「嘘のない女優になりたい」:唐田えりか interview

この秋話題の映画『寝ても覚めても』に主演し、国内はもちろん、カンヌ映画祭でも注目を集めた新人女優・唐田えりか。演技へのめざめ、仕事への真摯な思いを聞くうちに、彼女がいちばん大事にしていることが見えてきた。それは、自分が自分であることの大切さ。

by RIE TSUKINAGA; photos by Hiroko Matsubara
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29 October 2018, 2:55am

この記事は『i-D Japan No.6』フィメール・ゲイズ号から転載しました。

この秋、日本映画界に大きな驚きをもたらした映画がある。『ハッピーアワー』で海外からも大きな賞賛を受けた濱口竜介監督の新作『寝ても覚めても』。柴崎友香の小説を映画化した本作は、カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に正式出品。主演の東出昌大が一人二役を演じ、瓜二つの顔をしたふたりの男に惹かれる朝子を、新人の唐田えりかが演じている。

恋愛というテーマに真正面から向き合いながらも、映画では、10年という時間の流れが、登場人物たちの変化を通して描かれる。そして観る者を驚かせるのが、出演者たちの緊張感あふれる演技。スリリングな演技を見せる共演者たちのなかで、唐田えりかも、これが初ヒロインとは思えないほど堂々とした演技を披露している。だからこそ、もともと女優になるつもりはまったくなかった、という彼女の言葉に驚いた。「ずっとモデルになりたいと思っていたんです。カメラや写真が大好きで、ファッション誌には自分の夢がたくさんつまっている気がして。高校生のとき、バイト先で今の事務所にスカウトされたんですが、入ってみたらまわりはみんな女優さんばかり。本当はモデルがやりたいなんて言い出せないまま演技レッスンが始まって。頑張ろうとは思ったけど、最初はそのギャップに苦しんでいた部分もありました」

唐田えりか

CMやドラマなどに出演しながらも、なかなか演じることを楽しめず、仕事をやめたいとまで思いつめる。「思った通りにできない自分が悔しかった。昔から理想が高いんです。もうすぐ20歳になるというときに、我慢できずに母に電話しちゃいました。「この仕事は自分に向いてないしやめようと思う」って。でも母にあっさりと「いつでも帰ってきていいよ」と言われたら、急に気持ちが楽になってきて。その直後に『寝ても覚めても』のオーディションがあったんです」

大きな転機となる作品との出会い。だがそのオーディションは決して手応えのあるものではなかった。「監督にも「お芝居が楽しいと思えたことはないです」と正直に言ってしま ったくらい。でも次の日に脚本を渡されて読んでみたら、朝子に心から感情移入して泣いちゃったんです。嘘のない朝子の性格が、まるで自分みたいに思えて。そこで初めて、この役を絶対にやりたいと思いました。後日受かったと聞いて、頭のなかが真っ白になると同時に、ああこれで私は変われるかもしれない、と思いました」

本作では、撮影前に行なわれた長期間のリハーサルやワークショップも話題となった。俳優たちは、まず互いの顔や手に触れ合うところからスタートし、何十回と脚本を読みあげる。本読みでは、感情を一切抜いて読むという作業がくり返された。「東出さんをはじめ、みなさん「濱口監督の演出ってすごく変わってる。おもしろいね」と盛り上がっていたけど、私は本格的にお芝居をするのもこれがほぼ初めてだったので、すんなり受け入れられました。ただ少し戸惑ったのは、台詞を言う際に言われた監督の言葉。「相手のお腹のなかに鈴が垂れてると思って、その鈴を鳴らすように言ってください」と言われたのですが、最初はよくわからなくて。でも回数を重ねていくうちに、徐々に体がその感覚を理解していったんです。本当に相手のお腹に鈴が垂れてると思えたし、読みながら「あ、いま鈴を揺らせたな」とたしかに感じられた。鈴を鳴らすというのは、ちゃんと言葉を相手に届けるってことなんだとわかりました。声色を変えるとか抑揚をつけるとか、そういう技術に頼らずにただシンプルに相手に届ける。それを、本読みを通して学びました」

唐田えりか

濱口監督による独特の演出法は、演技だけでなく、彼女自身の意識を大きく変えていく。「今まで自分の声が大嫌いだったんです。録音されたものを聴いても自分の声だと実感できなかった。でも撮影を通して、自分の声が自分のなかで響いてるのを感じるようになったんです。「あ、私今こういう声で喋ってるな」とちゃんと感じられるし、自分の声ではない声が出たときは「あ、今感情がちゃんとのってなかった」とわかる。その感覚は、撮影が終わった今もずっと続いています。この現場を通して、自分の体のつくりそのものも変わった気がします」撮影が終了したのは2017年8月。その1ヶ月後に、ひとつの区切りと考えていた20歳の誕生日を迎え、翌年には本作を伴い初めてカンヌ国際映画祭に参加。俳優業をやめたいと考えていた彼女は、もういない。今は演技に対して前向きな気持ちしかない、という彼女に、今後また濱口監督の作品に出たいと思うかと尋ねると「もちろん!」と返事が返ってきた。「濱口監督が別の人と仕事をするとなったら絶対嫉妬します。本人に伝えたら「欲が強い人ですね」と言われましたけど(笑)」

女優として大きな一歩を踏み出したこの1年。K-POPの大ファンだったことをきっかけに韓国の芸能事務所とも契約を結び、活動の幅はますます広がっている。そんな彼女にとって、女性として生きることはどんな意味を持つのか。「大事なのは自分が自分であることだと思います。女性として、というより、人間として。女優の仕事に限らず、何か別のものになろうとかその役を演じようとすると、結局は自分を苦しめてしまう気がする。私も一時期自分を見失って苦しみましたけど、本当の自分がわからなくなるっていちばん怖い。だからまず自分をいちばん大事にして、自分に向き合って生活していきたいです」

20歳の誕生日に濱口監督からもらった論文のような分厚い手紙にも、「本当のことだけを大事にしてほしい。何かを演じるより、自分が自分になってください」と書かれていたという。「お芝居をするうえで私が濱口監督から学んだのは、役になろうとしない、ということ。どんな役でも、絶対自分に似ている部分があるはず。その本当のものを大きくしていくことが、結果的に演技につながってくると思う。もちろん完全に自分を消して違う何かになりきるタイプの俳優さんはいるし、それは本当にすごいこと。でも私はそうはなれない。それを目指すと、感情の起伏もなく、ただ言葉を吐き出す人になってしまうと思う。私はやっぱり、嘘のない女優になりたいんです」

唐田えりか

Credit


Editor Yuka Sone Sato.
Text Rie Tsukinaga.
Photography Hiroko Matsubara.
Styling Keiko Hitotsuyama.
Hair Shuco for Shocohair at 3rd.
Make-up Masayo Tsuda at mod’s hair.
Photography assistance Kazuki Takeuchi.
Styling assistance Sarina Tanaka.

ERIKA WEARS ALL CLOTHING SAINT LAURENT.

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