「毒母」に隠されたミソジニー 悪い母親キャラが人気の理由

ここ数年、「代理ミュンヒハウゼン症候群」を抱える女性を描く映画やドラマが増えている。このトレンドの裏に潜む“女嫌い”の潜在意識とは?

by Louis Staples; translated by Nozomi Otaki
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27 January 2020, 4:14am

Netflix's The Politician 

Netflixのドラマ『ザ・ポリティシャン』は、『glee/グリー』と『ハウス・オブ・カード 野望の階段』にウェス・アンダーソンのタッチを加えた、ユーモラスでスタイリッシュな作品だ。

ライアン・マーフィーが手がけた本作は、いかにも彼らしい二転三転する展開、物議を醸すシーンに満ちている。そのひとつが、ジェシカ・ラング演じるダスティ・ジャクソンを中心に展開する物語だ。全身ヒョウ柄のコーディネートで、ウイスキーをすすりながら、タバコ片手に罵詈雑言を並べ立てる彼女は【※ネタバレ注意※】、実は孫のインフィニティに毒を盛っており、彼女(と周りのひとびと全員)にインフィニティがガンだと思い込ませている。

この筋書きに聞き覚えがあるとしたら、それは『ザ・ポリティシャン』以前にも代理ミュンヒハウゼン症候群を扱った作品が数多く存在するためだ。この病名は、18世紀のドイツ文学に登場する〈ほら吹き男爵〉として有名なミュンヒハウゼン男爵に由来するもので、第三者の病気やケガを捏造する精神疾患を指す。

ミュンヒハウゼン症候群は1951年、英国の内分泌学者リチャード・アッシャーによって命名され、その20年後、〈代理〉という言葉とともに、世話をする相手の病気を偽る症状を意味するようになった。2013年には、アメリカ精神医学会がミュンヒハウゼン症候群と代理ミュンヒハウゼン症候群の両方を〈虚偽性障害〉に分類することを決定したものの、〈ミュンヒハウゼン〉という名称が広く浸透している。

ここ数年、虚偽性障害はあらゆる映像作品に登場し、それは〈毒母〉の象徴として描かれてきた。HBOのミニシリーズ『シャープ・オブジェクト KIZU-傷-:連続少女猟奇殺人事件』では、エイミー・アダムス演じる主人公のカミールは、自身の母親が子どもたち(カミール自身も含む)に薬を飲ませていて、最終的には長女を毒殺していたことを知る。

パトリシア・アークエットがエミー賞助演女優賞を受賞したドラマ『The Act』では、彼女が演じるディーディー・ブランチャードが、娘に架空の病を患っていると信じ込ませる。さらに、2017年のBBC 3のドラマ『Clique』、2019年のITVのドラマ『Deep Water』にも、子どもに意図的に危害を加える母親が登場する。

いっぽう、2018年の映画『ファントム・スレッド』では、主人公のウッドコック(ダニエル・デイ=ルイス)と結婚したアルマ(ヴィッキー・クリープス)が、夫を意のままに操るために毒を盛る様子が描かれる。

作中で彼女の病名は明かされないが、ポール・トーマス・アンダーソン監督は、本作に関するインタビューで、はっきりとこの病気に言及している。また、2017年のホラー映画『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』でも、病名には言及されないものの、エディの母親が執拗なまでに息子に不要な治療を施す姿が描かれる。

虚偽性障害は、現在も誤って描写され続けている。そもそも、2013年に虚偽性障害という正式名称が決定したにもかかわらず、それに言及するテレビ番組や映画はほとんどない。

この疾患の専門家、マーク・フェルドマン博士によると、研究の不足が、誤った描写に拍車をかけているという。フェルドマンは『TV Guide』誌のインタビューで、『ザ・ポリティシャン』を観る気にはなれない、と語った。

「ダスティの振る舞いは、注目や同情を集めようとする代理ミュンヒハウゼン症候群より、有形財を得るために病気を装う〈詐病〉に近いようにみえます」

強迫性障害や統合失調症、代理ミュンヒハウゼン症候群などの疾患については、視聴者への配慮という義務よりも「安易なイメージ」を優先する脚本家が多く、いまだに誤った描写が多いという。

ロンドンのキングストン病院で内科医助手と教育助手を務めるトーマス・ハーディ医師は、ポップカルチャーはずっと様々な病気を誤って描写してきた、と説明する。

「テレビや映画によって、自分や他人の病気を誤診してしまうひとは非常に多い」とハーディ医師。「脚本家たちは、重篤な精神疾患の悲惨な現実を誤解しがちです」

ハーディ医師は、医療団体に直接協力を仰ぐドラマも増えつつあり、テレビ番組の内容は徐々に良くなっているとは認めつつも、強迫性障害や統合失調症、代理ミュンヒハウゼン症候群などの疾患については、視聴者への配慮という義務よりも「安易なイメージ」を優先する脚本家が多く、いまだに誤った描写が多いという。

そもそも、米国での症例は年間推定600〜1200件と稀な疾患であるにもかかわらず、代理ミュンヒハウゼン症候群が映像作品に頻出しているのはなぜなのか。

『New Statesman』誌のカルチャーエディター、アンナ・レスキウィズ(Anna Leszkiewicz)は、2018年の記事で、このトレンドは「女性蔑視」を表すもので、映像作品における〈毒母〉の復活は、現代の母性にまつわる不安を反映している、と述べた。

「女性性を神聖化すると同時に中傷する西洋文化では、恐ろしい母親像や、毒を盛る残忍で狡猾な女性像が昔から好まれている」と彼女は説明する。

「社会の理想化された母親像と、実際に親としてできることは乖離していく一方だ。私たちが代理ミュンヒハウゼン症候群に夢中になるのも無理はない。この疾患は、どうにかしてそのふたつの差を埋めようとする、もっとも危うい試みなのだ」

『The Guardian』誌のテレビエディター、ハンナ・デイヴィスも〈毒母〉の復活の裏には社会的要因があると予想している。

「このトレンドは間違いなく、今の世界に対する私たちの不安や危機感と結びついています。自分を慈しんでくれるはずの相手、つまり母親が自分を傷つけること以上の危険なんてありませんから」

英国の国民健康保険(NHS)の「捏造または誘発された疾患」に関する公式ガイドラインにも、母親が加害者になりやすいと記載されてはいるが、文化において、虚偽性障害を抱える男性が加害者として描かれる機会はほぼゼロに等しい。

家庭における虐待の原因となるのは圧倒的に男性が多いことを踏まえると、女性が加害者になりやすい数少ない虐待のひとつである代理ミュンヒハウゼン症候群(そもそも非常に稀な疾患だ)が、ポップカルチャーにおいて重用されることには、ミソジニーが関わっているような気がする。

しかし、このような女性像の重用は、代理ミュンヒハウゼン症候群を抱える女性を中傷するだけでなく、彼女たちを肯定的に描くこともできる。

『ザ・ポリティシャン』の代理ミュンヒハウゼン症候群にまつわるストーリーのすばらしい点は、『シャープ・オブジェクト』や『The Act』とは違い、その加害者を好感の持てる人物として描いていることだ。ジェシカ・ラング演じるジャクソンは、面白おかしくてどこか憎めないキャラクターで、彼女が孫娘の〈病気〉を利用してディズニーランドへの無料招待旅行を騙し取る姿は、どこか応援したくなってしまう。

『ザ・ポリティシャン』における虚偽性障害の描写が、ジェシカ・ラング演じるキャラクターを、ゲイ男性に好かれる女家長に仕立て上げたことは間違いない。そうすることで、本作は社会的概念からの〈二重の逸脱〉を、〈悪い〉女を讃えるゲイ男性と結びつけた。

ハンナは、このような描写を、現代における〈詐欺師〉を持て囃すカルチャーと関連付けている。「FYREフェスティバルからブレグジットまで、私たちはいわば詐欺の黄金時代を生きています」と彼女は説明する。「でも、私たちの詐欺に対する反応は、とても性差別的なことが多い」

彼女は、人心掌握に長けたシリコンバレーの元実業家エリザベス・ホームズや、セレブを自称したアンナ・デルビーなど、世間一般的に女性詐欺師が好まれる傾向がある、と指摘した。フェリシティ・ハフマンが長女を裏口入学させようとしたというスキャンダルや、レベッカ・ヴァーディがコリーン・ルーニーのプライベートな情報を『The Sun』紙にリークしたという疑惑を否定したことなど、いわゆる女性詐欺師にまつわるニュースは、常に熱狂を生み出してきた。

しかし、このような現象は問題も孕んでいる。デジタルカルチャーに詳しいジャーナリスト、サラ・マナヴィスによれば、女性詐欺師の人気は「体裁よく脚色されているが、ミソジニーまみれの妄想に根差すもので、スタンカルチャー(熱狂的なファン文化)を装って、結局は女性にまつわる物語を貶めている」という。

彼女はこう結論づける。「あからさまに性差別するのではなく、ネットスラングやミームに隠れ、偽の崇拝を装っているんです。けれど、この熱狂の根底にあるのは、悪事を働く女性にまつわる幻想です」

『ザ・ポリティシャン』における虚偽性障害の描写が、ジェシカ・ラング演じるキャラクターを、ゲイ男性に好かれる女家長に仕立て上げたことは間違いない。そうすることで、本作は社会学的概念である〈二重の逸脱〉を、〈悪い〉女を讃えるゲイ男性と結びつけた。

不道徳な行いや犯罪を犯した女性は、社会からより厳しい裁きを受ける。なぜなら彼女たちは法とジェンダー規範の双方を破ったとみなされるからだ。

たとえば、自身の子どもに危害を加えた女性は、虐待や殺人を犯した父親よりも刑期が長くなり、メディアによる詮索もより激しくなる傾向にある。多くのゲイ男性が、同性愛は〈逸脱〉したものだと聞かされて育つことを踏まえると、彼らが〈従順で優しく行儀良くあれ〉という性差に基づいた期待に背く女性たちから刺激を受けるのは、至極自然なことだ。

もちろん、子どもを虐待する母親は慣習に逆らっているのだ、という主張は軽々しく悪質に思えるかもしれない。結局、親と子の力関係において、彼女たちは〈力を持つもの〉だからだ。

ただ、より広い視野でみれば、彼女たちが、家父長制に則った面倒見の良い、愛情に満ちた、ルールを遵守する女性像を根底から覆していると感じる視聴者もいる。そうやって、私たちはこの女性たちが家父長制を〈欺いている〉のだ、と自分を納得させている。

しかし、熱狂やミームに最適なスタンカルチャーとして装飾されていようと、結局はポップカルチャーにおける〈毒母〉人気が女性を悪者扱いしていることに変わりはない。

このイメージもまた、家父長制が私たちを搾取し、貶しめているひとつの例に過ぎないのだ。

This article originally appeared on i-D UK.

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