Photography Mitchell Sams

ノイズと激情:A-COLD-WALL* 19AW

ショーの主役はロットワイラー犬、鏡のオブジェ、水中を這うパフォーマーたち。

by Felix Petty; translated by Nozomi Otaki
|
21 January 2019, 11:55am

Photography Mitchell Sams

サミュエル・ロス率いるA-COLD-WALL*がコレクションに参加するのは、今回がまだ3度目だが、彼はすでにアーカイブをまとめた回顧録を出版している。このことから、彼のブランドがどれほどのスピードで一大ビジネスへと成長を遂げたかがわかるだろう。サミュエルのファンたちは、彼が手がけるあらゆるアイテムを買い求め、彼が携わるあらゆる活動に惜しみなく出資する。サミュエルはかつての師であるヴァージル・アブローと同じようなファン層を築き上げた。 ハイファッションとストリートウェアを隔てる境界線が消えつつある今、彼がつくりだす服は、そんな時代に育った若い消費者たちに、率直に訴えかける力を持っている。

昨シーズンのコレクションは、サミュエルにとって大きな転機となった。彼は自身のアイデアを広げ、ストリートウェアとハイファッションの交差を、コンセプチュアルで演劇的な表現にまで押し上げた。計算し尽くされた美しさと、ブルータリズム建築の影響は、引き続き今シーズンの彼のデザインにも表れている。

A Cold Wal AW 19

昨シーズンのショーを締めくくったのは、灰色のゾンビたちがランウェイに白く大きな箱ひとつを押し出し、バラバラに壊すパフォーマンスだ。箱の残骸からランウェイへと這い出たのは、全身を真っ赤に塗られ、ぬめりのある羊水のような液体にまみれた、ヘルメットをかぶる全裸の男。解放され自由になること、そして私たちの創造性を阻む制約の消滅を表しているような演出だった。今シーズンも、サミュエルは刺激的なショーを予告していた。ショー当日に送られてきたメールの注意書きには、「すべてのパフォーマーはいかなるときも私たちの管理下にありますので、ご安心ください」と記されていた。

A-COLD-WALL* 2019年秋冬コレクションのタイトルは〈Birth.Organ.Synth.(誕生、臓物、シンセ)〉。このタイトルが表すのは、プレスリリースの言葉を借りれば「今まさに始まったばかりの時代、その進歩的な時代精神を表すコンセプチュアルな絵画」「蒸留のコラージュ」「記号的な衣服の規範」、そして「革新的な視点によって、絶えずつくり変えられるトーテム」。具体的にいえば、美しいコート数着、様々なテクニカル素材、バラバラにした衣服を張り合わせて再構築したアイテム、ボディにあいた窓のような穴、彫刻的なフォルムやカーブを描くシルエット、観客の購買意欲を掻き立てる、見事なつくりのニットウェアだ。

A Cold Wall AW19

カラーパレットは、Helmut Langを思わせる鮮やかなオレンジと、いかにも英国らしいコンクリート・グレー。どのアイテムも素晴らしかったが、それ以上に強烈な演出のせいで、あまり印象に残らなかった。

暗闇に浮かぶランウェイはコンクリート製で、両脇の客席とのあいだには水が張られている。ランウェイの真横には、巨大な鏡のオブジェ。抽象的で骨が軋むようなノイズが絶えず大音量で鳴り響くなか、2グループに分かれたパフォーマーが水中を這う。その横でゆっくりと歩を進め、途中で後ろを振り返るモデル。ランウェイの反対側に繋がれ、吠え立てるロットワイラー犬…。

このようなシンボル、ノイズ、激情はいったい何を意味していたのだろう。結局のところ、ショーの演出は、服づくりそのものから心理的、物理的にかけ離れているように感じた。実験的なショーを続けようとするサミュエルの姿勢、彼がロンドン・ファッションウィーク・メンズにもたらした独創性やオリジナリティは賞賛に値するが、彼の緻密なデザイン、細部へのこだわりに焦点が当てられなかったのは残念だ。

A Cold Wall AW19

This article originally appeared on i-D UK.