Yutaka Aoki and Noritaka Tatehana, Photography Chikashi Suzuki

青木豊、アナログとデジタルのはざま世代同士、舘鼻則孝と語る

ともに1985年生まれ。時代へのアプローチはアナログとデジタルの両刀使いでこれからも広がっていく。

by TOMOKO OGAWA; photos by Chikashi Suzuki
|
07 May 2019, 11:48am

Yutaka Aoki and Noritaka Tatehana, Photography Chikashi Suzuki

ネットが普及するデジタル社会。アーティストたちは彼らの作品が日々とめどなく消費されていることにどのように向き合っているのだろうか。現代美術家・青木豊は、往来の画家たちが試行錯誤を繰り返し、時間を掛けて筆運びを研ぎ澄ませてきたように、絵具の質量と筆のリズムによって彫刻的な表情をつくっていく。人が顔の表情や体の動きから感情を読み取ろうとするように、質量の光と影のコントラストは変化し、2Dとも3Dともいえる作品を目前にすることではじめてその表情の豊さを目の当たりにする。

一方で、特異なレールを自ら敷き、ファッションからアートの世界へ転身。代表作である「ヒールレスシューズ」をレディー・ガガが愛用したことで脚光を浴び、時代との相互関係で多様な制作活動を行なっている舘鼻則孝。共に1985年生まれであり、2017年3月にオープンしたギャラリー「KOSAKU KANECHIKA」に所属の二人、同じ年代を生きながらも全く異なるメソッドによって、それぞれの表現を貫いている。彼らの共通点と時代のはざまに腰を据えて見えてきたものとは。

1556361604839-22360017
1556362308250-22360020

同世代のアーティストとして、お互いの相違点をどう捉えていますか?

舘鼻(以下、T):青木君はペインティングというフォーマットの中で作品を展開するアーティストだと思うんです。アトリエに籠って、画面に向き合ってやってるでしょう?

青木(以下、A):はい。ある意味自分との戦いですね(笑)ペインティングの境界をいかに拡張できるか、そのチャレンジを面白く感じています。

T:僕はもう少し、社会の中でのあり方に客観的なんですよね。自分の会社があって、スタッフもいて、工房システムで人を使って制作しているので、全ての作品が自分だけで完結するわけじゃない。だけど、青木君はほぼ全ての工程を一人で完結させていますよね。そういう意味でも、同じ作家だとして取り組み方は変わってくるんだろうなと思います。

A:僕は個人でペインティングを作り続けているんですけど、元々の動機としては、ペインティングとデザインの境界線を薄めていきたいというのがあって。この枠組みを理解するために段階的なルールとカテゴリを設けています。その仕分け作業から一つずつ作品ができてくる。なので私的な体験から自身へ、といったフィードバックが大きいですね。舘鼻さんは、ペインティングとデザインをさらにファッションと結びつけて、そのなかでアートをどう位置付けるのかというアプローチをされているのがすごく魅力的だなと思っています。本当に大きなフィールドでアートを見ているんだなと。

T:今はアートのほうが比重が大きくなりましたけど、僕は2010年に大学を卒業して以降、3、4年はファッションの仕事しかしてこなかったし、ここまでに軌跡があったので。青木君の絵画は、ルネサンス時代から続いている絵画の歴史の中で、平面の中でも立体感であったりテクスチャーであったり、現代の素材をどう要素にして画面を構築するか、というところにつながっているんだなと思いました。

A:舘鼻さんも日本文化に根ざして、過去と現代とどう接点を持って未来へパラダイムシフトをするかをされていますよね。舘鼻さんの作品って、すごく現代性をまとっていて、パッと見は軽やかなんだけれど、根ざしているところはとても深い。そういったアプローチで見ると、僕のほうが日本文化というところを、そこまで意識的には考えられていない気もする。もちろん日本に住んでいるし、自分が訪れた山だったり仏閣だったり海だったり、そういった現代の気配を身体や思考を通してポンと作品に出力してはいるんだけれど。

T:僕の場合は、仕事の始まりが海外だったので、自分を日本人だと認識せざるを得ない状況があったんですよ。だから、自分のアイデンティティが何なのかを問うようなものが、ある意味、創作活動のプロセスに入っているんです。過去の日本文化における要素を現在に新しい形で表現したりしているけれど、最初からそれらを全部知っていたわけではないんです。やっぱり、新しい作品を作るプロセスの中で勉強してそれを表現するので、作品づくりは自分にとって学びの時間でもあるんですよね。

A:そうですよね、問いの連続ですよね。だとしても、僕はまだ現在と未来を見ていて、過去まで遡れていないところがある気がします。いい悪いという話ではないけれど。

T:お互いにアプローチの仕方はけっこう違うし、考えている内容も違うけど、最終的に絵画というフォーマットにアウトプットすると、多少はアティチュードの共通点が見える。それが、面白いですよね。表現は似ていたりするけれど感じ方や材料が異なっていたり、共通点があるからこそ見えてくる違いもある。

1556362970801-22360021
1556362371448-22360028

二人は誰のために作品を作っていますか?

T:僕の場合は、自分と対象となるお客様がいてその間にあるのが作品ですね。そこでコミュニケーションを取るためのツールとしても成り立つし、ある意味、外界と繋がるための窓みたいなものですね。

A:僕、かなり前の展覧会で、「これは誰のために描いているんですか?」と聞かれたことがあって。それまで僕は自分のためにペインティングを勉強して、アートのためにという意識だったんですけど、そう聞かれたときに、「違うな」と妙に納得したんですよね。それ以降、「この作品の前に立つ人間のために描いている」というふうに考えるようになりました。

T:アートのためにっていうのは、今までの歴史の延長線上にっていう話ですもんね。そういう意味では、青木さんの絵画としてのあり方は今までの絵画のフォーマットとは少し違いますよね。

A:僕がよくシルバーをペインティングに使うのには理由があって。絵を見るときって自然と正面に立ってしまいがちだけど、そうじゃなくて、能動的に少し横にズレて見るという経験ができるのが人間らしくて、大切な感覚だと思うんです。エネルギー消費と時間の移動があるという、彫刻的なアプローチのペインティングの見方もあってもいいんじゃないかなと。

1556374813803-22360026
1556371986726-22360033

ものづくりに対する欲求が枯渇することってありますか?

T:僕なんて、ファッションの世界からアートの世界に来ていますからね。アートの世界にシフトした理由は、自分の作品のヒールレスシューズがメトロポリタン美術館に永久収蔵されたときに、死ぬ条件が揃っちゃったな、と正直思って。舘鼻はもう、歴史の中にいるから。そうなったときに、もっと新しい表現で違うことをやろうと思った。そうしないと自分には価値がないんだと。僕の場合、作品がいわゆる前衛的なタイプだから、ただ好きなことを遊びながらしていると周りから思われがちですけど、全くそういうことはなくて、けっこう辛いんです(笑)。産みの苦しみというよりも、新しい価値を作る、定義をする仕事なので。

A:新しい価値に向けた定義付けには膨大なリサーチと実践があって、その課題にはもちろん終わりがない。ある種もう使命感ですよね。

T:それって、研究者とか学者に近い作業なので、その苦しみはすごくあります。やっぱり、日本人として歴史をアップデートしなきゃいけないというか、そういう使命感がある。本当に、美術家としての仕事をしている、という感覚が強い。だから、一人でやる必要はないし、インハウスのスタッフだけじゃなく、伝統工芸の職人の方もみんなで一丸となってやればいいと思ってます。ある意味ムーブメントになることを望んでいるので。

A:僕は人間を描くことを最終的な目標にしているんです。そこに向かって、そのひとつの要素として光と物質性のシリーズを10年ほど続けていて。僕たちがいる3次元とペインティングの2次元の境界を考えながら、成立する最小単位を探しています。この理解の度合いが少しずつスライドしながら、範囲が広がっていく感覚で。未来や新しいものという対象には、必ず人間のためのという言葉が頭につくと思うので、人間を知るために。そこさえブレなければ、新しい発見や課題が目の前に現れてくるんだと思います。

1556372182587-22360031
1556374987570-22360032

1985年生まれのお二人は、日本におけるデジタルネイティブ世代ではないですが、幼少期にインターネットに触れていなかったことは、作品作りに影響していると思いますか?

T:あるんじゃないですかね。特に自分の場合は、手で物を作るのが当たり前の環境で育ったので、そういう感覚を理解しているからこそ、今は自分の手を使わないで作ることもありますけど。インターネット世代に生まれていたら、もう少しコピーアンドペーストや、編集に重きが置かれているような創作活動だったかもしれない。

A:僕も、手触りというか、実際の体験とか経験からブラッシュアップしていく感覚は、とても重要かなって思ってますね。スクリーンでは見えてこないことが大事だと思ってるところはある。

T:それこそ、インターネット世代ではない質量というのかな。それはすごく大切にしています。自分のアイデンティティと時代と社会の接点で仕事をしている感覚なので。

1556372399027-22350010
Noritaka Tatehana and Yutaka Aoki

Yutaka Aoki Movie Directed by Taro Okagawa

青木 豊 1985年 熊本県生まれ。2008年、東京造形大学造形学部美術学科絵画専攻を卒業。2010年同大学院造形研究科美術専攻領域修了。様々なアプローチで、人間としての様々な感性が呼び覚まされるような視覚体験を提供する。

舘鼻則孝 1985年 東京都生まれ。2010年、東京藝術大学美術学部工芸科染織専攻を卒業。アート、ファッション、デザインの枠にとらわれない、幅広い活動を展開。作品はメトロポリタン美術館、ヴィクトリア&アルバート博物館などに収蔵されている。

*「鈴木親「わたしの、東京」展と同時開催にて、青木豊ほかギャラリー所属作家のグループ展を開催中。

Group Show
2019.4.20〜6.1

会場
KOSAKU KANECHIKA
〒140-0002
東京都品川区東品川1-33-10
TERRADA Art Complex 5F
03-6712-3346
入場無料

https://kosakukanechika.com/

Tagged:
Art
chikashi suzuki
KOSAKU KANECHIKA
Yutaka Aoki
Noritaka Tatehana