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失われゆく東京の歓楽街に暴動を:Chim↑Pomの試み

破壊されたものを再建して、それをまた壊し、そこに新たなものを作る——ビルの解体計画とその現実を「作品」にし、そこに生まれる過去と未来を見つめるChim↑Pomの『So See You Again Tomorrow, Too?』展が本日終焉。

by Ashley Clarke
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03 November 2016, 2:24pm

Photography Takao Iwasawa

午後6時、東京の歓楽街・歌舞伎町。ゴジラの巨大な頭がTOHOシネマズのビル屋上に覗き、1時間に一度、白い光を口から放つ。その向こう、ラーメン屋やセックスショップが立ち並ぶ通りを抜けたところにあるなんともけばけばしい建物に、期待に胸膨らませるアートファンたちが集っている。6人のアーティスト--「東京アートシーンの恐るべき子どもたち」--からなるアート集団Chim↑Pomが、 日本ではこの3年間で最大規模となるエキシビションを開催しているのだ。会場は熱気に包まれている。

エキシビション会場へ入る際、来場者は「起こりうるすべてのアクシデントに関し、Chim↑Pomは一切の責任を負わない」という旨の同意書に署名をさせられる。誰もが戸惑いながら署名するが、会場へ足を一歩踏み入れれば、その同意書が意味するところは誰の目にも明らかだ。そこには、上階3フロアから床を突き抜いたデストラップがあり、瓦礫が散乱しているのだ。それが、Chim↑Pomの最新エキシビション「So See You Again Tomorrow, Too?」の会場だ。このプロジェクトは、急激に変化する東京の都市景観からインスピレーションを得たものだという。会場となった歌舞伎町商店街振興組合ビルは廃墟状態にあり、最先端の美しいビルが次々に建設される東京にあって、ちぐはぐな印象を与える。2020年の東京オリンピック開催を前に、東京圏全体に足並みを合わせるかたちで歌舞伎町もまた再開発が進んでおり、歌舞伎町商店街振興組合ビルも来月の解体が決定した。

興味深いのは、この会場のビルの解体こそがChim↑Pomのアートプロジェクトにとって重要な意味を持っているという点だ。なぜなら、Chim↑Pomはエキシビション閉幕後もアートワークを撤去することなく、ビルもろとも破壊させる予定だからだ。「解体が終わったら、破壊されたものを拾い集めて、また新たな何かを作ります」と卯城竜太は話す。そのようにして新たな形となった作品は、高円寺にChim↑Pomが構えるギャラリーで展示されるといい、2017年初頭の公開を予定している。「物質的な作品だけがアートなわけじゃない。私はこの状況が起こっているということ、そして作品の一部として解体が持つ意味に興味がある」とエリイは話す。

東京の再開発において、解体は大きな一部をなしている。そして多くの意味で、東京の歴史は解体と再建(スクラップ&ビルド)の繰り返しだ。「地元民が新宿の再建を誓って歌舞伎町商店街振興組合を立ち上げ、1964年にこの歌舞伎町商店街振興組合ビルを建てたのです。1964年は、東京オリンピックが開催された年でもあります」と卯城は説明する。今年、ビルが取り壊された後、東京オリンピック2020に向けた準備を進める新たな振興組合ビルが建設されるのだという。このタイミングの一致が、Chim↑Pomのメンバーをインスパイアしたという。「運命っぽいなと思って」と卯城は笑う。

エキシビション会場の壁は、一見すると青いペイントが乱雑に塗られているかのように見える。しかしよく見てみると、それはそこに存在していた歌舞伎町商店街振興組合オフィスの面影を描いた作品なのだと気づかされる。そこにかつてあったデスクや本棚、壁時計などを白い影として壁に描き、それをUVランプで照らして浮き上がらせているのだ。「設計図」という意味も持つ「ブループリント」だが、エキシビションの中枢をなすテーマである「都市景観の未来」という意味でも重要な意味を持っている。「10年ほど前、当時の東京都知事がオリンピック誘致と同じタイミングで『歌舞伎町浄化作戦』を打ち出し、街の安全性が上がりましたが、同時に多くのアンダーグラウンドも失われました」と卯城は話す。「あれが、実際に都が発した声明です」と卯城は壁にブループリントした公的文書を指差す。歌舞伎町の地域再開発は、2020年のオリンピック開催地として都が立候補していた際、それに最適の都市となるために都が計画した戦略の重要項目だったのだ。現在の歌舞伎町をみれば、都がその計画を見事に遂行したことは誰の目にも明らかだろう。

Build-Burger, 2016. © Chim↑Pom. Courtesy of the artist and MUJIN­TO Production, Tokyo. Photography Kenji Morita.

そんな歌舞伎町のいかがわしい歴史を、Chim↑Pomは現実のものとして作品に取り上げた。「歌舞伎町において、セックス関連業界というのはとても重要なのです」と卯城は語る。「歌舞伎町で働くセックスワーカーについて調べていると、ミライという源氏名を使っているデリヘル嬢が多くいることがわかりました」。「歌舞伎町の歴史と未来」というコンセプトから派生したアイデアで、Chim↑Pomはミライのひとりを呼び、下着姿でブループリントをとらせてもらったという。大きな青いキャンバスに、等身大のミライのシルエットが白く、まるで天使のように浮かぶ作品だ。

The People Make the City (left) and Five Rings (centre)

エキシビションで公開されている他の作品には、絵の具を積んだお掃除ロボットが描く五輪マーク(掃除をし続けることでそこにペイントが施され続けるというエンドレスのサイクルができあがる)作品や、Chim↑Pomがスポーツ紙に掲載したセックス広告に誰かが電話をすると電気がつく仕掛けの"エロ発電機"作品、そして黄色くペイントしてピカチューに似せたネズミの剥製が歌舞伎町を模したジオラマに遊ぶ作品などがある。Chim↑Pomは2006年にも「スーパーラット」という作品でネズミの剥製をピカチューそっくりにペイントしているが、今回のエキシビションでもネズミの剥製を用いることは適切な選択だったと彼らはいう。「変化を続ける街で生き残る東京のネズミは、より強く、より賢く進化してきたんです」と卯城は話す。毒を盛られても死なず、現代技術で作られた最新鋭のトラップにも引っかからないネズミを、Chim↑Pomの面々は網や手という原始的な手段で捕獲した。「しばらくネズミたちの行動パターンを観察し、生態系を理解してはじめて捕まえることができました」

エキシビションの最下部には、今プロジェクト最大の作品「ビルバーガー」が展示されている。この作品は、2.5メートル四方の穴が上階3フロアの床に開けられ、切り取られたコンクリートの床/天井が家具や瓦礫をサンドイッチのように挟み、積み上げられているというもの。ファストフードを連想させる"バーガー"が意味するのは、東京の都市やビルの大量消費や大量生産のメタファーだそうだ。

Libido-Electricity Conversion Machine "Erokitel" Fifth Version

このエキシビションが東京の変化と再開発へのプロテストだと解釈するのは簡単だが、一癖も二癖もあるChim↑Pomの世界はそんなに安易な解釈では片付けることができない。「東京という街のあり方を、僕は個人的主観で批判したりはしません」と卯城はいう。「これは東京都の政治的問題であって、僕の問題ではないからです。しょうがないとしか言いようがない」。大切なのはアイデンティティだ、と彼はいう。Chim↑Pomが作り出した作品は、東京という街のアイデンティティを「一貫性がない獣」として描いている。歌舞伎町商店街振興組合ビル解体が決まり、Chim↑Pomは特別な思いを胸に、このような美しいスペースを作り出すに至ったのだ。

Drawing a Blueprint Version 2, 2016. © Chim↑Pom. Courtesy of the artist and MUJIN­TO Production, Tokyo. Photography Kenji Morita.

そんな思いを、Chim↑Pomは共有しようとしている。そこで、彼らはアンダーグラウンドシーンから様々なミュージシャンやアーティストを招致し、ライブパフォーマンスやトークを実施している。「私たちが目的意識をともにする、お互いに尊敬し合える、そんなパフォーマーを選びました」とエリイは語る。「パフォーマーの方々にも、このスペースを使って自分たちの限界を押し広げてほしい」。これまでにこのエキシビションに参加したパフォーマンスは、新鮮ともいえるほどにまとまりのないラインナップだ。水曜日のカンパネラのコムアイ(KOM_I)はビルの外で、モンスターボールをかたどった巨大バルーンの中でピカチューの着ぐるみ姿でパフォーマンスを披露して道ゆく人の足を止め、ハードコア/パンク/レイヴのバンド、ネイチャー・デンジャー・ギャング(Nature Danger Gang)は地下スペースでラーメンを食べながら天井の梁にぶら下がり、ステージダイブをするなど野生的なライブを披露した。街の文化が変化していくことに関する切実なメッセージを背後に据えたプロジェクトではあるものの、参加パフォーマーたちが体現するその解放感と楽しさこそが、Chim↑PomをChim↑Pomたらしめる特別な要素であり、エキシビションやパフォーマンスに詰めかけた人々は誰もが手放しで底抜けに楽しそうな表情を見せていた。街が変わり、どれだけ建物が解体されようと、絶対に打ち壊されることなどないもの--それが会場には満ちていた。

Live Camera of SUPER RAT -Diorama Shinjuku-

Credits


Text Ashley Clarke
Photography Takao Iwasawa
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.

Tagged:
Culture
tokyo
Chim-Pom
so see you again tomorrow too?