Photography Jason Dill

「この本は俺がいなくなったあとも残り続ける」:ジェイソン・ディルが語る初の写真集『Prince Street』制作秘話

伝説のプロスケーター/Fucking Awesomeファウンダーが、初の写真集『Prince Street』を出すに至った経緯や自分が撮る写真への思いを語ってくれた。

by Paige Silveria; translated by Nozomi Otaki
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06 June 2022, 3:00am

Photography Jason Dill

ジェイソン・ディルは、私たちには夢に見ることしかできない、快楽主義に満ちた生活を送ってきた。幸い、そんな私たちのために、この伝説のプロスケーター(そしてカルト的ストリートウェアブランド/スケートボードカンパニー〈Fucking Awesome〉のファウンダー)は、パーティーや旅行の合間に、それをフィルムに残してくれた。彼が新たに発表した写真集『Prince Street (Photos from Africa, People Remembered, Places Forgotten)』には、今は亡きダッシュ・スノウやフォトグラファーのティム・バーバーなど、気の置けない仲間やダウンタウンのグラフィティクルー〈IRAK〉のメンバーの姿をとらえた、今まで誰も見たことのない写真が収められている。

「8歳くらいのときに鏡に映る自分をポラロイドで撮って、すぐに出てきた写真の自分を見て、これいいな、と思った。それが初めての写真の体験だった」とジェイソンは本の冒頭で説明している。幼い頃に写真に出会ったにもかかわらず、自分の写真集を出すことになるとは想像もしていなかったという。しかし、友人から繰り返し勧められ、数百枚のネガフィルムをデジタル化したあと、ジェイソンはようやく考え直した。

その結果完成したのが、夜通しのどんちゃん騒ぎ、自由の祝福、青春の生々しいエネルギーを記録した、まさに歴史に残る芸術作品だ。「今の生活はあの頃とはまったく違うし、俺がこの写真を撮った世界はもう存在しない」とジェイソンは語る。「その世界が恋しい。この本は幸せ、ユーモア、愛、後悔、ヌード、痛み、そしてほんの少しの悲しみを捉えている。この本は、俺がいなくなったあとも残り続ける。それこそがこの本をつくった目的だ」

a photograph of dash snow by jason dill

──『Prince Street』は初の写真集だそうですが、前にも本を数冊出していますよね?

いや、本は一度も出したことがないよ。他の誰かと一緒にZINEを出したことはあるけどね。『Fuck This Life』っていう本を出した友だちのデイヴと、OHWOWやSupremeに関する本も出した。ZINEを本にしたんだ。でも、本格的な書籍はつくったことがない。今回のはかなり分厚くて、250ページもある。大きさも30センチ以上あって、ちゃんと装丁もされてる。これまで自分の写真をまとめて本にしようと思ったことは一度もなかった。しかもこんなに大きな本なんて、想像もしてなかったよ。

──掲載された写真について教えてください。

俺は偶然にも、若い頃から世界中を旅する機会に恵まれた。10代の頃、使い捨てカメラを持ち歩いて写真を撮り始めた。それから20歳か21歳のとき、オリンパスを買った。それでどこかへ出かけるたびに写真を撮るようになったんだ。1994年に初めてニューヨーク、東京、パリ、ロンドンに行った。この本に載ってるのは、1997年から2015年までの写真。

a boy playing soccer in new york city by jason dill

──そのあと写真を撮るのはやめたんですか?

少しね。今は昔ほどカメラは持ち歩かない。今はもう、若い頃写真を撮っていたときみたいにはいかないからね。ありきたりかもしれないけど、この本の中には、外国の公共の場で撮った人びとの写真もある。この写真が撮れてよかったと思うけど、失礼な行為だよね。もちろん全部ではないけど、無許可で撮った写真もある。かなり前の写真だし。それを正当化するわけじゃないけど、それでも、この写真が残っていてよかったと思う。

写真に詳しいひとはみんなネガをきちんと整理してると思うけど、俺が自分のネガを整理し始めたのは、ほんの数年前のこと。そのときにこの本をつくるプロセスを始めた。ようやく写真を全部パソコンに入れて、初めてそれを見返すことができた。うわ、これ1998年だ、ってね。写真を通してタイムスリップしたみたいな感じだった。

trucks and a crowd on a new york city street by jason dill

──なぜ写真集を出すまでにこれほど時間がかかったのですか?

自分の写真にちょっと自信が持てなかったんだ。自分の絵や自分がつくるプロダクトにも少し不安になるのと同じ。でも、たくさんの友だちが──俺が心からその意見や活動を尊重してる相手が──何度も写真集をつくるべきだと勧めてくれたんだ。だから、つくることにした。

──写真に自信が持てるようになるまでに、どれくらいかかりましたか?

2年以上かかった。この30ヶ月はとにかくつらい出来事の連続で、そのせいで長引いたんだ。特に急いでいたわけでもない。それに満足もしてるよ。でも、満足できるかどうかを決めるのは俺じゃない。写真を撮ったのは俺で、あまりにも長く見過ぎたからね。靴の箱に詰めたままじゃなく、初めてちゃんと写真を見返したときはうれしかったよ。パソコンに写真を入れて、拡大して見られる状態になると、今まで見えなかったものが見えて新鮮だった。笑えるものも、興味深いものもあった。俺としてはそれで十分だった。

a black and white photo of a skate in front of a crucifix

──Fucking Awesomeの服には自作のコラージュを載せていますよね。写真よりもコラージュのほうが自信が持てるということですか?

そう、全部自分で作ったコラージュだよ。俺の写真をグラフィックにしたデッキ2枚とTシャツも何着かある。どれもうまくいったよ。仕上がりには満足してる。でもだいたいは自分の絵や写真よりもFucking Awesomeのプロダクトのほうが自信がある。コラージュをつくる過程では、いつでも前に戻って何かを変えたりやり直すことができるから。それに、別の街で自分が作った服を着てるひとを見かけること以上に自信につながることはないだろ? 最高にクールだよ。いろんなフォトグラファーや画家の作品を見てるけど、本当にすばらしいと思う。それで、うわ、俺のはクソだ、って思うんだ。

昨日インタビューを受けた男性はすごくいいひとで、「現代のInstagramのないフォトグラファーというのは、フィルムリールのない監督のようなものだそうですね」と言っていた。俺はインスタをやってないからね。自分で作ったフェイクならあるけど。なんでこの話をしたかというと、今回出す本には、未公開の写真がたくさん載ってる。携帯でもパソコンでもなく、この本でしか見ることができない写真がね。有名な経歴がなければ、なかなか本を出すのは難しいってことはよく理解してる。俺は運よくスケートボードやカンパニー、その歴史のおかげでそれがあった。最近では何もかもがアウトソーシングされて不満が高まってるこの業界の中でも、人間らしさに満ちたもの、実際に手に取って見る作品をつくることができてうれしいよ。

この本が誰かの家の棚に置かれ、そこに別の誰かがやってきて、俺が何者なのかもまったく知らずに手に取ってページをめくる……そんな作品をつくれたことがうれしい。この惑星であとどれくらい歩き、話し、呼吸し、脳を働かせられるかなんて、誰にもわからない。でも、この本が誰かの棚に置いてある限り、それを買った以外の誰かがやってきて見てくれる可能性があるってことだ。

someone holding up a painting in a field of green grass by jason dill
a person cooking in tights and lingerie by jason dill
two teens bent over on the subway steps in new york city by jason dill
a woman holding her nose in the back of a new york city cab by jason dill
a table set in front of a hotel window with an ocean view by jason dill
a person walking in a new york street by jason dill
looking down on a new york city street while it's raining by jason dill
a man walking down a new york street in briefs and carryin groceries by jason dill
self portrait in a hotel room by photographer jason dill
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