レディー・トゥ・フライト:Maison MIHARA YASUHIRO 18AW

20年目を迎えたMaison MIHARA YASUHIROのショーは、SOIL&“PIMP”SESSIONSの生演奏で幕を上げた。ホイッスルの音を鳴らしながら、大型トラックを誘導する警備員は、三原康裕本人だ。41人のモデルがランウェイに“搬入”されていく——。

by Tatsuya Yamaguchi; photos by Nobuko Baba
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30 March 2018, 9:35am

今季で、ブランド設立20年目を迎えた——1996年にシューズブランドをスタートし、翌年、改名して「MIHARAYASUHIRO」として始動。1999年にウェアラインを発表し、2000年春夏で東京コレクションに参加。以降、2005-06年秋冬にはミラノで、2007年からはパリ、ロンドンで発表を続ける日本が誇るブランドのひとつだ。そして、2018年3月28日の夜、秩父宮ラグビー場の東門側通路にはMaison MIHARA YASUHIROが設けた長いランウェイがあった。

門を中心に、左右にぐんと伸びるランウェイ。中央にステージセットもある。20年を祝うべく、MIHARA YASUHIROの服を身にまとった人々が大勢駆けつけていた。ショーは、SOIL&“PIMP”SESSIONSによる生演奏で始まった。なだらかにしかし激しく、ゲストのボルテージが上がっていくのを肌で感じる——少しく遠くから笛が鳴る音がすると、MIHARA YASUHIROのテープが貼り付けられている大型トラックが門から会場に入ってくる。しかも誘導灯を手に持ち、ティアドロップのサングラスをかけて蛍光オレンジの警備員服を身にまとっているのはデザイナーの三原康裕本人だ。ガルウィングのように荷台が開くと、41名のモデルが整列して立っている。メガホンを持ったSOIL&“PIMP”SESSIONSのメンバー“社長”が高らかにショーの始まりを宣言。もう、このオープニングで心は鷲掴みにされた。会場のボルテージは最高潮だ。

荷台から一人ひとり降りてきて、モデルがランウェイに入る直前に三原がルックの最終確認をする。モデルの背中を押す姿に、「よし、OK」という声が聞こえてくるようだ。今季はメンズとウィメンズの合同ショー。多彩な41人のモデルのなかには、エージェンシーを通さずにキャスティングした“素人=友人たち”もいるという。だからこそなのだろうか、彼らはひとりも漏れず、Maison MIHARA YASUHIROの服がすっと身体に馴染み、身にまとうその服がまるでずっと愛用している一着かのように見えてくる。

仕立て途中のしつけ糸が露わになったジャケットの胸元には、航空券のようなもの、シャツの裾には荷物を運搬するときに使用されそうなバーコード付きのタグがある。“SHIP TO TOKYO JAPAN”や“MMY”と記されている。こうしたタグは、コレクション全体のいたるところに散りばめられていて、例えばニットワンピースやカットソーの裾にも、シューズには“CAUTION”タグがストラップされている。背中にもう1着貼り付けたかのようなトレンチコートやシャツ、カットソー(つまりアームホールが4つある)、ツイストされたパンツのフォルムや誇大化したジッパーも実にアイコニックだ。テキスタイルの柄とシューレースとして採寸用メジャーが用いられていたり、業務用クリップやプラスチック製のチェーンは装飾的に、 “シートベルト”はウェストベルトになっていたり……。挙げればきりがないほどに、ファブリックやディテール、スタイリングなどに“ユーモア”と捉えるべき実験性が潜んでいる。ところどころにスカーフをあしらいながら、テーラードもあればウェスタンやミリタリー、マウンテンウェアのようなトーンもある——が、単なるミックスという言葉では片付けるわけにはいかない。

ダウンジャケットやパンツ、ウエストポーチなどに用いられたナイロン素材には“THIS BAG IS CREATED COMPOSTABLE”や“35L”という文字、素材表記マーク。ルックのどこかしこから、飛行場や機内、ないしはコンテナで船積み(シッピング)するときに用いられそうな備品を想起させる。そんな、ルック一つひとつのギミックが軽妙なユーモアに包まれていて、この夜の熱気を体感しながら見ていて、純粋に楽しい。テーマは「プロトタイプ」だという。服作りの最中、偶発的に生まれたアイデアの数々を具現化して、その瞬間の高揚感を賛美するようなコレクションなのだろうと思う。

Maison MIHARA YASUHIROが辿ってきた道は、他のどのブランドとも似ていない。その無類の足跡に贈られた鳴り止まない拍手とともに20年目のショーは幕を閉じた——どうやらあらゆる搬入は完了したようだ。三原康裕は来シーズン、パリ・メンズファッションウィークに再び降り立つ。もう間もなく、離陸体勢に入るはずだ。