Nobuko Baba

デジタルテクノロジーに刻み込まれた人間の感情―プラダ「シュトゥルム & ドラング プレビュー サービス」

プラダ 青山店で開催中の展覧会「Sturm & Drang Preview Services  シュトゥルム & ドラング プレビュー サービス」。現代のCGI制作プロセスと18世紀ドイツの文芸運動を結びつけたプロジェクトの狙いとは。ギャラリストの南塚真史とモデル/アクターの大平修蔵が対話するi-Dスペシャルムービーをお届け。

by Mugi Tsukahara; photos by Nobuko Baba
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20 October 2021, 12:00am

Nobuko Baba

表参道エリアのランドマークとして強烈な存在感を放ち続けているプラダ 青山店。現在、このガラスの多面体で構成されたユニークな空間で、プラダ財団とgtaエキシビションズ(スイス連邦工科大学チューリッヒ校建築学部にある学際的プラットフォーム)のコラボレーションによる展示プロジェクトが開催中だ。題して 「Sturm & Drang Preview Services シュトゥルム & ドラング プレビュー サービス」。CGI(コンピュータ生成画像)で使用されているデジタルではないプロセスに注目したインスタレーションだ。

今回、この展示空間で対話するのは、ギャラリストの南塚真史とモデル/アクターの大平修蔵。南塚はコンテンポラリーアートギャラリー「NANZUKA UNDERGROUND」のオーナーとして、アートとポップカルチャーが交差する表現を提示し、市場を切り拓いてきた。今回の展示を手掛けたキュレーターたち、ルイージ・アルベルト・チッピーニ(Armature Globale)、フレディ・フィッシュリとニールス・オルセン(gtaエキシビションズ、ETHチューリッヒ校)とも古くから親交があるそうだ。

一方、大平は驚異的な勢いで活躍の場を広げている新世代のモデル。

2020年に友達に勧められて何気なく投稿をはじめたというTikTokは、5ヶ月でフォロワー数100万に達し、現在は470万人を超えた。メンズノンノ専属モデルとして活動を開始して、およそ1年。今年2月にはやくもパリコレデビューを飾った。4月からはアクターとしてTBSナイトドラマ「泣くな研修医」に出演、同時にスピンオフのTikTokドラマで主演を務めている。SNSネイティヴの20歳は、現代のデジタル技術の裏側を扱った今回の展示に何を思うのか。

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Shuzo Ohira and Shinji Nanzuka at the Sturm & Drang Preview Services exhibition

 会場はガラス越しに東京の街が広がる見晴らしのいいフロア。板や台など、そのままの素材がラフに組み合わされた展示物は、通常のプラダのクリーンでミニマルな空気とは異質な雰囲気を醸し出している。

大平「"かっこいい" っていうひとことと……何かが起きそうなオーラはむんむん出てますけど……」

南塚「この展覧会のタイトル、 シュトゥルム・ウント・ドラングにプレビューサービスって言葉がついてますけど、そのシュトゥルム・ウント・ドラングがなんなのかっていうことが、実はこの展覧会を理解するための謎掛けになっている」

現代のCGI作成はすべてコンピュータ上で完結するわけではなく、モーション研究のための撮影やモックアップの作成も欠かせない。この展示では、そういった作業に必要とされる環境を、発泡ポリエチレンの板や結束バンドなど、ホームセンターやDIYショップで売っていそうな身近な素材を使って再現しているのだ。

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DIY Shell

南塚「モーションピクチャーのスタジオを模してるものなんですけど、3DCGの自分の姿をトランスフォームすることができる装置があるとしたら、なんかものすごくハイテクな」

大平「そうですね。そういうものをイメージしてしまいますよね」
南塚「でも実は、こういう本当に自分で作れるような、そのへんのホームセンターで買ってきて作れるっていう」

今回の東京での展示は、進行中のプロジェクトの第2フェーズに位置づけられている。第1フェーズは大学のオンライン講義という形で、2021年2月から6月にかけて開催された。9月から2022年1月にかけてはミラノで展開するそうだ。

南塚「この展覧会を作ったチームは、この物質自体は作品とは呼んでいないんです」

大平「はい」

南塚「作品ではなく何なのかってことが大事なんですけど、キュレーターたちがスイス工科大学の学生たちと一緒にこの物体を作ってるんですね。研究成果って言うんですかね。これを作ることが結果よりも大事っていう」

パーティションや環境の選択が物理的コンテンツのデータベースとして機能するという考えかた、またデジタルテクノロジーと現実の関わりという観点から、このプロジェクトのインスピレーションのひとつとなっているのは、80年代に一斉を風靡したサイバーパンクのカルチャーだ。むき出しのコードや古いデジタル機器が散らばる空間に、大平もそうしたイメージを連想したようだ。

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Capsule

大平「ハッカーの部屋みたいな感じですよね」

南塚「あ、いい線いってる」

大平「ほんとですか。映画のワンシーンにありそうですよね」

南塚「うん。ここにあるパソコンもすっごい古い。ちょっと面白いのが、現在の時間は1984年7月27日って書いてあるんです。われわれは今、SF的に1984年にいるっていう仕掛けがここに隠されている。この環境のテーマになってるのは、ウィリアム・ギブソンっていう小説家が書いた『ニューロマンサー』という小説。千葉がとにかく舞台設定のテーマになっていて、ハッカーをテーマにしてる」

大平「あ、じゃあ僕あたりですね!」

南塚「そう、あたり」

大平「やった!」

南塚「その小説にカプセルホテルが出てくるんですね。それをシミュレーションしてこれを作った、っていうのが彼らの設定になってます」

それでは、タイトルに掲げられている「シュトゥルム & ドラング」とは、何を意味しているのだろう?

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南塚「まずシュトゥルム & ドラングっていう言葉が、18世紀ドイツにおける文学運動の名前、総称です。日本語で言うと "嵐と衝動"。18世紀以前のヨーロッパの世界っていうのはキリスト教の支配下にあります。理性とか規律とか、そういうものが美徳とされた時代が中世」

大平「はい」

南塚「それに対して、もう少し人間そのものの不確かさみたいなものが、近代のはじまりとされていて。その中間に位置する時代に、このシュトゥルム & ドラングいう文学・芸術運動が起きた。そのいちばん中心になった人がゲーテっていう小説家で。『若きウエルテルの悩み』っていう小説があって、婚約者がいる女性に恋をして、失恋をして死んじゃうっていう」

大平「婚約者がいる人に恋をする。で、振られて、自殺してしまう……?」

南塚「まあ救いのない物語なんだけど(笑)。キリスト教の世界では、そもそも婚約者がいる人に恋をすることもタブーだし、ましてや自殺をすることもタブー。それを文学として描いて。そのこと自体が、ある種、中世的な価値観に対する否定であり、人間の感情みたいなもの、エモーショナルな衝動のほうが大事だっていう。それがシュトゥルム & ドラング。さらにこの展覧会には "プレビューサービス" っていう言葉がついてます。その中身を見せる(ということ)。すごく難解で、科学のハイテクな世界を見せようとしているけれども、実は中身は割と人間の情というか不確かなものによって構成されている、ってことがタイトルに込められてる」

テクノロジーがいくら進化しても、それを使っているのが人間である限り、そこで生まれてくるものは人間らしい情緒や生理からは逃れられない。たとえデジタルメディアを介した情報であっても、私たちは無意識のうちにつるりとした手触りの裏にある人々の息吹を感じ取っているのかもしれない。

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Podium

南塚「どうでした?」

大平「うーん、最初はやっぱり難しかったですね。いざ蓋開けてみると人間的な感情とかがあって、すごく楽しかったです」

南塚「基本的になぞなぞなんだよね、これって。アート的な手法を用いて、人が考えることが大事っていうことが、実はこの展覧会でキュレーターたちが言いたかったこと。人間が常にいるんだよっていうことが、この展覧会の大事なテーマなのかなっていう」

南塚「やっぱり僕もかっこいいとか美しいとかっていう感情でモデルの仕事をしてるので、そこで共通する感情があったのが嬉しかったですね」


Sturm & Drang Preview Services
プラダ 青山店
東京都港区南青山5-2-6
展覧会開催時間:午前11時~午後8時
開催期間:2021年7月22日から11月26日まで

STARRING
Shinji Nanzuka, Shuzo Ohira

i-D JAPAN
Creative Producer  Emi Arai
Project Manager  Margarett Cortez
Supervisor  Kazumi Asamura-Hayashi

CREDIT
Director Nobuyuki “Bob” Miyake (Gazebo Film)
Director of Photography Chris Rudz
Styling  Shohei Kashima (W Tokyo)
Grooming Yosuke Nakajima (Perle-management)
Video Editor Akira Kamitaki

Still Photography Nobuko Baba
Text Mugi Tsukahara

Production Manager  Kyo Shoji
2nd Camera  Vinod Vijayasankaran
Sound Tsubasa Iwama
Styling assistance  Sumile Uegane
Production assistance  Ayano Nakagawa, Soh Suzuki

Special Thanks
Luigi Alberto, Fredi Fischli, Niels Olsen
gta exhibitions, ETH Zurich, Fondazione Prada

Music Courtesy of Audio Network

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prada