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      fashion Aya Tsuchii 19 May, 2017

      坂部三樹郎と青木正一が語る『MIKIO SAKABE × ∀iDOL style book』

      デザイナー坂部三樹郎とフォトグラファー青木正一が初めてタッグを組み、製作を手がけたムック本『MIKIO SAKABE × ∀iDOL style book』。その発売を記念し、東京カルチャーを体現し、服の力を魅せつけた渾身の1冊の製作秘話に迫る。

      MIKIO SAKABEのデザイナー、坂部三樹郎と『FRUiTS』の編集長兼フォトグラファーの青木正一によるコラボが実現。4月15日(土)に発売された「MIKIO SAKABE × ∀iDOL style book」は、MIKIO SAKABE2017年春夏コレクションをメインに坂部自身がスタイリングを手がけ、青木正一が原宿で撮影をした。2人の関係性や今回の本に込められた思い、そして舞台裏の秘話を訊いた。

      今回初めてのコラボとのことですが、2人の出会いや今回の出版に至った経緯を教えてください。
      青木正一(以下青木):坂部さんと知り合ったのは最近です。ラフォーレ原宿で開催したSAKABE MIKIOx Jenny Fax2016年春夏合同ショーを見て以来、気になっていました。坂部さんは世界で注目されている数少ない日本人デザイナーのひとりだと思います。日本のファッション界を引っ張っていく存在として注目していました。彼のデザインはアカデミックな技術がある上、挑戦的。そして、アニメやアイドルを積極的に取り入れたり、幅広い視野を持っている。捉え方も日本の秋葉原とかではなく、ヨーロッパの人がひとつの文化としてアニメやアイドルを解釈し、取り入れているような表現方法だなと。本物だと直感で感じましたね。彼の2017年春夏コレクションはテーラードの再構築なのかな、モデルもレベルの高い外人を使っていて。この辺で実力を見せとくか的なのを感じて。某パーティで坂部さんに会って、あのコレクションについて坂部さんに「あれは日本人も着れる服?」と聞いたら「着れるよ」と答えてくれました。そこから具体的な企画が進んでいきました。今、雑誌業界の勢いが衰えていることもあって、書籍の企画をしていたんですよ。だから今回は雑誌ではなく、本という形での出版になりました。

      なぜアイドルにフィーチャーしたのでしょう?
      青木:『idp magazine』という、アイドルの私服スナップを撮りためた雑誌を作っているので、ストリートスナップの代わりに坂部さんのコレクションピースを着せるアイデアを出しました。アイドルの中でファッション系の子が結構いて、彼女たちに坂部さんの服を着せたらどうなるのかな?と。それにみんな日本人体型なので、服の見え方がどう変化するのかも見たかったんですよね。
      坂部三樹郎(以下坂部):ショーに起用したモデルの大半が外人だったので、あえて日本人に着せてみることに興味がありました。今まで撮り納められたストリートスナップからストリートの時代の流れを見たとき、その延長線上に現代のアイドルが存在している気がします。僕にとって、街にいるカリスマ的存在の女の子たちとアイドルを比べると、そこには差がないんです。現代の象徴である、若い子たちの憧れ的存在のアイドルと原宿というファッションの街を合わせ、今の時代を表現したいと思いました。

      スタイリングはすべて坂部さんが手がけたとのことですが、アイドルの個性やスタイルを重要視しましたか?
      坂部:そうですね。アイドル自身に寄せて、スタイリングを組みました。45人もいたので初対面の人もいましたが、これまで何度かアイドルの衣装も手がけているので、知っている子も多くて。その子たちはどういう子が知っているので、スタイリングもしやすかったです。

      2017春夏に加え、過去のアーカイブも登場していますよね。今回チャレンジしたことや、スタイリングのポイントは?
      坂部:ここまでシェイプを意識し、こだわったのは初めてです。2017年春夏はシェイプのチェンジに重点を置いていました。基本的に、アイドルの衣装や日本で可愛いと言われる服にはシェイプがなく、テキスタイルや柄が重要。けれど、今回は見せるポイントをシェイプにずらしボディラインを変えているので、いつも見ている人も"なんか違う"と、違和感を持つはずです。そのズレがポイントなんです。アーカイブはアクセントのためにランダムに選びました。アイドルの体型や個性は活かしましたが、似合う服を選ぶというより、2017春夏にマッチするピースを少しプラスしました。

      今回の出版は、MIKIO SAKABEブランド設立10周年記念ということも意識しましたか?
      青木:始めは10周年記念で何かやりたいと話していたけれど、企画が進むにつれて、だんだん変化していきましたね。
      坂部:そうですね。今回は新しい見せ方をしたかった。ファッションは徐々にマニアックなゾーンに足を踏み入れているように見えます。Alexander McQueenのときのように、ファッション素人も面白いと思うようなデザインは減ってきている。最近のデザイナーを見ていると伝統工芸のようであり、ファッション感度の高い人にしか面白さが伝わらず、とても難しいんですよね。一般の人には理解されにくく、一般の人とブランドとの距離があまりにありすぎる。それに、年に2回発表をするというプレタポルテのシステムももう限界に見えます。今のシステム自体を変えるというのがこれからの出方ではないでしょうか? システムの面で言えば、僕の2017年春夏コレクションの発表方法は、従来のシステムでした。ファッションウィークの中で発表し、メディアやショップに見てもらう、言わばBtoB。でも、この本は、BtoCなんですよ。本を出すことによって、一般の人に手にとってコレクションピースを見てもらえる。特に東京でしか発信できないことでもあるので、そういった面でもやり甲斐がありました。

      モデルセレクトに際して基準はありましたか?
      青木:45人キャスティングしたのですが、アイドルとのつながりが深い『idp magazine』の柏野さんにキャスティングしてもらいました。今回は、アイドルの中でもファッション好きな子やファッション寄りの子を選びました。今回のタイトル『MIKIO SAKABE × ∀iDOL style book』の「∀(ターンA)」も選抜の意味です。これ、僕が考えました。

      というと、具体的にはどういう意味でしょうか?
      青木:「∀」は数学の集合論で使う記号です。集合の中で、ある条件を満たす要素を表します。ファッションという条件で、アイドルを選抜したっていう隠れテーマなんです。今までの『idp magazine』では条件なしでグループのメンバー全体と撮っていたのですが、今回はファッションブックなので、ファッション選抜にしました。

      今回面白かった点を教えてください。
      青木:坂部さんはアイドルとのつながりが強いので、今まで撮影したことのないアイドルも撮影できて、とてもいい経験になりました。そして何より、僕は今回洋服の持つ力を間近で感じることができました。今はチープな服が大量に世の中に存在している時代なので、服の力を忘れていたのですが。アイドルたちが私服で来たときと、坂部さんの服を着たときとでは、表情も輝きも全然変わるのを見て、服の力を思い出しました。本人たちがどう感じていたのかわからないですが、明らかに内面が変化して、オーラみたいなものが強烈に出る。良い服を着るということは、そういうことなんです。
      坂部:僕ら(服を作る側)もたまに忘れちゃうことなんですけど、服は人にとってとても身近な存在なんですよね。環境の変化は人生を変えます。服は人生に直結した環境です。だから、服を着るってことは人生に関わること。やみくもにただ安いからという理由で服を選ぶのではなく、ちゃんと気をつけて選ばなければならない。ちょっとした誤差で人生は変わるので、ちゃんと選ばないと痛い目にあうと思う。それは服にかぎらず、食べ物も一緒。現代にものは溢れていて、コンビニの食べ物だっていいやって食べるけれど、そのうちそれが自然と生活に浸透してしまうんですよね。後々考えてみると、人生全体のとても大切な部分を占めていたりして、それって人生を幸せにしないんじゃないかって思うんです。今回彼女たちに洋服を着てもらって、彼女たちの何かがちょっと変わったはずです。普段黒を着ている人が白を着たら気分も変わるといったように、ちょっとしたことかもしれないけれど、人生はそうやって変化していくもの。こういうファッションの伝え方もありだと思います。

      今回の企画で、発見したことや気づいたことはありましたか?
      青木:やはり、一人ひとりの変化ですね。私服で現れたときや撮影後に私服で帰っていく姿とは別人のようで、絶対坂部さんの服買ったほうがいいよって思っちゃいました。彼女たちが坂部さんの服を着て他の現場に行ったら、絶対に現場の多くの人の目を引くと思うし、スタイリングのメインにしたら彼女たちの人生もきっと変わりますよ。それくらい変化していました。
      坂部:アイドル総勢45人はボリュームがあり、完成した本を見てみるとアイドルの全体像があいまいに見えます。それぞれが持つ方向性や多様性にフォーカスせず、アイドル全体の動きやアイドルとはこうだと言えない状態を捉えることができました。改めてアイドルってとても面白いジャンルだなと感じました。これからもアイドルに関わらず、他の業界やジャンルとの関わりを深めていきたいですね。固執するのではなく、互いの関係性を築いたり、今まで関わっていない関わり方を見つけるのが業界を盛り上げる方法だと思っています。

      ルーツやインスピレーションを明かすことも多いと思いますが、全体像をあいまいに表現することの利点とはなんなのでしょう?
      坂部:定義できない何かを見つけるのは大事です。なぜなら、わかった時点で消費の対象になってしまうから。消費されすぎると価値はなくなっていく。それに、何か謎がないと売れない。100%理解した時点で、人の興味は薄れていくもの。「ファッションってこうだよね」というよりも、「何でかわからないけど、何か気になる」っていうほうが中毒性は生まれます。「何もかも明確にしすぎないこと」が今の業界に足りないことだと思いますね。

      最後に、本の見どころを教えてください。
      青木:実は表紙が46種類もあるんです。45人それぞれを表紙として印刷したものと、45人の画像全部を重ねて完成させたもの。45人の画像を5%くらいの透明度にして重ねたらああなったんです。今まで46種類の表紙を刷った本は他にないから、これギネスに申請できると思います(笑)

      自身のブラントを立ち上げ、10年が経つ坂部三樹郎。これまでもファッションを中心に、様々なジャンルの人と積極的に出会い、コラボを重ねてきた幅広い視野の持ち主。海外での経験を生かし、日本のファッション界に新しい風を次々と吹き込む日本のファッション界のパイオニアだ。フォトグラファーの青木正一は、原宿ファッションが生まれて間もなく『FRUiTS』を創刊し、国内外でストリートスナップという新たなジャンルを定着させた、言わばストリートスナップの生みの親。そんな2人の独特な視点が融合された『MIKIO SAKABE × ∀iDOL style book』は、2人のファッションの醍醐味が映し出されているかのよう。ファッションやメディアへの理解の深さ、そしてそこから派生していく生き方そのものへの追求は聞いていて飽きることはない。すでに新しい企画も頭に浮かんでいるという。今後、彼らのクリエイティブなマインドから何が生まれてくるのか。今から待ち遠しい。

      関連記事:FRUiTS編集長が語る、原宿の20年

      Credits

      Text Aya Tsuchii

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      Topics:fashion, fashion interviews, mikio sakabe, shoichi aoki, fruits, idol, harajuku, ∀idol style book, idp magazine

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