リトル・シムズが参加したバカルディ主催のパーティ「Over The Border」をレポート
「Over The Border=既存の概念を越える」をテーマに、またもやバカルディが仕掛けてくれた。
こと音楽やアートの分野で”越境”こそがクリエイティビティの源となることは少なくない。11月5日(月)、渋谷にオープンしたばかりの新名所、ストリームホールにて開催された招待制パーティ「Over The Border」は、ラム酒のブランドであるバカルディが主催する“既存の概念に捉われない越境者”がコンセプトのイベントだ。
2017年の〈TABLOID〉での開催に続き、東京では2度目。3フロアから成る会場は、先鋭的な音楽とアート、そしてそれを楽しむ人で溢れかえった。
エレベーターを降りて一歩会場に踏み込むと、廃材と自然素材を用いた強烈なインパクトのオブジェに囲まれる。昨年もエントランスを担当したアーティスト、R領域による作品群。ここからすでに”越境”体験は始まっていた。

その先には、UKアーティストJOE CRUZによるトランスジェンダーのカップルがキスをしている巨大な作品が現れる。ローファイな雰囲気でありながら先進的なモチーフを描くことを得意とする彼が手がけた「Over The Border」のメイン・ビジュアルも展示され、撮影スポットとして大賑わいだ。
同フロアには、ベルリンを拠点に世界中を駆け巡り制作を行なうHiroyasu Tsuri a.k.a. TWOONEによる壁画、ファッション界と音楽界をまたにかけて活躍するKOSUKE KAWAMURAによるグラフィック作品がディスプレイ。またJUN INOUEによるアブストラクトな“線”で描かれた作品からは、時代を超越した日本の伝統的な精神性が感じられる。




Photography Gaku Maeda
バックに流れるのは、併設されたDJブースから放たれる多彩なサウンドだ。フランスのインターネットラジオで番組を配信するLil Mofo、アメリカからドバイまで世界中のイベントに引っ張りだこのDJ SARASA、現在の東京シーンをエキサイティングに盛り上げるユニットYOSA & TAARといった面々が音楽を担当。アンダーグラウンドハウスからヒップホップに陽気なパーティチューンまで、それぞれが持ち味とするサウンドスケープが描き出され、DJたちの個性によって会場のムードは次々と変わっていく。


Photography Masanori Naruse
ひとつ上の階へとエスカレーターで上がると、そこはまた異なるムードの世界が広がる。美術館のような整然としたクールな空間だ。中央に積まれた多数のブラウン管テレビからは、カラフルな映像が映し出されている。ノスタルジックな未来観とでも言おうか。「社会に新しい景色を創りたい」という東京ベースのクリエイティブ集団YARによるインスタレーションだ。写真表現において唯一無二のスタイルを確立し、インスタグラムで話題を呼んでいる気鋭のクリエイターNaohiro Yakoの作品からは近未来感が放たれている。世界各地で撮影されたカラフルで幻想的な風景の美しさに、息を飲み、食い入るように見つめる来場者の姿が印象的だった。

Photography Jus Vun

Photography Jus Vun
さらに上の階へと上がると、一転してパーティ会場が出現。メインのミュージックホールの天井からは、数々のオブジェが吊るされている。Burning Manなどにも参加するアート集団MIRRORBOWLERによる作品だ。様々な形状のミラーボールが、煌めき溢れる空間を演出。エントランスで度肝を抜いたR領域も再び参戦し、今にも動き出しそうなオブジェが、ステージ脇からモンスターのような存在感を発している。
そんな異次元スペースのステージにまず登場したのは、LAを拠点とする新興レーベルSOULECTION所属の唯一の日本人DJ/アーティストであるYukibeb。往年のR&Bクラシックから、最新ヒットまでを取り混ぜてパーティムードを盛り上げる。続くDJ KOCO a.k.a. Shimokitaは、JUN INOUEによるライブペインティングとのコラボレーションを披露。世界を股に掛けて活躍するターンテーブル・アーティストがソウルからファンク、ヒップホップ、ディスコまでをジャンルレスに紡ぐ傍ら、ステージ上の大きなキャンバスにはしなやかな流線型のアートピースが描かれていく。ビートに乗って創作される様は、まさに音楽とアートとのクロスオーバーの瞬間だった。


3番手に登場したのは、ウガンダから初来日したDJのKampire。欧米のアーティストたちがこぞってアフリカに向かう今、特に注目を浴びる東アフリカ発のエレクトロニック・サウンドシーン。その中核を担うアーティストコレクティブ〈Nyege Nyege〉のコアメンバーでもある彼女は、この日のオーディエンスにその真骨頂を体験させてくれた。安定感ある心地良いビートに、軽やかに跳ねるアフリカンな楽器と歌。馴染みのない曲でも、常にアップリフティングなムードでフロアに自由な空気を届けてくれた。

Photography Jus Vun

ラストを締め括ったリトル・シムズは、ケンドリック・ラマーやローリン・ヒルも絶賛するロンドン出身のラッパー。まずはDJ OTGによるDJタイムで幕を開け、たっぷりじらしてフロアを扇動した後、オーディエンスの我慢ももう限界という瞬間に彼女がステージに登場、のっけからフルスロットルでパフォーマンスを披露した。ドープなベースラインが特徴的な新曲『Offence』や、メロウなアッパーチューンなど、様々なスタイルのトラックに乗せて、ストリート感溢れるパワフルなラップとパフォーマンスで観客を圧倒する。「もうすぐリリースするニューアルバムからの新曲」というMCで始まった『Selfish』では、初めて聴くはずのオーディエンスを巻き込み“I’m selfish(私は自分勝手)”と大声で合唱させるなど、クラウドの操縦術にも長けている。ラストはDJブースからDJ OTGも飛び出し、2人が激しい掛け合いを繰り広げた。オールドスクールなヒップホップに対するリスペクトと愛、エナジーが溢れるステージだった。

Photography Masanori Naruse


ジャンルや国境という垣根を越えてして活動するアーティストたち。彼らのカッティングエッジな音楽やアート、生き方に触れたことで触発された来場者も多かったに違いない。音楽とアート、そして人々とが”越境”した「Over The Border」。新しい体験と刺激に満ちたエキサイティングな夜だった。


