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      fashion Anders Christian Madsen 21 April, 2017

      マリア・グラツィア・キウリが語る、Diorオートクチュール・コレクション in GINZA SIX

      マリア・グラツィア・キウリにとって初となった2017年春夏Diorオートクチュール。そのコレクションに、日本で製作された新たな8ルックを加えた日本オリジナルのショーが、今週の水曜、GINZA SIXにて行なわれた。

      世界の視線が北朝鮮とアメリカ同盟国各国の動向に注がれた今週、Diorが東京でショーを行なった。あまりにも不安定な情勢のなかで行なわれたショーとなったが、「この世に政治が圧政できないものがあるとすれば、それはファッションが持つ自由な精神だ」ということを浮き彫りにするショーでもあった。GINZA SIXの開業とともに新たなDiorショップがオープンしたことを祝い、マリア・グラツィア・キウリが同施設の屋上庭園で行なったこのプレゼンテーションは、2017年春夏オートクチュール・コレクションのロング・バージョンとなった。Diorを讃えるイベントの一部として行なわれたこのショー、締めはクリス・ヴァン・アッシュによる2017年秋冬Diorコレクションの内容で、最後にはレイヴの演出が見られた。「東京が好き」と、キウリはグランドハイアットで行なわれたプレビューで語っていた。グランドハイアットには仮設アトリエが作られており、Diorアトリエ長であるフロランス・シェハト(Florence Chehet)が、プレビュー・イベントの運びを見守っていた。2016年の夏にValentinoを離れ、Diorのクリエイティブ・ディレクターに就任して1年が経とうとしているキウリだが、とてもリラックスして見える。「日本は伝統を大切にしている国。でも同時に、とても近代的な面も持っている」と彼女は言う。"原宿ガールズ"のことかと尋ねると、「そう。それと着物。日本はイギリスに似ているわ。女王がいる一方で、パンクもある。日本も同じで、力強い伝統が息づきながら、そこに近代的な姿勢も生まれる。そういうあり方は好きですね」

      「魔法の森」というテーマのもとに作られ、今年1月にパリで発表されたオートクチュール・コレクションだったが、キウリは今回、そこへ新たに8ルックを加えた。新しいルックは「日本の庭園」をテーマとして作られ、そこには、先週の東京で満開を迎えていた桜をはじめとする日本固有の花の要素が取り入れられていた。デリケートなチュールのガウンには、おもわず息を潜めてしまうほど繊細なピンク色をした桜のモチーフが描かれ、磁器のように美しい。モデルの髪には、このイベントに合わせて来日していたスティーブン・ジョーンズによる桜の髪飾りがあしらわれていた。いぐさの畳のような風合いで編まれた生地のジャケットやくるぶし丈スカートが登場するなか、ドレスのひとつには「Jardin Japonais, Christian Dior 1953(日本の庭園 Christian Dior 1953年)」との刺繍がほどこされていた。このドレスは、1953年にメゾン創業者のクリスチャン・ディオールが発表したオートクチュール・コレクションにあった鳥と桜のモチーフに着想を得てデザインしたもの。キウリが日本をモチーフとしたこのドレスを作ったのは、今回のショーだけが理由ではないようだ。クリスチャン・ディオールは、日本を愛するクチュリエだった。彼は、作品に日本的要素を盛んに取り入れただけではなく、50年代には日本各地でショーを開催するほどに日本を愛していたのだ。そんなメゾンの過去作品に着想を得て、日本へのDiorの愛を表現したかったのだという。

      クリスチャン・ディオールが死去した2年後の1959年、当時の皇太子殿下(今上天皇)と現美智子皇后が結婚した。結婚式で、美智子皇后はChristian Diorのウェディングドレスを着ていた。3着制作されたというChristian Diorのドレスは、そのすべてが、クリスチャン・ディオールが生前に描いたスケッチをもとに、彼の死後、Christian Diorを継いだイヴ・サン=ローランが日本で作り上げた。「アーカイブには、ディオールがいかに日本に魅了されていたかを示す要素や記録がたくさん見つかりました」と、キウリは語った(この日彼女は、自身のDiorデビュー作となった2017年春夏プレタポルテ・コレクションから、フェンシング・ジャケットと、「We should all be feminist(誰もがフェミニストであるべき)」Tシャツを着用していた)。「なんといっても惹かれたのは、そのスケッチです」と、彼女は会場のムードボードに貼られたDiorアーカイブ写真を指差して言った。「スケッチを見てわかるのは、日本の女性がいかに伝統的装いというものを大切にしているかを、彼が深く理解していたということ。ディオールは、コートをふたつデザインしています。ひとつは、着物のうえから羽織ることができる仕様のもので、もうひとつも、背中に切り込みが入っていて、着物と一緒に着ることができるデザインされていました」。デザイナーが作り上げた服は、ひとたびアトリエから離れると、グローバルな共同体や各国のもつ固有の文化と、そのトレンドや革新性を介して、出会い、絶え間ない対話を続ける——クリスチャン・ディオールは、キャリア初期にしてすでに、ファッションをそのように理解していた。今回キウリが参照したアーカイブ作品は、そうしたクリスチャン・ディオールのヴィジョンを雄弁に語っているようだった。

      ディオールがこの世を去ってから半世紀後の水曜、GINZA SIXに集まった東京のファッショニスタたちは、ディオールが感じていたファッションのダイナミズムを体現していた。屋上庭園に吹く風が絶妙な物語性を添えた、キウリのオートクチュール——見守るゲストたちは、プレタポルテで発表されたスポーティなフェンシング・ジャケットに透け素材のチュール・スカートを合わせ、そこに思い思いのキモノ風ローブを羽織っていた。キウリが打ち出す現代的Diorは、市場に迎合するデザインを提供するものではない。グローバルな現代人のためのファッションを生み出すメゾンなのだ。「ファッションか、ファッションでないか——そのどちらかでしかないと思います。市場がどうのということは関係ありません。もしあなたがファッションに没頭できるなら、アメリカ人にも日本人にもなれる。もしそうでないなら、あなたはファッションに関心がないということでしょう。世界中に友達がいるけれど、ファッション好きな友達は、そのことを知っている。そういうことだと思います」。それ以外の偏見はもう時代遅れだとキウリは言う。「特にいまという時代は、ファッション好きな人たちが国境を超えてつながることができる。それはインターナショナルな共同体、世界的なヴィジョンなのです」と、彼女は背後の窓の外に広がる東京の夜景を眺めながら言った。

      「わたしがファッション界で働き始めたとき、マーケティング部の人たちは、『日本ではパステルカラーを使うと上手くいくんだよ』と言いました。でも実際に行ってみたら、日本のファッショニスタたちは皆、わたしと同じような服のセンスをしていたんです。ローマに戻って、『どこでパステルカラーを着ている女性を見たの?』と言い返しましたよ。そうした的外れな空想は、幾分か時代遅れで、インターネット以前の産物なんでしょうね」。マリア・グラツィア・キウリが東京で水曜に開いたショーは、今年1月にパリで発表したオートクチュール・コレクションだった。しかしキウリは、自身が描くDiorの新たなヴィジョンを日本へ、そしてアジアへ示す今回のイベントで、彼女がひとりのデザイナーとしてファッション界で着実に構築しつつあるイメージ——フェミニズムの考え方をもって、異文化が互いに理解しあう世界を望む社会を、誠実で現実的なアプローチで築こうとするポストモダニスト——に、幾層もの新たな奥行きと深みを織り込んだ。それは新鮮で、魅了されずにはいられない世界観だ。キウリは来月、2018年クルーズ・コレクションをロサンゼルスで発表する——茶番のような政治が現実をかき乱している土地で、またしても彼女がそのヴィジョンをもって素敵な世界を描こうとしているのだ。キウリがファッションを通して示している視点から見ると、「世界はきっとどこかに平和的解決への道を見出すことができるはずだ」と思えてならない。

      Credits

      Text Anders Christian Madsen
      Images courtesy of Dior
      Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.

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      Topics:fashion, dior, dior haute couture, couture, maria grazia chiuri, tokyo, japan, ginza six, haute couture

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