Burberry autumn/winter 18; Trump image via Flickr.

ケンブリッジ・アナリティカ問題はファッション業界でも起こっている

ドナルド・トランプを好ましい大統領にすべく、“孤立状態から脱したデータオタク”が、ファッションの“醜悪な”こだわりを利用した方法とは?

by Charlotte Gush; translated by Aya Takatsu
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apr 4 2018, 6:20am

Burberry autumn/winter 18; Trump image via Flickr.

2017年5月のある日、カニエ・ウェストがサングラスについてのメールをキム・カーダシアンに送った。疲労困憊のハリウッドセレブに長いあいだ人気だった、顔が隠れるほど巨大なサングラスはもう流行遅れで、90年代のマトリックス風の小さなものがくる、と彼は言う。そのことを、キムはランチの席で姉のコートニーと友人のジョナサン・チェバンに話したのだった(今年1月の『カーダシアン家のお騒がせセレブライフ』で放映されている)。「(カニエが)こんなメールを送ってきたの。『もうデカいサングラスなんてかけられない。イケてるのは小さなサングラスだ』……。こんなふうな小さなサングラスが写った90年代の写真をごっそり送ってきたんだから」。極小のサングラスをかけているようなジェスチャーをしながら、彼女はそう話した。

ファッションの変わり目が早いことは周知の事実。それはオスカー・ワイルドのよく知られた「ファッションとは醜さの一形態であり、6ヶ月ごとにそれを刷新しなければならないほど、我慢ならないものである」という言葉どおり、小売業者たちは穏やかな日々が来ることを切に願っている。今、それはカニエ・ウェストが認めたほどの長期間で、ミウッチャ・プラダ仕込みの気まぐれな“醜悪さ”を念頭に置きながら、変化しているのだ。ところで、キムのその小っちゃいサングラスが、欧米の民主主義とどういう関係があるのだと疑問に思う向きもあるかもしれない。いい質問だ。それに答えるには、SNSの“いいね!”がどのように国際サイバー戦争に火を点けるかを説明しなければならない。

先週末に発表されたジャーナリストのキャロル・キャドウォラダーによる驚きと恐怖に満ちた『Observer』紙のスクープ記事は、自身と、自身が指揮するずさんなデータ会社ケンブリッジ・アナリティカに関するクリストファー・ワイリーの告発であった。28歳のこの青年ーー髪を明るい赤に染め、鼻ピアスを開けて、自らを「ゲイのカナダ人ヴィーガン」と称しているーーはデータサイエンス界のジェダイマスターで、「閲覧者の行動を変えるためにデータを利用する」会社の立役者だ。共和党の支援者で億万長者のロバート・マーサーによる資金援助を受けたケンブリッジ・アナリティカは、その魔法のごとき力を、数多くの大物クライアントのために使用していた。報道によれば、政治キャンペーン(有名なところでは、英国の脱EUキャンペーンや、ブライトバート・ニュースの元会長であるスティーヴ・バノンが率いたドナルド・トランプの大統領選)、軍事団体、さらには米国務省などもその中にいたのだという。

「トランプはUggやCrocsのシューズみたいなものです。つまり、『うわっ。超ダサい』と人が考えるようなものを、みんなが身につけるようなものにするにはどうすればいいと思いますか?」クリストファー・ワイリー

ワイリーの主張によると、この会社は、Facebookユーザーがアクセスすることで報酬を得る“性格テスト”アプリを使って、5千万人のプロフィールを「抽出」。そうすることによって、ケンブリッジ大学の学者アレクサンドル・コーガンがその全員のデータと、友達のデータにまでアクセスできるようにした。この件で、Facebookは集中砲火を浴びている。『Observer』紙によれば、このユーザーデータは、その後、ユーザー動向予測に使用された可能性のある心理プロファイルを作成するのに使われたのだという。そうすれば、そのユーザーは“心理戦”攻撃の効果的なターゲットとなり得るからだ。英国のEU離脱問題に関する以前の記事で、キャドウォラダーがケンブリッジ・アナリティカの元社員に、彼らが本当にそれを“心理戦”と呼んでいたかと問うと、彼らはこう答えた。「もちろん。だって、その通りでしたから。サイオプス、つまりサイコロジカル・オペレーションズ(心理作戦)。軍隊が大衆の感情を操作するときに使うのと同じ方法です。“心と気持ち”を勝ち取るという意味でした。規制が多くない発展途上国の選挙に勝つべく、やっていたことです」

さて、話をキム・カーダシアンのトレンディなサングラスに戻そう。そうすれば、高校を中退してデータオタクに転身したクリス・ワイリーが、スティーヴ・バノンやオルタナ右翼のために、どうやって欧米民主主義を効果的に不安定化させたかが浮かび上がってくる。ファッション的にカニエに先んじているクリス・ワイリーは、ファッショントレンド予測の博士課程を学んでいた。だからこそ、スティーヴ・バノンにこんな説明ができたのである。「トランプはUggやCrocsのシューズみたいなものです。つまり、『うわっ、超ダサい』と人が考えるようなものを、みんなが身につけるようなものにするにはどうすればいいと思いますか?」 わかりやすく言い換えるなら、醜いうえに何度も破産し、性暴力者だと自称するトランプのような人間について、人々の認識を変えるにはどうすればいいと思いますか? ということだ。どうすれば彼を大統領にできるか。「(バノンが)望んでいたのは、そういう変化だった」とワイリーは話している。

小さな子どもと熱心な園芸家しかCrocsを履かない時代もあった。そしたらクリストファー・ケインがあの空気穴に水晶を打ち込み(中略)2017年に“醜い靴”に見合わないような大ブレークを起こしたのだ。

醜さに対するファッションのこだわりはしっかり記録されており、その最高指導者の言葉がしばしば引用されている。「醜さは魅力的。醜さはエキサイティング。その理由はたぶん、それが新しいから」。2013年『T magazine』のプロフィールで、ミウッチャ・プラダが言明した有名な言葉だ。もちろん、彼女は正しい。10代のころ、バギーでフレアなスケートパンツを穿いていた私は、“スキニージーンズ”にひどく反発したものだ。だが数年後には、それしか穿かなくなっていた。エディのおかげで。小さな子どもと熱心な園芸家しかCrocsを履かない時代もあった。そしたらクリストファー・ケインがあの空気穴に水晶を打ち込み、スーパーモデルの長くてしなやかな足にその靴をまとわせたのである。そして突如、2017年に“醜い靴”に見合わないような大ブレークを起こしたのだ。それは予想もできない、愉快で目立つ“イット”アイテムだった。そしてーー多くのボリューミーなシューズと同じくーー脚を細く見せる効果を生んだのである。まったく“予想を裏切る”ヒットというわけではなかった。こうした"大当たり不思議アイテム”をさらに挙げるなら、Martin Margielaの足袋ブーツ、Jean Paul Gaultierのコーンブラ(マドンナ作として有名)、そしてもっと最近のものでいえば、Molly Goddardの塔のような、超ガーリーでありながらチュールではないドレスの数々がある。

嗜好の大転換の裏にある仕組みと、どんどん短くなる“シーズン”ごとにファッション業界が設定する狙いを理解していたワイリーだからこそ、投票者を巧みに操ることができたのだ。人に何を好み、着るべきかを(そして、誰に投票するかも)“効果的に”指示することは不可能だが、その人にとって意味のあるメッセージを何度もなんども繰り返し見せ、蓄積効果を生むことならできる。誰も“心理戦”が自分に仕掛けられているとは思わない。ただいろんなちょっとした情報を集めているように感じるだけだ。その形態はキャットウォークの写真、ストリートスナップ、セレブのイチ押し、雑誌の特集、SNSの記事、的を絞った広告、セール案内だったり、あるいはすでに抱いている先入観につけ込もうとする政治的なコンテンツであったりする。対象者はあたかも自分でその選択をしたかのように感じるのだ。もちろん、そんなことはない。映画『プラダを着た悪魔』の青いセーターのシーンで、ミランダ・プリーストリーが超わけ知り顔で教え諭した通りなのだから。

「フォローアップのメールを除き、顧客とのほとんどのやり取りは(購入後に)停止します」2017年3月に発表された“現代版マーケティング”に関するマッキンゼーのレポートには、そう記されていた。そこで顧客の例として挙げられた“ジェーン”は、ヨガパンツを購入したという。「我々がジェーンのデータをアクティベートしたとき、この例のようなことが起こったのです。彼女がネットで買い物を済ませた3日後、ある小売業者がジェーンに健康関連のメールを送ってきました。心を惹かれた彼女はリンクをクリックし、健康的な子どもを育てるという動画を見たのです。1週間後、彼女はiPhoneのメッセージを受け取りました。そのショップのワークアウトの道具に使える1日限りの15%割引を受けるために、ショップの携帯アプリを使いませんかという、丁寧なお願いです。彼女はそのショップでそういう商品を買ったことがなかったので、この特典を利用し、新しいスポーツバッグを購入。始まりはヨガパンツを買うというシンプルな行動だったのに、かなり大きな関与へと発展していったのです」。つまりこれは、そのショップが持っていたデータをもとに彼女をターゲットととし、彼女は自分が欲し、必要としているかどうかもわからないものを購入してしまったということだ。

「レベッカ・マーサーはゲイが大好きなんだ。スティーヴ・バノンも。彼は俺たちを新し物好きだって思ってる。ゲイを参入させればみんなついてくると踏んだんだろうな」クリストファー・ワイリー

ケンブリッジ・アナリティカで、ワイリーは『Observer』紙にこう話した。この会社は、「妙なパターン……例えば、Facebookで『イスラエル大嫌い』にいいね!した人は、Nikeのシューズやキットカットも好きな傾向がある」といった、人々の性格に関する膨大なデータを使うことができるのだと。諜報機関と働く多くのエージェンシーは「この研究のいたるところにいる」とワイリーは話す。「それには、キットカット作戦というあだ名がついていた」。実のところ、人々をプロファイルするのに、いつもそんなオシャレなデータが必要なわけではない。クリス・ワイリーが言うには、ロバート・マーサーの娘で、一家の慈善事業や政治がらみのプロジェクトを監督しているレベッカは、彼を「愛している」のだそうだ。「彼女は『ああ、あなたみたいなタイプの人が、私たちの側に必要なの!』って感じさ」。(「あなたみたいなタイプって?」とキャドウォラダーが確かめる)。「ゲイさ。彼女はゲイが大好きなんだ」とワイリーは明確にした。「スティーヴ(・バノン)も。彼は俺たちを新し物好きだって思ってる。ゲイを参入させればみんなついてくると踏んだんだろうな。だからマイロ(・ヤノプルス。著名なオルタナ右翼で、ゲイの青年)の件にあれほどご執心だったのさ」。“エッジな”(そしてうまみのある)プロダクトを生み出すために、ファッション業界がクィアカルチャーを利用するのと同じく、オルタナ右翼のトップもまた、若くてゲイのトレンド・アナリストを雇い、超保守派の票を“引き出す”べく消費者カルチャーを利用したのである。

オルタナ右翼は、憎しみに満ちた考えを“エッジ”で社会的に勇敢なもののように見せる。“政治的に正しい”リベラルな秩序を無視して、“ありのままを語る”というわけだ。

「私にとって、醜さを掘り下げることは、ブルジョア的な美より興味深いのです」。同じ『T magazine』のインタビューで、ミウッチャ・プラダはそう話している。「醜さは人間らしい。人の悪しき部分や汚い側面に触れるから」。美しいだけでなく、社会的に受け入れられているものについての容認と耐え難い意見に対抗すべく、この力ーー以前は“醜い”とされたものを予期せぬ傑作へと再定義する能力ーーを使おうと必死になっている者はファッション界に大勢いる。ジェンダー表現や性癖、人種やサイズ、多様な能力や年齢に関して、もっとリベラルで心を開いたカルチャーをつくるために、彼らはそれを使おうとしているのだ。クリストファー・ワイリーの暴露が明らかにしたのは、人間性のもっとも醜い部分を特徴とする政治の一時代において、投票者のいちばん基礎的な欲望と恐怖に訴えかけるために、同じ方法が使われる可能性があるということだ。

オルタナ右翼は、効果的にスイッチを入れ、真に醜悪で憎しみに満ちた考えを“エッジ”で社会的に勇敢なもののように見せるために、このカルチャーの力を利用するのだ。ブルジョアの(もしくは“政治的に正しい”)リベラルな秩序を無視して、“ありのままを語る”というわけだ。ファッションの先駆者たちが違いを賛美するために“多様性とデータ”を利用し、その結果収益を上げたのと同じように、先進的なトップ政治家たちもまた、社会的利益を生み出すために、愛と希望と多様性の政治を効果的にプロモートする術を学ばなければならない。ファッションにおける変化を起こす力は、鼻で笑うようなものではないのだ。それどころか、欧米の民主主義が生き残るためには、それに頼らざるを得なくなりそうではないか。

This article originally appeared on i-D UK.