2017年秋冬メンズ・コレクションにみる「ジェンダーの未来」

メンズ2017年秋冬シーズンをひとつのテーマで語るとすれば、それは「従来の“男性らしさ”の概念はもう古い。未来は、官能的なマスキュリニティへ」ということになるだろう。

by Kinza Shenn
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01 February 2017, 8:26am

charles jeffrey fall/winter 17

「メンズ・ファッションとの関係におけるジェンダー」を語るのに、今季ほど適したシーズンも珍しい。現在世界各国で発表されているメンズウェア・コレクションだが、デザイナーたちはどうやら男性というジェンダーについて、メインストリーム的な考えに固執していないように見える。しかし、きたるシーズンのためにいま提案されている服の数々は、まだ現実に展開されているわけではないから、それが新たなジェンダーの表現として定着するかは未知数だ。素人にとって、メンズウェア・コレクションのショー・シーズンは、通勤電車の時間つぶし程度の話題にしかならないが現実だ。

Prada、BALENCIAGA、Gosha Rubchinskiy、そしてLouis Vuitton x Supremeなど、現在大きな発言力をもつブランドたちがコレクションで"一般人"の視点を強く打ち出した一方で、現実のストリートからは遠くかけ離れた男性像を打ち出したブランドもまた多かった。今季、繰り返し見られた傾向は2つあった。ひとつは、官能的な男性像だ。透け素材やドレープ、装飾といったフェミニンな作りの服の下に男性の肉体が見え隠れするデザインが多く見られた。ふたつめは、「フェミニンな解釈」と「不完全さに宿る美」をディテールで表現することにより、伝統的な男性らしさの概念を匂わせ、同時に問うという手法だ。これらの傾向は「トレンド」として括ることもできるかもしれないが、しかしこれはより根源的なもの——一過性のものではなく、よりアイデンティティに関わるもののように感じられる。そこで浮かび上がるのは「これらの特徴が、未来の"男性らしさ"を定義づけていく要素なのだろうか?」という疑問だ。あるいは、より現実的な言い方をすれば、「いつこれらの特徴を私たちは男性性の一部として認めることができるようになるのか?」ということになる。

Vivienne Westwood autumn/winter 17

今季もっともインパクトをもって世界で話題となった作品のひとつは、ロンドン・ファッションウィーク・メンでVivienne Westwoodが発表したブラックのコルセット・ドレスだったのではないだろうか。コルセットの下にはミニスカートのスリップが合わせられ、その上からオーガンジーのワンショルダー・ドレスが覆うデザイン。これを男性モデルが着てランウェイへ登場した。ヴィヴィアン・ウエストウッドの夫でありデザイン面でのパートナーでもあるアンドレアス・クロンターラーが手がけたことを考慮に入れれば、この世界観は別段驚きに値するものではないだろう。ふたりはこれまでにもニュー・ロマンティシズムやジェンダー・ベンダー(社会が押し付けるジェンダーの概念自体を否定する人々を指す。女性が男性の、男性が女性の服装をするのも、この姿勢の一環)の世界観を果敢に提案してきた先駆者たちだからだ。しかし、今回のコレクションは特にこの「ジェンダー・ベンダー」の意味において大きくクロースアップされることとなった。これが、Vivivenne Westwoodのウィメンズ・ラインGold Labelとのコレクション合同発表で、ショーではジェンダーが入れ替わり、役割も曖昧にされるなど、全体のコンセプトがジェンダー・ベンダーをベースにしていたからだ。

チュールや蜘蛛の巣のように繊細な風合いの素材には、どこか興味深いセクシーさがある。「透ける」という特性から、「見えそうで見えない」という効果が生まれる。また、Ann DemeulemeesterやRick Owens、Wales Bonner、Charles JeffreyのLOVERBOYなどが見せたドレープとフリルにもまた、エロチックな解釈を生む要素がある。いずれも身体を変装させる効果があり、同時に身体の曲線や輪郭を強調する。ドレープやフリルの下に身体がどのように動くのかというエロスは、これまで社会で讃えられてきた男性像からはかけ離れている。これまでファッション界でさかんに描かれてきた男性像はハンターとしての男性であって、繊細で純情な一面はタブーとされてきたのだ。

Wales Bonner autumn/winter 17

Wales Bonnerは、これまでに続き、ホワイトのリネン素材を使った詩的なドレープやスカートのシルエット、クリスタルの装飾を配することで、既存の伝統的男性性像とたわむれた。彼女が呼ぶところの「ルネッサンスの中性的男性像をスピリチュアルにホワイトで表現した」世界観で、デザイナーのボナーは肉体を強調するのではなく、それをゆうに超えた、"概念上の男性性"を作り出した。Feng Chen Wangもまた、MANにて発表したコレクションで同様の方向性を打ち出していた。機能性を追求した末に出来上がっている既存デザインを独自の視点で解釈することを得意とするデザイナーのフェン・チェン・ワン。彼女は今回、肉体の概念からしばし離れ、「印象と感情の領域」へと解釈を広げていった。レザーやセカンド・スキンを用い、きらめくシルバーの素材でロールやパフを作ることによって、男のヌードを歪めて描いた。空間に遊ぶその服の量感を、フェン・チェン・ワンは「人間の本能である"自己防衛"を表現した」として、「繭」と説明した。ここでもまた、男性が攻撃者として描かれるのではなく、男性に宿る無防備な心に焦点が当てられていた。

WooyoungmiとAlexander McQueenは、作家オスカー・ワイルドにインスピレーションを得たコレクションを発表した。19世紀イギリス文学を代表するその高貴な美意識と、後に同性愛の罪で投獄されるという人生をテーマにした2ブランドの今季コレクションは、苦難を前に自己表現と美を持って立ち上がろうとする今の世の中を映し出しているように感じられた。Loeweではまた、ジョナサン・アンダーソンが彼独自の知的でロマンチックな服で詩的な世界を描いていた。露出された肌と木彫りの飾りが施された大きなドレープが力強いコントラストを生み、そのコントラストには本質的なヒューマニティと極められた感情が体現されていた。

Xander Zhou autumn/winter 17

フェミニンなディテールを施すことによって従来の伝統的男性性を問う手法は、Martine RoseやXander Zhouといったロンドンの新進気鋭ブランドが先頭に立って打ち出した方向性だった。Xander Zhouにいたってはコレクションに『I'm Carrying a Secret Weapon(秘密の武器を隠し持っている)』という挑発的なタイトルまで付けていた。醜さに焦点を当て、それをテーラリングで体現した作品には、下痢止め薬Pepto-Bismolとそっくりなピンク色や、マスタードのような色、腰回りに露出する肌、隠された手や目まわり、油を塗ったような髪、クリーム色のモヘア・タートルネック、そしてトレンチコート(トレンチコート自体がすでに性的な含みを持つアイテムではないか)などがあった。Martine Roseは、すでに社会で確立されている"成功を手にした男性"の典型像を、ホルターネックのトレンチコートとサテンのシャツやレザー・パンツ、締め上げたウェスト、ジッパーが露わになった薄いイエローのジーンズなどと合わせ、フェミニンで性倒錯的なディテールで崩しにかかった。それは、自分が欠陥品であるという感覚、集団に属していながらも疎外感を感じるというような、現代に揺らぐ自己表現のあり方を描いているようだった。

Comme des Garçons Homme Plusでも、フェミニ二ティや子どもっぽい世界観がシャープなテーラリングに遊んでいた。若い白人男性たちがそろってシャーベット・カラーに染められたマイクロファイバーのウィッグを頭にかぶり、腹部を露わにし、日本の"美少年ブーム"を独自に解釈したようなコスプレ世界を打ち出していた。日本では、繊細さと若々しさ、そしてアンドロジニー(両性具有)の要素をもった男性がメインストリームで広く受け入れられている。これはジェンダーに関する文化的な層の厚さを感じさせるショーだった。

Comme des Garçons Homme Plus autumn/winter 17

男性という性は、厳重に制限されたヴィジョンのうちに押し込められている。それを演じなければならないプレッシャーは相当のものだろう。それがオーセンティックなものではないと感じる男性にとっては、なおさらだ——このような考えから、近年は、押し付けられたジェンダー像による男性の精神衛生への影響が広くクロースアップされている。「アイデンティティには様々なかたちがある」という概念をベースに、今、多くのハイストリート・ブランドが「ユニセックス」や「アンドロジニー」といった考え方を取り入れはじめている。Zaraは昨年、「アンジェンダー(非ジェンダーの意)」コレクションを発表。しかしながらこのコレクションは、単に体のラインを隠すもので、またマスキュリニティやフェミニニティ、そのあいだにあるジェンダレスの領域から目を背けた、つまらない商品群で、不評に終わった。

今季メンズ・コレクションは、何よりも恐怖心を反映した世界観が圧倒的に目立った。政治的な意味での恐怖心はもちろんのこと、子どもから大人へと成長する時期の恐怖心(Charles Jeffrey LOVERBOY)や、海の静けさに感じる恐怖心(Craig Green)などが象徴的な例だった。しかしデザインそのものには、多様で気ままでオーセンティックな未来への楽観的なヴィジョンが見られた。メンズウェア・コレクションのシーズンが終わりに近づいていたパリで、Ann Demeulemeesterはヴィクトリア王朝調ゴシックの世界を描いたコレクションを発表した。くぐもったピンク色のシルクや透けるレース、フェザー、ベルベットなどをまとったモデルたちは、どれもジェンダーを超えて両性具有的に見えた。コレクションの内容は過去をモチーフとしているにもかかわらず、モデルたちは首に「l'avenir(未来)」の文字をかたどったチョーカーを装っていた。アイデンティティをカラフルに生きることができる未来を、皆で築いていこうではないか。感情と意志、感受性を豊かに表現できる未来を——。

Credits


Text Kinza Shenn
Photography Mitchell Sams
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.