『ネオン・デーモン』ベラ・ヒースコートの危険な美しさ

ミウッチャ・プラダやアレキサンダー・ワンをも魅了し、『ネオン・デーモン』や『高慢と偏見とゾンビ』出演など映画出演へのオファーが止まらないベラ・ヒースコート。今年は彼女の年になりそうだ。

by Stuart Brumfitt
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03 February 2017, 1:54pm

ベラ・ヒースコートがこんなに屈託なく大笑いする女性だとは、彼女と会うまで誰も想像しないだろう。彼女は、これから車屋に行くのだといってケタケタと笑う。「サイドミラーを粉々に壊しちゃって。結構派手にぶつかったの!」と、それがさも深刻な問題ではないかのように笑い飛ばす。ベラにとって、車は縁のある話題かもしれない——2016年は、彼女が出演した映画『ネオン・デーモン』が公開されたが、この作品は、車が走る映像が多用された『ドライヴ』を監督したニコラス・ウィンディング・レフンが監督を務めている。ベラは『ドライヴ』の大ファンだそうで、『ネオン・デーモン』(「LAの熱狂」と「危険な美しさ」をテーマにしたホラー映画だとレフンは語っている)に出演できると知ったときには「『ドライヴ』のサウンドトラックを聴きながらロサンゼルスの街を車で走り回った」のだという。想像してみてほしい——大好きな監督からの指名で映画に起用され(今では"ニック"と呼ぶまでの信頼関係を築いている)、オーストラリアからやって来て憧れのハリウッドを揺るがし、エレクトロニカの荘厳なサウンドを聴きながらロサンゼルスの広大な平野や魅惑の丘陵を車で巡る、そんな人生を。

現在28歳のベラ。そのキャリアは、他の俳優たち同様、著名監督の作品から始まったわけではなかった。彼女はオーストラリアのテレビ番組『ネイバーズ』で最初のブレイクを果たした。『ネイバーズ』は1985年に初回が放送された昼ドラだが、この番組からはこれまで多くの映画スターが生まれている。クリス・ヘムズワースとリアム・ヘムズワース兄弟も、マーゴット・ロビーもラッセル・クロウもガイ・ピアースも、みんなこのドラマを観たキャスティング・ディレクターの目に留まり、ハリウッド進出へのきっかけを手にしたのだ。しかし、ベラはずっとハリウッド進出を視野に入れてきたのだろうか?「ロサンゼルスまで視野に入れていたかと言われればそうでもないような気がするけれど、女優として生計を立てられるようになるのは夢だった——法律事務所での仕事を辞めたくてしかたなかったから。『ネイバーズ』の撮影を終えて仕事に戻ったら、法律事務所での事務がイヤで仕方なくなって。女優だけをやって暮らしていきたかった」。それが叶った今、彼女の暮らしは「最高!」だそうで、以前就いていた仕事については「もうまっぴらよ!」と中指を立てる。

ベラにとって映画の世界でのブレイクとなったのは、ティム・バートン監督作品『ダーク・シャドウ』への出演だった。ジョニー・デップ、ミシェル・ファイファー、クロエ・グレース・モレッツなど、錚々たる顔ぶれの俳優たちとの共演となった『ダーク・シャドウ』は「大きな話題作ではあった。でも、興行成績の面で大ヒットしてほしくて!でもまあ、『ティム・バートンの映画に出てる』って言えるのはクールなことだった」と、彼女は冗談めかして言う。おしとやかな印象のリボン・ブラウスや60年代の服装がよく似合っていたベラ——このイメージから、彼女はイネス&ヴィノード撮影によるMiu Miuの2014年春夏キャンペーンに起用された。ティム・バートンに認められるということは、その俳優には何か特別で奇妙な魅力があるに違いない——Miu Miuのデザイナー、ミウッチャ・プラダはそう考えたに違いない。このキャンペーンで、ベラはエリザベス・オルセンやルピタ・ニョンゴ、エル・ファニングなど他の大型新人たちに引けを取らない魅力を放っていた。

2015年は、またしてもベラにとってハイ・ファッションとの縁が深まった年となった。アレキサンダー・ワンが、彼にとって最後となるBALENCIAGAでのショーでランウェイを歩いてほしいとベラに申し出たのだ。「ランウェイは楽しかった。でも実際にランウェイに出るまでは『は?私、モデルじゃないんだけど』って感じだった」とベラは語る。「でも、そこには気分が高揚する何かがあった。演技のような、舞台に出るようなね。舞台に立ってアドレナリンが大放出する、あの感じに似てた」。どのような経緯でランウェイへの起用にいたったのだろうか?「アレキサンダーとは直接の知り合いでもなかったから……もしかすると誰かが出演できなくなって代打として私に連絡が来たのかも……」と彼女は謙遜する。

Miu Miuのキャンペーンでベラが共演したエル・ファニングが主演をつとめる『ネオン・デーモン』。物語は、16世紀にハンガリー王国で若い美女のエキスを吸収しようと処女の少女たちを殺害し、その血を溜めた風呂に浸かっていた貴族バートリ・エルジェーベトの実話に基づいている。ファニング演じる新人モデルは、やがて、美に取り憑かれた女性たちにその美貌と若さを蝕まれていく。ベラはこの映画に関して「何も明かせない」と言いつつも、彼女演じるジジに関しては、「自分の容姿に取り憑かれている女性。ジジは外見的なものにしか興味がなく、自分の美貌を保つためなら、そしてより美しくなるためなら、何だってする」と話す。美に取り憑かれた街LAにいるからには、インスピレーションを見つけることは難しくなかっただろう。しかしベラは、キャラクターの内面を知るのに一番ためになったのは、自身もモデルであり女優として共演したアビー・リーの存在だったと言う。アビーが自身の美貌に自惚れているということではなく、彼女が「トップ・モデルで、その世界のすべてを実際に見てきたひとだから」だそうだ。ここで彼女が言う"すべて"とは、人々のナルシシズムと嫉妬、自己顕示欲のことだろう。血の風呂ではないことを願うばかりだ……。

『ネオン・デーモン』での役どころは、その前に撮影を済ませていた『高慢と偏見とゾンビ』でのそれとは大きく違ったそうだ。『高慢と偏見とゾンビ』は、近代イギリス文学を代表する小説家ジェーン・オースティンが小説で描いたヒロインたちにゾンビが襲いかかるというストーリーでベストセラーとなったセス・グレアム=スミス著の同名小説をベースにした映画。「何もかもが対極にある世界観だった。オースティンの世界観とジジの内面はまったく違うから!『ネオン・デーモン』はダークで、そういう感覚はセットにも染み渡ってしまうもの」。『高慢と偏見とゾンビ』もまた美と蛮行を扱った作品だが、こちらは胸を寄せて上げた女性が近代イギリス然としたカールの髪を揺らし、ガーターのうちに短剣を隠し持って奮闘するというコメディであり、ドタバタ劇だ。また、リリー・ジェームズやスキ・ウォーターハウス、サム・ライリーなど、主にイギリス出身のホットな新人俳優・女優が目白押しで、男たちが弱々しく見えるほどに、ベラをはじめとする女性キャストたちが強さを見せつけていくというフェミニスト的展開も魅力だ。

「あれは私がこれまでに関わってきた仕事の中でも最高の思い出」とベラは言う。「あのキャストは本当に最高!あの映画のトーンはよくできてると思う。立ち回りのシーン、特に女性キャストと一緒に戦うシーンなんて最高でしょ。キャストと仲良しだからこそできることもあったわ。感情を無理に表現しなくても、本物の感情が実際にそこにある。本当の姉妹や親友のように感じることができたから、失敗するのも、色々試してみるのも怖くなかった。戦うシーンもね——ファイティング・スキルがないのを不安に思いながらもあれだけのファイティング・シーンを作り上げられたのは、彼女たちの関係があってこそだった」

映画業界がグローバル化し、撮影も世界各国で行なうケースが多くなっている今、俳優たちがロサンゼルスに暮らす必要性はほとんどないのかもしれない。しかし、俳優たちはエージェントや制作会社の重鎮たちに会うため、そして憧れのライフスタイルを手にいれるため、やはりロサンゼルスを目指す。ベラは渓谷をハイキングしたり、フレッシュ・ジュースを飲んだり、流行のヨガに手を出したりするライフスタイルを楽しんでいる。「でも仕事でロンドンやニューヨークに暮らせば、きっとすぐに完全なアル中になり下がる!」そうだ。とはいえ、ベラはLAでの健康的なライフスタイルを気に入っているようだ。ただ、「ハマりすぎないようにはしている」らしい。肉体美への過度の執着が著しい現代人に対し、ベラは自身のInstagramで、このようなメッセージを発信している。「ヨガは、お尻を上げるためにあるわけじゃない。むしろ、そういう執着から自分を解放するための手段なの」と。それが、ベラという人間を如実に物語っている。世界のデザイナーや映画監督たちを魅了し、飛ぶ鳥落とす勢いのベラ・ヒースコートだが、中身は今も昔も変わらず地に足ついた、ひとりの"メルボルン出身の女性"なのだ。

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Credits


Text Stuart Brumfitt
Photography beau grealy styling nicolas klam
Hair Johnnie Sapong at Jed Root. Make-up Darlene Jacobs at Starworks Artists. Photography assistance Porter Count. Styling assistance Ali Miller. Production Pippa Mockridge.
Bella wears dress Courrèges. 
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.

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Culture
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