"1+1"

ビヨンセの元ネタ集 決定版

50年代の人気セックスアイコンから未完の名作フランス映画まで、ビヨンセのアイコニックなヴィジュアルの元ネタはこちら。

by André-Naquian Wheeler; translated by Ai Nakayama
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04 October 2018, 9:41am

"1+1"

歌、踊り、演技……ビヨンセは何をやらせても燦然と輝くポップスターだ。しかし、彼女のアーティストとしてのマニフェストがもっとも濃厚に、強烈に表明されるのは、間違いなく彼女のヴィジュアルだろう。1本のMVを観るだけで、メトロポリタン美術館をじっくり観てまわったかのようだ。例えば2011年に発表された「Countdown」。アドリア・ペティ監督によるこの4分弱のMVでビヨンセは、ミュージカル映画『パリの恋人』(1957)、ベルギー人ダンサーのアンヌ・テレサ・ド・ケースマケル(Anne Teresa De Keersmaeker)、ダイアナ・ロス、映画『フェーム』(1980)、ジョゼフィン・ベイカーの〈バナナ・ダンス〉に、見事なオマージュを捧げている。

クイーン・ビーが参照する元ネタは、時代も、文化も、ジャンルも飛び越えるが、それには理由がある。彼女が選ぶ元ネタは、いかに彼女が、そしてブラック・ディアスポラに生きるすべての人が、ときにぶつかりあう様々な価値を融合する存在であるかを示しているのだ。元ネタは多岐にわたるが、同時に、知らなければただ楽しんで見過ごしてしまうほどさりげない。無理やりねじ込まれることはないのだ。ヒューストン生まれのビヨンセは、自身の美学を元ネタに寄せるのではなく、自分が選んだ元ネタを自身の美学へとフィットさせている。

ここでは、ビヨンセのあまり知られていない、隠れた元ネタを明らかにしていく。


ボブ・フォッシー

ビヨンセは卓越したダンサーだ。なので当然、世界屈指の振付師や地球上のあらゆるダンスからインスピレーションを得ている。フォッシーは『シカゴ』や『くたばれ!ヤンキース』などの名作ミュージカルの振付を手がけ、ジャズハンズを多用したキレがあるダンスナンバーを多数生み出したことで知られる、ブロードウェイ出身の伝説の振付師だ。

ビヨンセのヴィジュアルには、いつもフォッシー的な要素が含まれている。それについては、彼女の振付師でフォッシーマニアのフランク・ガトソンの存在が大きいだろう。ビヨンセが初めて直接的にフォッシーにオマージュを捧げたのは、2006年の「Get Me Bodied」のMV。彼女はフォッシーが監督を務め映画化された『スイート・チャリティ』の、特に「The Rich Man’s Frug」のシーンを参照し、超絶モードなナイトクラブでの複雑なグループダンスを演出した(蛇足だが、MV内でビヨンセは高い位置でポニーテールにしている。アリアナ・グランデの髪型の揺るぎなさを目の当たりにするにつけ、彼女も子どもの頃にこのMVを観たとしか思えない)。2006年のアルバム『B'Day』期には、フォッシー・オマージュが多用されていた。本アルバムをひっさげたワールドツアー〈The Beyoncé Experience〉では、『シカゴ』的演出を披露している。

その3年後、ボブ・フォッシーの作品は、ビヨンセに再びインスピレーションを与える。今度は、彼女のキャリアのなかでも最大のヒットとなった「Single Ladies (Put A Ring On It)」だ。ビヨンセは、フォッシーのダンスナンバー「Mexican Breakfast」(このお尻を叩く動き!)と、『スイート・チャリティ』から「There’s Gotta Be Something Better Than This」の動きを拝借した。このMVが発表された当初は、数多くのブロガーがこのトリビュートを〈盗作〉だと叩いたが、ポップカルチャーのヴィジュアルは常に他のアート作品との接触によって成り立っている事実を、彼らは知らなかったのだろう。このトリビュートは、カニエ・ウエストの曲づくりで使用されているサンプルや、ラナ・デル・レイがソングライティング時に参照している文学作品と並ぶほど巧みで、優れている。ビヨンセは盗用などしていない。彼女は他の時代、他のジャンルの要素を拝借し、それを現代の黒人を取り巻く環境に当てはめることに力を注いでいるだけだ。

1983年セントラルパーク・コンサートでのダイアナ・ロス

Google 画像検索で〈元祖 ポップス 歌姫〉と検索したら、検索結果のいちばん上には、雷鳴とどろき大雨の降るセントラルパークで、45万人を超える聴衆を前に歌うダイアナ・ロスの姿が出てくるはずだ。ダイアナの代名詞であるボリューミーな髪の毛は雨に濡れてぺしゃんこになり、マスカラは顔じゅうに流れ、スパンコールがついたオレンジ色のボディスーツはびしょ濡れ。彼女はあの、まるで映画のような瞬間に、ひとりのパフォーマーとして全力を注いでいた。観客が会場を立ち去るときにも歌い続けることで、治安を乱す観客が現れないように、と願っての決断だった。ファンのために危険を冒し、自らの限界へ挑む姿を彼女は示した。ただ観ているだけじゃ物足りなくなってしまうくらいにボルテージの高いステージ・パフォーマンスを魅せる女王ビヨンセも、もちろんダイアナのあのコンサートを崇拝している。

そんなビヨンセは、2013~14年に開催されたワールドツアー〈The Mrs. Carter Show〉で、ダイアナ・ロスのスパンコールつきのボディスーツ・ルックをよみがえらせた(もちろんマスカラは落ちない)。この衣装が披露されるのはコンサートのクライマックス。ビヨンセがメインステージから観客の頭上を越え、客席との距離がより近い、小さなサブステージへとフライングする。小さなステージに移ったビヨンセが歌うのは、ファン人気の高い「Love On Top」や「Irreplaceable」だ。このサブステージ・セクションは、余計なものが削ぎ落された、シンプルな演出だった。ビヨンセが歌い、観客と会話し、楽しい時間を過ごす。完璧主義のシンガーが、激しいダンスナンバーをしばし休み、まるであのセントラルパークのコンサートでのダイアナ・ロスのように、幸福感を存分に味わうことを自分に許したセクションだ。〈The Mrs. Carter Show〉ツアーでは公演ごとにどんどん新しい衣装が披露され、靴までも変わっていった。しかしこのダイアナ・ロスからインスパイアされたボディスーツだけは、ツアーの最後まで着られ続けた。

ティエリー・ミュグレー

2008年前半、ビヨンセはメトロポリタン美術館で開催された企画展〈Superheroes: Fashion and Fantasy〉を観て、そこでティエリー・ミュグレーのデザインと出会う。彼女にとってはそれが、大事な進化の瞬間だった。というのも、彼女はのちにミュグレーを雇ったからだ。ミュグレーは、ビヨンセのソロ3枚目となる『アイ・アム...サーシャ・フィアース』と、2度目の大規模ワールドツアーの多数のヴィジュアルを手がけた。

ビヨンセはミュグレーのアーカイブを掘り下げ、「Diva」のMVの衣装に結実させた(ミュグレーはこのMVの〈アシスタントディレクター〉としてクレジットされている)。このMVは、ブルックリンの廃墟となった倉庫で撮影され、それ以前に発表されたどのビヨンセのMVとも違う。衣装はすべて奇妙で、形も変わっている。レディ・ガガ登場以前のMTV時代におけるメインストリームとは、一線を画している。サーシャ・フィアースは奇抜さが命!

ビヨンセは「Sweet Dreams」のMVでも、ミュグレーのデザインをもとに、新たな表現の世界へと足を踏み入れた。このMVの不条理さは、まさにサーシャ・フィアースの世界観だ。ビヨンセは輝くゴールドのボディス、ヘルメットのようなフィンガーウェーブヘアといういで立ちで、何もない白い空間のなか、挑発的に舞っている。

ミュグレーは様々なかたちで、ビヨンセのティナ・ターナー風キラキラ衣装をより洗練された、アヴァンギャルドなルックへと進化させるのに貢献した。残念ながらビヨンセとミュグレーは『アイ・アム...サーシャ・フィアース』以来コラボしていないが、ミュグレーの残したものは今もビヨンセのなかに生き続けている。ビヨンセが『Lemonade』でオートクチュールを着用したのは、間違いなくミュグレーとの仕事に影響されてのことだろう。もしあなたが、この10年間ビヨンセがレオタードばかり履いているのは誰のせいだと憤っているとしたら、その責任はミュグレーにあるかもしれない。だけど、「とにかくそうなんだから、としかいえない」ことだってこの世にはあるのだ。

ベティ・ペイジ

ビヨンセは熱心なファンだ。卓越したヘアメイクチームを駆使しては、世界の誰よりもガチでコスプレをし、並外れた再現性をもって自分のアイドルたちになりきる。ハロウィーンでは、ポップス界のアイコンに変装するのが好きらしい。これまで、ジャネット・ジャクソンやSALT-N-PEPAのソルト、リル・キムなどになりきってきた。しかしビヨンセは私たち一般人と違い、アイコニックな強い女性にオマージュを捧げる機会をハロウィーンに限定する必要はない。2009年末から2010年初頭にかけて、ビヨンセは重め前髪の茶髪ウィッグをつけ、目元にはネコ目ラインを引いていた。そのインスピレーション源となったのが60年代の伝説的ピンナップ・ガール、ベティ・ペイジだ。

ビヨンセによるベティ・ペイジへのトリビュートは、「Partition」や「Drunk in Love」などの官能的で大胆なMVへ、自信をもって露出度の高い衣装で出演したことだろう。ベティ・ペイジ風ルックのビヨンセが初めて公になったのは、レディ・ガガをフィーチャーし、HYPE WILLIAMSが監督した「Video Phone」のMVだった。このMVのテーマはSM文化や倒錯的な性行為なので、ここで元祖セックス・アイコンにオマージュを捧げたのは理にかなっている(クエンティン・タランティーノ監督の『レザボア・ドッグス』も参照しているが)。ビヨンセが参加したレディ・ガガのド派手なポップソング「Telephone」のMV(主導権を握る女性がテーマ)、そして60年代風の蔑ろにされた人妻を演じた「Why Don’t You Love Me」でも、ベティ風ウィッグをつけている。

興味深いのは、ビヨンセがサーシャ・フィアースを殺そうと考えたそのとき、もうひとつのペルソナのなかにあった自分自身にも片を付けたことだ。以来ビヨンセは、セクシーさとパワーは共存する、と信じ、インターセクショナル(様々なアイデンティティが交差している、とする考えかた)な第4波フェミニズムに関心を抱いている。自らのセクシュアリティに誇りをもち、それをアートに昇華させたことでスラットシェイミングの標的となったピンナップ・モデル、ベティ・ペイジほどそれを体現する人はいない。ビヨンセと重なる部分もある。

ジョージ・マイケル「Freedom! ‘90」

ビヨンセは生粋のジョージ・マイケルファンだ。2009年にはジョージとともに「If I Were A Boy」のデュエットバージョンを披露しており、『アイ・アム...サーシャ・フィアース』の80年代バラード風の楽曲群が、彼の影響下にあるのは明らかだ。2014年のセルフタイトル・アルバムに収録された「Yonce」のMVでは、クリスティ・ターリントンやナオミ・キャンベルを始めとするスーパーモデルをフィーチャーした「Freedom! '90」の、現代版がつくりたかったのだと思われる。

「Freedom! ‘90」の映像が全年齢対象だとしたら、「Yonce」はその遠縁の、BDSMマニアの親戚だ。ビヨンセはシャネル・イマン、ジョアン・スモールズ、ジョーダン・ダンという3名のモデルをキャスティングし、マドンナの「Human Nature」的な90年代エロスを参照して、ただのリメイクではなく反動的なエッジが加わったMVを完成させた。

映画『L’Enfer』(アンリ=ジョルジュ・クルーゾー監督、1964年)

ビヨンセとジェイ・Zは熱烈なフランスびいきだ。THE CARTERS「Apeshit」のMVはルーブル美術館内で撮影され(ふたりのルーブル訪問はしっかり写真に収められ、もはやその写真自体がアートだ)、さらに「Partition」のMVでは、パリの老舗キャバレー〈クレイジーホース〉ががっつりフィーチャーされている。そういえばブルー・アイビーもパリでデキた子だ。そこまで知りたくなかった? いや、みんな知りたいはずだ。

ブルー・アイビーが生まれる直前に撮った「1+1」のMVでは、1964年の未完成のフランス映画『L'Enfer』の魅惑的な照明デザインが踏襲された。その結果、万華鏡のような、映画的なヴィジュアルとなり、抑制された美が強調されている。2011年は、ニッキー・ミナージュの「Stupid Hoe」やレディ・ガガの「Born This Way」など、悪趣味な〈やりすぎ〉を極めたMVのポップソングが礼賛される時代だった。そんななか、「1+1」は過剰な演出やYouTubeでのヒットを狙うトレンドを拒み、『L'Enfer』のような削ぎ落された、動きのないMVとなった。「マイクと照明があればいい」。ビヨンセ本人もそう言っている。

映画『トゥキ・ブゥキ/ハイエナの旅』(ジブリル・ジオップ・マンベティ監督、1973年)

本作の主役は、〈セネガル版ボニー&クライド〉とも呼べるであろう恋人たち。ビヨンセとジェイ・Zは、THE CARTERSのツアー〈On The Run II〉のグッズやヴィジュアルで本作のシーンを再現し、〈ボニー&クライド〉的モチーフにアフリカ文化の要素を加えた。

今年のビヨンセは、ブラック・ディアスポラにおける声を増幅させることに重きをおいて活動している。写真家タイラー・ミッチェルがビヨンセを撮影した、今年9月号の『Vogue』の表紙がその証拠だ。黒人写真家が表紙を撮影したのは、『Vogue』の歴史で初めてだった。また、彼女が参照する元ネタは、どんどんPOC(=People of Color、有色人種)寄りになってきた。もうオードリー・ヘプバーンではない。古代エジプトの王妃ネフェルティティに扮したり、南北戦争以後、黒人のための高等教育機関として設立された大学群〈歴史的黒人大学(HBCU)〉の伝統にオマージュを捧げ、架空のHBCUをテーマにしたステージを披露している(あの大学に入りたくない人などいない!)。

惜しくも予選落ちした元ネタたち…

Hold Up」で扮したアフリカの女神オシュン(Oshun)。「Naughty Girl」でアッシャーが演じたフレッド・アステア。「Formation」でサンプリングしたメッシー・マヤ(Messy Mya)。「Beautiful Liar」でのデヴィッド・ブレイン。「Telephone」のワンダー・ウーマン。「***Flawless」での英国パンクシーン。「Love on Top」でのNEW EDITION「If It Isn’t Love」のMV。

This article originally appeared on i-D US.

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