Extreme Nation director Roy Dipankar and the band Plague Throat in Sohra, India

腐敗した政府への怒りを叫ぶ、インドの若きメタルヘッズ

「寄生虫みたいにこの国を食い物にしている」インドのメタルバンドが叫ぶ、政府と資本主義への怒り

by Jak Hutchcraft; translated by Nozomi Otaki
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24 August 2020, 9:48am

Extreme Nation director Roy Dipankar and the band Plague Throat in Sohra, India

インドでメタルヘッズとして生きるのは楽ではない。多様なバンドが活躍しているものの、ライブが行われることはまれで、世間からは白い目で見られがちだ。さらに今年は新型コロナウイルスの影響でライブのキャンセルが相次ぎ、特に厳しい状況に置かれている。しかし、そんな逆境にもかかわらず、彼らの信念は揺らがない。

「インドの人たちは、このサブカルチャーを特定の階級と結びつける。社会の最下層にいる変人だと思ってるんだ」と打ち明けるのは、生涯にわたるメタルファンで、珠玉のドキュメンタリー『Extreme Nation』の製作総指揮を務めたアブヘイ・シン(Abhay Singh)だ。

本作はインド、パキスタン、スリランカ、バングラデシュのメタル/エクストリームミュージックシーンを追った作品で、情勢が不安定なインド半島で、このユニークなアンダーグラウンド・サブカルチャーに属する人びとの現実を描いている。

「ヨーロッパや他の国のオーディエンスが観てくれてうれしい」とアブヘイはいう。「遠く離れた場所にいても、想いは同じだからきっと共感してくれるはず」

インドのメタルシーンの起源は1988年、バンガロールで国内初のメタルバンドMILLENNIUMが誕生したときに遡る。もともとIRON MAIDENのコピーバンドとして活動を始めた彼らは、のちにオリジナル曲をリリースして1990年代にブレイクし、DEEP PURPLEやMEGADETHがインドでライブを行なったさいはサポートを務めた。

しかし、当時のインドで欧米のヘヴィメタルを入手するのは至難の業だった。「よくカセット探しの旅に出ていたけど、めちゃくちゃ大変だったよ」とアブヘイは当時を振り返る。

「ヘヴィメタルはあまり売れないから、大手レーベルのコーナーを見たってカセットは見つからない。そもそもインドのような国では、売り上げが良くなければ販売すらされない」

「だから、僕らだけの海賊版コレクションを集めてた。香港や中国でリッピングされてアジアの各地域に送られ、ネパールから国境を越えて、インドの僕が住んでいた町までやってくるんだ」

90年代の終わり頃には、同じくバンガロール出身のDYING EMBRACEのようなデスメタルバンドや、ムンバイ出身のブラックメタルバンドFATEなど、国産メタルバンドが徐々に増えていった。

2000年代前半には、KRYPTOSやDEMONIC RESURRECTIONなどのバンドが全国ツアーを開催し、メタルバンドが一度も訪れたことのない地域でもライブを行なったことで、このシーンを次のレベルへと押し上げた。

その後、シーンを牽引するこのふたつのバンドに続き、さまざまなスラッシュ、プログレッシブ、ドゥーム、グラインドコア、ノイズ、デス、ブラックメタルバンドが国内の至るところで誕生した。

2010年代には、BandcampやYouTubeなどのプラットフォームは、バンドが自身の曲を広め、シーンの成長に貢献するための最も重要なツールとなった。その結果、ネット上で国境を越えたファンベースを築いているニューデリー出身のBLOODYWOODのような新進気鋭のバンドが、世界中のライブやフェスにブッキングされている。

その他に特筆すべきは、ムンバイ出身のスラッシュメタルバンドSABOTAGEだ。2019年にリリースされた彼らのファーストLPは、ベイエリア・スラッシュメタルの影響と、政治的な歌詞を特徴としている。

「とにかく怒りのはけ口が欲しくて。音楽でやったらいいんじゃないか、って思ったんだ」とSABOTAGEの25歳のギタリスト、シリル・トーマス(Cyril Thomas)はZoomで語った。

彼はいったい何に対して、それほど激怒しているのだろう。「この国で起こっていること全部だ。政治的な問題から女性の扱いまでね」

「女性は街を歩いているだけで危険にさらされるし、教育はめちゃくちゃ。景気もどんどん悪化している。パンデミックでみんなが悲観的になっているときに、首相はこの国の現状について話そうともしない。そういうこと全部に腹が立つ」

バンガロール出身の4人組デス/ブラックメタルバンドAEMPYREANのヴォーカル、BRも彼の怒りに共感する。「僕たちの曲や歌詞の根底にあるのは、断固とした憎悪と恨みだ」と彼は説明する。

「優柔不断で流されてばかりの連中と偽善者だらけの世界に住んでいれば、頭にくる理由は永遠に尽きないよ」

他にバンドにとって重要なトピックとして、彼は「戦争、死、オカルト現象、時間、人生の無意味さ、命を軽視すること」を挙げた。

インドのロイヤルバンクの統計によると、現在インド人口の22%が最低水準以下の生活を送っている。チャッティスガル州やジャールカンド州などの農村部では、貧困率は45%にのぼる。

人口13億5000万人を超える〈世界最大の民主主義国家〉と称されることも多いインドだが、政治的な腐敗はいまだに大きな問題となっている。

ナレンドラ・モディ首相は、2014年と2019年の選挙で汚職行為の防止を公約に掲げたが、それは依然として果たされておらず、国民の不満は募るいっぽうだ。

「この国の状況は日に日に悪化している」と語るのは、ジャイプルのメタルコアバンドDemigoDのキーボード、22歳のサンスクリティ・マザー(Sanskriti Mathur)だ。「トップの政治家たちはカースト、肌の色、宗教に基づいてこの国を操る方法を熟知していて、ずっと思い通りにコントロールしてきた」

「私にいえるのは、今こそ責任を持って行動を起こさなければ、誰も私たちを救ってくれない、ということだけ」

このような政府や資本主義への反感は、今回取材したインドの若きメタルミュージシャンのほとんどに共通するものだ。

「僕たちは政府にはっきりと立ち向かう曲を書いている」とグワーハーティーのプログレッシブメタルバンドEYES OF THE MARTYRのヴォーカル、アミール・ハザリカ(Amir Hazarika)は明言する。

「彼らがやっていることのほとんどは、国民のためではなく私利私欲のため。寄生虫みたいにこの国を食い物にしている」と現在29歳のアミールは主張する。

「本当に嘆かわしくて、残酷で、耐えがたいことだと思う。上の方で踏ん反り返って国を操っている政治家たちは、とんでもない極悪人だ」

アジアにおいて、急成長を遂げるユニークなメタルシーンが厳しい現実に直面しているのは、インドだけではない。

例えばマレーシアには、政府がメタルヘッズを標的にしたり、メタルが悪魔崇拝と結び付けられたことで、道徳的な議論が巻き起こった歴史がある。同国の政府によって国内でのパフォーマンスを禁じられたバンドのリストには、CARCASSとLAMB OF GODの名前もあった。

インドネシアでは、パンクロックの取り締まりによって、2011年に64人の若いパンクファンがバンダアチェのライブ会場で拘束され、無理やり髪を剃られるという事件が起きた。

地元の警察署長は、この件について次のように証言している。「私たちは誰も拷問していないし、人権も侵害していない。ただ彼らを正しい道に戻そうとしているだけだ」

メタルは長きにわたり、保守主義やキリスト教を中心とする宗教と一触即発の関係を築いてきた。SLAYER、CRADLE OF FILTH、ROTTING CHRIST、そしてノルウェーのブラックメタルバンド全般は、多くの国民が信じるキリスト教に異を唱え、冒涜的な歌詞と神の教えに反する思想によって成功を収めた。

インドも間違いなく信仰心の強い国だ。人口の79.8%がヒンドゥー教徒で、他はムスリム、クリスチャン、シク教徒、仏教徒など多岐にわたる。インドのメタルバンドも、ステージでクリシュナ、シヴァ、ヒンドゥー教的な生き方を非難しているのだろうか。

「僕たちは反宗教主義だ。初めて書いた曲は〈Rewind Religion〉というタイトルで、すべての宗教に反対している。もちろん仏教にもね」とシリルは簡潔に答えた。

「宗教はビジネスのために悪用されていて、それが憎悪の源になっている。政府はこの国をヒンドゥー教国家にしようとしている。表向きは、この国は共和国で、国民は自由に暮らせる、と謳っているけど、それは嘘だ」

映画プロデューサーのアブヘイはヒンドゥー教一家に生まれ、インドの工業都市ジャムシェードプルにあるアイルランド系カトリックの学校に通った。しかし、7歳のときに家族を亡くしたことがきっかけで、信仰心が薄れていったという。

「なんで神様はこんなことをするんだ、って両親に訊いたんだ。ふたりは黙っていた。答えがもらえないかわりに、疑いの種が自分のなかに植えつけられた」

十代になると彼は逆さ十字のアクセサリーを身につけ、両親をうろたえさせた。「ふたりともめちゃくちゃビビってたよ。どうしてキリスト教を冒とくするんだ、って。当時はDEICIDEの曲をよく聴いてた。悩み多き高校生だったんだよ」

現在アブヘイはITアーキテクトとして働き、家族とともにチューリッヒで暮らしている。彼のメタル愛は強まるいっぽうで、それはドキュメンタリー『Extreme Nation』にもよく表れている。

「観れば鳥肌が立つよ。メタルを聴けばみんなそうなる」とアブヘイは熱のこもった口調で語る。

「今朝のジョギングでMAYHEMの『Grand Declaration of War』を聴いてたんだけど、まずドラムで始まって、それからあのマニアックの歌い出し……。僕にとってはワーグナーの『ワルキューレの騎行』のような曲なんだ」

BRも保守的で信心深い家庭に生まれたが、十代後半に信仰心を捨て去った。「組織的な宗教は全部嫌いだ。それよりもいろんな文化のマイナーな信仰について調べるほうがよっぽど面白い」と彼は主張し、自身のバンドAEMPYREANは「インド史上最も野蛮で不道徳なブラック/デス/スラッシュ・メタルバンド」だ、と豪語した。

組織的な宗教、特にキリスト教に対するAEMPYREANの反感は、彼らがカバーしたMORBID ANGELの1989年の「Chapel of Ghouls」という選曲にもよく表れている。

この曲で、BRは声高に罵る。「死んだ! お前の神は死んだ!/バカどもが! お前の神は死んだんだ!/嘘っぱちを祈っても無意味だ/サタンの到来を刮目せよ!」

今回取材したミュージシャンの大半は無神論者だったが、全員が好戦的で宗教に反対していたというわけではない。

「信仰を押し付けられなければ、どんな宗教でも特に異存はない」とサンスクリティはいう。「人は人、自分は自分、が私のポリシー。私はそうやって生きてる」

では、思い切ってブラックメタルバンドのTシャツを買い、モッシュピットで〈変人〉に加わる異端者たちにとって、地元のライブはどのようなものなのだろう。

「このコミュニティはかなりコンパクトだから、オーディエンスはすごく熱狂的で一生懸命なの」とサンスクリティはジャイプルでのパフォーマンスについて語った。「楽しいよ。ブラザーフッドとか一体感を体験できる」

もちろん、シーンを陰で支える熱心な人びとがいないわけではない。例えばCyclopian EyeTranscending Obscurityなどのレーベル、Bangalore Open AirBohemian Liveなどのフェス、

Blackblood Indiaなどのコレクティブは、自国の才能溢れるアーティストをサポートするとともに、世界のバンドを呼び寄せるべく活動している。

スリランカのGENOCIDE SHRINES、米国のNILEをゲストに迎えた最近のライブは、BRの言葉を借りれば「超白熱した」そうだ。

世界の多くのオルタナティブバンドやアーティストと同様、今回取材したミュージシャンたちは昼間は別の仕事をして、夜や週末に音楽に打ち込んでいる。しかし、彼らのキャリアプランは〈ビッグになる〉ことではなく、音楽活動は娯楽や感情のはけ口のためというひとがほとんどだ。

「別に何かを期待してるわけじゃない」とシリルはいう。「プロに挑戦したいわけじゃない。インドでは受け入れられないってわかってるから。これは僕らの趣味で、情熱を注げるものなんだ」

サンスクリティは、DemigoDとして活動する傍ら、デジタルマーケティング会社に勤めている。「メタルミュージックを作るというのは、何も気にせずに本当の自分を表現できるということ」と彼女は説明する。「何にも縛られることのない自由を与えてくれる」

その一方で、アンダーグラウンドから抜け出すことを夢見るアーティストもいる。アミールは、インド人アーティストの粘り強さによって、いつかシーンの新たな地平が開かれると信じている。

「ほんのひと握りのバンドを除いて、インドで十分に稼いでいるメタルバンドはほとんどない」と彼は証言する。

「それでも、いつかやってやる、っていう希望は僕たちの心にも頭にもある。僕たちは簡単には割れない硬い石だ。インドのメタルの未来のために力を合わせれば、必ず成功するよ」

メタルヘッズはどこまで行ってもメタルヘッズだ。彼らはライブでモッシュする仲間たちと一緒に酔いつぶれ、ファッションやファンダムを通して本当の自分を表現し、マイクに向かって神と政府を罵倒する。

この国のメタルシーンはまだ他国の水準にはほど遠いが、だからといってメタルヘッズたちの情熱は変わらない。インドのアンダーグラウンドバンドは、これからも轟音を響かせ続けるだろう。

インド半島のメタルシーンを追ったロイ・ディパンカー監督のドキュメンタリー『Extreme Nation』は、こちらで配信中。

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