Taro Umebayashi, Musician. "The reason I chose this place is that I can get a full view of the surrounding buildings. Whenever I visit this place, it is at predawn time. The inspiration that I get in the empty space at this time is what is important to me. It is special for Tokyo because this place always seems to be the eye of a typhoon."

住人と観光客のあいだ:エイミー・スーと巡る「東京」

50人の友達に「あなたにとって特別な場所の地図を描いて」と頼み、そこを訪れて写真を撮る——そんなプロジェクトを進めるエイミー・スーと東京の街を巡った。

by Felix Petty
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16 January 2017, 8:40am

Taro Umebayashi, Musician. "The reason I chose this place is that I can get a full view of the surrounding buildings. Whenever I visit this place, it is at predawn time. The inspiration that I get in the empty space at this time is what is important to me. It is special for Tokyo because this place always seems to be the eye of a typhoon."

「この場所を選んだのは、東京の街が見渡せるから。ここに来るのは、ほとんどが夜明け前。夜明け前の誰もいないこの空間で得られるインスピレーションを大切にしています。東京にとって、ここは台風の目のようなもの、特別な場所です」—— 梅林太郎 音楽家

エイミー・スー(Ami Sioux)の最新写真集『Tokyo 35˚N』は、日本の首都・東京を詩的に映し出した作品集だ。フランスの思想家ギー・ドゥボールが唱えた「漂流」の観点にインスパイアされ、感情と偶然に導かれるまま街を漂う様子を写真に収めた。この作品のため、友人50人に「あなたにとって特別な場所の地図を描いて」と依頼したエイミーは、地図に書かれたそれらの場所を訪れ、そこで写真を撮った。桜はもちろん、壮観の高層ビル群や荘厳な神社が捉えられているが、他にもスケートパークやショップ、レストラン、カフェ、閑静な住宅地に走る道路や公共交通機関での出来事なども多く写真に収められている。

「自分で探索して回って、東京の"心理"を深いレベルで理解したいと思ったんです」とエイミーは説明する。「この写真集には、普通の観光体験を超えた風景が広がっていて、東京という街のより温かい視線が伺える内容になっています」

『35˚N』は、静かな詩の世界と、ともすれば見逃してしまいそうなささやかな感情のパワーを織り込んだ世界になっており、きっとあなたはそこに、東京の新たな一面を垣間見ることになる。どのスナップショットもデリケートで温かく、オリジナルで、ハッとするほど美しい——これは東京のポートレイトだ。

2013年から2016年までの3年間を費やして撮りためられた写真は、四季の移り変わりや街の変貌もそこに捉えている。エイミー自身に、インスピレーション源や体験について、そしてこのプロジェクトがもたらしてくれた驚きの瞬間について聞き、また彼女にお気に入りの作品数点を選んでもらった。

Anders Edström 写真家 「これは多摩川。最高の散歩道」

このプロジェクトを思いついたきっかけは? 場所と写真と詩で街を案内するというアイデアはどこから?
2000年、私はベルリンに住んでいました。友達の多くはアーティストで、みんな倉庫のようなスペースで暮らしていたんですが、パーティを開いたりするときには彼らの手描きの地図を頼りにそれら倉庫を探して行ったんですね。気づけばたくさんの手描きの地図がうちにあって、見ているうちに「楽しかった思い出を収めたアルバムのようだわ」と思ったんです。
あの頃はギー・ドゥボールの作品と「漂流」のコンセプトに影響を受けていました。「目的もなく、ただ視覚的に、心理的に、感性的に訴えかけてくるものに導かれるまま街を彷徨う」というテーマに強く惹かれていたんです。
そこで、ベルリンの知り合い50人に「あなたにとって特別な意味を持つ場所の地図を描いて」とお願いして、もらった地図を頼りにそれらの場所を巡り、写真を撮ったんです。ポートレイト作品の延長線上にある世界観だと感じましたね。2000年にベルリン版を完成させたんですが、結局出版社が見つからず、日の目を見ませんでした。その後、リンダ・ビョーグ・アーナドティル(Linda Bjorg Arnadottir)とのコラボレーションで『Reykjavik 64˚N』が生まれ、2010年にはOFRとともに『Paris 49˚N』をリリースしました。
詩の部分に関しては、東京版の序文をマーク・ボスウィックに書いてもらいました。マークとは1990年代後半から友達で、彼は私の写真作品や音楽、詩の世界に大きなインスピレーションを与えてくれているひとです。今回、彼が詩を寄せてくれたことはとても光栄なことでした。

「これは原宿駅から2分ほど歩いたところにある明治神宮。東京のど真ん中にこれだけの緑があるのは素晴らしいこと。南参道と北参道のあいだは特に美しい」—— Yoshiko EdströmPR

このプロジェクトに東京を選んだ理由は?
東京はパリと同じく、歩いて巡るべき街です。だから写真に収めたいと思ったんです。東京でも手描きの地図をいくつかもらう機会があったこともあり、「次は東京で」と思い至りました。東京はとても複雑な街で、住所をもらってもそれだけを頼りに目的地へたどり着くことは難しく、手描きの地図が必要になるときがあるんです。
東京は「丁目」や「番地」など、上から見て「この家とこの建物をひとつのグループに」と区画を決めたように、住所がブロック分けされているんですね。東京での撮影を重ねるにしたがって、私の西洋人的な「直線的考え」が進化していくように感じました。

「これは東急デパートの屋上。古く錆びついた、ピンクで物悲しい子ども用の遊び場があって、そこにはキティちゃんやドラえもんがいます。音楽が流れているんですが、それがまたこの空間に寂しさを生んでいます。最初に私をここへ連れてきてくれたのは母でした。渋谷駅の上にこんなアミューズメント・パークがあるなんて思いもしませんでした。学校の放課後に友達とここに来るのが好き。子どももほとんどいないし、東京の喧騒から離れることができるから。アイスや綿あめも売ってるんです。ピンク色の錆びついたキティちゃんの乗り物に乗っていると、なぜかとても幸せに感じて、何時間でも時間を潰せます。もうひとつ——このビルを守る小さな神社も、この屋上にはあるんですよ」—— Tenko Nakajima アーティスト

このプロジェクトを開始する以前にも東京へ行ったことがあったのでしょうか? そして今回の撮影で初めて気がついた東京の一面について教えてください。
1999年、『Vogue Japan』の仕事でカメラマンのアシスタントとして日本に来たことがありました。映画『ロスト・イン・トランスレーション』そのままの経験をしましたね。パーティやナイトライフ、カラオケ、神社……映画のような世界だと感じたし、だからこそ『ロスト・イン・トランスレーション』を観たときには共感しっぱなしでした。
そしてその後数年すると、独り立ちしたカメラマンとして『Vogue Japan』の撮影で来日する機会が増え、いわゆる"東京"を知ることになりました。でも、私はもっと深くこの街を知りたいと感じたんです。何度も来日して、その度に「もうちょっといさせて」と頼み、知り合いのつてでたくさんの人に地図を描いてもらって、少しずつ写真を撮りためていきました。自分でアパートまで借りて、自分の足で街を歩き回って、自炊もして——ちゃんと東京の街で生きて暮らしたんです。ここで見つけた「東京」は、私にとって第3の故郷になりました。そしてこの写真集を通して、心で繋がれる友達が東京にたくさんできました。

「これはゴールデン街。戦後に栄えた歓楽街で、昔ながらの小道にアングラなバーが立ち並んでいます。ゴールデン街はとても変わった場所で、この一画をよく知ったガイドに案内してもらえば、ありえないほど小さなバーでこの街随一の面白い人たちに出会えます。フォトジェニックな日本の光景を見て、素晴らしい日本の音楽を聴きながら、高級で上質なウィスキーを飲んでみてください。明け方に店を後にすれば、そこにはポストガードのような東京の情景が広がり、きっと思い出深い経験になると思います」—— Cyril Duval アーティスト

撮影を進める中で出会ったもっとも驚いた、もしくはもっとも美しい、あるいはもっとも予期しなかった出来事とは?
とても蒸し暑い夏のある日、友達のヒカルと私は撮影をしに日枝神社へ向かいました。蝉の鳴き声は大きく、湿度はむせ返るほどでした。神社で感じたエネルギーは圧倒的で、立ち並ぶ鳥居のあいだでひと休みしました。そこで説明し難い力のようなものを感じたんです。そこに寝転がって、「いま感じているこの力はいったいなんなのかしら」と考えました。東京には、いわゆる"パワースポット"が点在していて、おそらく日枝神社もそのひとつだったのではないかと思います。

「これは、赤坂御用地脇、外苑東通りへと降りる階段の鳥居。徳仁皇太子は私と同い年で、うちの隣に住んでいますが、彼の家は117,000メートル四方の庭がある。一般人は入場禁止で、招かれないかぎりは入れない場所です。私はもちろん招かれたことないので、入ったことはありません。でも門が開いているときには中を少しだけ覗き見ることができます。太い木でできた巨大な門には、24時間体制で警備員が配置されています。ゆるい曲線を描きながら向こうへと伸びる砂利道の脇には大木が立ち並び、そよ風に枝が踊るのが見えます。森といった方が正しいのかもしれない——その向こうには黄緑色の芝生が見えて、きっとそのまた向こうには池か何かがあるんでしょう。その光景を見るたびに、私は映画『千と千尋の神隠し』の千尋にでもなったように感じるんです。その神秘的な風景に、『変化し続けるこの街で、きっと唯一昔から変わらず美しいこの環境に囲まれて育つ——それはどんな人生なのだろう?』と想像が膨らむのです」—— Luli Shioi(塩井るり) シェフ

このプロジェクトにおいて、インサイダーとアウトサイダー、日本人と観光客のあいだには、どんな違いが見られるのでしょうか? それをどのように写真に捉えたのですか?
どんな都市でも、そこに暮らしてみなければ経験できないものがあります。パーソナルで温かい関係が都市と自分のあいだに生まれるわけですね。たぶん、街に実際に暮らすことでひとが感じるものを捉えよう——ストリートでパーソナルな温かい瞬間を体験したときに起こることを写真に表現しようとしたのだと思います。

『Tokyo 35˚N』は漂流シリーズの3作目。東京の『Too Much Magazine』協力のもと、Editions OK FREDにより制作・出版。6(Roku)Beauty & Youthにて12月23日まで独占販売の後、代官山蔦屋書店にて発売される。その後はパリのColetteやロサンゼルスのBookmarcなど一部コンセプトショップにて販売される予定。

amisioux.com

Credits


Text Felix Petty
Photography Ami Sioux
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.