Photography Zach Sokol

ポルノ女優から『ユーフォリア』のスターへ クロエ・チェリー interview

ドラマ『ユーフォリア/EUPHORIA』の新たなスターが、ハリウッドに至るまでの複雑な道のり、ポルノ業界での過去が演技の「究極の特訓コース」となった理由を語る。

by Zach Sokol; translated by Nozomi Otaki
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17 March 2022, 10:08am

Photography Zach Sokol

クロエ・チェリーの話し声はとても美しい。彼女のファンや信奉者に聞けば「史上最高の喉」と説明するだろうが、この声帯こそが忘れられない第一印象を残す。現在24歳の女優/ポルノスターは、耳に心地よい、低く響く声を持っている。だからこそ、彼女と話していると、少し酩酊したような、間抜けで、芝居がかった感覚を覚える。そんな彼女の声は、『ユーフォリア/EUPHORIA』の世界に完璧に溶け込んだ。クロエが演じたのは、主人公のルーを誤った道へと押し進めることになる、くだらない話ばかりするヘロイン常用者のフェイだ。

彼女のキャラクターは到底〈愉快〉とは言い難いが、フェイは目の離せないカオティックな人物だ。クロエは、画面の中でも外でも、思わずこちらも笑顔になってしまうようなユーモアのセンスの持ち主だ。「愉快なひとは、愉快な目を持っている」とは有名な道化のフランス人教授フィリップ・ゴーリエの言葉だ。しかし、神から与えられた愉快な声も、同じくらい魅力的だ。クリステン・シャールやH・ジョン・ベンジャミンのキャリアがそれを証明している。

『ユーフォリア』シーズン2のプレミアで、クロエの声は最初のシーンから異彩を放っていた。彼女が演じるフェイは、ルーと車の後部座席で麻薬の取引を待っている。ルーはジュールズに駅に置いていかれたことを打ち明け、フェイは「彼女に駅に置いていかれた?」と訊き返す。同じ言葉を繰り返しているだけにもかかわらず、不意を打つようなこの台詞は、 2話に先立って公開された1話のダイジェストの最後にも使われている。

a pink haired chloe cherry pouting and holding colored strings over her naked chest

同じく本作に新人俳優として参加した独特の声の持ち主、ドミニク・ファイクと同様、クロエも一風変わった方法でハリウッド進出を果たした。ここ数年、ポルノ業界でキャリアを積んできた彼女は、200本を超える作品に出演し、PornHubでは再生回数1億2000万回を記録した。今は活動休止中だが、OnlyFansや〈クリーンな女の子、ダーティな映画〉という的確なキャッチフレーズつきの公式サイトは更新を続けている。

普段のクロエは、SNSでもユーモラスな魅力を振り撒いている。彼女の大胆なTikTok動画はいつも100万回以上再生され、Instagramも大人気で、彼女がオーディションを受ける前から製作総指揮のサム・レヴィンソンの目を引いていたほどだ。実際、彼女がこの役の台本の読み上げに参加するきっかけになったのもInstagramだった。サムが彼女の投稿に興味を抱いたことで、キャスティングディレクターがDMを送ったのだ。彼女は最初そのDMを冗談だと思ったというが、映像を提出して直接オーディションを受けたあと、見事フェイ役を射止めた。

当初は今シーズンのフェイの出番はもっと少ない予定だったが、クロエがこの役に決まったあと、ストーリーが練り直された。カスターの恋人として初登場した後、彼女はモーテル経営者を屋根から突き落とし、フェスコにほとぼりが冷めるまで匿ってほしいと頼む。「誰も私が演じたみたいには演じられなかったはず」と彼女ははっきりと、しかしうぬぼれは感じさせずに明言した。「アドリブの台詞もたくさんあったから」

最新シーズンの最初の2話で、フェイは太ももに注射器を刺し、ルーに怒りをぶつけ、彼女を「ジャンキーのクソビッチ」呼ばわりし、全裸になり、その後売人に頭を壁に打ち付けられ、警察に見つからないように換気口の中に押し込まれる。脇役としてはかなりの量のアクションで、ハリウッドの新人俳優としては異例のデビューだ。

今回i-Dは、田舎町の演技好きな少女から世界的に有名なセックスワーカーへ、そしてHBOのスターになるまでの経緯をクロエに聞いた。陽気な会話の中で、彼女はアドリブ演技のバックグラウンド、カットされたゼンデイヤとのお気に入りのシーン、長編モキュメンタリー制作への野心を語った。

chloe cherry posing in a trench coat in front of a white wall

──LAに戻ってからどう過ごしていますか?

オーディションを探したり、文章を書いたりしてる。映画の知識を深めるために、たくさんの作品を観たりもしてる。最近はポルノ関連の仕事は何もしてない。今まで私の人生のあらゆる瞬間を埋め尽くしてきたものだから、そこは大きな変化かな。ときどきOnlyFansに投稿することもあるけど、本当はこうやってのんびり過ごすのが好きなの。

人生がゆっくりになった感じ。ポルノはすごくペースの速い業界だし、どんどん人の出入りも激しい。ポルノ業界には、いつの時代もそういう入れ替わりが激しい面がある。ここ5〜6年は休みなしで働き詰めだったから、今こうやってひと息つく時間がとれたことに感謝してる。

chloe cherry with her hands in her hair and tongue out wearing black underwear and high socks

──話は戻りますが、ペンシルバニアでは学生時代に学校の演劇に出たり、アドリブのクラスをとったりしていたそうですね。そのことについてもう少し詳しく教えてもらえますか?

3歳のときにバレエを始めた。でも、バレエは私にはちょっと厳しすぎて、今度はジャズが好きになり、そこからだんだんミュージカルにハマっていった。学校と地元の劇場で『アニーよ銃をとれ』や『ムーラン』なんかに出演した。それから演技にもだんだん興味が湧いてきた。少し時間はかかったけど、結局自分が一番好きなのはアドリブ的な側面なんだと気づいた。
アドリブの勉強を始めてからは、もっと好きになった。自分自身にも私の考え方にもすごくプラスになったし、ただ台詞を暗記して繰り返すだけじゃないのがいい。コメディや即興は自分がもともと得意な分野で、私らしいものだってことに気づいた。

──その頃からプロになりたいという思いはあった?

もちろん! パフォーマンスは他のひとにはない自分のスキルだとずっと思ってた。舞台の上やカメラの前でも全く緊張しないの。自分はひとに変だと思われないかあまり気にならないタイプなんだって気づいた。というか全く気にしなかった。今もそう。
私はほとんどのひとが絶対にやりたがらないようなことに惹かれるの。パフォーマンスは難しいと思われがちだけど、この世界では自信さえあれば、たとえどんなに変なことでも、何だってできるってことに気づいた。

 

──演技やパフォーマンスについて学んだことで、ハリウッドでのキャリアにつながったと思うものは?

信じてもらえるかわからないけど、ポルノでの演技は私にとって重要なトレーニングになった。アドリブもたくさんある。共演者との間に漠然とした信頼関係が築ければいいセックスができるし、そうすれば最高の映画が撮れる。(ポルノは)演技の集中的な予習というか、究極の特訓コースになった。
始めてハリウッドの現場に行ったとき、びっくりするくらい自分がやるべきことがはっきりわかった。最初にどこに立つべきかも、照明が当たる場所も、カメラの向こうのどこを見ればいいかも、タイミングも、体をどこに置けばいいのかもね。

chloe cherry with eyes wide sticking her finger in her mouth

──Instagramで『ユーフォリア』の役をもらったときはどんな感じでした?

最初は現実と思えなかった。2019年に急に知らないひとから「やあ『ユーフォリア』だよ。シーズン2のこの役のオーディションを受けてほしいんだけど」ってメッセージが来たの。まだパンデミックが始まる前だった。最初は「なんで『ユーフォリア』が私に連絡してくるの? しかもなんでInstagramで?」って感じだった。
あのときは母の家に泊まっていたんだけど、台本を読み上げてほしいといわれて。『ハッスル&フロウ』の映像が送られてきて、台詞を読み上げてそれを録画するように、って。それが次につながるとは思ってなかったんだけど、オーディションに参加することになった。もっとテレビ番組の経験が豊富なひととか、もっとプロらしいテープを送ったひとを採用すると思っていたけど、私が送ったものを気に入ってくれたみたい。つまり、彼らはテクニックではなくパフォーマーとして何ができるかを見ているの。IMDBのページじゃなく、立ち居振る舞いをね。
その後サム・レヴィンソンに会ったら、「君のインスタのストーリーを見るのが大好きなんだ。絶対にオーディションをしなければと思った。うまくやってくれることを願ってたよ」といわれて。ウソでしょ、あなたが私のファン? 私こそあなたのファンだよ、って感じだった。 

chloe cherry smiling wide wearing an argyle sweater and holding a bouquet of flowers

──キャスティングされたとき、自分のキャラクターがどれほど重要な存在になるか、どれくらいプロットに関わってくるのかは知っていましたか?

もともとこのキャラクターはずっと小さな役だったの。ただのストリッパーの予定だった。それから友だち数人を含めて、たくさんのひとがこの役のオーディションを受けた。私がキャスティングされると、サムはこれまでの計画を白紙に戻して、もっと掘り下げるためにキャラクターをゼロから作り直した。
サムは、きっとやり遂げてくれると確信できるひとを採用する。役者を信じてるの。フェイというキャラクターの大部分は、話し合いやブレインストーミングでつくられた。現場でも何度も話し合い、私たちには共通点がたくさんあることを発見して、そこからさらにキャラクターが発展していった。

 

──フェイというキャラクターをどのように具現化しましたか? この役で表現したかった姿勢や空気感とは?

ほとんどのひとには理解できない状況にいる人物を目指した。彼女は何かから逃げ続けてる。フェイにとって何よりも大切なのはドラッグ。彼女はヘロイン常用者だけど、ちょっと生意気で、神経質で、バービー人形みたいな雰囲気があるところが好き。とても過激で恐ろしいこともするけど、それでも自信をのぞかせてる。
彼女は他の誰よりも麻薬にのめり込んでいるにもかかわらず、自分が他のひとより優れているという妄想に取り憑かれていることも表現したかった。そうやって彼女は自分を守ってるの。 

──ゼンデイヤとの共演はどうでした?

彼女がすごく普通で子どもっぽいひとだってことが衝撃だった。実在してるんだ、って。彼女は面白いミームが好きなの。彼女が私の世代の大スターなのが本当にうれしい。共感できるし、憧れの存在。
かなり長時間撮影したから、本編に使われなかった映像が何時間分もある。ジュールについてのルーとの会話でカットされたシーンがあるんだけど、「こんな映画観たことある? 不治の病にかかった2人が、いつもお互いの150センチ以内にいるやつ。恋愛でこんなふうになっちゃうなんてバカみたいだよね」とルーがいうと、「ほんとだね。じゃあサメと一緒に泳いでたら船に置いていかれる映画は観たことある? そのままサメだらけの海で死んじゃうの」って私が答える。すると彼女が「あーうん……そうだね、聞いたことはあるよ」っていうの。
それからふたりで麻薬で朦朧としたまま、完璧な愛なんてものは存在しないっていう話を続ける。「ふたりの人間が恋に落ちて、一生ずっと愛し合っているのを見たことある? そんなことは一度もなかった」っていうゼンデイヤの台詞もあった。これも使ってほしかったな。

a close up of chloe cherry with pink hair holding flowers

──かなり長い期間セットで過ごしたそうですが、撮影が終わったときはどうでした?

終わったときは目が腫れるまで大泣きした。とにかく感謝の気持ちでいっぱいで、泣かずにはいられなかったの。ハリウッドはセックスワーカーをキャスティングできるし、するべきだ、ということを学んだと思う。セックスシーンを撮るならなおさらそう。最近では型にはまらないバックグラウンドを持つ俳優がどんどん受け入れられるようになっていて、そのおかげで作品がもっと面白く嘘偽りのないものになっている。ハリウッドの外や〈真っ当な〉演技のキャリア以外で何をしていたかは、大して重要じゃないの。

 
──これから挑戦してみたいことは?

アドリブができる作品に参加したい。『アメリカン・クライム・ストーリー』の次のシーズンで犯罪者役をやったりとかね。ホラーに挑戦してみたくてたまらないの。それからコメディの世界にももっと関わってみたい。ボー・バーナムと共演して、全部アドリブの長編モキュメンタリーをつくるとか。すごく愉快に演じられる自信があるの。大まかなプロットとたくさんのアドリブ、それこそが私の得意分野だから。

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