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ソフィ・エブラード:ポルノを舞台にとらえた人間美

ポルノ映画監督に密着取材し、4年間にわたり世界中にある撮影現場を撮りおさめたソフィ・エブラードにインタビュー。「レンズの前にいる個人個人の人間性を引きだすことで、ポルノ産業のより軽やかな面を見せたいと思っていました」

Sayuri Kobayashi

ヴィンテージの家具に趣味のいい壁紙、かすかに漂う花の香り。KINFOLKを彷彿させる素敵空間に裸の男女の写真が掲げられている。一瞬、エロ目的のいわゆるポルノ写真か? と思いきや、その被写体は楽しげに談笑していたり、アイロンをかけていたりと、様子が違う。首をかしげてみていると、1人の美女女性が現れた。京都で個展「IT'S JUST LOVE」を開催中のソフィ・エブラード、ポルノ映画の撮影現場でこれらの写真を撮ったフランス出身のアーティストだった。

どうしてポルノの撮影現場で作品を撮ろうと思ったんですか?
元々、人間の裸体の美しさを撮ることに興味がありました。ギリシャ彫刻にみられるような純粋な美です。過去に「bra project」などで友人たちを撮ってはいて、彼女たちはとても可愛かったんだけれども、シャイで、裸体美の追求には限界があった。そんなとき、スコットランド出身のポルノ映画監督ガズマンに出会ったんです。スウィンガーズパーティ(フリーセックスパーティ)でね(笑)。

なんと! どんな状況だったんでしょう。
ロンドンの中心地にあるハイエンドでシックなヴィラで、バーやジャグジーもあって、ベッドがあって。見てるだけの人もたくさんいて、私もその1人。2時間くらい飲みながら観ていて、美しかったですね。写真は撮れなかったけど心の中でシャッターを押してました。そこでたまたま近くにいたガズマンと話したら盛り上がり、オタクのようにカメラのことを語ったりしているうちに、「こんど撮影現場においでよ」と誘ってもらったんです。普通はなかなか入れない現場なので、ラッキーでした。そこに私の撮りたいものがあったんです。

今回の作品もラグジュアリーな空間で撮影されているようですね。出演者もリラックスして楽しそうに見えます。
ガズマン監督の作品はハイクラスのポルノなんです。そこにはイメージしていたのと全く違った世界がありました。現場ではみんなお互いにリスペクトし合い、仕事に情熱を持っています。例えばあるとき、スタッフが女優に平謝りしている場に遭遇したことがありました。「今夜だけ部屋数が足りなくて、男優とシェアしてもらわなければならなくて申し訳ない」と。その2人は翌日に"本番"を控えていたわけですが、仕事とプライベートは分けようとしている。一方的に搾取される現場ではないんです。

この展覧会場にセットされたイヤホンからは「私は仕事に誇りを持っている」「この仕事ができて幸せ」と語る女性たちの声が聴こえてきますね。
これは女優さんたちに話してもらった実際の言葉。プロ意識によるやり取り、ふれあい、楽しみながらプライドを持って働く姿勢は他の職業人と変わりありません。

<ソフィは1976年、フランスのアルプスに生まれ、ロンドン、アムステルダムを拠点に活動>

撮影に4年かけたということですが、現場では関係者たちとどういう交流がありましたか?
4年間で、アメリカ、スペイン、ポルトガル、イギリスのスコットランドとウェールズと計6回、それぞれ4-5日ですね。映画に比べたら少人数のクルーで、俳優が食事をつくったりする親密な現場でした。ある日、「明日は"DP"が見られるから楽しみにしてて」と言われて、Director of photography(撮影監督)のことかと思っていたら、実際はDouble penetration(2本挿入すること)を表す業界用語だったと分かり、戸惑ったなんてこともありました(笑)。

ガズマン監督はあなたの作品にどういう感想を?
写真を観てすごくいいねと喜んでくれました。同じ環境で撮ってるのに全然違うねと。彼らはやはり映像としてエロティックなものにするために、ワイドアングルでセクシャルに撮っている。隣で撮っている私とは異なる視点、方法です。

あなたの視点には愛も感じますが、冷静さがありますね。それが驚きや共感、ときには可笑しみを誘います。
このプロジェクトでは、レンズの前にいる個人個人の人間性を引きだすことで、ポルノ産業のより軽やかな面を見せたいと思っていました。人間のなかに美やユーモアを見出すことが私の一貫したテーマです。

プライベート感のある空間での見せ方もいいですね。
さまざまな人たちがリラックスして観られる雰囲気にしたくて、スウェーデン人アートディレクターのジーナ・ゲーガンと一緒に私室的空間を作り上げました。家具は私の家から運んだものなので、私の家はいま空っぽなんです。

日本のポルノ産業は男性支配的で、近年女性視点でつくられた制作会社もありますがまだ少数派です。
フランスでもポルノは男性支配的で、女優の反応を見た若い女性がセックスで演技をする必要があると考えてしまったりもします。それはちょっと間違っていると思う。スペインにはフェミニスト視点でポルノ映画を撮っている監督エリカ・ラスト(Erika Lust)もいますね。私の作品もポルノを違った方法で考え直すきっかけになれたらいいなと思っています。ですが、今回のプロジェクトでポルノ産業について意見するつもりはありません。純粋に作られ方や捉え方次第でポルノは美しく、その制作過程には多くの愛があり得るし、常に新しい何かが生み出されている。私はその美しさを認めて、伝えたいんです。

展覧会場に置いてある電話の受話器をとると、E・E・カミングスの「may i feel said he」やA・C・スウィンバーンの「Love and Sleep」など愛をうたった詩を朗読する女優たちの声が聴こえる。彼、彼女たちは豊かさのなかでときに見失われがちな愛を説く現代のダビデ、ヴィーナスなのかもしれない。

ソフィ・エブラード「It's Just Love
会期:2017年4月12日〜5月7日
時間:13:00〜19:30
会場:FRANK WORK STUDIO(京都府京都市下京区中堂寺前田町9-9)

Credits


Text Sayuri Kobayashi
Photography Sophie Ebrard