インスタに集まる、緊縮政策で苦しむ社会的弱者たちの声

社会的弱者が自らの文字で書いた実話を投稿するアカウント〈Tales of Austerity 緊縮の物語〉の運営者にインタビュー。

by Roisin Lanigan; translated by Ai Nakayama
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12 May 2020, 8:52am

Image via Instagram

2019年12月の総選挙を控えた英国では、保守党政府が長年推し進めてきた緊縮財政政策が与えた社会への影響に鋭い焦点が当てられていた。保守党が政権を奪取した2010年以来、ホームレスは165%増加し、ユニバーサル・クレジット(英国における新しい生活保護制度)の導入で給付制度は混乱を極めた。

また、英国のフードバンクは2018年4月〜2019年3月の期間160万もの小包を取り扱い、2019年、「史上最高に忙しい夏」を経験した。英国の労働・年金省は、障害者生活手当を受け取っていた受給者数百人への給付を停止。そのなかには、受給者が危篤状態、または死亡しているにもかかわらず、「仕事に堪えうる」ため給付を停止した、としていたケースもあった。

労働党は、保守党政権が組織的に崩壊させてきた福祉制度の改善、回復を図ると約束しているいっぽう、あるInstagramアカウントも、政策の裏側に埋もれている個々人を忘れてはならない、と啓発に努めている。それがジェスとクレアという労働党支持者の親友ふたりが立ち上げたアカウント、Tales of Austerity(緊縮の物語)。英国中に生きるひとびとが発信するパーソナルな物語を収集し、シェアする場だ。

「去年職を失い、今はゼロ時間契約で働いています。でもいつも労働時間が少なく、子どもたちに食べさせてあげることもできません。なので今回初めてフードバンクに行きます。選挙に行って、保守党に勝たないと!」

「32歳のホームレス。退役軍人。カネが欲しいんじゃない、変化が欲しいんだ! どうか労働党に投票してほしい。私は投票できないんだ」

彼らが投稿するイメージは、店先やホームレスのテント、段ボール箱、家の玄関などの写真で、緊縮財政が個人の生活にどれほどの影響を及ぼしたかを語っている。語り手は、ホームレスの退役軍人から〈ゼロ時間契約〉の労働者まで、多種多様な英国人。しかし彼らの物語からは、将来への恐れや不安が一様に感じられる。

ジェスとクレアにインタビューをすると、ふたりはこのアカウントで重要なのは、自分たちではなく投稿する物語だ、と口を揃えた。「私たちは、すごく力のこもったメッセージだと感じたものを並べて、みんなに見てほしいと思っただけ」とジェス。

このアカウントのインスピレーション源となったのは、話題となった〈#ToryStory 保守党物語〉というハッシュタグ(とウェブサイト)だったとジェスはいう。ふたりは各種SNSで自分たちの〈物語〉を見つけ、その写真の撮影者と協力し、掲載の許可を得てから自らのアカウントに掲載している。そうして集まったのは、実に心に刺さるメッセージばかりだ。

「手当の給付が打ち止めされました。今はふたつの仕事を掛け持ちしていますが毎月の家賃を払うのもギリギリです。病気の家族の看病のために休むことになったら仕事を失うんじゃないかといつも不安です。あとどれくらい持ちこたえられるかわかりません。保守党には表舞台から去ってもらわないと。有権者登録をして、労働党に投票しよう。みんなにも伝えてください」

「長時間、つらいシフトで働いていて、毎月のように重い風邪を引いていました。去年、ついに身体にガタがきて、何ヶ月も病気で寝込み、働けなくなりました。最近では、NHSを介して相談員に会うにも半年かかるし、それまでに必要な検査を受けなきゃいけない。3月に障碍手当を申し込んだけれど、まだ返事がありません。保守党を政権から追い出さないと。絶対に。有権者登録をして労働党(あるいは緑の党のキャロライン・ルーカス)に投票しよう。みんなにも伝えてください」

例えば、もともと〈Momentum〉に掲載された投稿で紹介されていたのは、バス停に貼られた手書きのメモ。そこには、疾病手当の給付が止められたひとのメッセージが書かれていた。書き手は、給付金も安定した労働収入もなければ家族を養えなくなってしまう、という不安を訴えている。

「それは、次の総選挙の争点となるべきなのに実際なっていないポイントを見事に突いていました」とジェスは語る。

「これは、自分の声を発せないひと、自分の声が届いていないと感じているひとたちにとって、自分の物語を、あるいは緊縮財政が自らの生活にもたらした直接的な影響を訴える素晴らしい機会だと思います」とジェス。

ジェスもクレアも、変化と気づきの手助けになるようにこのアカウントを使っていきたいと願っており、地域の慈善事業や国民保険サービス(NHS)のスタッフ、警察などにも、ひとびとの物語を共有してもらえるよう働きかけている。アカウントへのレスポンスは概ね良い反応ばかりだが、それでも攻撃的な反応は少なくないという。

「よくある炎上狙いのコメントもあります。あと、ボルトンの街に掲示された、残忍な寝室税によって死に追いやられたひとびとへ送る、シーツで作った急ごしらえの悲しい記念碑を写した投稿は議論を呼び、150以上のコメントがつきました」

「ムサは7月にこの場所で死んだ。彼は靴磨きで生計を立てていた。去年、彼はバス停の下で暮らしていた。彼の精神的、身体的な健康が日々悪化していくのがわかった。彼の死は完全に防げた。保守党が必要不可欠なサービス、住居、NHS、メンタルケアサービスを削減したから、ホームレスや病気、死亡者も増えている。誰もホームレスにしちゃいけない。誰も道端で死なせてはいけない」

24時間休まずにニュースが配信され、いいねやリツイートが乱発される時代において、政治的な議論が観念的なものになり、圧政的な政策が、その直接的影響を受けるひとびとにとってどんな意味をもつのか、ということについて国民が鈍感になっていくのも無理はない。

「Tales of Austerity 緊縮の物語」のネットにおける存在感もまだ小さいかもしれないが、ジェスとクレアは、私たちがみんな、政治体制の核には人間の命があること、そして相互扶助の重要性を忘れないでほしいと訴えている。

This article originally appeared on i-D UK.

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