーム:2010年の終わり頃までは知らなかったんだよ。13歳になるまで自分は曲を作りたいわけじゃないと思ってたんだけど、やっぱり違うな、って思って。他のみんなもやってるんだから、俺もやってみよう、って。まだガキだったから、もっと声に深みが出るまで待たなきゃいけなかった。

ケンドリック:曲作りはどうやって進めていった? マイクとか機材を買ったり?

キーム:本格的に始めたのは13歳のときで、自分のパソコンにAppleの楽曲制作アプリを入れた。おばあちゃんから300ドル借りて、Craigslistに自分の曲をのせたんだ。それが15歳くらいのとき。50ドルくらいで買ったマイクはポンコツだったけど、録音はできた。そうやって学びはじめて、軌道に乗せたんだ。

Kendrick Lamar and Baby Keem sitting in a stairwell – shot by Glen Luchford for i-D magazine 2020
Baby Keem wears jacket and trousers Dickies. T-shirt Margaret Howell. Socks Falke. Boots Timberland. Kendrick wears jacket and trousers Wrangler. Hoodie and hat Carhartt WIP. T-shirt Ben Davis. Shoes Converse.

ケンドリック:13歳で始めたなんてマジですごいよ。俺がレコーディングを始めたのは16歳だったから、それよりもさらに一歩先にスタートを切ったってことだろ。その年から自分の道を歩み始めたってことは、20代で初めてスタジオに入った年上のヤツらにはないアドバンテージがある。みんながお前を追いかけるんだよ。

キーム:ずっと自分の部屋でありあわせの機材を使ってた。だんだんマイクの好みもわかってきて、こだわりすぎるのはやめることにした。1年前もたてば声が変わるから、別のマイクを試さないといけなくなる。俺は明らかに進化してるから。『Die for my Bitch』みたいなプロジェクトを発表してから、この部屋に自信を持てたよ。ここは紛れもなく俺の部屋だけど、他のひとにはとてもスタジオには見えないだろ?

ケンドリック:だからアンダーグラウンドで成功できたんだろ。言っておくけど、その感覚を取り戻すのは難しいんだ。近づこうと思えば近づくことはできる。でも、自分だけの部屋、自分だけの空間で、40℃以上あるクソ暑いなか必死に何かを創るっていう体験は、なかなか得がたいものだよ。

キーム:そのときはまだ、やりたいことを探してる最中だった。ひと晩で見つけたように感じられるかもしれないけど。

ケンドリック:傍から見ればそう感じるかもね。1stアルバムを発表したとき、ひと晩で完成した作品だって思ったひともいただろうけど、長い年月の積み重ねなんだ。大切なのは地道な努力の積み重ねなんだよ、それがいちばん重要なんだ。

お前の曲を初めて聴いたときも、それから今聴いても、黒人の若者が堂々と自分が求めるものを歌い上げて、心から楽しみを追い求めていることが伝わってくるよ。19歳の俺と同じようにね。

『Die for my Bitch』以降、自分はどう成長してきたと思う?

キーム:『Die for my Bitch』は突破口だった。自分のサウンドで思い切り遊び、自信を持って成長する道を開くチャンスを与えてくれたんだ。

ケンドリック:わかるよ、だから俺もアルバムを出すまでにこんなに時間がかかるんだ(笑)。ここ1年ずっと、どうやって新しいサウンドをつくるか考えてる。何度も同じことはやってられないからね。何かワクワクさせてくれる要素が必要なんだ。お前も新しいものを求めるあまり、焦ったりすることはあるだろ?

キーム:うん、実際に始めるまで、俺が新しい挑戦をしてることは理解してもらえないからね。それがうまくいかなければ、俺の挑戦は誰にも伝わらないし、周りからは古いものを求められ続ける。でも今は、誰が見ても俺がまったく新しいことをやってるのは明らかだと思うよ。

Kendrick Lamar and Baby Keem on a bike – shot by Glen Luchford for i-D magazine 2020
Baby Keem wears shirt Rick Owens. Trousers Carharrt WIP. Socks and shoes Converse. Kendrick wears jacket vintage from stylist’s studio. Trousers Carhartt WIP. Hat model’s own. Shoes Converse.

ケンドリック:そのバランスを探るのが肝心なんだ。『good kid, m.A.A.d city』の〈2年目のジンクス〉はよく覚えてる。あれはあの年、あの時のための作品だった。あのときの俺はまったく違う場所にいたんだ。

『good kid, m.A.A.d city パート2』なんてつくれないことは最初からわかってた。そんなものをつくったって何の面白味もないだろ? そんなことしたら元々のフィーリングが失われてしまう。あの作品には、あの作品だけの世界で生きていてほしいんだ。それで『To Pimp a Butterfly』を出した。死ぬほど好きなアルバムだっていうひともいるし、嫌いなひともいる。

キーム:どのプロジェクトでも自分に対するサプライズがほしいってこと?

ケンドリック:そういうこと。『To Pimp a Butterfly』はまさにそれだった。どんなサウンドにしたいのか、ジャズやブルース、ヒップホップを取り入れるっていうアイデアはもともとあった。だからそれよりももっと、〈どうやって実現するか〉にフォーカスしてたかな。

キーム:うん、でも自分なりのやり方でやるよ。どんなことでも、ありふれた方法ではやりたくない。自然なかたちで、それをテーマにした作品をつくりたい、って思ったらやると思うけど、今回はやらないかな。強制されてやることじゃないから。ファンにはお見通しだからね。それはだいぶ前に気づいたんだ。

ケンドリック:お前は面白いストーリーを持ってると思うけどね。共感してくれるひとはたくさんいるよ。実際やることになっても、強制されているように感じるというよりは、きっと多くのひとが感動している姿を見て、自分自身も癒されるはずだ。

こんなクソな状況のせいで、「君のおかげで自殺を思いとどまることができたよ」ってファンが直接声をかけてくれることもなくなった。精神的に疲れることもあるけど、その分やりがいもある。まあそういうものだよな。お前は多くの若者の代弁者になってるし、年上の世代にとってもそうだよ。

キーム:去年から今年にかけて自分を成長させてくれたのはミニツアーだったと思う。こういう状況になる前にツアーをやって、音楽に興味を持っているひとはこんなにいるんだ、ってことに気づけた。

実際にこの目で確かめて、その感動を家に持って帰れたのは最高だったよ。ああいう体験ができたことに感謝してる。だってあのツアーがなければ、きっと今どうすればいいかわからなかったと思うから。君は世に出るべくして出た人間だし、俺もそうだった。ここ1年、ずっと次の体験について考えてきたんだ。今やるべきなのは、間違ったものから自分を引き離し、正しいものと自分を結びつけることだと思う。自分がそうするべきだと思うものとね。

こんなものに向き合う必要なんかない、って思ったら、自分を苦しめるものを思い切って切り捨てなきゃいけないこともある

ケンドリック:要は自覚することだよな。エゴがやりたい放題やっていたら、ちゃんと自分の一部としてコントロールしなきゃいけない。それがエゴってものだ。その存在を自覚して、良い方向に活用する方法を知っておくんだ。

話は変わるけど、ちょっと前にLAに引っ越したよな。最初はカネもなくて、いろんな家を転々としてけど、今は経済的にも自立してて。ベガスからLAに引っ越したとりあえずの感想は? 金銭感覚は変わったと思う?

キーム:ベガス出身のヤツはよく、ベガスでは何も起きない、って言う。俺も言ったことあるかも。俺はほとんどばあちゃんに育てられたんだ。ふたりきりで暮らしてた。俺の家族はズバズバ物を言うから、早く大人にならざるをえなかった。知らなくてもいいことも知ってたし、見なくてもいいものも見ていたから。

俺は、ばあちゃんの親友みたいな存在だった。まだ小さかったから、ばあちゃんの抱える金銭的なストレスが全部俺にのしかかってきた。ばあちゃんは無意識だっただろうけど。だから、俺がばあちゃんを守らないと、って思ってた。

LAに来てから、外で仕事するようになった。ベガスからLAに来て、もう戻るつもりはないよ。俺にとってカネは慰めだし、安定を与えてくれるものなんだ。

ケンドリック:俺もばあちゃんが亡くなってから、生活が変わったのを覚えてる。13歳のときで、葬式とかいろいろと大変だったな。あちこちからいろんなものをかき集めて、なんとかコンプトン葬儀場に遺体をベガスからコンプトンまで運んでもらったりね。全部ひとりでやりくりしなきゃいけなくて、母さんはよく泣いてた。それを見て、もう二度とこんな思いはさせない、って自分に誓ったんだ。カネは家族をちゃんと養い、自分が学ぶためのものだと思ってる。

移住の話に戻るけど、家を出てからずっと「俺はLA生まれだ、いつかは帰るよ」って言ってなかった?

キーム:うん、戻るつもりだったけど、どうしたらいいかはわからなかった。学校に通おうかと思ってたけど、成績は良くなかったし。精神的にも参ってた。

Kendrick Lamar and Baby Keem in the street – shot by Glen Luchford for i-D magazine 2020
Baby Keem wears shirt Rick Owens. Trousers Carharrt WIP. Socks and shoes Converse. Kendrick wears jacket vintage from stylist’s studio. Trousers Carhartt WIP. Hat model’s own. Shoes Converse.

ケンドリック:それはまったく別の話だよ。母さんが俺に電話してきて、「どうなってるの? あの子、全然学校に行ってないの!」って。家に手紙が送られてくるんだ、ってさ。こいつヤバいかもな、って思ったよ。ちょっと責任も感じてたし。

お前にすごい才能があるのはわかってたけど、卒業はしないと。何とか折り合いをつけないとって思ってたけど、結局は大丈夫だった。お前のそういうところを俺もデイブ・フリーも尊敬してる。意志が強くて、目標に向かって突き進んでいける。昔の俺たちを思い出すよ。

次は、趣味について。SNSとかInstagramはあまり更新しないから、ファンはお前がハマってることが気になってると思うけど、キームの1日はどんな感じ?

キーム:Twitterは理由もなくヘイトをぶつけてくるヤツばかりだから、マジでつまらない。キームの1日は、朝起きて、スタジオに行って、そのあと余裕があれば誰かとゲームをする。翌日もまったく同じことをする日もあれば、少しだけどこかに出かける日もあるかな。休みなく出かけるのは好きじゃないし、しばらく見かけないこともあると思う。

ケンドリック:確かに、ずっとスタジオにいるな。俺が知ってる範囲では、お前はほぼずっと何か創ってる。前にこんなことがあってさ、こいつが……いや、これを先に言っておかないとな。お前の次のアルバムに収録されるかもしれない曲なんだけど、俺が大好きな曲があるんだ。何度も何度も聴いて、「この曲最高だな!誰がプロダクションをやったんだ?」って訊いたら、こいつは「君のビートだよ」って言うんだ。

それで自分のドライブでDJダヒのビートのリストを見たら、マークが付いてるのがあってさ。普段は自分の曲にマークなんかしないから、思わず二度見したよ。赤いマークだった。

キーム:確かに赤だった。覚えてるよ。だってマークしたのは俺だから(笑)

ケンドリック:よく見たら、俺が好きなビートとまったく同じだったんだ。それでこいつの耳は確かだ、って思ったんだよ。

キーム:全部のビートから探し出したんだ。

ケンドリック:すごく気に入ってるビートだったんだ。『Damn』で使うつもりだったんだけど、結局使えなくて存在を忘れてた。DJダヒのビートのなかでも5本の指に入る。お前がこれを選んで、俺には絶対にできないことをやってのけたから、俺が作るよりもずっと良い曲になった。それがこいつのすごさなんだ。

キーム:このビートを〈盗んだ〉のは、ちょうど『Die for my Bitch』を一回完成させたとき。これからリリースする次のプロジェクトの作業に入ったところだった。このビートは、当時の俺には先進的すぎるビートだったけど、これをもらったおかげで、まったく新しい世界への扉が開いたんだ。

で、また『Die for my Bitch』の作業に戻ったんだ。あの曲が本当に完成したときは、マジでヤバい曲ができた、って思ったよ。みんなも「これがお前の最高傑作かもな」って絶賛してくれた。最高の気分だったよ。この曲があったから、『Die for my Bitch』でもっと実験してみようと思えたんだ。

ケンドリック:正直いって、大成功だったよ。あのビートを使って最高の曲を完成させたんだ。そろそろ最後の質問に入るけど、これからどんなサウンドを追求していきたい?

キーム:好きなコードを使って、もっと自分の感情を音楽に反映させたい。自分が本当に好きなコードを使った曲は、実はあまりないから。これまで俺が実験してきた曲は、今ならおのずと物語を語ってくれる気がする。

ケンドリック:何かをゼロから築き上げてこそ、お前は自分の本領を発揮できるんだと思う。大多数のミュージシャンとはまったく違う耳を持ってるから。

キーム:いわば何の制約もない遊び場なんだ。うんていの途中で落ちてしまうにしろ、最後まで到達するにしろ、とにかく新しいことに挑戦する。

ケンドリック:自分のクリエイティブな言葉を理解してくれる仲間がいて、本当に良かった。いつもお前の言葉が原点になってるから、こうやって密に協力してこの会社(pgLang)を立ち上げることができた。同じ言葉を共有、体験したり、他の言葉を教え合える関係じゃなければできないことだから。

音楽的な面では、お前はpgLangの最前線にいる。個性的な仲間たちに囲まれているけれど、pgLangは何を表現していると思う?

キーム:この会社のアイデアが実現する前からずっと見てきた。pgLangは、作品をどう創っていくるか決まる前の段階でも、創作に対して常に誠実で、創作の可能性を信じている。しかも始まりはとても小さなアイデアだったんだ。

俺はその姿勢を信じていたし、自分も誠実であり続けてきた。その全部が報われたんだと思う。まったくアイデアがなかった頃から今に至るまでの成長をずっと見てきた。pgLangは俺にとって、誠実さと信頼の象徴だよ。

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Baby Keem wears jacket and trousers Dickies. T-shirt Margaret Howell. Socks Falke. Boots Timberland. Kendrick wears jacket Y/PROJECT x Canada Goose. Trousers Wrangler. Hoodie and hat Carhartt WIP. T-shirt Ben Davis.

Credits


Photography Glen Luchford
Fashion director Carlos Nazario

Styling (Kendrick) Dianne Garcia
Styling (Baby Keem) Taylor McNeil
Grooming (Kendrick Lamar and skin for Baby Keem) Tasha Reiko Brown using Chanel.
Grooming (Baby Keem) Shafic Tayara using GETFBN.
Lighting director Jack Webb.
Photography assistance Alex de la Hidalga and Alekzandra Zagozda.
Digital technician Paul Carter.
Styling assistance Raymond Gee, Kristin Brodsky and Claire Tang.
Tailor Susie Kourinian.
Producer Suzy Kang.
Casting Samuel Ellis Scheinman for DMCASTING.

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Kendrick Lamar