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      film Mizuhito Kanehara 14 April, 2017

      作家ローラ・アルバート、インタビュー

      1996年にアメリカの文壇に現れた天才美少年作家J.T.リロイ。しかし、その正体は30代の女性だった……。現代のアメリカ文学界最大のスキャンダルの舞台裏を描いたドキュメンタリー映画『作家、本当のJ.T.リロイ』の公開にあわせて来日していたローラ・アルバートに、彼女の小説を訳した翻訳家・金原瑞人が話を訊いた。

      作家ローラ・アルバート、インタビュー 作家ローラ・アルバート、インタビュー 作家ローラ・アルバート、インタビュー

      ローラ・アルバートは、1965年生まれのユダヤ系アメリカ人。35歳のときにJ.T.リロイの名で『サラ、神に背いた少年』を発表し、新人作家として注目を集めた。この小説に魅了されたのは、文学好きの人々だけではなかった。マドンナ、コートニー・ラブ、ボノ、ウィノナ・ライダーなど、音楽界、映画界、ファッション界の著名人も魅了された。
      ただひとつ、問題があった。18歳の少年が書いた自伝小説として発表されたことだ。最初のうち、マスコミその他へのローラの露出はまったくなかったのだが、そのうち彼女は夫の妹サバンナ・クヌープを男装させて、J.T.リロイに仕立てあげる。
      まるでシェイクスピアの『十二夜』のように入り組んだ展開だが、この演出は大成功で、やがてイタリアの女優・映画監督アーシア・アルジェントが、この作品の続刊『サラ、いつわりの祈り』を映画化し、サラ役で出演する。しかし、2006年、すべてが明るみに出て、スキャンダルになる。

      来日していた作家ローラ・アルバートに、J.T.リロイの『サラ、神にそむいた少年』と『サラ、いつわりの祈り』を訳した翻訳家・金原瑞人がインタビューを行った。

      © 2016 A&E Television Networks and RatPac Documentary Films, LLC. All Rights Reserved.

      金原:日本にいらっしゃってから、試写会のあとのQ&Aに出たり、インタビューに答えたりしてきたと思うのですが、そのなかで印象に残っていることがありますか? 

      ローラ:昨夜の試写会のQ&Aで、60代の女性から「あなたが死なないでいてくれたよかった。いまは幸せそうでうれしい」といわれ、胸が熱くなりました。それから最初のインタビューの方が男性で、トランス・ジェンダーというほどでもないのですが、その傾向があって、幼い頃虐待を受けたけれど、いまはアーティストとして、そのときの体験を昇華させていると話されたのもよく覚えています。
      ほかにもいくつか印象的なことがあります。少ない経験ですが、日本の観客の方々は、あの本に熱狂したセレブではなく、映画の内容そのものに興味を持って、驚くほどよく理解してくださっているように感じています。

      金原:それはうれしいです。さて、これから作家としてのJ.T.リロイ、というか、ローラさん自身の文学体験について訊きたいと思います。ぼくはローラさんの作品2冊を読んで、「きっと南部の作家なんだ。フラナリー・オコナーやカーソン・マッカラーズやトルーマン・カポーティの愛読者で、幻想的な本が好きな作家なんだ」と思っていたのですが、どんな本がお好きですか? 

      ローラ:フィリップ・K・ディック、ドストエフスキー、とくに『罪と罰』が好き。あと教育テレビで『マスターピース・シアター』というのがあって、いわゆる名作劇場なんだけど、これはよく観てたわ。オコナーも読んだけど、作品が冷たい感じがした。わたしは温かい物語を書きたかったの。たとえば、喪失感のなかで自分を取り戻そうとする主人公を描いた作家が好き。トニ・モリソンとかアリス・ウォーカーとか。
      でも、あれこれ読んでみたけど、自分を扱ったような本には出会わなかった。そのうち、ホットラインに電話をして、テレンス・オーウェンズ先生にいろんな話を語り出すわけ(編注:ローラは、他者との関係性について書くようテレンスに勧められて、小説を書きはじめた)。ちょうど、いくつかゲイ・フィクションが出始めた頃だけど、まだそれほど一般には知られてなかった。だから、自分がなんでこういうことをするのか、自分になんで人と変わったところがあるのか、自分でもわかっていなかった。

      金原:そうでしたか。ぼくのイメージは全くちがっていましたね。創作態度というか、書くときに気をつけていることはありますか? 

      ローラ:クラフトを大切にしたいと思ってます。クラフトというのは技術といってもいいんだけど、作品を巧みに紡いでいくこと。うまいのは、ディケンズ。もう、最高。よく練って作られた小説は本当に読者に訴えてくる。そして、それまで気づかなかったことに気づかせてくれる。
      テレビでニュースをみていろんなことを知ったり、惨事をみてショックを受けたりしても、終わったら、さっさと忘れて食器を洗いにいく。でも、素晴らしい小説を読んだり、すごいアートに出会ったりすると、そんな気になれない。脳に変化が起こるのね。本物のゲルニカをみたあと、お皿洗いに行く?

      金原:なるほど、たしかにその通りですよね。次に『サラ、神に背いた少年』を書いたときの経緯というか、どういうふうにして主人公を作り上げていったのかについて話していただけませんか。 

      ローラ:当時は、わたしが抱えていたような苦しみに気づいている人がいなかった。70年代、やっと放課後のプログラムで、虐待などについての授業が始まるんだけど、いつも犠牲者としてでてくるのが金髪碧眼の男の子。太っていて、背が高い、ユダヤ人の女の子が何かいっても、だれもきいてくれない。そう思っていたので、どう語るか、どういう設定にするか、本当に悩んで、いろんな話を書いてみたわ。読者に興味を持ってもらうためにはどう書けばいいか、自分をどう伝えればいいか。
      たとえば主人公の造形だけど、いろんな主人公を考えたの。アイルランド人にしてみたこともあったし。次々にいろんなイメージが浮かんできて、もうスロットマシンの絵柄みたいな感じ。どんなふうにすればいいのかわからなかった。そのうちオーウェンズ先生と電話するうちに、あのイメージが固まってきたの。それが、J(ジェレマイヤ)、T(ターミネーター)・リロイだった。

      金原:作品を書いている途中はどんな感じでした? 

      ローラ:面白かったのは、作品を書いているうちに、自分の書きたいことがわかってきたってこと。精霊みたいなものが語りかけてきて、それを書き留めているような気がしてた。書きあがったのは、自分の内面であり、児童虐待であり、親に虐待されても親を愛さざるを得ない子どもだった。わたしは、被害者の子どもだけでなく、登場人物全員に共感してほしい、登場人物全員を理解してほしいと願っているの。虐待する親もまた親に虐待された子どもであることが多いし。

      金原:作品を作り上げるのはつらかった? 

      ローラ:自分の傷を開いて、それをなめて癒やしていくような作業だった。真珠貝が真珠を作る苦しみ、みたいな感じかも。マドンナに会うために書いたわけじゃない。

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      金原:『サラ、神に背いた少年』についで『サラ、いつわりの祈り』が出版され、さらに大きな注目を集めるようになったとき、当時の夫の妹に当たるサヴァンナさんにJ.Tを演じてもらうことにしますよね。そのときのことについて、教えてください。 

      ローラ:J.T.は体を欲していた。でも、私の体をあげることはできなかった。だからサヴァンナに頼んでみたの。そしてJ.T.はサヴァンナの体に入った。すると、サヴァンナの体が変わっていったの。ひげがはえたり、生理が止まったり。映画のヘアメイクをした人も、それははっきりいっている。これまでは、サヴァンナは男の人とデートしてたけれど、女の子とデートしはじめた。性的流動性(ジェンダー・フルイディティ)に目覚めたといってもいいかも。

      金原: 2作の小説、とくに『サラ、神に背いた少年』は、非常に完成度が高い、素晴らしい現代文学だと思います。作者の背景、自伝的な背景抜きで、おもしろかった。映画で真相を知り、今日、ローラさんと話をしたあとでも、それはまったく変わりません。 

      ローラ:今日は翻訳家に会えるというのでわくわくしてきたの。翻訳って共同作業でしょう?訳者が作品に入りこんで、リメイクするわけだから。異文化の困難を超えて、作品の本質を伝える。それが日本の読者に伝わったのは、共同作業が成功したということだと思うの。わたしは翻訳家じゃないけど、書いているときは、作品と一体になる感じがあって、それって、自分が翻訳家になって、自分が消えるような感覚に似ているような気がする。自分がみえなくなって、消えていくの。J.T.と自分が歩み寄って、この本ができたといってもいい。
      悲しいのは、わたしがリロイだったということが判明して、この作品の評判が落ちたこと。でも、作者がどうかなんて関係ない。作品を読んで読者がなにを感じるかが、重要でしょ。リアルに感じてもらえるかどうか、それが問題だと思う。

      金原:最後にもうひとつ、いま何か書いていらっしゃいますか? 

      ローラ:自伝を書いているの。といっても、事実をそのまま書いているわけじゃなくて、ある意味フィクショナルな自伝といってもいい。ほかの手法では書けないのよ。だから書くのが大変だし、しんどいの。夢からさめて、すごく変な夢だったにもかかわらず、ああ、あれは現実を象徴したイメージだったのかと思い当たることがあるじゃない。夢って、現実の反映でしょう? それと同じで、なにげなく書いてみて、あとで読み返すと、とても多くの現実が反映されていて、自分でびっくりすることもあるの。

      金原:ぜひ書き上げてください。楽しみにしています。

      作家、本当のJ.T.リロイ
      新宿シネマカリテ、アップリンク渋谷ほか全国ロードショー中

      Credits

      Text Mizuhito Kanehara
      Portrait Photography Koji Aramaki

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      Topics:film, culture, interviews, jt leroy, jeff feurzeig, sarah, the heart is deceitful above all things, documentary, literature, twelfth night

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