Photography by Ko-ta Shoji

ヴァージル・アブロー インタビュー:カイカイキキ ギャラリーにて開催された初個展

個展「"PAY PER VIEW"」をKaikai Kiki Galleryで開催しているヴァージル・アブロー。アート作品からファッションまで縦横無尽につくりだす彼の創作哲学に迫る。

by YOSHIKO KURATA; photos by KO-TA SHOUJI
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28 March 2018, 1:53pm

Photography by Ko-ta Shoji

まさに彼らを含めた今の時代を代表する存在として、どの業界からも引っ張りだこなのがOff-Whiteのデザイナーのヴァージル・アブローだ。4月1日(日)まで元麻布・Kaikai Kiki Galleryで開催中の個展「"PAY PER VIEW"」のために来日したヴァージル。レセプション前というのに、既に会場には多くのファンが駆けつけ、その人だかりの先にはGUのコラボレーションを発表したキム・ジョーンズや前日にFred Perryとのコラボレーションを行ったブロンディ・マッコイの姿もあった。アートとは無縁の場所だと故郷・シカゴについて語る彼は、いまやロンドンと東京2箇所で展覧会を行うアーティストとしての顔を見せはじめている。ただファッションデザイナーがアーティストという名前を借りているだけではないということは、村上隆がトークイベント中に度々指摘した彼の「コミュニケーション能力」「素早い実行力」によるものだ。(会場展示されている大きな黒のキャンバス作品4枚は、なんと18時間という短時間で制作したという)携帯でチャットを交わしながらもインタビューに応答する多忙な彼に、本展や彼の思考の仕方について話を聞いた。

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今回の展覧会タイトル「"PAY PER VIEW"」は文字通り「視聴した分だけ支払うテレビ放送」という意味を持っていますよね。広告による近代の消費社会を示唆しているのでしょうか?会期前にInstagramストーリーにポストしていた制作過程では、キャンバスに実は最初「"television"」という単語を描き、その上から黒く重ね塗りしていますよね。このように表面には見えないけれど、意味を包含しているものーいわゆる広告を表現している作品のように感じました。

そうです。僕がこの展示で伝えたいことは、まさに広告に対しての近代的な概念についてです。実際に人々が何かものを見て、それらがどのように人々の好き嫌いに影響しているのかというところを主題にしています。例えばInstagramのアルゴリズムにも言えると思いますが、見るものによってその人の見方が変わってくる現象があると思います。そういう人々の世の中の捉え方が広告によってどのように影響を受けているのかという所を主軸にしながら、それらの広告による現象を人々に問いかけるような展示にしたいと思いました。なので、黒を重ね塗りした作品は表面上には何も描かれていないですが、鑑賞者がそれをトリガーに自分たちに問いかけるようなことを起こすために制作しました。

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会場の畳の部屋に置かれていた飲料水のペットボトルに書いてあるロゴがいくつも出てくる作品について教えて下さい。

本展において広告のパワーをもっとも表現している作品です。飲料水―特に水は、中身がほとんど一緒なのにも関わらず、ペットボトルのロゴによってブランド化され販売されていますよね。逆説的にいえば、ロゴを無くせば中身はほとんど同じものです。ただで手に入る水をこういう形で広告として表現してる様は、ある意味人を欺いているようで興味深いです。また、これらのロゴのタイポグラフィーにも興味があります。タイポグラフィー次第で、ただで飲めるはずの水に値段がつけられているんですもんね。

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Off-Whiteの特徴である “ ” マークは、あらゆるものをそこに引用することであなたのロゴになる印象を受けます。これは今回の展示のテーマでもある「広告」においても、ロゴは一番強い手法だと思います。クオーテーションマークを用いて、あらゆるものを差し込むことでヴァージルさんのもの、広告になるというような考え方のもと創られたのでしょうか?

そうですね。そのクオーテーションマークは、僕にとってのアーティスティックなナラティブだと捉えています。それは特に消費者がみてから生まれたものではなく、僕の幼い頃から好奇心をもとに色々なものを探索し新たな発見を見つける気質に影響を受けています。そういうふうに新たな発見によって年々新たなアウトプットが生まれています。クオーテーションマークは、そういう僕たちの時代を語る時のアーティスティックな方法として用いています。僕たちの親の世代は、とても生真面目な世代だったと思いますが、僕たちの世代では様々なものに疑問を投げかけて自由自在に動かしてみたり、いままで正しいとされてきたことをひっくり返すこともできます。そういう僕たちの世代が持っている想いや考え方をはっきり表現する様々な手法の一つとして、このクオーテーションマークは次元を一段階あげることを意図しています。Off-Whiteの初期に生まれたロゴといえば、道路の車線からインスパイアしてモノグラム化したものです。そして今ではそれを見ればすぐにこのロゴはヴァージルのものだと連想してくれるようになりました。ある意味それは自然の形に溶け込んだ広告とも言えるのかもしれません。他にもOff-Whiteでは「STOP」という標識を頻繁に使っていますが、それを繰り返し使うことでいずれ僕と結びつけられるような気がします。もちろんクオーテーションの手法自体は、僕だけではなく誰でも使える手法ですが、僕みたいに頻繁に使っていれば、それが次第に僕の表現を代弁するようなロゴとして役割を持つと思います。

その考え方が生まれたきっかけを教えてください。

このアイデアはマルセル・デュシャンをはじめとした既製品をアートの作品として創り上げるような作家から影響を受けました。僕なりの自己表現の仕方として、クオーテーションマークや日常にあるものを引用しています。どの商品にしても結局のところ広告しないと人々に理解してもらえないと思います。そういった考えから、その広告の方法をアーティスティックな形で表現するには、と考えた時に生まれたロゴです。

以前 System Magazineや今回のステイトメントでもOff-Whiteを訴求したい相手に「純粋主義者」と「旅人」を挙げていましたが、具体的にはどのような人物像を表しているのでしょうか?

現代社会においてファッションの消費の速度は非常に速くなってきています。デザイナーが服を作ってから消費者が購入して、実際に着るまでのスピードはこれまでかつてなかった程に速くなってきているように思います。一方で、そういうふうに消費の速度が上がり続けると、いずれはどこかある時点で飽和点に達してしまう気がします。とはいえ、人が1日に着られるのはせいぜいTシャツ1枚、ジャケット1枚ですよね。もしそういう消費の飽和点に達することを想定すれば、「服」という部分を取り除いて、やっぱり好きなことを表現し創っていく時代が来るのではないだろうかと考えます。Off-Whiteでは、服を買ってみないと僕との対話が始まらないというようにはしたくなくて、さらに自由な形で私のことを知ることができるようにしたいと思っています。それこそがアートであり、「Free Off-White」というコンセプトなのです。だからこそこの展覧会には、Off-Whiteの服を知らなくとも私の思考の仕方、アーティストとしての私のあり方に興味がある人にもみてもらいたいと思います。今後の消費活動についての仮定をもとに、本展では消費のレベルをもう一段高い次元にまで引き上げました。例えば、自宅のクローゼットの中にOff-Whiteの洋服がかかっていて、壁のところにはこういった作品があるというような光景が生まれることを想定しています。

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いままで話された内容やヴァージルさんの表現をみていると、物事を3D―空間的に捉えているように感じます。また留まることなく、時代と同期して数々のコラボレーションを行っている様子は、都市空間ともリンクしているように思います。そのような空間的に物事を捉える思考は、建築というバックグラウンドから生まれたものなのでしょうか?それとも元々の気質なのでしょうか?

両方だと思います。先ほども話した通り、子供のころから好奇心旺盛でしたが、当時は自分がアートで作品を創るなんて思ってもなかったです。そういうのは生まれ持って才能がある人がやることだと思っていました。でも成長するにつれて、特に作品を創ることにバリアがあるわけではないと気がつきはじめて。それでまずはじめに、クリエイティブなかたちで取り組むものとして実践的なところを学びました。工学を学び、建築学の修士を得て、その後美術史を学びました。それらの実践的な学びが、僕の潜在的な好奇心とあいまって、実用とクリエイティブ両方が点と点で結ばれた末、いまの僕の表現としてアウトプットされています。建築においてただ建物を建てるだけではなく、そこに人がいないと成り立たないという理解も影響していきているように思います。

Off-Whiteは初期も今もストリートファッションがもとになっているように思いますが、もう既にファッションの領域だけでは括れない存在になってきています。今後はどのような立ち位置を目指したいのでしょうか?

ストリートファッションの将来というのは、ベースメント(ものごとの根底)に存在していると思います。直に衣服というのも除かれて考えられるのではないでしょうか。いままでストリートファッションでは、リアルな生活に近いストーリーテリングやユースカルチャーが表現されてきたと思います。でもそれをただ単に洋服だけにおさめて考えてしまうのは、とても狭義的な考え方だと思ってます。例えばこれまでパンクVS何か、ストリート対何かとして考えてきたかもしれないですが、若者はそれ以上に常に新たなストーリーテーリングやスペースを求めているのです。なので、もしOff-Whiteが今ストリートファッションとして括られているのであれば、さらにそのスペースを拡大していき、クリエイティブなことに挑戦していきたいです。ただストリートファッションで何か起きているというふうに軽く見てしまってはいけないと思います。

ヴァージル・アブロー個展「"PAY PER VIEW"」
日程:〜 4月1日(日)
時間:Open: 11:00-19:00 / Closed: 日、月、祝
*最終日の4月1日(日)のみ日曜営業
場所:Kaikai Kiki Gallery 東京都港区元麻布2-3-30 元麻布クレストビルB1(googlemap