サッカー少年からスター選手へ──フィル・フォーデン interview

マンチェスター・シティFCのスターが、自らの華々しい成長を振り返る。

by Jacob Davey; translated by Nozomi Otaki
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30 June 2021, 1:00am

ストックポート郊外、エッジリーのホールで、フィル・フォーデンはオレンジを蹴りつけている。サッカーボールが見当たらず、セットの鉢に盛られたフルーツに目をつけたフィルは、オレンジでリフティングを始め、Nikeのコルテッツを果汁まみれにしていた。

今日は貴重なオフで、彼がここ最近華々しい活躍を見せている試合は休みだ。近年もっとも活躍が期待されるイングランドの選手への道をひた走り、生まれて初めての雑誌の表紙撮影を控えた今も、幼い頃からあいかわらず、フィル・フォーデンの頭の中にはひとつのことしかない。それは、ボールを蹴ることだ。

ホールは1980年代からほぼ使われていないようだったが、今日のフィルのルックは、完璧にその時代に溶け込んでいた。「リフティングをするには最悪」なスニーカーに、Martine RoseのジーンズとPringle of ScotlandのこぎれいなVネックセーターを合わせたフィルは、元U-17イングランド代表というより、TVドラマ『This Is England '86』のエキストラのようだ。

マンチェスター・シティFCの熱狂的ファンから〈ストックポートのイニエスタ〉と称される彼は、試合を経るごとに、ますますその名にふさわしい存在へと近づいている。ボールは常に自分の足元にあるという自信のもと、何にも縛られず自由に自己表現するプレースタイルは、確かにかの小柄なバルサのレジェンドによく似ている。

フィルはまだ、ケヴィン・デ・ブライネのような『FIFA』のレーティングも、セルヒオ・アグエロのような国際的なキャリアも獲得していないかもしれないが、プレミアリーグ優勝候補の世界クラスのチーム随一のプレイヤーとしてめきめきと頭角を現し、今や彼らと肩を並べる存在となった。

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Phil wears jumper Pringle of Scotland. Polo shirt Anderson & Sheppard.

「シティのいちファンから選手への変化は、本当にあっという間だった」とフィルはアグエロがゴールを決めるのを眺めていたサッカー少年から、彼とともにプレーする選手への目覚ましい成長を振り返る。

「アカデミーにいたと思ったら、次の瞬間には自分が応援していた選手たちと一緒にプレーしていた。今もクラブの中で自分をつねって、『マジでプロとして彼らとプレーしてるよ!』って思うこともある。だんだん慣れてきたけど」

「だんだん」というのは、かなり控えめな表現だ。フィルはアカデミーの新星から一人前の選手へと成長する過程で、与えられたあらゆるチャンスをものにしてきたが、それにはプロ意識と忍耐力が不可欠だった。監督のジョゼップ・グアルディオラに選ばれるたびに実力を証明してきたいっぽうで、あまり出場機会を与えられなかった時期もあった。

しかし今シーズン、フィルは自らのあらゆる可能性を引き出そうと奮闘している。Twitterでフットボールファンに与えられた〈スターボーイ〉としてのステータスは揺るぎないものになり、評論家から授けられた〈一世代にひとりの才能〉の称号も、ひと試合ごとにますます現実味を帯びている。

シーズンを通して能力を存分に発揮し、絶対的にプレミアリーグのタイトルにこだわり続けた彼は、キレのある精密なプレーでリヴァプールやチェルシーなどのライバルを切り裂いている。

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Jumper Pringle of Scotland. Polo shirt Anderson & Sheppard.

さらに、チャンピオンズリーグ準々決勝ファーストレグの対ボルシア・ドルトムント戦でも、終了間際に決勝点を決め、チームを窮地から救う。続くセカンドレグで、ドルトムントが猛攻を仕掛けるも、再び得点を決めて準決勝への道を開いたのはフォーデンだった。試合終了のホイッスルが響くなか、同じく世界で活躍する若きスター選手、アーリング・ハーランドは、フィルの耳元で「ゴールを決めるべきは僕だった」と囁いたという。

こんな活躍を繰り広げている彼はさぞ鼻高々だろう、と誰もが思うだろうが、それは真実にはほど遠い。写真のためにポーズはとっても、彼は今日のように、ありのままの自分でいられる故郷での時間を心から楽しんでいる。

「ここの人たちは、子どもの頃と同じように接してくれる」と彼は衣装を着替えながら、満面の笑みを浮かべる。「みんなが知ってる、ただのストックポート育ちのフィルとしてね」

撮影現場からほど近い、グレンヴィル・ストリートの公営住宅団地で育ったフィル。そんな彼の背中を押した人びとは、この国でもっとも目覚ましい活躍を見せる若きスターについて訊かれたら、彼を唯一無二の存在へと押し上げたのは、生まれながらの圧倒的な才能だけではなく、一流のメンタリティだ、と口を揃えるだろう。

ひたむきさと努力こそが、自分自身をこの高みへと押し上げ、その地位を確固たるものにしたふたつのカギだ、と彼は考えている。「よく言われていることだけど、人生で成功するためには、このふたつをきちんとこなさないといけない。僕はいつも、今のポジションを最大限活用できるように、トレーニングの後も必要以上に練習してきたんだ」

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Jumper Pringle of Scotland. Polo shirt Lacoste. Jeans (worn throughout) Martine Rose. Belt (worn throughout) Village Leathers.

今日改めてエッジリーに戻り、バームケーキから彼のスキンフェードヘア(※グラデーションの刈り上げ)まで、あらゆる話題について地元の人びとと会話を交わたフィルは、絶えず笑顔だった。彼のルーツが日々の活力になっていることは明らかだ。

 「生まれ故郷が、試合で目指すものを達成する力を与えてくれる。毎日ストリートで仲間とフットボールをやったり、家にいるときはずっとリフティングをやったり、今考えるといつもフットボールに夢中だった。とにかく、フットボールが好きだって気持ちが大きかったんだ。朝起きると、トレーニングがしたくてたまらなくなる。故郷に帰ったときは、僕の試合をもっと良くしたいと思ってる人たちの声に耳を傾けるようにするんだ」

 彼の地に足のついた、謙虚な振る舞いは、セットにいる全員に安心感を与えてくれた。撮影にふさわしいムードをつくりだすスピーカーはなかったが、フィルはシャッター音が響くなか、スマホでジャ・ルールをかけてくれないか、と私にリクエストした。彼が生まれた2000年にリリースされた「Put It On」だ。

 新たな世代のシティファンの憧れの的となっていることについて、プレッシャーはあるのだろうか。「そうでもないよ。ただ自分の試合をして、自分の力を信じるだけ。すべての試合で力を発揮できるし、すべてのチャンスをものにできるって信じてるから」と彼は自信に満ちた表情で語る。

 しかしこの夏、彼は今まで以上の期待を背負うことになる。イングランド全体が期待している。この国のフットボールファンは、パンデミックによって1年延期になった欧州選手権での彼の活躍を心待ちにしているのだ。

 イングランドのファンは、大きな試合前の盛り上がりに関しては定評がある。フィルもかつては、その熱狂の渦に呑まれていたひとりだった。「特によく覚えてるのは、2006年のイングランド代表の試合。スコールズ、ジェラード、ルーニー……。才能豊かな選手ばかりだった。あれだけの選手が揃っていたんだから、もっと上に行けたはず」

 黄金世代の苦い思い出から、イングランドのファンは教訓を学んだかもしれないが、今の試合の意味合いは、当時とはまったく異なる。また、今の選手陣にはさらに眼を見張るものがある。フィルをはじめとするイングランド代表選手たちは、これまでの世代とは異なる活動に励み、ファンやファンの想いに触れ、この国のフットボールの未来に、まさに時代を象徴するような影響を与えている。

 フィルのチームメイトであるラヒーム・スターリングは、英国メディアで声高にレイシズム反対を呼びかけながら、自身のプレーを通してもそれを推し進めている。確固たる理念を掲げ、リーダーシップのあるスターリングは、フィルにとって、フィールドの外でも信頼の置ける人物だ。

 「ラヒームはすごいよ。更衣室をシェアするのが彼で本当に良かった。リヴァプールにいた若い頃から、僕と同じようなことを体験してきた選手だから」とフィルは自身の経歴にも触れながら語った。「彼は新人時代からずっとメディアに追われてきた。僕もそうだけど、彼ほどじゃない」

 

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T-shirt vintage courtesy of Classic Football Shirts. Trainers Nike.

「何かで助けが必要なときは、いつも彼にアドバイスを求めるようにしてる。彼はリーダーなんだ。いつも自分が信じるものを支持し、それを世界に伝え、決して声を上げることを恐れてはいけない、と示してきた」

 2021年、フットボール選手の影響力は、単に彼らの仕事に留まらないということを証明したもうひとりの選手が、マーカス・ラッシュフォードだ。貧困家庭の子供への食糧支援に取り組むべく、政府に働きかけて政策を変更させ、大英帝国勲章を授与された彼は、マンチェスターのライバル選手ではあるものの、フィルが影響を受けた人物のひとりだという。

 「フットボール選手は傲慢だと考えるひともいる」とフィル。「でも、世間のイメージを変え、選手はみんな同じわけじゃないと証明するために、僕たちが何をしてきたかにも目を向けてほしい。彼の子どもたちのための取り組み、政治への働きかけ、ピッチの外での活動は本当にすばらしい。僕もすごく刺激を受けたよ」

 「ひとりの選手がこういうイメージを変えられるという事実は、僕たちの世代の選手にとってすごく励みになった」とフォーデンは続ける。「僕たちも同じように世界のために役立つことができると知って、みんな彼を尊敬している」

 ラッシュフォードがフィルの地元のコミュニティに与えた影響も実感しているという。「彼の影響は文字どおりいろんな場所で目にするよ。あちこちの壁に〈マーカス・ラッシュフォード〉とスプレーで書かれていたり。彼は若者にとって、この国が誇るロールモデルになったんだ」

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Jumper Pringle of Scotland. Polo shirt Lacoste. Socks (worn throughout) Specific Object.

若くして父親になったフィルは、次の世代を導くことへの強い責任感を持っている。「子どもたちには、僕の為すことすべてを誇りに思ってもらいたい」と彼はいう。「毎日、ずっと夢見てきたことをやることで、みんなにも大きくなったら自分が幸せになれることをやってほしい、と働きかけてきた。誰もが自分の望む場所に立てるとは限らないけれど、全力で臨んだっていう実感があれば、きっと満足できるはず」

この先フィルを待ち受けるのは、さらなるタイトル獲得だけではない。イングランド代表にはジュード・ベリンガム、ジェイドン・サンチョ、ブカヨ・サカ、メイソン・マウントなど、世界で存在感を示し始めた若き選手たちが揃うだけでなく、欧州選手権では、大挙して押し寄せるファンが再び会場に戻ってくる。

移民と多文化主義に負うところの大きいイングランドのチームが、英国のEU離脱によって分断された英国を再びひとつにした2018年の夏は、誰も忘れられないだろう。連帯意識というものをあれほどはっきりと感じられたのは、多くのひとにとって人生初めての体験だったはずだ。そして今、ロックダウンの緩和にともない、絶望的な1年を経て、ようやく前向きなエネルギーと希望の兆しが見えつつある。

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Jumper Pringle of Scotland. Polo shirt Anderson & Sheppard.
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Jumper Pringle of Scotland. Polo shirt Anderson & Sheppard.
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T-shirt vintage courtesy of Classic Football Shirts.
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Jumper Pringle of Scotland. Polo shirt Anderson & Sheppard.
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Credits


Photography Alasdair McLellan
Styling Max Pearmain

Hair Matt Mulhall at Streeters.
Make-up Anne Sophie Costa at Streeters using M·A·C Cosmetics. Photography assistance Lex Kembery and Simon Mackinlay.
Styling assistance Emma Simmonds.
Production Ragi Dholakia Productions.
Casting director Samuel Ellis Scheinman for DMCASTING.

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